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♯8

 志願兵団は全体で約五千人ほど。それが五十人から百人単位で、王国の彼方此方へ連日派遣されて、人の入らない山林や、山奥、廃村など怪しそうな場所を、くまなく捜索してるんだけど、特に手掛かりは見つかってはいない。


 ドミニク王子の話は、志願兵団の民兵達の間にも噂になっていて、彼らは誰が国王になってもたいした変わりはない、と考えている者が圧倒的に多い。国民にとって、王様も貴族も遠い存在で、意外と関心がないものなんだなと実感した。


 そんなある日、兵舎の男達が異様に盛り上がっていて、何事かと行って見ると、なんとオレに続いて、プロフェッショナルクラスで審査を通過した、すこぶるイイ女が来たらしい。


 もうね、オレは聞いただけで解ったね。きっと情報連絡係が退屈になってきて、身体を動かしたくなってきたんだよ。


 兵達の話によると、グラマラスでピチピチの若い子で、名前はリアちゃんだってさ。まあ、正確にはアドリアちゃんだよな。君達、それ可愛いけど取り扱い注意の爆弾だから、くれぐれも爆発させるんじゃないぞ。


 次の日、さっそく夜這いをかけた愚か者が血祭りになったそうだ。あの精鋭ぞろいのアドリア小隊の猛者達でも、アドリアさんの寝起きが悪いから、起こすのは罰ゲームなんだよね。寝てるアドリアさんを起こすのは、おれも想像しただけでぶるぶるっと来る。知らなかったとはいえ、不幸な奴に合掌だ。


 オレ達の宿舎は平民ばかりなので、基本的には上流貴族の将校は滅多に来ないんだけど、なんとヴォルフガングの爺ちゃんが、単身オレの部屋にふらっと立ち寄ってくれて、さすがにオレも驚いた。


 チームの皆も、うちの大将っていったい何者なの? と、かなり盛り上がって噂話に花が咲いている。


「タチバナ、どうだ? 環境には慣れたか?」

「はい、結構居心地が良いです」

「色々噂になっているようだが、見かけのわりに、面倒見の良い男だと評判だぞ。なにか困ってることはないか?」

「将軍にお聞きしたい事が少々あるのですが、よろしいですか?」

「ああ、なんだね?」

「アーベル王子はボーンキングを倒してますよね? その時のダンジョンの情報は、聖女が直接伝えたのですか?」

「タチバナよ、なかなか直接的に斬りこんでくるな。何故そんな事まで知ってるのか、とはあえて問わないが、その話は他ではするなよ。この国では、聖女の神託を教皇が受けて、教皇が国王へ伝える。今現在、国王は訳あって休養中なので、宰相がそれを受けて貴族院へ、議題としてあげるといった形だ」


 神託で暴かれないまま闇の王まで育った割りに、此処に来てしっかり教皇から話があったというのは、やっぱり罠が完成したので、わざと情報を流したんだろうな。


 でもさ、ちょっとおかしいよね。


 教皇とドミニク王子って、政治的に繋がっていてアーベルに手柄を立てさせたくは無いんだろ?

 

 闇の王が聖女にわかるように動いて、ダンジョンを感知させたとする。聖女が教皇に、ダンジョンできました! と報告した。教皇は、まてまて今討伐されたら政治的に困る、にならなかったのかね。


 ボーンキングは、ウーズやオークの様に溢れていた訳ではない。倒すのは絶対だけど、時間に余裕があると言えばある。


 まさか教皇って利敵行為をしてるとかないよな?誰かに命令されてか、自分の意思か、神託を都合よく改変してたりするかも。それやったら人類の敵だぜ。最悪は、まさかの教皇が、姿を変えた化け物だったりする事だ。


「タチバナよ、教皇はドミニク王子の支持派閥だ。次期王位の指名をドミニク王子が受けたので、今、この国は揺れている。おまえも変な事に巻きこまれないようにな」

「あ、はい、ありがとうございます」

「そうそう、お前にも驚かされたが、連続でまた凄いのが入ってきたぞ。あれはお前の仲間といった所か?」


 爺ちゃんにずばり聞かれたけど、この爺ちゃんなら、下手に隠さない方が良いだろう。


「見た目はあれですけど、頼りになる人ですね。ベーゼを殴り飛ばしてくれますよ」

「さもありなん。そんな気がしていた。タチバナよ、大事な話だ、心して聞いてくれ。ドミニク王子が、人が変わった様に熱心に兵を集めている。元々軍の指揮には興味が無かった方なのだがな。

貴族達の騎馬隊を入れず、民兵中心で歩兵集団を作っているのだ。お前達もおそらく声が掛かるだろう。お前達が、私の想像通りの者なら、しっかり見極めて、動いてくれると信じている。くれぐれも気をつけてな」

「わかりました。御期待に沿えるよう頑張ります。将軍も王都の護りをよろしくお願いします」


 含みをもたせた言い方をしたら、将軍もしっかりと頷いてくれた。

 

