30話 王帝記念祭
王帝記念祭当日を迎えた
僕とアイシャは前夜祭で起こった事件を今朝聞かされ、急遽銀翼パーティと共にトリゲン伯爵の護衛をすることとなった
犯人が見つかっていない状況で護衛もつけないというのは危険という事で、万一に備え僕達もついて行く事となった
「これから行く場所って王宮ですよね?」
「えぇ、王様に謁見するみたい。護衛である私達は王宮に入る事は出来ないから外で待機ね」
まぁ一介の冒険者が王宮に入れる訳ないか
それに作法も知らない僕が入れたところで恥を晒すのは目に見えているしね
伯爵が乗る馬車の準備を済ませ、伯爵の支度が出来るのを待つ
「しかし殺人なんて物騒だよなぁ」
「毎年この時期はどうしても人が多くなるから多少のいざこざは起きるけどこんな事は初めてね」
「せっかくの記念祭に参加できないなんてツイてないぜ・・・」
「元々遊びに来た訳じゃないんだから仕方ないでしょう。諦めなさいドリス」
「はぁ・・・分かったよ」
ノーマンさんに言われて仕方なく諦めるドリス
「やぁやぁ待たせたね」
支度を済ませたトリゲン伯爵が馬車に乗り王宮へと向かう
王宮は貴族街より更に登った場所に位置する
王宮までの道ということもあり、貴族街に入るよりも警備がより厳重になっていてた
幾度もの検問を重ねようやく最後の検問所となる王宮の門前まで辿り着いた
「お疲れ様です。こちらで最後となります」
最後の検問で安全が確認できると重厚な門がゆっくりと動き出した
「では私達は伯爵様がお戻りになるまでこちらで待機しています」
「うむ、頼んだよ。出してくれアルフ」
伯爵を乗せた馬車は門の奥へと進んでいった
伯爵が帰ってくるまで僕達はすぐ近くにある簡易的な休憩所で待機することとなった
簡易的とは言っても王宮前に建てられているだけあって中は立派な作りになっていた
そこにはメイドさんもいて僕達を案内してくれた
「トリゲン伯爵様護衛の皆さん、どうぞこちらのお部屋へ」
奥の部屋へと案内されるとそこには上等なソファに天井にはシャンデリア、周りにはアンティークが飾られていた
ただの護衛が待機する為に使うには勿体ない造りだ
そして先程と違うメイドさんが飲み物を運んできてくれた
(メイドさんがお茶を淹れる仕草は絵になるなぁ)
お茶を淹れているところを眺めていたら横にいたアイシャに見られていることに気がついた
「リュウヤ君はメイド服が好きなんですか?」
突然で以外すぎる質問に困惑する
「えっ、どうして?」
「いえ、伯爵様のお屋敷でもメイドさんをよく見ていたので」
本物のメイドさんが珍しくて自分でも気づかないうちに見てしまっていたようだ
気味悪がられる前に自重しないとな・・・
「それでメイド服は好きなんですか?」
「ま、まぁ好きな方ではあるかな。以前アイシャがやすらぎ亭で着てたメイド服も似合ってて可愛かったよね」
「じゃ、じゃあまた今度機会があったら着ますね。でもあんまり短いのはダメですから」
「ほんと?楽しみにしてるよ」
まさかアイシャの方から着ると言ってくれるとは!
