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♯12

 宰相イシードルの執務室は、王宮の二階にある。アーベル王子を先頭に、オレはゲルハルトに連行されてるような感じでイシードルの執務室に向かった。アーベル王子の威光が回復しているので、いかにも怪しそうな姿のオレをみても衛兵達は問題なく道を開けてくれる。


 マインド・フレイヤの精神支配を受けない事が確定している三人で乗り込み、オレが人相を確認し、確定した時点で問答無用で襲いかかって倒す。マインド・フレイヤの実体は軟体生物で、物理攻撃には強く魔法には弱い。特に火に弱いという事なので、もし三人で苦戦するようであれば、王宮の外で待機している三人が、空から窓を突き破って突入して来る手筈になっている。


 ただ、王宮内でダニエラさんの魔法が炸裂すると大惨事になるので、出来れば三人でイシードルを追い込んで王宮外で仕留めたい所だ。オレ達は無言で赤と金色が基調になっている豪華な廊下を進み、宰相の執務室の前に到着した。


「宰相、ゲルハルトだ、入るぞ」ゲルハルトがドアをノックして、返事を待たずに扉を開ける。室内の空間は広いが調度品は少なく、実務的な部屋の奥、大きく頑丈そうなデスクの前で、窓を背にして宰相は書類の山に目を通していた。


 ゲルハルトを先頭に、アーベルの後に続いて入室したオレと、書類から顔を上げたイシードルの視線が絡む。イシードルの体格は長身で細身であり、実直そうな表情をしているが、その顔にだらりと触手のようなものが四本首まで垂れ下がり、オレ達を探るようにヒクヒクしている様が透けて見えていた。


 オレがダン! と地面を蹴ってイシードルに突進すると奴は瞬間的に反応し、木で出来た大きなデスクを両手で掴み、ひっくり返す様に豪快にオレに向かって投げつけて来た。


 オレは空中でバスケットボールを受けるように巨大なデスクを受け止め、強烈なパスでイシードルへ投げ返す。


「なっ! 」イシードルの顔が驚きに歪んだまま、デスクの直撃を受けて壁際まで吹っ飛び、激しく激突してデスクが四散する。これで死んでくれるなら楽なんだけど、イシードルはすこし潰れて平たくなり、鼻から黒い墨のようなものをどくどくと垂らしているが生きている。


 自分の姿に虚像を重ねていた装置が壊れたのか? イシードルの姿がパチパチ言いながら人ではないものへと変わっていく。「むうん!」もはや、疑う余地のなくなった相手に、ゲルハルトが凶悪な見た目のフレイルで殴りかかると、イシードルは間一髪で頭を殴られる事は回避したが、右肩の部分にフレイルがぐにゃんとめり込み、苦痛の表情を浮かべながら飛び下がって距離をとった。


 ちょっと空気が抜けたバレーボールを踏んだような感じで、普通の人間なら一撃で戦闘不能になりそうなフレイルの打撃を吸収している。だが、異型の顔ながら酷く痛そうで、効いてるのは間違いない。あれが演技だったらアカデミー候補だ。


 アーベルが抜刀し、自分の顔の前で縦一門字に抜き身の剣を構えると、刀身が輝きを増して存在感を放ちはじめる。アーベルの光剣は、現在王宮預かりになっているが、これはオレが借りていたエルフの光剣だ。「な、何だと!」この場に無いはずの光剣が出てきて、驚愕の表情を浮かべるイシードルに、アーベルが普通の人間の目では追えない早さの突きを繰り出した。


 イシードルは、かろうじて反応はしたが回避しきれず、光剣はわき腹に突き刺さり、アーベルが力を込めるとそれが輝きを増しながら、イシードルの身体を深々と貫いていった。


「ぐああああっ」仰け反るイシードルの姿に、勝負あったように見えたが、次の瞬間イシードルの顔から伸びた触手がアーベルの首に巻き付き、イシードルは腹を光剣に貫かれながら両手でアーベルに抱きつくように絡みついた。


「これで勝ったと思うな! 愚か者め。光剣にも対抗策はあるのだ。王子と光剣は頂いて行くぞ。貴様らは後で必ず相手してやる。必ずだ」


 イシードルが捨て台詞を吐くと同時に、執務室の床に転移の魔法陣が青く光って浮き上がり、アーベル王子を抱きかかえたままイシードルの姿が執務室から消えた。


 もちろん、オレ達の姿も同時に消えた。



 光景が暗転すると、オレ達は海岸線が見える、月明かりの草原に立っていた。


「ぬうん!」抵抗するアーベルと抱き合うように絡みあったイシードルの背中に、ゲルハルトのフレイルが横なぎにめり込む。「うがああ!」仰け反ったイシードルの触手から逃れたアーベルは、全く戦意は衰えておらず、猛然と光剣でイシードルを穴だらけにしはじめた。


