61話 次の段階へ
親睦会から一夜明け、特訓2日目を迎えた
昨夜酒場でオルフェウスさん達にロザリアさんの昔の話を聞かせてもらった
といってもそれもごく一部らしい
ロザリアさんはなんと2000年も生きている大魔道士らしい
ヴァンパイアには老いに寿命というものは存在しない
なので世間では生ける伝説とまで言われている事が分かった
始めに皆Sランクと説明されたが、ロザリアさんだけは別で特例番外冒険者として認定されているそうだ
色々聞かせてもらった話の中で印象に残ったのはやはり皆が知っている御伽噺だ
知らないから聞かせてくれとお願いしたところ少し驚かれた。それほど有名な御伽噺らしい
勇者がまだいた時代、ロザリアさんは大昔人族以外で作られた多種族国家を統べる女王だったらしく、今の姿からは想像できない程お淑やかで慈愛に満ちていたそうだ
今のような性格になったのは勇者率いる人族との戦争がきっかけだったらしい
その頃の人族と他種族間の仲はとても悪くよく戦争をしていたみたいだ
そしてロザリアさんの国は魔王討伐を目指す際に背を討たれる位置にあった為、人族はその可能性を排除する為に勇者を派遣して本格的に滅ぼそうと決めたようだ
しかし派遣された当の勇者は滅ぼそうなどと考えていなかった
勇者は人族と他種族の関係を憂いていたようで、種族が違えど話せば分かりあえる筈だと信じていたらしい
その為勇者は開戦時、他の敵には目もくれずロザリアさんがいる王城へと一直線に突っ込んで最短で戦争を終わらせたのだ
勇者に敗北して女王の座を降ろされたロザリアさんは勇者の想いを知り、人族と他種族の関係を改善する為に多数の反対意見を退けて魔王を倒す仲間に加わった
始めこそいざこざはあったものの、ゆっくりとお互いの事を知っていった
今では共に生活して笑いあっているのだから勇者の願いは叶ったといえるだろう
ロザリアさんは女王という立場から降ろされると少しずつ今の性格になっていったそうだ
元々無理して演じていたらしく今の姿の方が素なのだろう
ロザリアさんにとって昔の自分は黒歴史認定されているようだ
そんな話を聞かせてもらった翌日、準備運動をしているとロザリアさんがやってきた
「あぁ頭痛い・・・。やっぱりお酒なんて飲むもんじゃないわね」
「ロザリアさんおはようございます。大丈夫ですか?」
「あぁ、おはよう。大丈夫よ。昨日の記憶がちょっとないけど・・・」
やはり昨日の事は記憶から消えているようだ
まぁ覚えててもらっててもお互い気まずいだろうしこれで良かったのだろう
「昨日凄かったぞ。危うくリュウヤが食われそうになっていたからな」
クロエ、余計な事を・・・
そんな事を言われたらロザリアさんは当然疑問に思い聞き返してくるだろう
「えっ?私何かしたの?食われそうになったってどういうこと?」
「ロザリアさん!そろそろいきましょう!では私達は先に行きますね!」
「いやちょっと話がまだ終わって・・・」
アイシャが強制的に話を断ち切り、ロザリアさんを連れて去っていった
なんとか誤魔化しきれるといいが・・・
「朝から賑やかじゃのぉ」
「オルフェウスさん、それにダインさんにミカエラさんもおはようございます」
「おう、今日もみっちり鍛えてやるからな!」
「あ、貴方昨日あれだけ飲んでおいてよくそんな元気でいられるわね・・・」
1杯も飲みきらない内に酔い潰れてしまったロザリアさんとは対照的に、ダインさんはまるで水を飲むかのような勢いで酒樽1つを空にしていたがケロッとしている
ミカエラさんは・・・元から顔色が悪いので違いが分からないが特訓には問題なさそうだ
全員揃ったので昨日と同じ様に特訓を開始する
今日こそはオルフェウスさんに一撃をと意気込むも、1日中相手してもらっても結局昨日と同じ結果となってしまった
それでも昨日より体が軽くなっていて一戦あたりの時間が伸びていったので確かな成長は感じている
