♯18
王宮の大門から回廊を制圧して、宮殿内への入り口で、激戦を繰り広げていたエルフと獣人連合軍は、突如としてオーク達が苦しみ出して武器を取り落とし、黒い塵に変わって溶けてしまった事に最初唖然とし、見渡す限りのオークが全ていなくなった事を理解すると、戦場は歓喜の渦となった。
だが、エルフの将軍を含め獣王は、この現象をオークの王が配下を吸収したものだと即座に判断し、いま正にオークの王と戦いを繰り広げているであろう五人を支援すべく、獣王を先頭に地下霊廟へと全速力での突入を開始する。
あらかじめフラムとダニエラが、王宮に太古から伝わる、トラップシステムを停止させてくれていたので、地下霊廟への上からの浸入もたやすく、獣王は、オークのいない地下霊廟を、後続の全てを大きく引き離し最速記録で掛けぬけ、両側で炎が揺らぐ巨大な橋を一気に走破して、その先の最後の間に、オークとの戦いを完全なる勝利で飾った英雄達が、楽しそうに語らう姿をみて、深く息を吐いて安堵した。
ただ問題は、キングが残した金色の指輪によって隠し扉が開き、その奥にはアユムがエルランディア王国のダンジョンで見たものと、同じ光景があったのである。
魔法陣を解析したフラムは、これがまだ指輪で起動する状態であり、その行き先はおそらく方角から、獣人国で間違いないという結果が出た。
すなわち、闇の王は未だ健在なのである。
追跡の手がかりは一旦切れたが、既に人族、ドワーフ、エルフの領域で、ボーンデビル、ジャイアントウーズ、オークキングと三体のベーゼは討伐された。ベーゼの出現していない地域は獣人国のみ。
よって獣人軍は、戦勝の宴もそこそこに、本国へ街道経由で戻る事となる。オレとイリスとダニエラの三人だけ、今回の突出した功労者という事で、王都リュミエールに数日滞在して、式典に出てから戻る事になった。
王都リュミエールは、現在復旧作業でエルフ達が忙しそうに働いている。オレ達はいま、被害のなかった離宮のラウンジで、複数の芸術家達に囲まれて、なにやら色々描かれたりしている真っ最中だ。
驚いたのが、オレより少し年上くらいかなと思っていたダニエラさんが、耳長の子供連れだったという事。ピアちゃんっていう明るくて可愛らしい女の子だ。やっぱり外人の年齢はオレには判別不能だったみたい。
そして、そんな二人を眺めるフラムさんの表情と、ピアちゃんの耳が長いと言う事は、そういう事なんだろう。オレは気が付かないレベルの鈍感だったけど、野暮じゃないので聞かずにそっとしておくことにした。
「フラムさん、オークの護衛を一人でやっつけちゃったアレ、どうやったんですか?」
最後の間でひときわ大きくて、頑丈そうな王の護衛が、槍でも突き抜けたかのような姿で倒れていたのが気になっていた。フラムさんは、光剣のレプリカしかもってなかったからそれじゃあない。
「ああ、あれの種明かしはこれさ」
フラムさんがベルトの背中側から引き抜いたモノをみて、オレは興奮して思わず声をあげてしまった。銃だ、しかも昔の海賊が持ってたような、クラシックな形をしていて、エルフらしい芸術的な装飾入り。しかも銃身は三連装ときたもんだ。カッコよすぎる! というかこの世界に火薬あったんだね。
「フラムさん、銃あるならこれを量産したらオークとか、一般人でも余裕じゃないですか」
「えっ!? アユムくん、これが何かわかるのかい?」
「え? 銃ですよね?爆発の衝撃で鉛とか鉄の弾を撃ち出す……」
「なんということだ、アユムくんのところは、これを扱える人がいるのか……。この筒の底に仕込んだ爆裂魔法の魔法陣は、本人の魔力が相当高くないと動かない。ダニエラなら余裕だろうけど、国中探してもこれを使えそうなのは五人……いや三人かな」
火薬じゃないというので、ああなるほど、と納得してしまった。弾の推進力さえ得られれば問題ないわけで、発想出来ればあとは試行錯誤で完成しそう。
「これは失敗作でね、ロゼッタの工房に放置してあったのを思い出して、既存の魔法には見えないから、役に立ちそうだったので持ってきたんだ」
「失敗作なんですか?」
