69話 親バカ
衛兵の報告を聞いた僕等は激しく行き交っている廊下を抜け、宮殿の一角にある屋上テラスへとやってきた
上空をみると報告通りドラゴンが飛んでいた
数は一体のみ。しかし遠目からでもその圧倒的な存在感はヒシヒシと伝わってくる
帝都は突然のドラゴンの来訪に混乱して民間人の喧騒がこちらまで聞こえてきていた
「シェラ、もしかしてあれがお父さん?」
「そうだよー!」
あれがシェラの父親か
シェラを迎えにやってきたようだが・・・国中が大騒ぎになってしまった
オルフェウスさん達は指揮官として派遣されたギルドの冒険者や兵士達を取りまとめ、万が一の攻撃に備え防衛網を築き民間人の避難を行っているようだ
このような事になったのは全てあの男の軽率な行動の結果だ
シェラを探しにやってきた龍王は帝都全体に聞こえる程の大声をあげた
「聞け!我は龍王ギレア!この国にいる我の娘を迎えに来た。まさかないとは思うが隠すようなマネをしてみろ。この国が焦土と化すぞ!」
とんでもなく物騒な事を言っている。早く教えてあげないと何をしでかすか分からないぞこれは
シェラが飛んでいけばいいのかもしれないけど、まだ体調が万全ではなくいきなり酷使させるのは忍びない
仕方ない。ちょっと怖いけど僕が行くか
「シェラ、ちょっとお父さんに会って話をしてくるからここでアイシャ達と待ってて」
「分かった。早く戻ってきてね」
「リュウヤ君気をつけてくださいね」
アイシャの心配する声に頷き僕は"飛翔"で龍王の元へと飛んだ
龍王に近づいていくとすぐ僕の存在に気づいて目を向けてきた
間近で見ると凄まじい迫力だ。龍化状態のシェラが可愛いく思える程だ
「龍王。貴方の娘さんは僕が預かっています。娘さんはあそこです」
「む?貴様は・・・ハッ!シェラー!」
「お父さーん♪」
父親に向かって手を振るシェラを見つけると龍王はもの凄い勢いでシェラの元へ飛んでいった
凄まじい風圧でこちらまで吹き飛ばされそうになる
一先ずは事なきを得れたかな?
宮殿に戻ると龍王がシェラの無事を喜んでいた
「おぉシェラよ・・・無事だったか?勝手に1人で出ていっては駄目ではないか。怪我はないか?」
「大丈夫だよ!お兄ちゃんとも会えたんだよ!」
シェラが指さすと龍王と再び目が合い、僕の顔を見て高らかに笑いだした
「ぬわっはっはっ!やはり貴様がリュウヤか!シェラが世話になったようだな。感謝する!」
あ、この笑い方イグニアスさんと一緒だ
本当に血が繋がっているんだなと実感させられる
そしてやはり僕の事も知っているようだ。イグニアスさんから聞いたのだろうか
にしても声が大きい。言葉を発する度に振動で地面が揺れるのでどうにかしてほしい
「あの、その姿だと周りが怯えてしまうので出来れば人の姿になってもらう事は出来ますか?」
「それもそうだな。待っていろ」
シェラの時と同じように龍王の体が光りだし人の姿へと変化していく
見た目は30代位だろうか。強面な見た目だが目からは不思議と温かみを感じた
そしてやはり僕と同じ赤髪だ
シェラとは違い、変身時にしっかりと服も着ている
あれも魔法で作ったものなんだろうか
ちょうどそのタイミングで陛下が近衛兵を連れて僕等の元へとやってきた
龍王がこちらに向かって飛んできたのを確認して急いでやってきたようだ
「貴殿が龍王殿か」
「なんだ貴様は」
「私はベルセリア帝国皇帝レイナード・アルブレヒト。貴殿に話さなければならない事がある故、時間を頂きたい」
大抵の検討はつく。シェラがここにやってきた経緯をきちんと話すつもりなんだろう
隠蔽してバレた時、龍王を敵に回すという爆弾を抱えておくよりもここでしっかりと清算しておいた方がいいはずだ
龍王は陛下の申し入れを受け、準備が整うまで応接室で待つこととなった
アイシャ達は自室で待機することに
シェラが父親と僕、どちらとも離れたくないという理由で僕だけ仕方なく同行することにした
応接室を開けるとそこにはロザリアさんが待ち構えていた
「ロザリアではないか!久しぶりだな!」
「あんたの後ろにいる子とその仲間を鍛えるのを頼まれてね。それにしてもあんたもうちょっと自重しなさいよ。あんたのせいで国中大騒ぎだったんだから」
