34話 療養
「稽古・・・ですか?」
僕の突然の申し出に戸惑った様子を見せるアルさん
しばらく黙考したあとアルさんが口を開いた
「申し訳ありませんが私は人に教える程の実力は持ち合わせていません。なのでリュウヤさんが良ければですが私の師匠を紹介しましょうか?」
「アルさんの師匠ですか?」
「はい。帝国にいる御方なんですが元Sランク冒険者で今は引退されて現在は教官をやっています。実力は折り紙付きですよ」
「そんな凄い方なんですね・・・是非お願いします!」
Sランク冒険者だった人の稽古を受けられるなんて滅多にないチャンスだ
僕は即答でアルさんにその方を紹介してもらえるようお願いした
「分かりました。では紹介状をしたためてお渡しするので体調が戻りましたら帝都までお越し下さい」
「ありがとうございます」
アルさんが部屋を出ていくとアイシャが問いかけてきた
「リュウヤ君、どうして急にアルさんに稽古をお願いしたんですか?」
「今回の事で自分の実力が大したことないって気づいてさ・・・慢心していた訳じゃないけど井の中の蛙だったなって。だから見聞を広める目的も含めてお願いしたんだ」
「そうですね・・・私ももっと力をつけてたくさんの人を助けられるようになりたいです」
「だね。2人で頑張ってもっと強くなろ」
「わふん!」
「冗談だよ。3人で頑張ろう」
「はい♪」
アイシャ、ガーフと共に新たに目標を立て意気込む
同じような事があっても問題ないくらい力をつけて今度会ったら返り討ちにしてやる
「それにしても帝都ですか。どんな所なんでしょうね」
「以前エレナさんが帝国は海が近いって言ってたし、もしかしたら海水浴とか出来るかもね」
「私海って見たことないんです!辺り一面が湖なんですよね。水着を用意しておかないとですね!」
アイシャの水着かぁ。絶対可愛いだろうなぁ
前世ではインドアで非リア充だった僕は友達と・・・ましてや女の子と海に行くなんてリア充イベントとは無縁だった
当時は何とも思わなかったが、女の子と海に行けると分かるとこんなにも胸が高鳴るものなのか
ベルセリアに行く目的が増えてしまった
それから数日間はフローラさんのご厚意で王宮で療養させてもらった
療養中トリゲン伯爵がお見舞いにきてくれた
予定が全て中止となったので王様に挨拶を済ませディグリアへと帰るとのことだった
護衛の依頼を途中で投げ出す形になってしまったので謝罪をすると、伯爵も事情を把握していたので笑って許してくれた
帰り際に護衛の報酬を頂いたが、中には金貨30枚が入っていて見間違いかと目を疑った
なんでも今回魔物討伐に加わった兵士、冒険者には国から報奨金が与えられたらしい
中でも僕達は魔族の撃退とA級魔物との戦闘が評価されたらしく、それが今回の依頼料と合わせて袋に入っていたようだ
実際は僕達両方ともやられかけていた訳だからこんな大金は受け取れないと断りたいところだったが、断ったら後々面倒臭いと伯爵に言われたので申し訳ない気持ちを抱えながら頂くことにした
ディグリアに帰ったら銀翼の皆にも会いに行かないとな
アイシャはというと王宮に滞在中はフローラさんとフローラさん専属のメイドさんに可愛がられていた
「きゃー!アイシャさん、なんて可愛いの!天使が舞い降りたわ!」
「フローラ様!次はこれを!アイシャ様に絶対似合うと思うんです!」
「あ、あの・・・もう勘弁してください〜!」
隣の部屋からはアイシャの悲鳴が聞こえてくる
始めはどんな服を着せられているか等気になったものだが、段々と気の毒になっていった
男子禁制ということでガーフも僕と一緒に留守番をさせられていた
その代償とは言ったらあれだがお礼にと着せられた服を大量に頂いたようなので付き合った甲斐はあったのかもしれない
僕の方は1日1回クリスティナ様が僕の体調を確認しに部屋へ訪れてきた
人見知り故に始めこそぎこちなかったものの、こちらが話しかけるとちゃんと返してくれてそれが数日も続くと普通に話してくれるようになった
クリスティナ様はよく笑う可愛らしい女性だった
「不思議です。他の男性とはここまで打ち解けることなかったのにリュウヤさんとはほんの数日でここまで話せるようになんて自分でも驚いてます」
「そうですか?普通に話しているだけですけどね」
「なんて言えばいいんでしょう。リュウヤさんからは神聖な・・・そう、神様の雰囲気みたいなのを感じるんですよね。それが凄く落ち着くんです」
その言葉を聞いてドキッとした
この世界で他に神様がいるのか分からないが、思いつくのはイグニアスさんだけだ