 良く見ると、剣先が貫通しないで背中の一部を盛り上げては引っ込んでいる。あれ、刺さって無いんだ! 刺さらないといけない光剣が、めり込んでるだけだから生きている。でも痛覚はあるらしく、イシードルはビクンビクンしながら痙攣している。そこにゲルハルトのフレイルが顔面にヒットして、イシードルはぶしゃあ! と黒い墨の放物線を鼻から引きながら吹っ飛んだ。


「な、何故貴様らも一緒に転移してるのだ!」少しふらついてはいるが、それでもイシードルは見かけによらず素早く立ち上がってオレ達を睨み付ける。


「少し手違いが起きたようだが、私は物理攻撃では死なぬ。光剣も効かぬ、貴様らは必ず此処で……」


 言葉が途中で止まったイシードルが、ぎこちない動作で頭上を見上げると、両手の上にメラメラと燃え上がる炎を掲げた魔女が、逆立った赤毛を輝かせて夜空に浮かんでいた。


「お前、よく燃えるそうじゃないか?」


 傷つきながらも、まだ余裕のあったイシードルが明らかに動揺している。


 ダニエラの手から放たれた火球を今までに無い早さで回避すると、イシードルは脱兎の如く海の方へ向かって逃げ出した。その進路に突如として竜巻が現れ、今まで殴られても刺されても傷のつかなかったイシードルの身体に無数の傷が刻まれる。


 おそらく海の中に逃げ込もうとしたのだろう。だが、その進路にはフラムさんとアドリアが立ち塞がっていた。


「そこをどけえええ!」傷だらけになりながらも魔法を使うエルフを避け、魔法は使えない獣人のアドリアさんの方へ進路を変えたイシードルが、アドリアさんへと手を伸ばす。


 一瞬、嫌な予感がした。アドリアさんは、間違いなくこの中で一番強いんだけど、なんとなく操られそうな気がしたのだ。マインド・フレイヤの精神支配は、手が届く程の近距離まで近づけば発動できる。

 

 追いかける足を加速させた瞬間、アドリアさんは、スローモーションのように背後から両手を前に突き出し、両手に握られた大型のリボルバーから轟音と共に次々と弾がイシードルの身体にめり込んでいった。


 最初、くの時になったイシードルは突進が止まり、次々と弾着してヨロヨロと後退して行く。そこに追い付いたオレは、イシードルの首のタコ足をがっちりと捕まえた。


「ダニエラさん、来いやー!」空に向かって大声で怒鳴りながら、尻尾を絡めつつ強引に一本背負いでイシードルを地面に叩きつけ、そのまま袈裟固めでギリギリと絞りあげていく。


 察した皆が全力で退避する中、オレの頭上から巨大な隕石の様な火の弾が落ちてきて大爆発を起こし、燃え上がる炎の中で、イシードルは焼いたスルメのようにくるくると丸まって縮んでいった。


 みんながクレーターのようにへこんだ爆心地の中央に来るまで、オレは油断なく炭になったイシードルを抑え続けていた。「アーベル王子、光剣でこれを刺して」「うむ、わかった」光剣は今度は抵抗なく突き刺さり、イシードルだったものはサラサラと崩れて灰になり消滅していった。隅々まで探したけど何も残ってはいない。


「終わりましたね……」フラムさんが、感慨深げにオレの肩を叩いてくれる。

アーベル王子とゲルハルトが皆に礼を述べ、硬い握手を交わして、この後の政治的な処理を相談する光景を眺めながら、オレは少しぼーっとしていた。終わっちゃったな。多分、今夜寝て起きたら此処とはオサラバだ。


「なにシケたツラしてるの?」いつの間にか、アドリアさんがオレの横に立っていて、手の中で大型のリボルバーをクルクルと回して遊んでいた。これよく西部劇とかでガンマンがやるやつだね。アドリアさんに二丁拳銃メチャメチャ似あってるよ。


「最後、カッコよかったぜ」背中をバスンと叩かれると、ちょっとしんみりしてたのが吹っ飛んでスッキリした。此処は王都から遠いのかな? もう夜だし、最後にイリスに会えないのが残念だ。改めて礼も言いたかったし、村の皆にも伝言とか頼んでおけば良かった。


 ダニエラさんが空を飛んで、近くに街の灯りを見つけたので、とりあえずそこへ向かって移動する事になった。此処へ来た時も月が丸かったけど、随分月日がたって、いったん欠けた月がまた夜空で膨らみはじめていた。



次回、最終回になります。昨日投稿を間違えて、一話飛ばしてたのを発見して、慌てて修正してます。

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