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♯5

 二人のエルフの後を、五十人の部隊が一つの生き物の様に、なめらかに繋がって進んで行く。


 日が落ちる前のオレンジ色に染まる夕暮れ時に、森の中に大木を柱にしたツリーハウスが建ち並び、立体的に吊り橋で連結された美しい村が見えてきた。


 人口は千に足りない位だろうか。獣人軍が今回動員してる軍勢が、後方との連絡の為に常時数が上下しているけど、千二百程度だと聞いている。数えてはいないけど、人数はそれより少ない感じだ。


 この辺りの樹木は、一本の大木が真っ直ぐ伸びている訳ではなくて、複数本の幹が集まり、絡み合うように上に向かって大きく枝を拡げているので、樹上の高い場所までテラスのような空間がつくれらている。


 あまり高い所が得意じゃないオレは、美しいけど無防備に手すりもない場所があちこちにある樹上の村の姿をみて、上から転落して怪我をする村人とか出るんじゃないかな? と気になったのだけど、木の上からオレ達を興味深げに眺めていた子供達が、建物で言えば三階分はあろうかという高さからふわりふわりと飛び降り、ゆっくり着地して木陰に隠れ、そこから顔を出してオレ達を見送る姿を見て、いらぬ心配だったと微笑んでしまった。


 風魔法で落下スピードを落とせるエルフにとって、高さは武器になる。


 木々の間に張られた一本のロープの上を、軽々と走って行く男性の真似事とかは、バランス感覚も筋力にも自信がある獣人でも、重量という基本的なところが邪魔して多分出来ない。


 エルフの集落では豪華な食事を提供してくれて、みな大喜びだった。


 獣人のみんなは、食べてる時がホントに幸せそうな顔をしている。エルフの食卓は、彩りが鮮やかで見た目も綺麗な料理が小さな木の器で次々と運ばれてくるので、獣人のみんなはそれをわんこそば状態で食べていた。


「ああ美味い、エルフの飯はやっぱり最高だな」

「身体に染み込むようだ。力が沸いて来るぞ」


 獣人は感情表現がストレートだ。自分が気に入ったものは、その素晴らしさを立ち上がって話しだす。そして周りのみんなにいいから興奮しないで食えと座らされるのだが、その頃には誰かがまた立ち上がっている。


 みんなが興奮してバクバク食べてるので、テーブルマナーとか大丈夫なのかな? と辺りを見渡したけど、給仕してくれてるエルフも、オレ達のそんな様子を楽しげに見守っていて、完全に無礼講の雰囲気だった。遠くから自分達の所へ援軍に来てくれたというのが大きいのかもしれない。


 エルフの子供達まで、大人の隙をみて犬人の尻尾に触ってみたり、ちっちゃな手で持ってきた木の実を置いていったりと、とても可愛らしい。


 ただ、やっぱりというか、オレの所には子供達は絶対に近寄ってこないし、大人の女性も来ない、エルフの男性は食事を運んできてくれるが、他の獣人のみんなとは違う、距離がある感じを受けた。


 村の長の勧めで、この夜はここで幕営することになった。


 エルフの首都リュミエールへは、獣人の足をもってしても、ここからまだ三日かかる。装備の軽いオレ達にとって、ここは天国の様な環境だった。






 深夜、オレの寝ていない一部が異変を感じて、瞬間的に完全な覚醒状態に移行していく。隣で寝ているイリスにそっと手を伸ばすと、触れる前にイリスもすっと目を開けた。


 一瞬イリスと見つめあって、互いに頷くとオレ達は手分けして周囲の仲間を次々と起こし始めた。イリスが木の高い所にある見張り台で不寝番をしていたエルフに手をふって差し招き、合図で走って来た男に指示を飛ばしている。


 昼間はあれほど強くて、頼れる獣人なんだけど、寝起きはみんなあまりよろしくない。イリスのように瞬間的にスイッチが入るタイプは珍しい方で、最近の付き合いでわかってきたんだけど、アドリアさんとかは寝起きが不機嫌で、近寄ると殺されそうな感じがする。


「集落を包囲しようと、かなりの数が展開してきている。鉄の匂い、エルフでも人でもない。多分オークだ。数は多いぞ!此方が気が付いてるのを悟らせないように総員戦闘準備」