そして散々投げ飛ばされた僕はようやく1つ目のスキルを習得した
"痛覚耐性"痛みに強くなるスキル
覚醒後に初めて習得したスキルが投げられ続けた結果習得できたなんて少し複雑だが、なんにしても初めてのスキルだ
この調子でもっと色々なスキルを習得していこう
他の皆もスキルを習得したようだ
アイシャは"無詠唱化"
上級魔法を除く中級以下の魔法を唱えずとも発動することが出来るスキル
魔法発動速度が格段に上昇するいいスキルだ
クロエは"疾風"
このスキルを所持すると通常の1.5倍の素早さを得る
ひたすら走り込んだ成果が出たようだ
シロエは"速射"
リロードを素早く行う事ができるスキルだ
これは本来弓使いが習得出来るスキルらしいが、銃を扱うシロエにも適用するようだ
皆それぞれ自分に合ったスキルだ
ここからどんどん枝分かれしていって新たなスキルや強化されたスキルを習得出来るらしいからこの調子で鍛えていこう
その日の帰り、ロザリアさんに会うと顔を赤くして僕に向かって突然こう言い放った
「か、勘違いしないでよね!別に貴方の事なんてなんとも思ってないんだから!」
僕にそれだけ言い残してそそくさと帰っていってしまった
「もしかしてバレちゃった?」
「すみません。詰め寄られてしまって・・・」
まぁあれだけの人に圧をかけられたら言わざるを得ないだろうな
しかし今時あんなベタベタなツンデレゼリフが聞けるなんて・・・ある意味クロエに感謝だな
それから同じような訓練を重ね数日が経過した
特訓を重ねる毎に動けるようになっていき、自分の体が洗練されていくようなそんな感覚を覚えた
そしてスキル"龍爪"と龍脚を取り戻す事が出来た
僕はオルフェウスさんとの打ち合いが終わった後に龍玉に意識を集中する訓練を行っていた
最初こそいくらやってもうんともすんともしなかったが、辛抱強くやり続けようやく龍玉が反応を示し、龍爪と龍脚を習得することが出来た
しかしまだ龍玉の力は完全に引き出せていない。頑丈にかけられた鍵を1つずつ外していくようなそんな感覚なので時間をかけて引き続きこの訓練を続けていこうと思う
オルフェウスさんともまだまだだがある程度打ち合える様になったので僕は次の段階へと移った
といってもやることは基本変わらないが、次からはオルフェウスさんと体術を混じえての打ち合いとなる
今までは向かってくる僕に合わせて受け流したり反撃をしていただけで、オルフェウスさんの使う体術はまだ使用していなかった
これからが本格的な訓練になると言ってもいいだろう
「儂が今から使う体術の名は"秘孔拳"という。お主と初めて会った時の事を覚えておるか」
「はい、その時にオルフェウスさんと試合をすることになって一瞬でやられて立てなくなりました。もしかしてあれがその秘孔拳というものですか?」
「左様。秘孔拳とは相手の急所に魔力を流し込む事で一時的に相手の動きを鈍くさせることが出来るんじゃ。まぁ相手と実力が開いておると動けなくなってしまうんじゃがの」
「うっ・・・」
耳が痛い。だがそれを使って相手してくれるということは以前よりマシになっているということだろうか
「魔法を使ってくる相手ならば魔力回路を突いて塞ぐ事で魔法を封じることもでき一気に形勢を動かすことも可能じゃ」
魔力回路・・・魔法を発動する際に魔素を魔力へと変換したものが通る通路のようなものだ
魔法を使う者がそれを阻害されると魔法が発動できなくなるということか
秘孔拳を習得すればもしかしたら大魔道士と言われているロザリアさんにも一矢報いる位はできるかもしれない
「よし、では始めようかの」
「お願いします!」
読んでいただきありがとうございます
次回更新は水曜日19時です。よろしくお願いします!
ブックマーク、評価大変励みになります!
「よかった」「続きが気になる」など思っていただけたら幸いです