21話 贈り物
翌朝、僕達はアザリアを出立し休憩を挟みつつディグリアへと帰還した
ディグリアに着いた頃には既に日は完全に沈み、街は夜の顔へと変わっていた
既に閉まっているかもしれないが宝玉を渡す為、ガルバンさんの鍛冶屋へと向かう
鍛冶屋に辿り着くと金槌を打ちつける音が聞こえてきた
どうやらまだ作業をしているようだ
扉を開けてガルバンさんに声をかける
「こんばんはガルバンさん。戻りました」
「おぉ、早かったな。宝玉は手に入れられたか」
「はい、結構大変でしたけどなんとかなりました」
「ハッハッハッ、そうかそうか。新しい防具の方はどうだった?」
「防具の調子も良かったです。以前より能力がかなり上がっていました」
「それはなによりだ。じゃあ早速だが宝玉を見せてもらおうか」
アイシャが空間収納から宝玉を取り出してガルバンさんに渡す
「どれどれ・・・」
渡された宝玉を観察するガルバンさん
「うむ、確かに受け取った。完成するのに一週間はかかると思うからそれまで待ってくれ。料金の方だが杖と防具で金貨4枚。だが素材を取ってきてくれたからな、金貨3枚といったところでどうだ」
「ではそれで。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
料金を支払い、ガルバンさんに杖の製作を頼んで鍛冶屋をあとにする
「さて、どうしよっか。休日最終日に急な予定入れちゃったし明日は休みにする?」
「うーんそうですねぇ私は明日からでも大丈夫ですよ。装備とかでお金も結構使ったのでまた貯めないといけませんしね」
「それもそうだね。じゃあ明日からまた頑張ろう」
「はい」
やすらぎ亭に戻り、明日からの活動に備えることにした
ガーフを納屋に入れ、ご飯をあげてからお店の中に入っていく
店の中にはまばらだがお客さんが入っていた
閉店の時間が近づくこの時間帯は自分の店を経営している人達が仕事を終え、よく食べに来るので見慣れた顔が多い
「こんばんはグレイスさん。ただいま戻りました」
「あらリュウヤ君にアイシャちゃん、おかえりなさい。どうだった?」
「はい、目的の物は手に入りました」
「それは良かったわね。晩御飯はもう食べた?」
「いえ、帰ってきたばかりなのでまだです」
「じゃあ準備するからちょっと待ってて頂戴」
空いてる席について料理が来るのを待つ
ディグリアに今日中に着く為に休憩の時間に軽く食べただけだったので、移動中は気にならながったが一息ついた途端空腹が押し寄せてきた
待つこと十数分、メルが料理を持ってやってきた
「リュウヤさんにアイシャさんおかえりなさい」
「ただいま、メル」
「アザリアはどうでした?あそこはお花がたくさん咲いていて綺麗だって聞いたことあります。そのお花で作られた香水は大人の女性にとても人気らしいですね」
「街はお花に囲まれてて綺麗で香水もお洒落でしたよ。それでこれ、香水じゃないんですけどメルちゃんにプレゼントです」
アイシャが包装された紙袋を取り出しメルに渡す
「これ、私にですか?」
「はい、気に入ってくれればいいんですけど」
紙袋からネックレスが入っている小箱を取り出し開ける
「わぁ・・・綺麗・・・」
2人で選んだピンクの薔薇の形を模したネックレス
見た目もそうだが店員から聞いた花言葉でこれに決めた
「ピンクの薔薇の花言葉には感謝や幸福があるらしくてお世話になったメルちゃんにピッタリかなって」
「着けてみていいですか?」
鏡の前に立たせ、アイシャが手伝いメルにネックレスを着けてあげる
「できました。どうですか?」
「わぁ・・・凄く可愛い!嬉しいです!大切にしますね!」
どうやら気に入ってくれたようだ
アイシャも喜んでもらえて嬉しそうな顔をしている
「あらあらどうしたの?」
盛り上がっているとグレイスさんが厨房からやってきた
周りを見るといつの間にか他のお客さんは食べ終えてお店からいなくなっていた
「お母さん!見てみて2人から貰ったの」
「あら、ほんとよく似合ってるわね。2人共ありがとうね」
「気に入ってもらえてよかったです。それと・・・これはグレイスさんに合うかと思って香水を」
「えっ?私にもくれるの?嬉しいわ。大切に使わせてもらうわね」
こちらのプレゼントも喜んでくれたようで一安心だ
「お礼に今日はお料理奮発しちゃうわね」
厨房へと消えていったグレイスさんは少しすると普段見ない豪勢な料理を持ってきてくれ、お客が僕達だけだったのでお店を閉めて4人で談笑しながら食事を共にした
賑やかで楽しい晩御飯を終えた僕達は部屋に戻り、シャワーを浴びて床につく
「プレゼント、喜んでもらえて良かったね」
「そうですね、誰かに喜んでもらえるとやっぱり嬉しいです」
「明日からは別の宿になるけどここにはちょくちょく食べに来ようね」
「ひゃい……それじゃあ……おやすみなふぁい……」
「お休み」
短い休憩で移動したせいで疲れが溜まったのか一言二言交わした後、アイシャはすぐ寝息をたてて眠りについた
明日からはまた依頼をこなしていかなくちゃいけない
僕も目を閉じて眠りにつく
翌朝
「いつでも来てくださいね。待ってますので!」
「またすぐ来ますねメルちゃん」
「気をつけて行ってらっしゃいね」
「お世話になりました。行ってきます」