 イリスの指示で静かに集落全体へと伝達がまわり、樹上の家々の中で、連絡を受けて目覚めた人々が、灯りをつけずに身支度して行く様が感じられる。


 オレ達の所へ、暗がりからすっと影が近づいてきて、蛍のようなかすかな灯りが点滅し、闇と地面の境界線をうっすらと照らす。


「申し訳ありません。あいにくの月のない夜で、我らの目にはまだ村の外の変化が嗅ぎ取れません」

 

 現れたのは村の長と、若者達の長を勤めている、ロレンツという背の高い男性だ。


「アユム、どれくらいの数がいそうだ?」


「遠い所まではわかりませんが、現時点でこの村と比べて倍くらいですね。遠巻きに包囲しようとしていますね。近寄って来てません」

 

 突然アドリアに振られてたけど、オレは周囲の気配を感じながら、冷静に分析して行く。敵の動きは少し鈍重に感じる位だが、着実に包囲の輪は厚くなっていく。


「王都に現れたというオークが、何故……王都には強力な守備隊が大勢いた筈、まさか壊滅したのか……僅か五日でこんな所まで……」


 村の長は絶句して固まっている。


 ロレンツが暗闇の中に控えるほかのエルフに小声で指示を出し、それぞれが闇の中へ散らばって行った。


「長、村の防衛体制はどうなっている? 戦える男達は何人だ」


「それは、わたくしがお答えしましょう」


 アドリアの問いにロレンツがすっと前に進み出て話し始めた。


「大人は皆武器を取りますが、主力となる戦力は五百ほど。オークであれば相手も武装しているでしょうから、上を死守して弓が中心の迎撃戦になると思われます。不意打ちされなかったのは幸いですが、敵がそれほどの兵力であれば、味方も大勢が死ぬ事になるでしょう」


「どれくらい持ちそうだ?」


「朝まではなんとか、日が昇れば此方が有利にはなるかと」

 

 黙って聞いていた村の長が、沈痛な面持ちで口をひらいた。


「獣人であれば、奴等の包囲を突破出来るかもしれません。皆さんは数が少ない。我等に構わず時をみて脱出してください」


「ふむ……ロレンツ、合図を決めておきたい」


 暗闇なのに金色に光るアドリアさんの目は、寝起きのせいか、味方もひく様な獰猛な輝きをしている。オレも目が合って、つい反射的に視線を逸らせてしまった。


 アドリアさんとエルフ側の打ち合わせが終わり、おっかない目つきのアドリアさんがオレの所にやってきて、上目使いでじーっとオレを見つめてくる……。


「アユム、敵の大将はどのあたりにいると思う?」


「オレ、戦術とか素人なんで間違ってるかもしれませんが、敵はいま村を囲んでる大きな丸と、距離をおいて小さな丸ですね。多分小さな丸の方から来て、二手に分かれてこう回りこんでいるので、大将は小さな丸の方か、大きな丸の小さな丸に近い所じゃないでしょうか」


 オレが手を使って位置関係を示すと、隣のイリスが手の中で広げた地図と方角を合わせ、悩ましげな表情で口を開く。


「敵が来た方角といい、敵の数といい、色々腑に落ちないが、とりあえず今は此処を凌がねばな。アドリア、オークならキングがあの後ろにいると思うか?」


「いないとは思うが、もしいたら好都合だ。キングを殺せば雑魚はみな弱体化して村は救われる。でかいウーズみたいな奴は、我らではどうしようもないが、人型なら喰いちぎってやる」


 くわっと牙を剥き出しにしたアドリアさん、マジで怖いです。


「私が先頭で一気に進む、イリスは中軸が緩まないように頼む。アユム一番ヤバイ場所を任せるぞ。しんがりを頼む。後ろが前のやつの背中を守るからな。アユムの背中を守る味方はいないぞ」

  

 アドリアさんに任せるぞと言われて、急に血が騒いできた。はやく戦いたい。


「任せてください」


 ニヤッと笑ったアドリアさんにどーんとドつかれて、思わず一歩下がってしまう。


 このひとそんなに大柄ではないのに、どこにこんな力蓄えてるんだろう?


 獣人軍に通達がまわり、みな抜刀した武器を握りしめ、戦意の炎が炭火のように燃え上がっていくなか、オレ達のいる集会所の周囲が徐々に明るくなってきて戦の怒号と喧騒が聞こえてきた。どうやら始まったらしい。


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