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♯8

 二頭の騎馬が先導して、背後にも一頭の騎馬をひき連れた四頭立ての立派な馬車が、エルフのゼフィール村に入ってくると、見慣れぬ仕立ての大きな馬車に興味を示した子供達が木々の上から次々と舞い降りて興味深々の表情で、村の長の家の前で停車した馬車を見守っている。


 子供達には、先導していた騎士の身なりが、王宮直属の武官のものだとは判別出来ないが、なんだか強そうな人達に守られてるから、偉いひとが来たんだなという事はなんとなく雰囲気から想像できる。


 村の長と若長が二人揃って、下まで出迎えに来ているので、身分の高い客であることは間違いない。


 エルフの邸宅は高い場所にあるので、通常は地位の高いものが上で待ち、目通りを許されたものが上がってくるのを待つ。村の長が自ら下へ降りてきて出迎えるのは、最上級のお迎えになる。


「あっ、魔女だ」


「ほんとだ、魔女だ」


 立派な馬車の扉が開き、中から魔道師のローブに身を包んだ女性が降りてきた。


その肩に両手をおいて、空を飛ぶような格好で浮かんだままの女の子が一緒にふわりと降りて来る。エルフの間では、エルフの女性の事を魔女とは呼ばない。魔女という言葉が指すのは、人族の魔法を使える女性の事をいう。


「女の子もいるぞ」


「あの子はエルフだ、綺麗に浮いてるの凄いな」


 落ちるスピードを軽減するのは、エルフなら誰でも出来るが、停止できるのは全体の二割位になる。物語に出てくる伝説の魔道師は、自由に空を飛び回るが、そんな事は王宮魔道部隊の隊長でも出来ない話である。


 肩に捉まって、ふわふわと楽しそうに浮いてた女の子が、魔力が尽きたのか、ぽとっと落ちたのを、魔女の女性が空中でつまんで捕まえる。そして、そのまま空中でぶらぶらと上下させながら、女の子と魔女は互いの顔を覗きこんで、楽しそうに笑っている。


「すげー! あれすげーよ」


「お、おい、やってみよーぜ」


 エルフの子供達が真似して、一人がとうっと飛び込むように浮かび上がった所を、もう一人が背中を掴もうとするのだが、そもそも停止できないので掴めずに、そのまま顔面から落ちたり、掴んでも、二人いっしょに引きずられて地面にスライディングしたりと実に賑やかだ。


「さすがダニエラ殿、御噂通りの見事な魔術の制御。お連れのお嬢様も将来が楽しみですな」


「ピアは良い使い手になる。将来はお婿さんの候補がわんさか来るぞ」


「ピアね、ダニエラのお嫁さんになるの」


「ダニエラ殿のお嫁さんには、ちょっと……」


 村の長が言葉に詰まって、一瞬取り乱したが、それを取り繕うように若長が話題をかえる。


「ダニエラ殿は、高い所も問題ないと思ってましたが、お連れのお嬢様も心配ないですね。村長の家で客間を用意しております。お食事の準備も整ってますのでどうぞ」


「お食事?」ピアが嬉しそうにダニエラを見上げて聞く。

「そう、美味しいお食事。さあ、いくぞー、そーれ高いたかーい」

「うひゃーっ」


 ダニエラがピアをぽーんと空に舞いあげる。


 そして空中でぴたっと止まったピアの元へ、宙を蹴ってふわりと舞い上がり、笑い転げてるピアを掴むと、またぽーんと高い所へ送って、自分もそこまで駆け上がると、ピアと一緒にくるっと優雅に一回転して、緑色に輝く魔力の残滓を残しながら、ゆっくりと樹上のテラスへ舞い降りた。


「想像以上に凄いですな……」


「いや、村長、あんな事出来るひと、この辺にはいませんよ」

 

 ダニエラ達を護衛してきたルチアは、魔女と言うものの認識を改める事となった。



 村の長の邸宅は、客間が同じ樹上の離れた所にある別棟になっている。快適なベッドで横になるダニエラの隣で、ピアはお腹をだしてすやすや眠っていた。


 ダニエラは、彼女にそっと毛布をかけてあげてから、寝顔を覗きこんで起きていなのを確認して、思わずふっと微笑んでしまった。最初の頃は、ピアは熟睡していなくて、何かの物音がするとびくっと目を覚ましていた。


 ダニエラも子供の時はそうだった。自分の身は自分で守らないと、油断して後悔するのは自分なのだ。ダニエラは、今でもいつでも目が覚めるように訓練をしている。貴族とはいっても、純粋な戦力として期待されての肩書きであるし、成り上がりの身には敵も多い。


 だが、小さな子供が安心して眠れるのは良い事だと思っている。ダニエラは乗馬の経験が無くて、貴族になってから必死に鍛えたのだが、馬も子馬が地面で倒れるようにして熟睡している横で、親が立ったままで周囲を警戒しながら見守るのだ。


「私が守るから、安心して眠るんだぞ……」


 小さく呟いてから、少し恥ずかしくなったのか、照れくさそうに自分も枕に頭をうずめて目を閉じる。


 ピアはこの数日でものすごく喋るようになった。放っておくとずっと喋ってるし、適当に頷いてるとしっかりばれてて、聞いて聞いてと催促してくる。


 不思議とわずらわしくはなく、むしろ楽しかった。小さなピアが明るく変化していくのを、眺めているのは悪くない。


 あと二日。王宮へ送り届けて、外交辞令を受けて、自分はそれでピアをおいて帰るのだろうか。


 その為に来た訳だけど、それでピアは良いのだろうか。置いていかれた様に感じて、寂しがらないだろうか……。

 

 保護者が悶々と悩んでいるのを知らずに、遊び疲れた少女は気持ち良さそうに熟睡していた。

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