 どうも、教皇とかの動きが怪しいし、それと繋がってるドミニク王子っていうのも怪しい。もう、こいつら纏めてベーゼの変装なんじゃね?と疑いたくなる。


 それだと色々すとんと腑に落ちるんだよね。国の中枢とかを乗っ取って、戦争でも始めれば、ベーゼうはうはだと思うのよ。


 オレは直接見れば、目に入る姿と、実際の姿の両方を感じるので、変身していてもしっかりわかる。早急に教皇とドミニク王子を遠目でもいいから観察しなきゃいけないな。


「将軍、教皇と言うのを、一度しっかり見ておきたいのですが、何処にいけばよいでしょう?」


「日曜日の九つの鐘がなる時刻に、聖教会本部の正面入り口にある階段の上に教皇が立ち、司祭も一緒に女神への祈りを捧げる。中央広場に人が集まるので、遅く行くと後ろの方にはなるが、しっかり全身見えるだろう。それにしても教皇がどうしたのかね?」


「いえいえ、ちょっとした興味なんですけど、ちゃんと人間だったらいいなと思って」


 オレの答えにちょっと驚いた風の爺ちゃんは、それ以上は追求してこなかった。




 日曜日、オレは外出の届出をして、朝の中央広場へ出かける事にした。副官であるレオに、教皇や神託に付いて色々教えて貰ったんだけど、この世界は、女神様がベーゼに関する事だけでなく、農作物に影響の出るレベルの天候不順や、大きな災害なんかも教えてくれるみたいで、そういう目に見える話が積み重なるから、下手したら国王より権威があるような感じだった。


 話を聞いていたオレは、女神様は天気とか教えてくれるけど、それが起きないようには弄らないんだと、へんな所が気になったね。まあ、台風とかも迷惑だけど、あれが果たす役割もあるだろうし、失くすわけにはいかないのかもしれない。


 聖教会は、神託を出すので国家からも、民衆からも頼られるけど、今までは政治的な事には一切さわらないという立場を貫いてきた。でもレオでも知ってる話で、いまの教皇は、権力に執着するタイプらしい。聖職者が民衆にそう思われるって余程ダメな奴だと思う。


 聖教会の近くに建つ、教皇の暮らす建物は、教皇に就任している間、そこで暮らすことになる官邸みたいなものらしいけど、今の教皇になってから、建て直しされて宮殿みたいになったそうだ。


 中央広場は、既に人が集まっていて、雑談などを交わしながら、教皇が現れるのを待っていた。オレは既に習慣になっている感知を全域に広げて、見た目と違う形をしている奴がいないか?大勢の住民達を対象に、ひとりひとり調べて回ったけど、今回も変な人は見つからなかった。


 噴水の傍にイリスが居るのを発見したけど、向こうもしってて、今はわざと離れてるみたいだから、オレもなるべくそっちは見ないようにしておく。


 広場の人々は、かなりの人数になり、九つの鐘が街に鳴り響くと同時に、教会の正面入り口から、司祭服の男女が大勢出てきて階段の中段に横二列で整列した。


 あの横幅の広い階段は、こうしてひな壇みたいに使うのに丁度良いようなサイズと湾曲具合になっている。後ろの教会の建物と、横幅の大きな白い階段に並ぶ司祭の姿は、なかなか良い絵になっていた。


 最後に大きな帽子を被った、かっぷくの良い男性が出てきて、上段の中央に立つと、民衆も一斉に手を合わせ、頭を垂れる。あれが教皇で間違いないだろう。


 オレは周囲より頭一つ大きいし、なにより覆面男なので目立つ。ずっと頭を上げてみていると不審なので、見よう見真似で手を合わせ、気持ち俯きながらじっと教皇を観察していたけど、おかしな所は見当たらなかった。

 

 ただ、あの樽の様な体形は、でっぷり太った人は皆無な民衆と比較すると、褒められたものではない。肥え太るという表現が正にぴったりで、出荷する前の豚のようなイメージだ。


 教皇の説法みたいなお話が終わって、民衆は司祭達と唱和して祈りの言葉を唱え、わりと短時間で朝の礼拝は幕を閉じた。全体的に厳かで、徐々に広場から立ち去って行く民衆も、みな良い顔をしているし、悪くない儀式だった。


「アユム、そのままの姿勢で聞いてね」


 いつの間にか、イリスはオレの後ろへ移動している。


「次期国王の指名を受けた、ドミニクの様子がおかしいの。ゲルハルトも明らかに変だと言ってる。人が変わったみたいに積極的に動き初めて、いままで何事にも消極的だった彼の変貌を、王位につく覚悟を決めた男に見られる変化だと言う人もいるけど、なにかやらかしそう。多分近いうちに彼が軍を動かすから、まずい事態になったら、貴方の判断で止めて」