「仕方なかろう。突然シェラがいなくなって必死だったのだ」
どうやら2人は昔からの知り合いのようだ
久しぶりに再会した2人は昔話に花を咲かせていた
「それにしてもあんたに娘が出来るなんてね。最初見た時どっかで見たことあるなと思ってたのよね」
「やはり似ているか?シェラは母親似だが目元なんかは我にそっくりでなぁ。ぬふふふ。この前なんかな・・・」
「親バカ・・・」
呆れるロザリアさんを横にシェラの可愛さを語りだす龍王
この光景だけ見たらただの娘を溺愛している普通の父親だな
2人の会話は一通り終わったようだが、まだ準備に時間がかかるようなので先にこちらの話を片付けることに決めた
「シェラ、あの話お父さんにお願いしてみたら?」
「あ、うん!お父さん。あのね」
「む?なんじゃシェラよ」
「私、龍の里を出てお兄ちゃんと一緒に旅をしたいの!いい?」
体をモジモジさせて父親に向かって気持ちを伝えたシェラ
それを聞いた龍王の返答は・・・
「駄目だ!駄目駄目!お前はまだ幼い!せめてもう少し大人になってからにするんだ」
即答で却下される
まぁある程度予想はできた。あれだけ溺愛している様子をみると説得するのはかなり難しそうだ
シェラは自分の願いが聞き入れられなかった事に不満を抱き、口を膨らませた
「むぅ・・・!お父さんなんて大嫌い!」
「ガーンッ・・・」
愛娘に強烈な一撃をくらった龍王は膝から崩れ落ちる
ガーンって口で言う人初めて見た・・・龍王の最大の弱点はシェラだな
龍王は暫く落ち込んだ後頭を悩ませ、考えに考えた末僕の方を向いて重い口を開いた
「条件がある・・・」
「条件?」
条件とは何かと次の言葉を待っていると、龍王は予想だにしない行動を起こした
自分の手の平を切り出血させ、カップに自分の血を注いでいった
突然の行動に僕はただ見ることしか出来ず、今から何をするのかと不安を募らせた
「龍王。それを僕にどうしろと?」
「我と血の盟約を結べ。お前に我の力を分け与えてやるからシェラを連れていくのなら命を懸けて守れ。その約束が出来るのならば、我の血を飲め」
いやいやいやいや血を飲めとか・・・無理無理無理!
どうしよう断りたい・・・けど横でシェラが目を潤ませてこちらを見つめてくる
強くなりたいし期待にも応えてあげたい。でも、うーん・・・
「分かりました!飲みます!」
覚悟を決めて龍王からカップを受け取り
ちびちび飲むと余計辛そうなので一気に飲み干す
喉に残る感覚があったが、それよりも血を飲んだことによってお腹の奥が燃えるように熱くなった
「か・・・はっ・・・!」
「安心しろ。すぐに慣れる」
龍王の言葉に受け答えする余裕もなく頭がおかしくなりそうだった
お腹の奥から徐々に体全体が燃えるように熱くなり、体温が急上昇したことによって体から蒸気が発生する
暫くの間その熱に悶え苦しんだが、それに耐え抜くと龍王の言う通り体が慣れていき喋れるまでには体調は回復した
「どうだ体の調子は」
「最悪な気分ですね・・・まだお腹の中で炎が暴れて回っている感じがしますが大分マシになりました」
「うむ、これで盟約は成立した。その力はシェラやお前の仲間達も助ける事に役立つだろう。それとシェラにはこれを渡しておくぞ」
龍王がシェラに渡したのは赤い真珠が埋め込まれたネックレスだった
それをシェラの首にかけてあげるとシェラは笑顔を見せた
「これを使えば我を呼び出す事が出来る。しかし呼び出せるのは一度だけだから本当に危なくなった時に使うのだぞ」
「ありがとう!お父さん大好き!」
「そうかそうか。ぬふふふ」
シェラの機嫌が直り、抱きつかれた龍王は満足気といったところだ
これで正式にシェラが僕等の仲間となった
こちらの話が一段落ついたタイミングを見計らったかのように陛下達の準備が整ったようなので僕等は玉座の間へと向かった
さぁこれからが本題だ。シュヴァインが変なことを口走らなければいいのだが・・・
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