メル、グレイスさんに挨拶をして僕達はやすらぎ亭をあとにし、ギルドへと向かう
ギルドに辿り着き扉を開けると、いつもと変わらない活気と賑わいで満ちていた
受付の方を見るとちょうどリリアーナさんがいたので近づいていく
「リリアーナさん、おはようございます」
「リュウヤさんにアイシャさん、お久しぶりです。お休みはどうでしたか?」
「はい、とても有意義に過ごせました。それで・・・これアザリアに行った時に買ったんです。良ければ使って下さい」
リリアーナさんにもアザリアの香水をプレゼントする
「わぁ、これ欲しかったやつです!ディグリアでも偶に売られるんですけど人気ですぐ売り切れちゃって中々買えなかったんです。頂いてよろしいんですか?」
「日頃の感謝の証です。これからもよろしくお願いします」
「ありがとうございます。こちらこそ担当としてしっかりサポートしますね」
これで3人にプレゼントを渡すことが出来た
皆喜んでくれて本当に良かった
カルロさんやガルバンさんにもいつかちゃんとお礼をするとしよう
挨拶を一通り済ませ、依頼が貼られている掲示板の前に行き吟味する
Fランクの時はリリアーナさんに勧められた依頼を淡々とこなしていたが、Cランクに上がった今は自分達で選び依頼を行っていく
そしてCランクからは護衛という依頼が追加される
Dランクまでは採取系の依頼や魔物討伐というのが主な内容だが、Cランクは一般人や行商人等の護衛という依頼が加わってくる
報酬は高い分、人の命を預かる依頼なので最低限の実力がある冒険者でないと務まらない
稀に貴族も護衛依頼を出すらしいが、そういう場合は大抵以前と同じ冒険者を指名するらしい
恐らく信頼と実績を買われてのことだろう。依頼料に+指名料というのが発生するらしいが貴族はその程度のお金に糸目はつけない
Cランク成り立ての僕達が指名されることはまずないだろう
「護衛依頼はまだちょっと早いかな。やっぱり慣れてる魔物退治にしようか」
「それがいいと思います」
「リュウヤ君?」
魔物討伐の依頼を探そうとしたその時、後ろから女性の声で僕の名前が呼ばれた
振り返るとそこには以前ディグリアへ向かう道中一緒だった"銀翼"のパーティの面々がいた
「エレナさん!お久しぶりです。あの馬車以来ですね」
「そうね、あの後護衛した先にあったギルドで依頼を受けててこっちに帰ってきたのは昨日なの。その様子だと冒険者には無事なれたようね」
「はい、お陰様で」
「それはなによりだわ・・・ん?その子は見かけない子ね。お仲間?」
「はい、エレナさん達と別れた後に出会ったんです」
「は、始めまして、アイシャと言います」
「私はエレナ、よろしくね」
「うおー!めっちゃ可愛い子じゃないっすか!うちのサバサバした女性陣とは大違い!少し歳は離れてるけど自分彼氏立候補していいっす・・・ぶほぉ!」
後ろから勢い良く現れアイシャにグイグイ行くドリス
そんなドリスの顔面に裏拳を入れて黙らせるエレナさん
あの時は殆ど会話をしなかったので分からなかったがドリスはこういう感じのやつだったのか・・・
「話の腰を折らないでドリス。ごめんなさいねうちのバカが。いつもこんな感じだから気にしないで」
「は、はい・・・」
困惑しながら頷くアイシャ
どちらかというと奥手な方のアイシャはこういうグイグイくるチャラ男みたいなタイプは苦手だろう
当の本人は殴られ慣れてるのか、すぐ起き上がりブツブツと小言をいいながら後ろに下がる
「それで今は依頼を探してたの?」
「はい、Cランクに上がったので護衛の依頼を見てたんですけどまだ早いかなって話になったので魔物討伐の依頼を探すところだったんです」
「え?Cランクって馬車で別れてからまだ二週間位しか経ってないわよね・・・じゃあ冒険者の間で話題になってた最速でCランクに上り詰めた期待の新星ってあなた達のことだったのね」
僕達が休んでいる間に冒険者界隈ではそこまで話が大きくなっているのか・・・
「期待の新星って・・・ちょっと大袈裟じゃないですか」
「そんなことないわよ。Cランクまで上がるには優秀なパーティでも一年、私の知ってる限りじゃ一ヶ月が最短だったはず。それを塗り替えたんだから当然よ」
「そうなんですね・・・でも冒険者としての経験はまだまだ浅いのでこれからも慢心せずやっていきます」
「それは殊勝な心がけね。そうだ、もしよければ私達の護衛依頼を一緒に受けない?」
「エレナさん達の依頼を一緒にですか?」
「ええ、依頼主の確認はとらないといけないけどね。なんせ貴族の方だから。あ、貴族といっても気さくな方だから気を遣わなくても大丈夫よ」
確かに右も左も分からない僕達だけでやるより慣れている銀翼の人達についていった方がなにかと勉強になるかもしれない
しかも依頼主が貴族なら顔を売るチャンスかもしれない
「受けましょうリュウヤ君。銀翼の方達から色々教えてもらいましょう」
「そうだね。その話是非お願いします」
「決まりね、ドリス達に馬車まで案内させるから。私は話を通してくるわ」
許可が下りれば休み明けCランク初っ端の依頼は貴族の護衛依頼か
あの人達から色々学んで今後の糧にしよう
次回は水曜日の19時に投稿します
読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします