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♯17

 その時アドリアは、四つ目の門の壁面を登っている最中だった。反対側の壁をイリスが登っているのもなんとなく感じている。


 角笛が鳴り、門の扉から続々とオークが橋に出てきている。先ほど頭上を低空飛行で何かが飛んで行ったのは匂いでわかっていた。彼らが時間を稼いでいるうちに、辿り付くのが任務である。


「いくぞ、イリス!!」


 門の上に躍り出たアドリアが、オークを橋の外の暗黒へ蹴り飛ばすと同時に、反対側から上がってきたイリスが、残るもう一匹の首を一振りで飛ばした。そのまま、反対側のレリーフの縁を二度蹴飛ばして、最後は壁を蹴り、気が付いて上を見上げたオーク達の頭上を飛び越えて着地する。


 橋の端で燃える炎が、二人の影絵を地面に写し、それに気が付いたオークが次々と切り裂かれ沈んでいった。


「大体予定通りかしら」

「ああ、最後の門が開くかどうかはダニエラ次第かな」


 最後の門からオークが続々と出てきて二人の元へ殺到してくる。背後からも兵が迫ってくる中、小さな二つの台風のように二人の剣と爪が炎を反射して光る。


「かーっ、スペースが狭いからきついなあ、おい」

「最後の門まで抜けて、壁を背中に」

「わかった、イリス後ろにつけや!」


 アドリアが吼えると、怯んだオークの動きが止まる。アドリアを先頭に突き進む二人が通過した後は、台風になぎ倒された木々のように、オークだったものが散らばっている。だが、進撃もそこまで。最後の門まで辿りつき、門周辺を征圧して抑えたものの、背中を見せて登る余裕はなく、むしろ四門から迫ってくるトロールが到着したら、押し切られる公算が強い。


 敵を圧倒しているものの、手詰まりの情況にじりじりする中、近づいて来ていたトロールが突如、轟音と共に赤黒い炎に包まれ巨大な姿がみるみる溶けるように崩れ、地面に倒れ伏した。


 唖然として動きが止まるオークが次々と炎に包まれ、橋の上は地獄の業火に焼かれる罪人達の刑場のような光景になっていく。燃え上がる炎に照らされて、空に浮かぶ赤い髪の魔女。魔女の非情な宣告がオークに告げられる。


「お前達、その臭い息を止めろ、永遠にだ……」


 拡げた両手の上に、巨大な炎が膨れ上がり、鞭の様に伸びて地面を焼き尽くし、炎の中で黒い影が次々と崩れて行く。


「こいつはすげーや……」

「アドリア、私達はフラムの援護だ! 行くぞ」


 オークの最後の一匹を斬り捨てたイリスが、門の鉄格子を開けるレバーを引くと、金属が擦れる音を立てながら門が開いていく。


「そうだ! フラムは魔法が使えないから、ほっとく訳にはいかねーわ」

「そうそう」


 二人がまだ燃えきらない残骸がくすぶる回廊を走って行く。もはや行く手を遮るものはなく。最後の間は目前であった。




 フラムとダニエラの二人は、互いの手をしっかりと繋いだまま、最後の間に繋がる入り口で待機していた。


 その先には、豪華絢爛な装飾の奥、ひときわ高い場所に据えられた玉座に、冠を擁いた巨大なオークが座っている。王座の両隣には、他のオークとは一線を画す逞しいオークが控えていて、長大な両手斧を杖のように床に立て、仁王立ちしていた。


 王宮の情況を伝えに来たと思われる伝令がきたが、報告を聞いただけで、キングは動こうとはしていない。フラムは、オークと言うものは性質上、尊大で傲岸であり、敵わないとみるや途端に卑屈になるが、ひと当てするまでは、自分達の勝利を疑わずに、居座るだろうとは思っていた。


 だがその確率も百パーセントではない。護衛の巨大なオークは邪魔だが、時間を稼ぐだけならなんとかなる。情況を観察しつつ、時を待っていたフラム達の耳に、遠くの角笛が繋がって、全体に拡がっていく様子が聞こえてきた。回廊のオークが一斉に四門へと向かっていく。


 彼らが到着するまで、この命に代えても時を稼ぐ。握り合ったダニエラの手が、強く二度フラムの手を握り離れて行った。


 彼女は素晴らしい魔女だ。才能に溺れず常に努力して来た姿勢は、尊敬に値する。彼女と魔道具や魔法陣の研究を一緒に出来たら、どんなに素晴らしいことか……。この世界の時計の針が大きく進むに違いない。彼女の為にも、彼女を慕う少女の為にも、私は此処で負ける訳にはいかぬ。