「そう、これは誰でも使える魔道具ではない。描いた本人しか動かせない魔法陣の入れ物だ。誰でも描ける位に魔法陣を簡略化すると、素直に魔法でその辺の石でも飛ばした方が強い。これが撃てれば威力は素晴らしいが、弓のように連射できない。その点を解消する為に三本組み合わせたのだが、かさばって邪魔になるね。なにより距離が離れると命中しない。おまけに凄まじい音と火炎で、遠くの得物までみな逃げてしまうんだ。使い勝手があまりよろしくない」
「あー残念、という事はオレが撃ってみたくても出来ないんですね」
うん、ホント残念、やっぱりちょっとロマンだよね。でも残念がるオレの耳元で、フラムさんがそっと囁いた。
「大きな声では言えないけど。他人の魔法陣を動かせる鍵のシステムは把握したよ」
そうだ! あの金色の指輪は、魔力のあるなし関係なく魔法陣を動かせる。つまり、オレでもこれを撃てる。そうなると改良案はあるよ! オレが思いついたわけじゃないけどさ。
銃身にライフリング(弾に回転を与える切込み)を刻んで、リボルバーにすれば仕組みは簡単だ。音はどうしようもないかな、サイレンサーも消えるわけじゃないしね。
「どうやらアユムくんは、何か良いアイデアがあるようだね、後でゆっくり話し合おうか」
勝手に色々と改良案を考えてたら、フラムさんにしっかり肩を掴まれて釘をさされてしまった。
「フラムさん、闇の王の手掛かりは、今のところ全くですか?」
「そうなんだ、我が国は祭司長様が亡くなられたので、現在巫女を捜索中なんだ。巫女と言うのは先代が任を離れたとき、国内のどこかに現れる。もう既にどこかにおられるのだけど、まだ見つかってはいない」
「今は国内も混乱してますもんね」
「そうなんだ、そして巫女は通常極めて若い。エルフはこの先数年は神託を得られないだろう」
情況的に闇の王は、多分獣人国の何処かだ。でもあそこは、オレが現れる事さえ予言していたミレイアさんがいるのに、よく闇の王とか大物が隠れてられるよな。ああ、闇の王は神託を邪魔するんだった。でも邪魔をする程度で完璧じゃない筈だ。ベーゼは最初は弱い、闇の王まで到達するには時間が掛かる。その長い時間、ミレイアさんのお膝元で進化なんて出来るのかね?
なんか、おかしくね?
なんで、人族のダンジョンも、此処のダンジョンも、最後の間の転移先が獣人国だったんだろ?
やられて逃げるのに、ミレイアさんのお膝元へいくか? むしろ、あれを使うのは最後の侵攻に使うつもりだったんじゃないか……。
まてよ、まてよ、混乱して来た。
最終ターゲットが獣人国というのは現実味がある。あそこの連中は強さの桁が違う。人とシロクマがボクシングするくらい初期性能に違いがある。数で圧倒するか、質でも並ぶかしないと不可能だ。
そして初期の頃に、あの国で根を張るのは難しい。多分、伸びる前に刈り取られる。三匹の中ボスのうち、どれかが元々は獣人国に根を張る予定だったやつで、そのまま置いておくとバレるので、転移で移動させたとかどうだろう。
もし、そうだとしたら……何処だ?
闇の王は中ボスより先に産まれている。その頃に神託の機能していなかった国。人族の巫女って、なんとか教会の聖女とかいって、権力争いの出汁になってて、機能していないってノアさんが言ってた……。
人族の所に現れたベーゼが進化して闇の王になった。そして竜の卵を盗み出して、デカ骨で誘き寄せて勇者を始末しようとした。オレと言う想定外が出なかったら、成功していただろう。
そして、オレが勝手に獣人国へ移動してミレイアさんに会い、事の顛末を話してしまったので、敵にとって一番怖い獣人が動き出してしまう。動かざるを得なくなり今に至る。
ありそうな流れかもしれない。オレは後で拳銃の話と一緒に、フラムさんにオレの想像を話してみることにした。
オレ達五人とピアちゃんを合わせた六名の為に、王族御用達の離宮が宿泊所として提供されていて、料理人やメイドさんまで専属でお世話してくれるので、庶民のオレは緊張しまくりだ。
飯は美味いし、お風呂は大浴場。エルフは火も水も自前なので、お風呂とか余裕なんだって。オレは暖まると、まるでドーピングしたみたいにパワーが跳ね上がる。いや、ドーピングなんてしたことないけどね。
結婚式の披露宴が出来そうなホールで、メイドさんたちに囲まれながら六人で食事をして、食事中にこっくりこっくり舟を漕ぎ始めたピアちゃんを、ダニエラさんが寝かせに行って、食後のワインを傾けながら、オレは自分の想像をみんなに話してみた。
