41話 新たな仲間
「すみません。取り乱してしまいました」
突然泣き出したシロエには驚いたが、今まで色々溜め込んでいたものがあったんだろう
僕等は落ち着くまでそっと見守っていた
「姉さんは泣き虫だなぁ、おーよしよし」
茶化すようにクロエがシロエの頭を撫でる
これで2人のことも村のことも無事解決
ベルセリアに行く前に思わぬ寄り道をしてしまったが助けることが出来て本当によかった
念の為2人の同意を得てステータスに異常がないか覗かせてもらったがこちらも問題なさそうだ
「呪いが解けたようで本当に良かったよ。これで2人とも自由だね」
「あぁ、あの忌まわしい呪印も消えて良かったぞ。あれは気持ち悪かったからなぁ」
「呪印?そんなのもあったんだ」
「あったぞ。ちょうど胸のこの辺りにあってな・・・」
呪いがあった場所を見せようと突然クロエが脱ぎ出した
「ちょっ、なにやってるの!?」
慌ててクロエから目を逸らす
服の下には下着の類は身につけていなかったようで、あと少し目を背けるのが遅れていたら大変な事になっていた
「クロエちゃん駄目ですよ!男性の方にそんないきなり肌を見せるなんて!」
「そういえば殿方は女性の裸体を見ると性的興奮を覚えて狼になると聞いたことがあります」
「リュウヤは私の裸を見て興奮するのか?別に減るもんでもないしいくらでも見ていいぞ」
クロエは何を言っているんだ・・・シロエは冷静に解説しているし・・・
見たくないと言ったらそれは嘘になるが、そんな事をしたら後でアイシャにどんな目を向けられるか分からない
特定の人物からしたらご褒美かもしれないが生憎僕にそんな性癖はない
「と、とにかく早くしまって」
「なんだ見たくないのか?よく分からないな」
ずっと姉妹2人で過ごしていたせいなのか、そういった事には疎いのかもしれない
まぁこんなやりとりが出来るくらいには心を許してくれるようになったとポジティブに捉えるとしよう
呪吸魂鬼を倒した僕等はこの事を報告する為村へと向かい、シロエ達とは村の外で別れる事にした
「じゃあここでお別れだね。短い時間だったけど2人に会えて良かったよ」
「またどこかで会いましょうね」
「・・・・・ああ」
「本当にお世話になりました」
村の中に消えていった2人を見送り、私達もこここら離れることにした
「行っちゃったな・・・」
「えぇ・・・私達も行きましょ」
「って言っても行くあてなんてないしなぁ」
呪いも解け晴れて自由の身となったが、今のところ特にやりたいことは決まっていない
幸せな生活が送りたいという漠然とした考えはあったが、具体的な事までは考えていなかった
本当に僅かな間だったけどあの人達と過ごした時間は心が温かかったな
あの人達についていけばもしかしたら・・・
「クロエ、提案があるのだけど・・・」
「奇遇だな。私も言いたい事があるんだ」
クロエも何かあるようだ
その顔を見てなんとなく同じ事を考えていると気づいた
「考えている事は一緒みたいだし同時に言いましょうか」
「おう、いいぞ」
「「せーのっ」」
2人に別れを告げ、村を歩いていると既に仕事の準備に取り掛かっている人達をちらほら見かけた
その中を進んでいき宿屋の前までやってくると店主が店前の掃除をしていたので声をかけた
「おはようございます。ただいま戻りました」
「おぉ、あんた等か。魔物は倒せたのか」
「はい、無事討伐することが出来ました。これで村の人が襲われる事はなくなりました」
「本当か!それを聞いたら他の連中も安心するだろう。噂になっていた黒白の魔女とその魔物は何か関係があったのか?」
これは都合がいいかもしれない
黒白の魔女というのは根も葉もない噂だったと訂正しておけば噂も早く無くなるかもしれない
「魔物とはなんの関連性もありませんでした。もしかしたら朦朧とした意識の中で何かと見間違えたのかもしれませんね」
「そうか、まぁ問題が解決したんだったら気にする必要はないか。ありがとな」
店主に報告を済ませ次はエリザさんの家へ向かう
エリザさんの父親も体調が良くない中必死に探し回っていたからな
もう心配する必要はないと伝えて安心させてあげた方がいいだろう
家に到着し、扉をノックして声をかける
「おはようございます。いらっしゃいますか?」
「その声は・・・入ってくれ」
扉を開けるとそこにはベッドで寝ているエリザさんとそれを見守っている父親の姿があった
エリザさんの寝顔は昨夜見た時より良くなっているように感じた
