40話 解放
呪吸魂鬼との戦闘はこちらが眷属を倒しても次から次へと召喚してきて完全にいたちごっこになってしまっていた
相手も一度の召喚で2体までしか出すことが出来ないらしく、お互い攻め手に欠ける状態であった
「これじゃ埒が明かないな。何かいい手は無いかな・・・」
「リュウヤ君、少し時間を下さい。相手の魔法を無効化できるかもしれません。それまであの魔物の相手をお願いします」
「!わかった。任せるよ」
アイシャに能力を低下させてる黒い円の魔法無効化を任せ、僕が呪吸魂鬼の相手をしてガーフに眷属2体の相手を任せる
「ミズカラ フリナ ジョウキョウ二 スルトハ オロカナ」
「それは僕達を倒してから言うんだな」
眷属と戦っている最中にアイシャと呪吸魂鬼の戦闘も見ていたがこいつは遠距離をメインに立ち回っていた
眷属を使って僕等を近づけさせない行動からして近距離戦を苦手としているのかもしれない
しかし何度か接近を試みたが、普段なら一息で詰められる距離が今の状態では難しくなかなか詰める事が出来ずにいた
「龍鎖!」
「"ダークウェーブ"」
龍鎖で動きを止めてその隙に近づこうとしたが相手の防御魔法によって弾かれてしまう
「"ドッペルゲンガー"」
相手が魔法を唱えると今度は影が形を変えて自身の分身体を召喚した
これによってこちらも2対1という構図になってしまった
「サキホド ハ ハツドウデキナカッタ ガ オマエ ハ アノ ムスメ ホドデハ ナイ ヨウダナ」
その言葉を聞いてカチンときたが事実だ
アイシャから僕に変わった途端不利な状況が続いている
シロエとクロエの前で大見得切っておいてこのザマでは顔を合わせられない
「セッキン センガ オノゾミナラバ ソウスルト シヨウ」
こちらの狙いもバレていたか
それを知って尚、接近戦を仕掛けてくるということは完全に舐められているということか
本体と分身体同時に僕目掛けて攻撃を仕掛けてくる
分身体は本体より能力は低いが要所で攻撃をしては距離を取るヒット&アウェイの動きでこちらに確実にダメージを与えてくる
対して本体はゴリゴリの肉弾戦を仕掛けてくる
自身の魔法で強化されているからか一撃一撃が重かった
始めは反撃していたものの徐々に防戦一方となっていく
「ぐっ・・・!」
この状況を打開するには新しく覚えた技を使うべきだと頭の中では分かっていたが発動を躊躇っていた
リングラルドでの戦闘によって新しく覚えた技を旅の途中で何度か練習を重ねたが扱いが難しくてまだ全然使いこなせていないのだ
下手をすれば味方を巻き込むかもしれない
しかしこのままでは時間を稼ぐ前にこちらがやられてしまう
やるしかないと腹を括り、一度呪吸魂鬼から距離を取りスキルを発動する
「ドラゴン・ドライブ!」
ドラゴン・ドライブ。自身の能力の限界値を一時的ではあるが飛躍的に上昇させるスキル
発動と瞬間に体から赤い闘気が溢れ出てきて力が漲っていくのを実感する
「ナンダ ソレハ オマエ・・・ハッ!」
呪吸魂鬼が言い終わる前に分身体を一撃で仕留める
表情を変えなかった屍の顔が驚愕の表情へと変わっていたのが分かった
(よし、なんとか動かせそうだ)
相手の魔法によって能力が低下しているお陰なのか、ギリギリで扱えているが10割のうち2割程度の力を引き出すのが限界だった
少しでも集中を切らすと力が溢れて狙いが大きく外れる
今は目の前の敵を倒すことだけを考え、相手目掛けて攻撃を繰り出していく
「2割・・・2割の力で・・・」
力が勢いよく溢れないよう慎重に壊れ物を扱う様な感覚で維持
相手は動きを捉えることが出来ず、こちらの攻撃が入る度に苦悶の表情を浮かべる
「グッ! マホウノ ハツドウガ マニアワ・・・ガッ!」
魔法を発動させる隙も与えずひたすら攻撃を浴びせる
呪吸魂鬼このままではまずいと察したらしく、自ら発動した結界を解除しガーフと戦わせている眷属を自分の元へと呼び戻し防御を固めてその間に奥の道からこの場を抜け出そうと動き始めた
「アノ エルフドモ ヲ ヨビモドセ バ ソウスレバ!」
「逃がすか!」
呪吸魂鬼の逃げ道を守っている眷属を倒そうとした時、後方からアイシャの魔法が発動する気配を感じた
「神聖領域!」
アイシャを中心に光の柱が発生した
光の柱が次第に広がっていき先程まであった黒い円が消えていき、眷属までもが浄化されていった
アンデッドや死霊系の魔物には効果絶大な聖属性の魔法だ
「ヌオォォォォォォ!!!」
逃げようとしていた呪吸魂鬼も例外ではない
アイシャの魔法が致命傷となり、相手は虫の息となっていた
黒い円が消えた事によってこちらの力も戻り、戦いを決定づける一撃となった
「終わりだな」
「フ・・・フフフフ・・・」
この状況で不気味な笑いを見せる
まだ何かを隠しているのか?
