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♯12

 翌日、殆ど休憩を取らずに馬で駆けてきたフラムは、ロゼッタの街に到着するやいなや、軍司令部に駆け込んで、オークが転移によって王都の包囲を越えている事、奴等の小隊が魔法の発動を邪魔する新型の魔道具を装備している事、作戦行動の一部が伺える地図を入手した事などを矢継ぎ早に伝えて、走りながら考えていた対応策を次々と述べると、ばったり倒れるように寝込んでしまった。


 フラムが目を覚ました時、本部の応接間の豪華なソファーで、しっかり毛布を掛けられている自分の姿に苦笑いしてしまう。コルージャの筆跡で、目が覚めたら士官をよんで、此処でしっかり食事をとって待っていて欲しいという事と、大事な用件で会って欲しい女性がいるという事が書かれたメモがテーブルに置いてあった。


 思い返せばこの一週間以上、全力で走り続けである。思わぬ不覚をとった自分を反省しながら、呼び鈴を鳴らすと、直ぐに士官がやってきて、まもなく立派な食事もやって来た。


 暖かい食事を腹に入れると、体力が回復するだけでなく、気持ちも落ち着いてくる。王宮が落ちて奪還もままならないうちに集落が次々と攻め落とされ、大きな被害が出るのではないか、という怖ろしい想像が脳裏をよぎっていたのだが、回復して弱気な考えは完全に払拭された。今はやれる事を迷わずやるしかないのだ。


 士官に面会の約束をどうするかと尋ねられ、許可を出し、相手の名前を聞いてフラムは驚ろく。『爆炎のダニエラ』という、魔法が得意なエルフにしてみたら、失笑してしまうようなふたつ名で呼ばれる、人族の貴族である。


 エルフの領内では、誰も興味を持たない人族の魔女だが、フラムは公的な任務で、人族になりすまして度々エルランディア王国を訪れているので、ダニエラには会った事はないが、その能力の高さは知っていた。


 彼女は非公式ながら、人族の領土で保護されたエルフの少女を、王宮まで送り届ける為に旅をしてきたという。フラムは運の悪いめぐり合わせにため息が出てしまった。


 容姿や氏名から、保護されたエルフの少女が、自分が関わった作戦の子供であるというのは間違いない。


 親の顔もしらず、監禁状態で育ち、ようやく帰国して、今後は王宮付きで心配なく育つ筈だったのに、その王宮はいまやオークの巣窟となっている。


「なんと不憫な……」


 孤児の少女の処遇は、自分の権限ではからうしかない。明確な答えがでるまえに、士官に伴われて魔女と少女がやってきた。



 ダニエラは、ロゼッタに到着して、直ぐに軍司令官に面会を求め、オークの襲撃の件と、敵が五百年ぶりに現れた闇の王である事を伝えたのだが、ロゼッタの軍本部も既に情況を把握して動いていて、ダニエラが『神に選ばれしもの』の一角である事から、まだ一般には機密情報である、王宮がオークで占拠されているという事と、ドワーフの王国での一連の決戦の話を伝えられて驚いてしまった。


 ダニエラが提出した、オークが持っていた魔道具は、司令官や研究者達の関心をあつめ、協力に感謝されたのだが、ダニエラとして一番穏やかではないのが、ピアが大事に保護される筈の王宮が陥落しているという事だった。


 孤児の扱いと言うのは、どこの国でも手厚いものではない。


 ましてや戦禍に巻きこまれたこの国では、これからまだまだ孤児が増えるだろう。ダニエラは、道中ずっとピアをこのまま自分の領地へ連れて帰ろうかという、現実的ではない考えが浮かび、何度も我慢して打ち消していた。


 エルフの少女が、人族の地で暮らすことは不可能である。目立つエルフの女性は、悪意のある者を呼び寄せてしまい、いつか必ず大きな事件となるだろう。それに自分は貴族と言っても一代限りの叙爵なので、自分がいなくなった途端、ピアは悪い奴らが大勢いいる異国で一人になってしまうのだ。


 自分の目が黒いうちは守れても、エルフの寿命はながい。かならずどこかで破綻する事は明らかで、そもそも今は子供だが、思春期をすぎても同族がいなくては結婚も出来なくなってしまう。


 ダニエラは、考え抜いた上でひとつの結論に達した。孤児ではなく、優しく暖かい家庭の養子にしてもらう。子供がいなくて、でも子供が好きで大事にしてくれる人。その為に自分を国に売り込もうと考えていた。


 オークが溢れているなら、戦える力が喉から手が出るほど欲しい筈。雑魚の掃討戦においては、無類の強さを誇るのが魔道師である。ダニエラほどのクラスになると、十のオークが百になっても手間はあまり変わらない。


 周囲が驚くほどの手柄をたて、闇の王の討伐に貢献し、エルフ達に救世主と崇められて、恩賞としてピアの居場所を勝ち取るのだ。ついでにエルフから感状をどっさり頂いて、あのドミニク王子の顔に叩き付けて、アーベルに頼まれてた件を済ませてきたぞ! と言えば、他の貴族も流石にバカを擁護出来ない。世界の危機に協力しなかったばかりか、邪魔をしたドミニクは完全に失脚だ。