「朝早くにすみません。村の人を襲っていた魔物を倒してきたので報告に来ました」
「本当にやってくれたんだな。ありがとう。これで心置きなく仕事で森に入る事ができる」
「エリザさんの容態はどうですか?」
「あぁ、一晩経ったら大分楽になったのか今は落ち着いて寝ているよ」
確か一日位で目を覚ますってお医者さんが言ってたんだっけ
特に問題もなさそうだしこれ以上心配する必要もなさそうだな
「それはよかったです。僕達はそろそろ村を出ようと思ってるので最後にエリザさんの容態を確認できて良かったです」
「なんの礼も出来ずにすまないな。もしまたこの村に寄るような事があったら遠慮せず家に来てくれ。その時には娘と一緒に礼をさせてくれ」
「分かりました。その時にはお世話になります。それではお元気で」
父親にも報告は済み、この村でやることはやったので僕等は村を出る準備を始めた
道中すれ違った人にも森の霧の仕業は魔物であり、魔女という噂は勘違いだと伝え少しでも早く噂が無くなるよう努めた
馬車の準備も済ませ、僕等は村を出立した
今日でようやくベルセリアの国境に到着する
国境の検問所を通過して数日すれば帝都に到着だ
「ふわぁ・・・」
隣で御者を任せているアイシャが眠そうにしていた
昨日から一睡もしていなかったのだから当然か
「ごめん気が利かなくて。代わるからアイシャは少し休んでていいよ」
「いえ、大丈夫です。これ位でしたら問題はありませんから」
「そう?じゃあさ、国境を超えた近くに町があってそこには眺めのいい宿とお風呂があるみたいだから今日はそこで早めに休もう」
「それは楽しみですね♪クロエちゃん達とも一緒に入りたかったなぁ」
2人は今頃どこか新たな場所を目指して旅をしているんだろうか
今度こそ幸せな道を歩んで欲しいものだ
「あっ見えてきたよ。あそこが国境だね」
村を出て数時間が経過した頃、ようやく帝国と王国を隔てる壁が姿を現した
その時には出発した頃より大分日が高くなっていた
あれを通過すればいよいよ帝国領
アルさんに貰った紹介状もちゃんと持ってきたし問題なく通過出来るだろう
検問所に向かって進もうとしたその時、後方の茂みが動く気配を感じた
魔物かと身構えるが特に何も起こることはなかった
「どうかしましたか?」
「いや、ごめん。勘違いだったみたい」
気のせいだろうと思い停めた馬車を進ませる
ようやく検問所の前に到着し、門を警備している衛兵に声をかけられる
「ここから先はベルセリア帝国領だ。ここを通るのなら身分証の提示と馬車に不審物がないか検査をさせてもらうぞ」
「分かりました。あとこれ紹介状なんですが・・・」
衛兵に紹介状を渡す
「拝見する。・・・・・こ、この刻印は王家の印!失礼しました。どうぞお通り下さい」
「えっ、馬車の検査は・・・」
「必要ありません。こちらの紹介状をお持ちの方でしたらそのままお通り頂いて結構です」
紹介状の中を確認した途端、衛兵の態度が明らかに変わった
アルさんが持たせてくれた紹介状にはかなりの効果があったようだ
「ところで後ろのお2人もお仲間ですか?」
「え?後ろ?」
衛兵が後ろに目を向ける
ここには僕とアイシャとガーフ以外にいない筈だが・・・
後ろを確認するとなんとそこには別れた筈のシロエとクロエがいた
「シロエにクロエ!?どうしてここに?」
「えっと、私達特に行くあてがなくて困ってて・・・・ついてきちゃいました」
もしかしてさっきの気配は2人のものだったのか
それならもっと早く声をかけてくれればら良かったのに
「それで・・・もし良ければ私達も同行させてくれませんか?」
「姉さんは遠回しな言い方をするなぁ。つまり私達も仲間に入れて欲しい!という事だ」
2人からまさか仲間になりたいと言われるなんて・・・
隣にいたアイシャは満面の笑みを浮かべ2人に駆け寄っていく
「嬉しいです!これからよろしくお願いしますね。ね、リュウヤ君」
「勿論だよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「よろしくな!」
こうして帝国領に入る前に僕等に新たな仲間が加わった
2人増えた事によってこれから更に賑やかになりそうだ
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次回更新は金曜日19時です
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