話し終えた後、皆が考え込んで空気が重くなる。最初に口を開いたのは、フラムさんだった。
「ありそうな話だ。五百年以上のあいだ闇の王まで育たなかったのは、巫女の力による所が大きい。エルランディア王国の聖女アリアは、現教皇が連れてきた方だ。近年は問題なかったようだが、就任当初は神託がなくて、本物なのか? と噂されていた。現在のポロカ教皇が聖教会の頂点にたってはや十二年。彼は政治的な活動をしていて何かと噂も多い」
政治と宗教が分離していないのは、いろいろ危ないかもしれない。おまけにその人次第で、巫女の言葉が正しく伝わらないかもしれないとか、人族の国はそんなんでいいんだろうか。
ピアちゃんを寝かし付けて、戻ってきたダニエラさんが、フラムさんの話を引き継いで話し始めた。
「エルランディア王国では、貴族の地位は約束されたものではないの。貴族とは生涯を武道の鍛錬に費やし、いざという時に国の盾となるもの。または生涯を学業に費やし、国に繁栄をもたらすもの。その基準に満たない者は地位を剥奪されるの。ポロカ教皇の支持基盤は、そういった立場が危ない貴族達。現在の王は病で寝たきり、国政は有能な宰相が上手にまわしているけど、危ない貴族達と教皇は、同じく王位継承が危ない第一王子を担いで、貴族を永世的な地位に引き上げようとしている」
ダニエラさんは、実力でのし上がった一代限りの名誉貴族だ。みずからの出身地でも思うところがあるのだろう。
「ボーンデビルの討伐を国は正式に認めていない。ドミニクと教皇は、アーベルが手柄をたてる事をなにより恐れている。奴らなら神の教えに反してでも、私利私欲を優先する事は充分ありうる」
ダニエラさんの言葉にフラムが続ける。
「ダニエラはエルフの王国を救った英雄だ。そしてダニエラは、アーベル王子のパーティである。エルフはエルランディア王国のアーベル王子に対して、ダニエラの派遣と、その偉大なる貢献にたいして、感状を贈る事となった。少なくとも、アーベル王子の謹慎はとかれる事になるだろう。我々としても、闇の王との決戦の前に、アーベル王子のパーティが、動ける状態になっている事が望ましい。そのための協力は、国を挙げて行いたいと考えている」
「アユムの予想が当たってたら、闇の王はエルランディアだ。エルランディアでの捜索は、アーベル王子に復権してもらって、彼に任せるのかい?」
アドリアさんの質問に、フラムさんとダニエラさんがかぶりを振る。
「ドミニク王子とポロカ教皇は、アーベル王子が指揮をとる事を嫌って、下部組織の志願兵団に依頼をだすでしょう」
「あの、ダニエラさん、志願兵団って何ですか?」
オレは思わず口を挟んでしまった。
「エルランディアは、貴族の私兵所有に厳しいので、志願兵団は王族に次ぐ最大戦力になります。成人男性は三割位が登録していて、専業は一割位かしら。小隊長クラスになると、一般男性の倍は稼いで、職を辞した後も恩給が付くわ。農家や商家の次男、三男には、出世の夢が叶うかもしれない職業よ。専業になると、最低限の寝床と食事は腹いっぱい食べれるから、訳アリの奴等も多いわね。でも軍の直轄だから、規則はとても厳しいわ」
若いうちだけだろうけど、普通の倍稼ぐと言うのは魅力的に感じる。確かに、腕に自信があれば良い選択かも知れない。オレにはぴったりかもね。
「アユム、やってみたいか?」
突然、イリスに振られてびっくりした。
「エルランディアに闇の王がいるかもしれない。志願兵団が捜索を請け負う。志願兵団に所属する。手としてはありだ」
アドリアも妙に乗り気だし……。っていうかオレ、もしかしてソロかな? そんな野郎ばっかりの所に、イリスとアドリアは駄目だし、フラムさんも貴族ですから無理無理。これはぼっちの予感がする。
「もしその手でいくのなら、身分証や経歴は私がつくれるが……」
ダニエラさんにも背中を押されている? かもしれない。ここで言いだしっぺのオレが、やっぱり行かないとか言ったらかっこ悪すぎる。
「そ、そうだね、いくます」
緊張してたのか、しっかり噛んだ。
これで第二章が終了になります。全体の七割位書いた感じになります。
一応下書きでは完結してるので、最後まで大丈夫なはず。




