36話 迷いの森
ディグリアに帰ってきた僕達は数日間の休養を挟み、その間に帝国へと向かう為の準備をした
僕の体もようやく普段通り動かせるようになり、いよいよ出発の日がやってきた
見送りにはメルとグレイスさん、リリアーナさんがやって来てくれた
「それじゃあ行ってきます」
「帰ってきたらまたお店に来てくださいね!」
「勿論です。お土産話たくさん持って帰ってきますから楽しみにしていて下さい」
「妹の手紙、すみませんがよろしくお願いします」
「はい、任せて下さい」
暫しの別れを告げ、僕達は帝国を目指し出発した
今回は長旅となるので空は飛ばずに馬車を使って移動する
この日の為にこの前貰った報奨金を使って馬車と馬一頭を購入したのだ
馬車は販売しているお店へと行きどういったのが良いか悩んでいたら、お店の人がもう使わなくなったという馬車をタダ同然で譲ってくれた
使っていないと聞いた時はどんなボロを押しつけられるのかと訝しんだが、少々古びているだけで使用する分には全く問題なかったので浮いたお金で整備してもらって使うことにした
馬は動物に好かれるアイシャに決めてもらい、一番懐かれていた子を選んで連れてきた
伯爵の様な立派な馬車とは到底いかないが、それでも僕達が初めて持つ馬車にしては十分すぎる代物だ
御者は基本アイシャに頼んでいるが、毎回任せるのも悪いので僕も教えてもらいながら操縦することにした
帝国領に入るにはまず国境の検問所を通過しなければならない
そこを通過してようやく帝都へと向かうことが出来る
検問所はいくつか存在し、その中で僕達は第三検問所を選んだ
複数ある検問所の中でここから最も遠い場所にあるが、そこから帝都までの道のりが安全らしい
特に日程を約束していたわけでもないので僕達は魔物が出ないルートを出来るだけ選び、村や町を経由してゆっくりと旅をすることに決めた
「検問所までは大体5日でそこから帝都まで3日か。これだけの長期移動は初めてだね。今日はどこまで行こっか」
地図を広げ今日の目的地を探す
すると地図と一緒にメモが挟まれていた
「今日はシュキ村という所まで行こうと思ってます。その紙はリリアーナさんがガーフ君も一緒に泊まれてお風呂もついている宿がある場所をチェックしてくれたものなんです」
どうやら手紙を届けてくれるお礼にと調べてくれたらしい
僕達よりずっと詳しいリリアーナさんの情報なら外れはないだろうし、何よりお風呂に入れるのが大きい
女性にとってはそちらの方が重要かもしれないな
「よし、じゃあそこを目指していこっか」
それからシュキ村を目指して馬車を引いた
道中少しだけアイシャに教わりながら馬車の操縦をさせてもらった
といっても真っ直ぐな道を歩きより少し速い位の速度で走行していたので、基本手綱を持っているだけだった
村までのルートも戦闘を避けられそうな道を選んだので、特に魔物と出くわす事もなく夕暮れ時には村に到着することができた
「ここがシュキ村ですね。早速宿に行きましょうか」
周りを見ると村の人達がちょうど仕事を終えて自宅へと帰っているところだった
宿に着いたら馬を馬車から外し、厩舎へと連れて行った
水をいつでも飲めるよう置いておき、アイシャが餌を与えると嬉しそうに食べた
餌が無くなると催促するようにアイシャの手を舐める
「あははっくすぐったいですよぉ」
アイシャが馬と楽しそうにしている横でガーフが羨ましそうに覗いていた
あとでたくさん可愛がってもらえるだろうに・・・嫉妬深い奴め
宿へと入り、用意された食事を楽しんでいると店主が話しかけてきた
「兄ちゃん達初めて見る顔だな。この村は初めてか?」
「はい、帝国へ向かう途中なんです」
「はー随分と遠くまで行くんだな。なら迷いの森には気をつけるんだな」
「迷いの森ですか?」
迷いの森という名は地図にも載っていなかったしリリアーナさん達も特に何も言っていなかった
この辺りでしか知られてない場所なのだろうか
「あぁ、つい最近なんだが森のある場所に突然霧が発生する現象が起きてな。その霧の中に入っちまうと生気を吸い取られてぶっ倒れちまうんだと。この村で数人被害が出ているらしい」
「なんだが物騒ですね。その生気を吸い取られた人達は無事なんですか?」
「聞いた話では命に関わる程ではないらしく、数日で回復するらしいぞ」
生死に関わったり後遺症が残るレベルまで吸い取られる訳ではないようだ
しかしこの辺りの森にも出現頻度は低いものの、魔物は出る
普通の野生動物でも倒れたまま放置されていたらいずれ取り返しのつかないことが起こるかもしれない
なんにしても事前に話を聞けたのは良かった
「お話ありがとうございました。これ情報料です」
「お、悪いな兄ちゃん」
食事を終えて部屋へ戻るとアイシャが話を切り出した
「リュウヤ君。さっきの店主さんのお話・・・魔族の可能性はありますかね?」
「どうだろう。人を襲ってるのと霧っていう点は合致するけど、王都のとはちょっと違うみたいだし今のところはなんとも言えないね」
念の為、他の村や町でもそれとなく聞いてみた方がいいかもしれないな
「そうですね・・・ふわぁ・・・」
「いい時間だし明日も早いからそろそろ寝よっか。おやすみ」
「おやすみなさい。おいでガーフ君」
「きゅーん」
シュキ村で一夜を過ごし、翌日の朝早くに村を出た
そのような感じで移動しては村や町で寝泊まりを繰り返し、数日が経過した
僕達は情報を集める為行く先々で霧に関して色々な人から話を聞き、霧が不特定の場所で起こっているという事が分かった
更には実際に被害に遭った人からの話も聞くことが出来た
その人の話では、生気を吸われて霞んでいく視界の中で誰かがこちらに向かってくるのを見たとのことだった
はっきり見えた訳ではないので断定できないが1人は黒く、もう1人は白い様相で恐らくは女性とのことらしい
その特徴をたまたま聞いていた行商人等が他の町村で話したのかたちまち広まり、誰が呼んだのか"黒白の魔女"という異名で呼ばれるようになっていた
その上他の場所で間違って伝わったのか話も飛躍していて、出会ったら魂を取られてしまうという間違った噂も広まっていた
そして4日目となった夜、宿の下の階で食事をしていると入口の方から男がとても慌てた様子で入ってきた
男はおぼつかない足取りでいかにも体調が悪そうな顔をしている
宿の中を見渡し、僕達しか居ないことを確認すると項垂れた
「娘が・・・娘が薬草取りで森に入ってから帰って来ないんだ」
話によると父親が風邪で寝込んでいるからと、代わりに娘が仕事をしに近くの森へ入ったらしい
危ないからと止めるも大丈夫だと言って聞かなかったので、数時間で戻って来るという事を条件に行かせたが、日が傾いても帰ってこないので村中を探し回っていたらしくここで最後だったようだ
「やっぱりまだ森から帰ってきてないんだ・・・あの時ちゃんと止めてれば・・・」
「落ち着いて下さい・・・分かりました。僕達が様子を見に行きます」
「あんた達が?・・・そのタグを見ると冒険者か。すまないが娘を見つけてくれ」
「娘さんの特徴を教えてもらってもいいですか?」
「名前はエリザって言うんだ。背はお嬢ちゃんとちょっと高い位で・・・栗色の髪で薬草を入れる籠を背負っているハズだ」
男から特徴を聞き、薬草を取りに行った森の場所を聞いて僕達は薄暗い道を進み捜索を開始した
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次回更新は月曜日19時です
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