70話 処罰は食事で解決?
数日ぶりの玉座の間には前回とは異なり陛下は玉座に座らず僕等と同じ目線で立っていた
なんといっても今回の相手は龍の王。人族より遥かに長い年月その座に就いているのだから同じ立場でも格が違う
とはいっても陛下も一国の主、謙るような真似は自国の尊厳を損なう事にも繋がるのでこの構図はあくまで対等だという意思表示なのかもしれない
しかし気になる点が1つある。一連の騒動の首謀者と言ってもいいシュヴァインの姿が見えない
てっきりここに連れて来ていると思ったんだが・・・
「お時間をとらせてしまい申し訳ない。まずは私の申し入れを受けてくれた事、感謝する」
「前置きはいい、話というのはなんだ?こちらは娘の無事が確認出来た。あとはこの小僧と少し話をして帰るつもりなんだが」
龍王の気だるい雰囲気を察知すると陛下は少し間をおいて本題に入った
「この度の件、我が弟シュヴァインが御息女を部下に捕縛させた事が全ての始まり。弟に代わり謝罪する」
そう言って陛下が龍王に対して深々と頭を下げた
陛下がこうして身内の不始末に対して頭を下げているというのに肝心の本人がここにはいない
その事に僕は部外者ではあるが怒りを覚えた
陛下の言葉を聞いた龍王はシェラがただ勝手に出ていっただけではなかったと知り、先程とはまるで別人のような顔つきへと変わった
それを聞いて平然としていられる訳がないと、さっきのやりとりを見ていれば分かる
龍王の語気を強めた声が室内に響く
「で?我の愛娘シェラを捕らえた貴様の弟はどこだ?何故ここにいない」
気になっていたことを代弁してくれた
背後にいるだけでも伝わる龍王の怒りはまるで今にも噴火しそうな山を見ているようだった
それに対して陛下は動じず、しかしバツが悪そうな顔をして重い口を開く
「弟、シュヴァインは・・・既にこの宮殿から姿を消してしまった」
「なに・・・?」
陛下の説明によるとシュヴァインは龍王が娘を探しに来たと聞いた時点で宮殿から脱出することを考え、王族と一部の者だけが知る抜け道を使ってこの帝都から抜け出したということらしい
あの男・・・こういう時だけ行動が迅速だな
陛下や国民全員に迷惑をかけておいて自分だけそそくさと逃げるなんて、自分が想像していた以上のクズ野郎だ
陛下の説明を受けた龍王は今にも暴れだしそうだったが、既のところで我慢して陛下に詰問する
「それで?どう落とし前をつけるつもりなのだ?まさか謝罪のみで許されると思っていないだろうな」
「今回の件、弟に代わり私が責任を取ろう。どんな処罰でも受ける所存だ」
あの男の代わりに陛下が罰を受けるなんてのは不憫すぎる
とはいってもこの2人の間に口を挟めるような空気ではないし挟むべきではない
ここは龍王に判断を委ねるしかない。そう思った時、僕の横にいたシェラが父親の元に行って手を引いた
「お父さん、私怒ってないからもういいよ。捕まえられた時は怖かったけどお兄ちゃんとも会えたし・・・だからその人を責めないであげて」
シェラは陛下の事を罰しないよう父親に訴えた
その言葉を受けた龍王からは先程までの怒りが嘘のように消えて愛おしそうな目でシェラを見つめて抱きかかえた
「おぉシェラ、なんて優しいのだ・・・だがな、何かしらの罰は与えなくては示しがつかんのだよ。うむぅ、どうしたものか」
同族、ましてや自分の娘に危害を加えた相手に対して何も罰を与えないというのは龍王の立場としても難しいようだ
頭を捻らせてどうするべきかと思案していると何か閃いたのか、龍王は徐に口を開いた
「決めたぞ。おい、ありったけの美味い飯を用意しろ。それで今回の件は不問にしてやる」
龍王の言葉に周りは呆気にとられてた
どんな罰でも受けると覚悟を決めていた陛下にとっては予想もしていなかっただろう
「そんな事でよろしいのか?」
「勘違いするなよ、シェラの願いを聞き入れただけの事。次このような事があれば容赦はせんぞ」
次はないぞと釘を刺す
それに対して陛下は再び頭を下げた
「寛大な処置、感謝する。弟に関しては早急に見つけ出してこちらで厳しい処罰を与えよう」
龍王の配慮によってこの件については解決。というより一時保留といったところだろうか
なんにしてもシェラの乱入が功を奏してくれたようだ
「あぁ〜まずいわね・・・」
今まで後ろで事の顛末を見届けていたロザリアさんが顔に手を当てて呟いた
深刻そうな顔をしているが何がそんなにまずいんだろうか?