「何がおかしいんだ?」
「タタカイ ニハ マケタガ オマエラ モ ミチズレニ シテヤル・・・ディストラクト!」
そう言い残すと宙に浮いていた呪吸魂鬼が地面に伏せ力尽きた
最後に何かの魔法を唱えていたので警戒したが特に何も起こらなかった
「な、なんだったんでしょうか・・・」
「分からない。体にも異常はないし・・・不発だったのかな?」
魔法が発動する前に力尽きたからなのか・・・なんにせよこれで目的は達成した
早くこの坑道から出て2人に知らせてあげよう
「さ、魔石を回収してここを出よう」
「リュウヤ君・・・おかしくないですか」
アイシャが呪吸魂鬼を見ながら呟いた
僕もそれを見て再度確認するが特に異変もなく呪吸魂鬼が倒れているだけだった
何がおかしいのかと少し考えてその異変に気づく
まだ呪吸魂鬼が倒れていることだ
通常魔物を倒すとすぐ魔石になるはずだがこいつは魔石になることなく倒れたままだった
「ここから早く出た方がいいかもしれないね。行こう」
「は、はい」
先程の不発したと思っていた魔法と関係があると見て足早にこの場を去ろうとしたその時、呪吸魂鬼の体が発光し始めた
それがなんなのか察した僕はアイシャとガーフに叫びかける
「2人共伏せて!」
切羽詰まった声を察して地面に伏せた2人の前にすぐさま障壁を発動する
次の瞬間、呪吸魂鬼の体が爆発を起こした
もの凄い衝撃が障壁越しにも感じられて壊されてしまうのではないかとヒヤヒヤしたがなんとか耐え抜いてくれた
「危なかったね。まさか自爆するなんて・・・」
「ありがとうございます。助かりました」
「いや、アイシャが異変に気づいてくれたお陰だよ。ありがとう」
間一髪間に合ってくれてよかった
アイシャが異変に気づかなかったら今頃爆発に巻き込まれてひとたまりもなかったはずだ
けどこれで今度こそ終わったんだ。早く2人の元へ向かおう
しかし呪吸魂鬼が残したのはこれだけではなかった
先程の爆発で坑道が崩れ始めたのだ
大分古い坑道だったから脆くなっていたのかもしれない
このままでは全員生き埋めになってしまう
「ガーフ君!私達を乗せて抜けれますか!?」
「バウッ!」
ガーフの背中に2人で乗せてもらい崩れかけている坑道を勢いよく抜けていく
途中落ちてくる瓦礫がガーフに当たらないよう破壊しながら進む
全速力ではなくてもこれが一番速い。あとはガーフの脚を信じるだけだ
「あいつ等遅いな・・・何かあったのか?」
「あら、他人を心配するなんて珍しいわね」
「そ、そんなんじゃない!失敗されたら私達が大変な目に遭うかもしれないんだからな」
「ふ〜ん」
クロエはこう言っているが、あの人達が中に入ってからずっとソワソワしている
他人に全く関心がなかったクロエがこのような様子を見せるのは初めてのことだ
エルフの村を出た後も私達が出会ったのは碌でもない人間達だった
もしかしたらこのままクロエは私以外を無条件で敵と見做してしまうようになってしまうのではないかと心配していたが、あの人達と出会ってから変化が表れた
少なくとも今まで出会ったどの人達とも違う
あの人達と共にいればきっといい方向に向かっていく様なそんな予感がした
なんて事を考えていると突然地鳴りが入口の方から聞こえてきた
音は段々と大きくなっていきこちらに近づいてきているのが分かった
「な、なんだなんだ!?」
クロエも気になって入口の方を見る
何が起きているのかと入口を見ていると一瞬何かを目で捉えた
目を凝らして再度見るとうっすらと白い物体がこちらに勢いよく向かってきていた
「アオーン!!」
入口から飛び出してきた白い物体はアイシャさんの肩に乗っていたあの狼だ
姿が大分変わっていたが、背中に2人を乗せていたので判断することが出来た
見事に着地したと同時に入口が瓦礫で埋め尽くされる
「ガーフ君ありがとうございました」
「助かったよ」
「ワフン!」
無事に帰ってきたということは呪吸魂鬼を倒すことが出来たのだろう
2人がこちらに気づいて近寄ってくる
「ただいま。終わったよ」
「おかえりなさい・・・ありがとうございました」
2人に対し深々とお辞儀をする
クロエがいる手前我慢していたが、これで本当に自由になったのだと思ったら自然と涙が溢れてきた
その姿を見て2人は驚いていたがクロエは私が気丈に振舞っていたのに気づいていたのだろう、何も言わずそっと寄り添ってくれた
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次回更新は水曜日19時です
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