白銀の騎士は姫によって奴隷に堕とされた
初めての投稿となります。拙い作品ですが、よろしくお願いいたします。楽しんでいただければ幸いです。
ヴィクトールは、幼い頃から伝説の英雄に憧れ続けてきた。
姫君や王のために身命を賭して戦い、勝利して、忠義と栄誉を捧げる。
その生涯に尊敬と憧憬の念を抱いてきたのだ。
もちろん、全ての英雄の生涯丸ごと真似したいわけではない。
色恋に溺れ、奢侈に耽り、我が身可愛さに他者を裏切り切り捨て、身を持ち崩した英雄たちのなんと多いことか。なんとも嘆かわしいことである。
ヴィクトールは彼らを反面教師にして、心身を清く正しく保ち志高くあり続ける理想の騎士を目指してきたのだ。
そして、成功しているかのように錯覚していた。
国王陛下やエメ王子やアンジェリカ姫に頼られるたび、王命を遂行して褒賞を受け取るたび、ヴィクトールは「夢への階段」を昇っているのだと信じ、どこか浮かれていた。
だから、だろう。
周囲の感情や考えに無頓着になっている自覚がまったくなかった。
一人一人が何を考え、ヴィクトールに何を求めているのか。
政治中枢に近づくほどに多方面を警戒し、大きな禍となる前に対処するものだと「貴族の子弟の当然の知識」として幼い頃叩き込まれたはずなのに。
騎士団に入って以来、何一つ深く考えず上から降ってくる「命令」に唯々諾々と従ってきたのだ。
口さがない連中がヴィクトールのことを「王家の犬」と鼻で笑っていることを知っても、ヴィクトールは彼らのことを「忠義を知らない者たち」と見下す事しかしなかった。
王家に絶対服従であることこそ、尊敬に値する英雄がもつべき揺らがない忠誠の証だと盲目的に信じていたのだ。
その結果。
近衛騎士団へと王の推挙で転属となり、アンジェリカ姫付きの近衛騎士にまで出世して、二週間足らずで、近衛騎士団の面々とアンジェリカ姫本人に裏切られ、アンジェリカ姫の奴隷へと落とされた。
そう。
姫の命令の元、王族の名のもとに国が厳重に封印しているはずの禁止魔道具「奴隷の焼き印」を使用され、ヴィクトールは「呪いの烙印」を背中に焼き付けられた。
以来、ヴィクトールはアンジェリカ姫の体のいい操り人形だ。
ヴィクトールは、今、牙を研いでいる。
忌まわしい呪いのせいで自分の意志に反して動く体に苛立ちながら。
汚辱にまみれる日々に、己が未熟さ故の過ちという苦味を噛み締め。
真の英雄とは何かを自問し続け。
背中に焼き付いた呪いの軛から逃れる術を絶え間なく探しながら。
憎悪と怒りで鋭くなっていく牙を隠すため、口を固く閉ざしているのだ。
「ヴィクトール、お前に口づけしたわ」
奥歯を噛みしめるヴィクトールの引き結んだ唇に、べっとりと押し付けていた紅い唇をニタリと歪めて笑う忌まわしい女。
忌まわしい行為に次々と手を染め穢れきったアンジェリカの喉笛を掻き切る、その瞬間を。
今のヴィクトールは狙い続けている。
コメディとしておきながら、暗い始まりです。ごめんなさい。
次回から、明るくなります。なるはず。なるといいなぁ。