ロザリアさんの言葉の意味はそれからすぐ理解することとなった
ダイニングルームへと移動し席に着くと瞬く間にテーブルへと料理が並べられていく
龍王の計らいにより自室にいたアイシャ達も一緒に食事をすることとなった
「美味しい〜♪」
数刻前に食べた筈なのに凄い勢いで平らげていくシェラ。見た目に相反して胃袋は全く可愛げがなかった
口元についたソースを拭き取ってあげると天使のような笑顔を見せてくれた
「あの、私達もお邪魔してしまってよかったんでしょうか?」
アイシャがおずおずと龍王に尋ねる
お互いさっき顔を確認した程度で初めての会話。緊張しているのだろう
「いいのだいいのだ。食事は大勢で囲んで食べた方が美味いというもの。行儀など気にせず食え食え」
まるで自分の家かのように我が物顔で言う龍王
龍王の食べっぷりは豪快なもので、皿に盛られていた料理が一瞬にして胃袋へと消えていった
それに負けじとクロエも平らげていく
シェラ、クロエ、龍王。この3人のお陰で厨房は常時フル稼働でてんてこまい
テーブルに置かれた料理が無くなっては新しい料理が置かれるの繰り返し。まるで何十人という客を相手にしているかのような感覚に襲われたことだろう
シェラやクロエが満腹になった後も龍王はひたすら食べ続けた
一体どういう体の構造をしているんだろうか・・・
「こいつは食べた物を魔力に変換して蓄える事もできるのよ。だから食べれば食べる程魔力量が増えるってわけ」
ロザリアさんがさっき言っていたのはそういう理由だったのか・・・それにしても凄い光景だった
結局龍王が食べた分だけで宮殿で暮らす人達のおよそ2ヶ月分の食料が消えたらしい
これはある意味では罰となったのかもしれないな
食事を終えるとシェラやアイシャ達には先に自室に行ってもらい、僕は龍王と2人きりで話をすることとなった
今までは隣にシェラがいたから少し緊張する・・・
どう切り出すかと考えていると先に龍王の方から話を始めた
「龍神殿から話は聞いたぞ。リュウヤ、お主転生者らしいな」
龍王の言葉に心臓が跳ね上がった
この世界では誰も僕の素性を知らない
そう思っていたので龍王に突然告げられて驚いてしまった
なんでも夢の中にイグニアスさんが現れ、そこで僕の話を聞いたらしい
強くなりたいという僕の手助けも可能な範囲でしてくれと頼まれたと言っていた
そういう理由もあって僕に血を飲ませたということか
イグニアスさん。裏で色々口を利かせてくれていたようだ
「そういうわけで我を血を取り込んだのだからもうお主は家族のようなもの。これからは龍王等と堅苦しい呼び方などせず気軽にギレアと呼ぶがいい。龍の里に来た時にはお主らを手厚く歓迎してやろう」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますギレアさん」
それだけ言い残して龍王は里へと帰って行った
シェラに別れの挨拶をする際には龍王の威厳等微塵も感じさせない号泣っぷりを見せてくれた
肝心のシェラがそこまで寂しがっていなかったのが更にそれを後押ししたようだ
龍の里に赴いた際には改めてギレアさんが色々教えてくれるようなので楽しみにしていよう
ギレアさんが去った後、今日1日で色々な事が起きて精神的な疲労が蓄積されたので自室に戻ってベッドに身を委ねすぐ眠りについた
読んでいただきありがとうございます
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