32話 狂戦士
「ガーフ君、あっちの魔物をお願いします」
リュウヤ君と別れてから数時間が経過した
MP温存の為ガーフ君の背中に乗って魔物が現れる黒い霧の発生場所に行き、事に当たっていた
途中遭遇した兵士の方達と協力して戦っては怪我人の治療の繰り返しだった
「ハッハッハッハッ・・・」
「ガーフ君大丈夫ですか?」
長時間休まず走り続けている上、魔物も相当な数倒しているのだから相当な消費をしている筈だ
それでも今は休む訳にはいかない
「ごめんなさい・・・でも今は少しでも多くの人を助けたいんです。だから力を貸してください」
「バウッ」
心を鬼にして励ますとガーフ君が返事をし、駆け出した
「ありがとうございます・・・!」
次の地点へと向かった私達が見たのは凄惨な光景だった
多くの人達が息絶えていてそこには兵士の姿も見られた
今まで違う雰囲気に警戒心を高める
すると前方の建物の方から足音が聞こえてきた
足音からしてかなりの大きさだと判断した
建物の陰からゆっくりと姿を現したのは今までの魔物とは比較にならない強さを感じた
「あれは・・・狂戦士・・・」
ガーフ君の倍はある巨大な体に隆起した筋肉、両手には篭手を装備している
自分の命が尽きるまで決して攻撃を止めることのないAランクに該当する人型の魔物だ
頬に冷や汗が伝う
消耗している今では厳しすぎる相手だ
いや、全快の状態だったとしても私とガーフ君だけでは勝つのは難しいだろう
(リュウヤ君がいれば・・・)
その考えがよぎったが瞬時に捨てる
都合よく助けを求めることなんて出来ないしこの魔物を放置したらそれこそ多大な被害が出るかもしれない
ここでこの魔物をどうにかするしか道はない
「ガーフ君、相手を出来るだけ引き付けて下さい。ここであの魔物を倒します」
「バウッ!」
魔力聖水を1本飲み干す
残り2本。これが無くなる前になんとかして倒したい
「グオオオオオオ!!」
狂戦士が雄叫びを上げこちらに向かい跳躍する
着地したと同時に拳を振り上げてこちらに振り下ろしてくる
浮遊でそれを回避し空中で相手に幻影をかける
「ヴァアア!」
「抵抗された!?」
相手が幻に惑わされている間にこちらのペースで戦闘が進めるのがいつものパターンだった
しかしそれが効かない今回の相手は自分より格上だと改めて認識する
「なら・・・鈍化!」
鈍化をかけられた狂戦士は体を重そうに動かすが効果は薄い
これでは足止め程度しかならず、阻害系の魔法はこの相手には効かないと分かり焦る
「ガウッ!」
ガーフが一瞬鈍くなった動きの隙をついて相手の腕に噛みつく
しかし狂戦士の腕は大木のように太い上にとても頑丈で噛み千切る事ができず、軽傷を負わせることしかできなかった
「ヴァアアアア!!」
狂戦士は噛みつかれた腕をそのまま思い切り振り払い、ガーフ君を投げ飛ばす
投げられたガーフ君は建物に直撃した
「ガーフ君!」
「グゥ・・・」
よかった。かなり激しく衝突したが致命傷は負っていないようだ
「ヒール!」
阻害の魔法が効かないのなら正面から戦うしかない
ガーフ君を回復し再び引き付けてもらい、あらゆる魔法を駆使して狂戦士に攻撃を仕掛けた
魔力聖水をまた1本消費する
残り1本
狂戦士は肉体強化系の魔法で自身の身体能力を底上げしていた
唯一救いなのは攻撃パターンが少なく動きが読めてきたので強化された状態でもなんとか凌ぐことができた
使える魔法をひたすら浴びせ続けダメージは与えられているが、どの魔法も致命傷には至らなかった
残す魔法はあと1つ・・・しかし先程レベルアップして習得したばかりの魔法なのでどんな魔法か分からない
けれどこのまま戦ってもいずれMPが尽きておしまい・・・
ガーフも既に満身創痍でこれ以上無理をされるのは危険だ
一か八かこの魔法に賭けるしかない
最後の魔力聖水を飲み干し魔法を発動する
「お願い効いて・・・"天雷撃"!」
魔法を唱えると快晴だった空に黒い雲が現れ、辺りが暗くなっていく
ゴロゴロと音を鳴らす雲は狂戦士を中心に徐々に大きくなっていき、やがて王都を覆う程の規模になった
そして音が止んだ瞬間、白い稲妻がもの凄い雷鳴を轟かせ狂戦士に直撃した
それは雷というより天まで聳え立つ光の柱の様だった
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
効いている!これなら狂戦士を倒すことができるかもしれない!