「わかった」

「頼りにしてるアユム」


 イリスはそれだけ伝えると、すっとかき消すようにいなくなった。アドリアもイリスも忍者みたい。あいつら見てると、オレの感知も完璧じゃないという事がよくわかるよ。




 何日もしないうちに、ヴォルフの爺ちゃんや、イリスの言ってた通りの情況になってきた。オレ達志願兵団のうち、即応出来る約二千が召集されて、馬車に乗って出動することになったのだ。


 レオによると、この規模で歩兵が動くのは、珍しい事だそうだ。騎馬の騎士達と違って民兵の歩兵は足がない。なので、例えば盗賊が出たと言っても、追跡能力がないうえに、初期の移動がかなり目立つ。


 これだけ大規模にぞろぞろ進んで行くのは、敵が移動しない拠点攻撃には適しているけど、貴族の将校が少なすぎるのが違和感がある。


 ダンジョンが見つかったという報国はないし、もし見つかったのだとしても、そうなると、高い戦力が期待できる貴族達がもっと多い筈だ。


 頼りにしていたヴォルフ爺ちゃんまで姿が見えなくて、この人数を、軍閥ではない王子様が率いているのは、何をしようとしているのか見当がつかない。


 この国は、貴族が私設の軍を持つ事は、厳しく制限されている。人数に制限があるので、軍と言うより民兵達を自軍に組みいれた際の司令官を担う将校を育てている事になる。


 ただ王族のみが自らの軍を所有していて、ドミニクが率いてきた騎馬の連中は、元々からのドミニクの兵だと思う。騎馬が三百、歩兵が二千、後方部隊が千程度と、なかなかの軍容になった。


 五十の小隊が四つ集まって、約二百人になったものをドミニク配下の騎兵が指揮する形になる。オレの小隊と、アドリア、もといリア姉さんの小隊は、別の指揮官の下に就く事になった。


 リアは小隊の仲間から姉御と呼ばれていて、それがよく似合っていて面白い。根っからの親分肌で、部下から慕われるんだよね、あの人。時々抜けてるところがあって、部下達がフォローしなきゃと待ち構えているのも、本物のアドリア小隊と光景がだぶる。アレをアドリアが意識的にやってるのだったら、凄い策士だけど、多分天然なんだよな、リーダーの才能ってあると思う。


 進軍開始から三日後、部隊はエルランディア王国の北の端、海岸線にある美しい都市フェルトゥーナに到着した。


 フェルトゥーナは人口約八千。現在はエルランディア王国に帰属しているが、自治権を認められている小都市で、フェルトゥーナとエルランディアの間には、関税も越境の審査もない。フェルトゥーナの民は、肌が小麦色で濃い茶色の髪を持つ少数民族で、沿岸での漁業が最大の産業になっている。


「隊長、軍はこんな穏やかな町を包囲して、何する気でしょうね?」


 晩飯の配給が終わり、部隊のみんなが、美味くない飯を腹に片付けた後、副官のレオがオレの隣で難しい顔で聞いてきた。


「将校達が、町の代表を呼んで、何か話し合いをしていたけど、あまり良い話ではないよな。町の指導者みたいな連中が、戻るとき酷い顔してたから、何か厳しい要求でもしたんだと思う」

「隊長、まさかと思うけど、こんな所で人族同士で争いとかにはならないですよね?」

「なあレオ、教えて欲しいんだけど、オレは此処じゃない遠くで育ってるから、この辺の流れとか全然わからないんだ。もし、の話だけど、自治都市を強制的に併合とかって、可能性が少しでもありそうかい?」

「いやーないと思うんですけど。ここの人達、カネーラっていう肌の色が違う奴らですけど、王国の北部にはカネーラは結構多くて、みんな都市単位で自治権ありますし、王国がそれらに強要とかしてないんですよね。仲良いんですよ」

「特に争いは起きて無いんだね?」

「そうです。カネーラは、昔は王国から監査役とかって言って、人が入ってた時もあるんですけど、先代の王様が全部廃止して、彼らに任せてるので、支配してるとかじゃないです。毛色のちがう隣村ですよ」


 ここの国々って、ベーゼが生まれるせいなのか、殆どの町や村が塀の中にあって、小規模ながら自給自足してるんだよね。耕作出来そうな平野部にも余裕があるし、町同士で奪いあう位なら、開拓した方が割りが良いと思う。


「なあレオ。もし、軍がこの町を攻め落とすぞ! とか言い出したらみんな従うのかな?」

「い、いや、隊長、そんなヤバイ話、俺に聞かないでくださいよ。そんな滅茶苦茶な話はないと思いますけど……まあ軍人ですから、やれって言われたら、仕方なくみんなやるんじゃないでしょうか」

「そうか、仕方なくだけど、やっぱりやるよね」

「た、隊長、何か良い手でもあるんだったら、そんなの止めて下さいよ」


 オレはレオの顔を覗きこんで、そこに冗談ではなく、真剣に言ってる様子を確認して、にっこり笑って頷いた。


「皆はオレが何をしても、巻き込まれないように一切手を出すなよ」


 レオはびっくりしたみたいに目を大きくしてから、微笑んだ。


「了解しました! 隊長」


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