僕は心の中でガッツポーズをした
ここは玉座の間の扉の前
トリゲン伯爵は扉の前に立ち、王に謁見する為待機していた
扉の両端には先程までの衛兵達とは違う綺羅びやかな鎧を身に纏っている兵士が立っていた
ここにいる者達は王直轄の近衛兵で精鋭中の精鋭だ
「国王様!ルイーズ・フォン・トリゲン伯爵が謁見に参りました!」
「うむ、通せ」
近衛兵のその言葉が合図となり、ゆっくりと扉が開かれる
玉座へと続く絨毯の上を歩いて行き、階段の前で膝をつく
目の前の玉座に座しているのはこの国の王ダグラス・ウォルトン・ディ・アストレア様だ
「面を上げよ」
国王の許しを得てゆっくりと顔を上げる
「久しいなトリゲンよ。とは言っても毎年会っているか。元気そうだな」
「ご無沙汰しております国王様。国王様におかれましてもご健勝そうで何よりでございます。本日はフローラ様の結婚記念日というおめでたい日にご招待頂き誠に感謝致します」
「うむ、娘が結婚してもう5年になるか。3日前に帰ってきたんだがあの娘がいるとやはり周りが明るくなるな」
「フローラ様は誰にでも気さくに接して下さいますからね。きっと帝国でも上手くやっていられることでしょう。そうでした、こちら今回フローラ様にと思いお持ち致しました」
後ろに置いておいた箱を近衛兵に渡し、近衛兵がそれを国王の元まで運ぶ
「ほぉ、これは珍しいな。火竜の瞳か」
「はい、そちらは砕いて加工すれば様々な使い道ができます。フローラ様であれば装飾品にするときっとお似合いになるかと思いまして」
ブランタニアで手に入れた火竜の瞳
火竜の瞳は水晶玉のように丸く紅く輝きを放っていた
非常に高価で滅多に出回ることのない一品で購入できたのは幸運だった
「ほぉ、そうかそうか。わざわざすまないな。感謝する」
「勿体ないお言葉ありがとうございます」
その後も世間話や近況報告等をし謁見を終えた
「さて、そろそろ準備をしなくては。皇帝殿を待たせる訳にはいかぬのでな。また夜の社交界で会おう」
「はい、私の為にお時間を割いて下さりありがとうございました」
「うむ、下がってよいぞ」
立ち上がり一礼をし、玉座の間をあとにする
扉の近くにはアルフが待機していて出迎えてくれた
「お疲れ様でしたトリゲン様。すぐに戻られますか?」
「そうだな。社交界の前に仕事を片付けておくとするか」
「畏まりました。では直ぐに馬車を回して参ります」
トリゲン伯爵が王宮へ入ってから2時間が経過した
市街の方では昨日の盛り上がりを超える歓声がここ王宮付近まで聞こえてきた
「市街の方は凄い盛り上がりですね」
「この後王族が挨拶をして市街まで練り歩くからきっと今以上に盛り上がるでしょうね」
そんな会話をしながら窓の方を見ていると伯爵を乗せた馬車がやってきた
僕達はもてなしてくれたメイドさんにお礼を言い、休憩所を出て伯爵の元へ向かった
伯爵はこの後屋敷に戻り残ってる仕事を片付けるようで、その後の僕達の予定はフリーとなったので少し遅れたが記念祭に参加することにした
エレナさんは引き続き伯爵の護衛を続けるようだ
「良かったねアイシャ。記念祭に参加出来そうで」
「はい、楽しみです♪」
貴族街へと戻ってきた僕達は後片付けを済ませ、市街へと向かった
記念祭当日ということもあり、貴族街も前日のような穏やかさは消え大いに盛り上がっていた
市街での盛り上がりはそれを遥かに超える盛り上がりで人でごった返していた
「こ、これは凄いね・・・昨日の人だかりが可愛く思える程だよ。油断しているとすぐ見失っちゃうね」
「皆さん王様達を一目見ようと集まって来てますからね。さ、行きましょう♪」
アイシャが手を差し出してきてその手を握る
この人混みに入るだけも憂鬱になるがアイシャといるとそんな気持ちも無くなっていく
今日は目一杯楽しもう!
しかしそんな考えは一瞬にして消えた
人の波へ歩を進めようとした瞬間、前方に黒い霧が姿を現した
「おい、なんだあれ?」
「急に現れたよな?」
周りにいた人達も突然現れた謎の黒い霧を見てざわつきだす
すると霧の中からからゆっくりと何かがこちらに向かってきているのが分かった
魔物だ。黒い霧の中から魔物が姿を現した
1体や2体どころではない
無数の魔物が霧の中から次々と出てきた
「ヴォォォォォォォォ!!」
霧から出てきた魔物は雄叫びをあげ人を襲い始めた
霧の目の前にいた人達は何が起こったのか理解する暇もなく魔物に襲われていった
「に、逃げろおおおおお!」
「おい・・・嘘だろ。なんで魔物が・・・」
「ここは王都だぞ・・・どこからこんなきたんだ・・・」
国を祝福する歓喜の声から一転、周りから聴こえる声は悲鳴へと変わった
「まずい!行こうアイシャ!」
「はい!」
僕達は逃げようとする人達の流れに逆らって霧がある方へと向かった
王都リングラルド上空
そこには魔族の姿になったオーレンの姿があった
「ハッハッハッ、魔物大祭の幕開けだ。いい声で鳴けよ人間共」
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