 フラムは腕輪を触り姿を現してから、ゆっくりと入り口を潜って、玉座に座るオークの王に視線を合わせた。





「これは面白い。エルフ臭いぞ。よく此処までたどりついたな」


 オークの王は、入ってきたエルフを一瞥もせず、実にくだらない事だと言わんばかりに、フラムに語りかけてきた。


「はじめましてオークの王。どうしても伺いたき事があって参りました。この度の数々の手管、見事ではありましたが、オークの王はいつから魔道師になられました?」


 キングは忌々しそうにフラムを見やると呟いた。

 

「殺せ……」


 王の指示を受けて、キングの左右に控えていた巨大なオークが動き出す。王の間は広いが、二対一なので逃げ場はない。ニ体のオークは、はちきれそうな筋肉の盛り上がった身体を誇らしげにゆすり、巨大な両手斧を構えてフラムを威嚇する。フラムの片手剣では、受け流すことも叶わないだろう。


 二匹のオークは、単身王の間へやってきたエルフを馬鹿にして、笑みをうかべながら迫ってきた。フラムはそっと魔法の発動を邪魔している機械を止め、両手を腰のベルトの後ろに回すと、二丁の魔道具を取り出し、三本筒のバレルをオークにぴたりと向けると、バレルの奥に仕込んだ魔法陣に魔力を流し込んだ。


 三本の銃口が爆発音と共に激しく火を吹き、その瞬間二匹のオークの胸板が裂け、背中まで大穴を開けて血肉をぶちまける。


 フラムは煙を吹く銃口をキングにみせびらかしながら、これ以上魔法が使えないように、そっと道具のボタンを押した。


「な! なんだ……それは……」


 玉座で馬鹿にしたように足を組んで座っていたキングが、慌てて立ち上がりフラムの手の中の物を凝視している。


 「貴方は穴の中にばかりいたので、世の中の事を御存じないようだ。ドワーフの鉱山からでた、濡れると爆発する石の事は御存じない? ああ、無い様ですね。最近の研究では、火山の爆発の原因はこの石です」


 真っ赤な嘘である……。そんなものはない。


「水を封じたケースと火山石を金属の筒に詰め、叩いて混ぜると御覧のように。魔法ではないので、魔法が使い難い場所でも有効ですな」


 ニヤニヤ笑うフラムに激怒したキングは、玉座の横に飾られた黒塗りの両手剣を引き抜き、フラムを殺意の篭った目で睨み付ける。


「だが、切り札を使ってしまうとは愚かな奴よ。剣を抜け! ひ弱なエルフなぞ細かく刻んでやる」

「切り札を使った覚えはありませんね。切り札と言うものは……」


 フラムの言葉が終わらぬうちに、入り口から矢のように飛び込んできたアドリアの右ストレートがキングの顔面に炸裂して、キングの巨大な身体は壁まで吹っ飛んだ。

 


「勝ったー!!」

「ま、まけたぁ……」


 アドリアが絶叫して、イリスがしょんぼりしている。察しの良いフラムは、こいつらどっちが先に殴るか賭けてたな、と気が付いてしまい苦笑いする。


「う……がっ……バ、バカな……」


 キングの頭を守る、黒光りしていた兜の頬当ての部分に白く蜘蛛の巣のようにヒビが入り、陥没して口からはダラダラと血が流れている。


「そいつが産まれながらにして身体に張り付いてるとかいう生体防具かい。ちょっと興味があるんだけどさ、それ剥がしてみていい?」

 

 アドリアが白い牙をむき出しにして近づいて行く。キングは慌てて地べたを這いずる様にしてアドリアから逃げ、玉座を盾にして、目を大きく見開いて右往左往している。


「大丈夫、そっとやるから。力をぬいてまかせて」


 両手をわきわきさせながら、近寄ってくるアドリアに完全に怯えたキングは、玉座の裏から黒い球を手に取り、それを床に力いっぱい叩き付けて壊した。そうして、だらしなく背中を見せて後ろへと下がり、取り出した金色の指輪で壁を叩く。


