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エピローグ

 携帯のアラームが鳴っている。


 ワンテンポ遅れて跳ね起きたオレは、枕元の携帯のアラームを止めて、見慣れた自分の部屋をぼんやりと眺めていた。時計の日付は間違いなく夏休みの初日。アレから一日も経っていない。


 寝る前の事は、はっきり覚えている。ダニエラさんが見つけた街の灯りは、王都から馬で四日ほどの距離にある海沿いの比較的大きな街だった。街に到着して、王都へ連絡の伝書を手配したりで少しゴタゴタしたけど、その後はみんなで街の酒場に繰り出して、戦勝祝いの酒盛りをやった。


 アーベルなんて即位が内定している王子なのに、市井の人達に混じって世を知るのは大切な事とか言って、街のお偉いさんの所には顔も出さずにスルー。オレ達と一緒に楽しく酒を飲み、庶民の飯を美味そうに食べていた。最初に会った日の事も改めて礼を言われて、オレが多分今夜で此処からいなくなる事を話すと、とても残念がりながらも、他の種族と関係が良く無い人族の社会は、自分が必ず改善するからと約束してくれた。


 宿で部屋をとり、大部屋に空きは無かったので、二人づつに分かれたのだけど、オレと一緒の部屋を真っ先に選んだアドリアさんは、お別れの言葉を探していたオレの様子を察して、こういう時は湿っぽく行くもんじゃない。縁があったら又どこかで会う事もあるから達者でな! と言って凄くいい笑顔で笑ってくれた。ベッドに入って、いつもなら眠気とは無縁なのに、とても眠くなって、目を閉じたところまで覚えている。


 カーテンを開けると、見慣れたいつもの光景が拡がっていて、居間へおりると、かーちゃんがいつものように朝御飯を用意してくれた。何も変わっていない日常の光景なんだけど、少し寂しいような、手持ち無沙汰のような心境のまま、オレはちょっと出かけてくると声を掛けて家を出た。


 週末の朝は、平日とは少し違って車の数が若干減って、行き交う人の足も心なしか緩やかな感じがする。オレは家の近くの河川敷にある大きな公園の芝生でごろりと横になった。


 公園の隣にあるパークゴルフ場では、年配のおじさん達が朝から楽しそうにゴルフをしている。昼には気温がかなり上がるだろうけど、まだ今の時間だと風が流れて心地よい。


 芝生に横になって、流れていく雲を眺めていると、突然お腹の上に何か大きなものがドサッとのって来て、オレはぎょっとして固まってしまった。見れば、首輪を付けた白い毛色のレトリバーがしっかりオレの上に乗っかって、尻尾をパタパタさせて喜んでいる。


 オレは半開きになった口を閉じて、周囲を見渡したけど、犬の散歩をしている人はいるけど、このこの飼い主らしい人は見当たらない。首輪はあるけどラインが付いてないし、艶々の毛色から野良犬でもない。きっと、どこかの家から脱走して来たに違いない。


「なんだか、白くてふわふわしてて、イリスみたいだな」そっと優しく頭を撫でながら、オレが思わず呟くと、犬は嬉しそうに尻尾をふって、オレの顔を舐めようとグイグイのってきた。


「アユム、お疲れ様! 向こうの話は全部解決したよ。お陰で助かった、ありがとう」

「えっ!?」


 レトリバーはオレの耳元に顔をよせると、ハッキリと聞き覚えのある声で囁いた。


「イリス!?」


 オレが慌てて身体を離して二度見すると、レトリバーはとても人間臭く微笑んで、またぐいぐいオレの上にのって来て耳元に顔を寄せる。


「適性のある子ってなかなか居ないの。突然力のある身体に入ってしまうと、性格がおかしくなる人って案外多くて、選ぶのたいへんなんだよね。アユムは良かったよ。ばっちり合格点」

「あ、ああ。ありがとう」


 オレはまた夢を見てるような気分で、犬のイリスの頭を撫でながら小声で言う。


「最後に会えなかったから、お礼を言いに来たっていうのもあるけど、実はね、アユムにもしその気があったら誘いに来たの。世界は数えきれない程あって、常に何処かで何かが起きている。現地へ派遣して修正する人材は、いつも手が足りないのよね。どう? ちょっと気になる?」

「き、気になる! ねえ、それマジで……」


 オレが身体を起こしたので、肩にのっていた頭を上げて、鼻と鼻がくっつくような距離で、オレとイリスは見つめ合っている。イリスの口からぽとりと銀色の指輪が落ちて、俺の胸の上に転がって止まった。見た事の無い文字が彫られたアンティークなもので、凄く高級品という感じではない。オレが手にとってしげしげとそれを眺めている様子を、イリスは尻尾をふりふりしながら見つめている。


「満月の夜に、それを指に嵌めて寝ると、目が覚めたら派遣場所って感じ。期間は最長で一ヶ月くらい。内容によって派遣される人数は変わるけど、最初の頃はアドリアみたいなベテランと組むから安心よ」

「アドリアさんって、そうだったんだ……」


 イリスはオレのお腹の上で飛び跳ねてはしゃいでいる。大型犬だから地味に衝撃が大きくて結構効くぞこれ。呆然とはしゃぐイリスを見つめるオレの視界に、遊歩道の方から凄い勢いで真っ直ぐこちらへ走って来る若い女性の姿が写った。


「すみませーん!」


二十代くらいの髪の長い綺麗なひとが、息を切らせながらオレの前で急停車して、がばっと頭を下げた。イリスがオレのお腹の上からぴょんと降りると、女性の足にしがみついて尻尾を振っている。


「うちの犬が御迷惑掛けてすみません。ちょっと目を話した隙に脱走しちゃって。大丈夫でしたか?」


「あ、いえ、全然何ともないです。オレ、犬大好きですから」


「ホントにすみませんでした。ほら、きなこも謝って!」


おねーさんに頭をガシッと鷲掴みにされて、ぐりぐりされてるイリスをみて、オレはふきだしそうになる。きなこだって! なんて和風な名前。次会う時は、絶対きなこちゃんと呼んであげよう。


 首輪にリードを付けて、オレに何度も頭を下げながら立ち去っていくお姉さんの後姿を見送るオレに、くるっと振り返ったレトリバーが、ふふっとまるで人間みたいに笑って去っていった。


 そして、オレの手の中には、貰った銀色の指輪が握られている。指に嵌めてみると、不思議とどの指でもしっくりとサイズが合って違和感無く収まった。ちょっと出遅れたけど部活に入ろう。また柔道をしっかりやり直して、他にも色々準備しなくちゃ。


 オレは勢いを付けて芝生から飛び起きた。 気が抜けたようになってた朝とは違って、やる気が湧きあがってくる。次の満月って何時だろう? 自然とニヤついてくる表情を抑えながら、オレは河川敷を力強く走っていた。


 昨年の十一月十八日、初投稿だった長編ですが、ようやく最後まで書くことが出来ました。

長い文章を書く事を舐めてたようで、なかなか大変だったのですが、色々勉強になって良かったです。もし、読み終えて下さった方がいらっしゃいましたら、感謝を捧げたいと思います。ありがとうございました。


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