次の瞬間、体が強烈な痺れによって動かなくなり地面に伏してしまう
天雷撃は高威力な分1発でMPを全て持っていかれてしまった
急激な魔力消費の反動で体が痺れ手足の自由が利かなくなった
「お願い・・・倒れて・・・」
一撃で倒れてくれることを願い狂戦士に目を向ける
魔法が消えると黒く焼かれた狂戦士が膝をついていた
(倒せた・・・?)
「ウ・・・ウオォォォォォ!!!!」
狂戦士は立ち上がり雄叫びを上げた
倒せなかった
狂戦士がこちらにゆっくりと近寄ってくる
先程までの勢いがない
見ると所々炭化して脆くなっているようだ
もう一押しすれば倒せる所まできている筈なのにそれが叶わない
目の前まで狂戦士がやってくると私に手を伸ばしてくる
「ア゛ヴッ!」
ガーフ君が横から飛びかかり腕に噛みつく
始めと比べ脆くなっているので牙が食い込み腕の一部を噛み千切った
しかしガーフ君も満身創痍な為、抵抗できず狂戦士に掴まれ地面に叩きつけられてしまう
「ガーフ君・・・」
狂戦士が再び手を伸ばし、抵抗出来ない私は捕まった
「ウッ・・・・!」
徐々に力が入り苦しくなっていき骨の軋む音がする
このまま握り潰す気だ
(死にたくない・・・)
痺れている体に精一杯力を入れどうにかして脱出しようと試みる
無駄な足掻きだとしても最後まで諦めたくない
抵抗しようとする私を見て更に力を込めてくる
「お待たせしました」
刹那、私を締め上げていた狂戦士の腕が切り落とされた
突然の出来事で理解できず顔を上げるとそこには見覚えのある姿があった
「アル・・・さん?」
「お話はこの魔物を仕留めてからにしましょう」
「ガアアアアアア!!!!」
腕を落とされた狂戦士が怒り狂って攻撃を仕掛けてくる
アルさんは鞘に収めた剣に手をかけ前傾姿勢になる
「我流一式 "紫電一閃"」
目の前にいたアルさんが気がつくと狂戦士と背中合わせになっていた
そして剣を鞘に収めると同時に狂戦士の首が落ちた
あまりに一瞬で驚くことしか出来なかった
「アイシャさん、大丈夫ですか?」
「は、はい。助けてくれてありがとうございます。それよりどうしてここに?」
「先程の魔法を見ましてね。様子を見に来てみたらアイシャさんだったとは驚きました」
「あっいえ、そうではなくて・・・」
「アイシャさ~ん!」
突然後ろから抱きつかれて何事かと振り向くとローラさんがいた
「いたた・・・ローラさん!?」
「アイシャさん傷だらけじゃない!アル!早くフルポーションを!」
「大袈裟すぎですよ。アイシャさん、これを」
「ありがとうございます。でも私よりガーフ君を先にお願いします」
アルさんに頼み先に倒れているガーフ君を回復してもらいその後に私も治してもらった
「体中の痺れがなくなりました」
「強引に元の状態に戻したので安静にしていて下さいね」
「でもまだ敵が・・・」
「それならもう大丈夫です。発生した魔物は殆ど殲滅し終わり今は残党処理をしているところです。アイシャさんが奴を足止めしてくれていたので他の場所の対処が迅速に行えました」
「いえ、私は・・・それで先程も聞きましたがどうしてお2人はここ・・・・リングラルドに?」
「それはね・・・後で話すから今はゆっくり休んでください」
「は、はぁ・・・」
話をはぐらかされたが確かに今はクタクタで今にでも休みたい
けどそれはリュウヤ君と合流してからだ
「お2人はリュウヤ君を見ませんでしたか?」
「いえ、見ていませんね。一緒ではなかったのですか?」
「はい、別行動をしていたので・・・私リュウヤ君を探してきます」
「では私達もご一緒します。被害の状況も知りたいですし、アイシャさんが今の状態で魔物に遭遇するのは危険ですからね」
「分かりました。お願いします」
間一髪のところをアルさんに助けてもらった私達はリュウヤ君が向かった方角へと歩み始めた
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次回更新は金曜日19時です
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