 だが、キングの思惑に反して期待していた事は起らず、キングは驚愕の表情でずるずると壁の前に跪いてしまう。


 三人がそれを取り囲むようにどんどん近づいて来た。


「ク、クソッ、貴様ら、この下等生物が、よくもよくも此処までぶち壊しにしてくれたな、あと数年の時があれば貴様らなぞ……後悔させてやる、どんな犠牲を払っても後悔させてやるぞ……」


 キングはよろよろと立ち上がり、両手を空にかざして叫んだ。


「我が配下の者達よ! 我に命を捧げよ!!」


 キングの言葉が放たれた直後、黒い小さな虫のようなものが無数に現れて、キングの身体へ渦を巻くように吸い込まれ始めた。兜の傷がみるみる修復し、身体を覆う鎧が金属をへこませる様な音を立てながら膨れ上がっていき、身の丈と横幅も一回り大きくなる。身体と一体化している黒い鎧には、紋様が浮かび上がり、露出している皮膚も黒く硬く変化していった。


 「ワハハハ!! 我は新たなる位階に達した、我は真の王となり、オークの王国が地上に現れるのだ! バカなエルフにバカな動物共。真の王となった我の身体は、貴様らの武器では傷をつける事はかなわぬ。エルフは剥製にして。犬と猫は家畜として飼ってやろう」


「あー、みんなごめん。すっかり遅くなっちゃったよ」


 ダニエラの絨毯爆撃のなか、突っ切ってきたオレは、真っ赤になって熱々のほかほかになっている。オレはここまで熱くなると、凄くパワーアップすることが解った。今なら素手でキングとかいうのを、退治出来そうな気がする。熱さで借り物の大事な腕輪が壊れてしまったようで、このまま何も仕事をしなかったら、立つ瀬がないからオレはかなり焦っていた。


「な、なんだこの蜥蜴おっ、ぐはぁ!!」

 

 ぴかぴかの黒い鎧を着たオークが、三人の前で演説していたから、あえて空気を読まずに、こういう時の為に練習してた、先祖伝来エルフの剣による居あい斬りを披露したんだけど、一刀両断とはいかず、横一文字に半分くらい中途半端に斬れただけで終わる。


 これ下手糞の介錯でよく起る駄目なやつだわ。


「ま、まて、まだ、ぶほあ」


 袈裟斬りでござる! これも中途半端だ。簡単に灰になるかと思ったんだけど、腕が未熟なせいだと思う。戻ったら柔道を始めようと思ってたけど、剣道もすてがたい。


「アユム、光剣は突き刺すのだ」


 フラムさんのアドバイスを聞いて、心臓と思われる辺りをひとおもいに背中まで貫くと、キングはのけぞり、何か言おうとして口を動かしたが言葉にはならず、そのまま真っ白な灰になって消えた。念入りに灰は探ったけど、今回はそこまでしぶとくなかったみたい。

 

 ここは、何かいう所だろと思って、オレは剣を鞘に収めながら、半眼で呟いた。


「過去の歴史において、暴力だけで君臨した独裁者が、長く続いたためしは無い」


 イリスとアドリアがカッコイイと褒めてくれ、突っ込みをいれようとして触ったら、まだ熱かったらしく、大騒ぎになってしまい、オレ達は賑やかだ。


 フラムさんと戻ってきたダニエラさんがハグしている。


 ああいう互いが顔だけ前に出すようにして、軽く左右の頬を触れ合わせて、腕や肩を叩くのは、スポーツの大会とかで優勝した時の挨拶みたいな感じで、性的な意味はないというけど、とても羨ましい。


 イリスがオレの顔に手を伸ばし、ぺちぺちして熱さを確かめている。そしてぎゅっと引き寄せられて、しっかりハグしてくれた。


「アドリア、これ適温! いい感じ」

「どれどれ、おーこいつはタマンネエー、疲れが飛ぶぜ」


 ハグして貰って、ちょっと喜んでいたら、イリスとアドリアに挟まれて背中を押し付けられて岩盤浴の床代わりにされてしまった。ダンジョンは、地下深いせいか真夏なのに寒いからね。これも両手に花といって良いのだろうか。


 獣王を救援に取って返さないのですか? とフラムさんに聞いたら、フラムさんはとてもいい笑顔で、もうすべて終わったから大丈夫と教えてくれた。


 でも、ミッションコンプリート! ではなかったのである。




正月に体調不良であやうく転生しちゃうかと思いました(笑)

こんな昨今なので、熱出てゴホゴホになると凄く不安になりますね。

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