 ダニエラは、難しい事を考えるのは実は苦手で、大体の方向性を考えるだけであたまがいっぱいで、詳細は考えていないのだが、なんとなく行ける様なきがしていた。


 エルフの高名な魔道師であり、王宮においても王族と祭司長に次ぐ、名誉ある騎士の称号を持つフラムの事は噂では聞いていた。


 歩けば周囲に花が咲くような美男子で、話しかけられたエルフの女性が感動のあまり失神したとか、伝説の魔道師を上回る程の恐るべき魔術を使うだとか、天才的な発明家で、魔道具の歴史に革命を起こしたとか、噂話の尽きない男である。


 目の前に立ち、恭しく挨拶の口上を述べる男は、確かに美しい容姿ではあるが、ダニエラの感じた第一印象は、なんだか女みたいな奴だな……である。


 ダニエラがお腹に圧力を感じて下をみると、ピアがダニエラのお腹にセミのようにぴったりくっついて、不服そうな表情で此方を見上げていた。頭をぽんぽんと優しくたたいて、柔らかい髪を撫でてあげると、少し機嫌が治った様で、ダニエラのローブに顔を埋めて隠れてしまう。


 ピアは日を追うごとに魔法の制御の腕を上げ、しがみ付いてる状態なら、ダニエラが補助しなくても両足を宙に浮かせたままでいられるようになった。そんなピアの様子をみて、フラムが驚いて声をかける。


「ピアくらいの歳の子で、それが出来るとは凄いですね」


 ピアはつーんとして応えてくれない。


「ピアは伸びるわよ、楽しみね」


「楽しみ? ねえダニエラ、楽しみ?」


 ダニエラが話しかけると、目をおっきくして話しはじめる。


「ダニエラさん、今回は客人である貴方に、エルフが国共々お世話になりっぱなしで、たいへん恐縮なのですが、改まってお願いしたい事がございます」


「わたくしも、条件次第では受けようと思ってます」


 フラムがダニエラと話し始めたので、ピアはむずがって、関心を惹こうとダニエラをぐりぐりしたり、くすぐったりしてみたが、お返しに脇をわしゃわしゃされて敗北してしまう。フラムはそんな二人の様子を微笑ましく眺めながら続ける。


「簡潔にいきましょう。貴方の腕を買いたい。闇の王の討伐に御協力ください」


「望む所です、売りましょう」


「対価として何をお望みでしょうか? 希少な貴金属、宝石、芸術品、もちろん金銭でも。王宮の奪還の暁には、たとえ国宝であっても用意させましょう」


「私はこの子の保護者です。この子の将来が不安なく暮らせるように力になってあげたい」


 ダニエラに急に抱き上げられて、自分の話になっている事に、きょとんとして、ピアはダニエラの顔を覗きこんでいる。


「エルフの子は、エルフの地でしか生きられない。この子が大切にまもられて、大事にされる場所が欲しい。大勢の中のひとりではなくて、かけがえの無いひとりとして、この子を大切にしてくれる家が欲しい。わかりますか?」


「わかります、私に任せて頂ければ、名誉に掛けて必ずやダニエラ殿に認められる家を見つけ出してご覧に入れましょう」


「ダニエラ……ダニエラ……どゆこと?」


 ダニエラは、ピアの顔をまっすぐみる事が出来なくて、言葉が途切れてしまう。


「ダニエラ、わたし、どこかに預けられるの? 嫌だよ……嫌なの、もうひとりぼっちは嫌なの……」


 ピアがぼろぼろと涙を流しながら、ダニエラの首にしがみ付く。


「寂しいのは嫌なの……一緒にいたいの……ダニエラあ」


 うまく口がうごかなくて、立ちつくしてしまったダニエラは、しがみつくピアの背中を撫でながら、自分もいつの間にか涙を流している事に気が付いた。


 自分もずっとひとりぼっちだった。


 誰かに縋りたかったけど、そんな人はいなくて、さびしかったんだ……。


 泣きじゃくるピアが、自分の首筋に落ちてきた冷たいものにハッとして涙でぐしゃぐしゃの顔を上げると、目を真っ赤にして大粒の涙をぽろぽろと落とすダニエラの姿があった。ピアはすっと舞い上がり、ダニエラの真っ赤な髪を小さな手で抱くようにして顔をよせる。


「ダニエラ、私が慰めてあげる」


 二人の様子をじっと見ていたフラムは、納得したように頷いてゆっくりと口を開いた。


「わたくしに、お二人の良い解決策がございます。まあ国宝なんですけどね」


 良い解決策と言い出したフラムの言葉に、抱き合って泣いていた少女と魔女が顔をあげた。


「きっと御満足頂けるかと」


 フラムは、複雑な紋様が描かれた腕輪を取り出してにっこりと微笑んだ。




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