天の加護を持つクリスティナ様にはそういうのが分かるのかもしれない
「いやぁ、本当にこうしてクリスティナ様とお話することができて光栄だなぁ!」
「そんなリュウヤさんたら・・・光栄だなんて大袈裟ですよ」
無理やり話を逸らしてはぐらかす
話を続けてたらポロッと転生者だと言ってしまいそうだ
この世界で転生者がどういう立ち位置分かってない現段階でカミングアウトするのは得策ではないと判断し、今は隠すことにしている
するとクリスティナ様が俯きながらなにかを呟いた
「・・・ティナでいいですよ」
「え?なんですか?」
「わ、私のことはティナと呼んで下さい。親しい間柄ではそう呼ばれてますのでリュウヤさんにもそう呼んでほしいのです・・・アイシャさんみたく呼び捨てで」
「何故ここでアイシャが?・・・いや呼び捨ては流石にまずいですよ・・・そもそも歳上ですし」
「いいんです。お願いします」
迷ったがフローラさんの例もあるし本人がそう言うのであればいいだろう
「えと、分かり・・・分かったよティナ」
「えへへ・・・はい♪」
(僕って女性の押しに弱いのかな・・・でも喜んでいるみたいだしまぁいいか)
「他の人に聞かれたら流石にまずいから周りに人がいない時だけだよ」
「分かりました♪」
フローラさんに続いて聖女様を名前どころか愛称で呼ぶ関係になってしまった
天の加護持ちで聖女であるティナは絶大な人気があり、幼い容姿もあってか老若男女に信者がいる程らしい
そんな人を一般人である僕が愛称で呼んでいると知られたら下手すれば刺されるかもしれない・・・いや本当に
そんな平穏な日々があっという間に過ぎ、フローラさんがベルセリアへと帰国する日がやってきた
皇帝は王様と未だ今後に対しての対策を話し合っているらしく、フローラさんが先に帰国する形となった
帰る途中では献花台へと寄り花束を手向け、祈りを捧げていた
フローラさんが乗る馬車が通り過ぎる際は多くの国民に見送られていた
あのような事件が起きて王家を批判する人達も多数いたようだ
しかし王様自らが謝罪し、自らの足で献花台へ赴いたことで王様をそれ以上言及するものはいなくなったそうだ
元々国の為に色々と尽くしていて国民からも好かれていたので、批判していた者は大半が国外から来た者達が殆どだとか
それから数日遅れで僕の体調も完全復活とまではいかないが普通に動けるようになったのでディグリアへと戻ることにした
「リュウヤさん、もうお別れなんて寂しいです・・・また会いに来てくれますか?」
「すぐには無理だろうけど必ず会いくるよティナ」
僕がそう言うとティナは腕をぎゅっと掴んできた
「約束ですからね♪」
耳元でそう囁かれた
幼い見た目とは相反する大人の雰囲気に不覚にもドキッとする
本当に人見知りだったのかという程ティナは僕にベッタリとくっついてきた
「ちょ、ティナ。こんな所見られたらまずいから・・・ふぅ、じゃあまたね」
「はい。お元気で♪」
僕達が見えなくなるまで手を振ってくるティナに手を振り返しながら僕達は王宮をあとにした
ティナと会話をしている時からアイシャが殆ど言葉を発さずじっと視線をこちらに向けていて気になったので声をかけてみた
「えっとアイシャ、僕の顔になんかついてる?」
「リュウヤ君とクリスティナ様随分と仲良くなったんですね。愛称で呼ぶなんて・・・」
「え、あぁティナが診てくれてた時に話してたら打ち解けてね」
「そうですか」
そう言うと素っ気なく顔をプイッと背け口を膨らませる
ん?これはもしかして・・・妬いてくれているのか?
「きゃっ!?」
「あっご、ごめん。なんか無性に撫でたくなっちゃって」
今まで見せたことのない表情が可愛らしくて思わず頭を撫でてしまった
手をどかそうとするとアイシャの手がそれを阻止する
「・・・もっと撫でて下さい」
「え、いいの?」
アイシャが無言でコクリと頷く
本人の許可も出たので優しく撫でる
耳はピクピクと動き、尻尾はブンブンと勢いよく振り回されていた
アイシャの髪は絹糸のようで触っていてとても気持ちよかった
「ふにゃあ♪」
一通り撫で終わるとアイシャは満足したようで先程の態度とは打って変わって上機嫌になってくれた
僕達は市街へと続く道をゆっくりと歩いていき、献花台が置かれている場所へと向かった
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次回更新は水曜日19時です
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