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♯23

 朝になった。


此処はドワーフの城砦都市バーリンの一流ホテルだ。


 まだ夜は明けきっておらず、ホテルの中は静まりかえっている。昨晩はみんな楽しく騒いで遅かったから当然だろう。


 真っ白の石積みの壁に、白い天井が眩しい。


 イリスが珍しくまだ隣のベッドで熟睡している。イリスはオレが目を覚ますと、いつの間にか起きてるのが普通だから、こういう無防備なのは珍しい。


 昨日で話は終わらなかったけど、自宅にもどってしまう前に、出来る事を全て片付けなくちゃという使命感があって、闘い足りないという戦意もある。


 骸骨のおっさんは人間の国、妖怪ぬり壁がドワーフの国、ベーゼって言うのは、広い範囲の魔素が集まって産まれるなので同じ場所には同時に発生しないらしい。つまり、あやしいのはエルフの所か獣人国。


 獣人国は最大戦力がこっちに来てるし、エルフだってフラムさん達だけじゃなくて、精鋭三個大隊が山越えて移動中だ。国内が手薄になってたりはするだろう。


 そもそも、オレは本来なら敵の手駒だった訳で、黒幕は竜人を使って、本来あまり強くはない人族の中では、飛び抜けて戦力の高い『神々に選ばれしもの』を始末しようとしていた。


 もしかして、世界に二本しかない光剣を抑えたかった?


 フラムさんは、この剣はエルフの間でも誰が製作したのか解らないと言ってた。手入れ不要で何百年も新品同様、傷がついてもいつの間にか勝手に修復するらしく、この世の技術ではないと言っていた。


 持つ者によって力が変わるとか、そんなヤバイものがあったら、黒幕にとってなにより都合が悪いだろう。人族の所で剣を王子ごと始末する計画は失敗した。二本あるんだから、エルフの所も狙われてるんじゃないのか?だとしたら、手薄になってる今はまずい。


 ホテルの下の方、玄関の方から誰かが走って来るのがわかる。酷く胸騒ぎがして、オレはイリスを起こさないようにそっと立ち上がった。


「あっ、アユム、おはよう。私とした事がお腹出して寝てしまったよ。こんなやらかしたのは久しぶりだ」


 イリスが凄い勢いでがばっと起き上がって、顔を真っ赤にして照れている。


「イリス、ちょっと出てくる。何かあったみたい」


 オレが廊下に出た時、丁度階段を駆け上がってきたフラムさんと眼が合った。フラムさんの元々白い肌が、病気のように青白く見えて、眼が尋常ではない光りを帯びているのが気になる。


「フラムさん、何がありましたか?」


「今朝、エルフの首都リュミエールにおいて王城が落ちた。我が愛すべき国王様と祭司長殿は、みまかられたそうだ」

 

 そこまでようやく言葉にしたフラムさんは、唇を噛んで漏れる嗚咽を懸命に抑えようと押し黙ってしまった。



 

 ドワーフ王ドゥーリンを筆頭に、王宮の会議室は早朝から物々しい雰囲気で、軍装の武官達が大勢出入りしている。


 まだ夜も明けきらぬ早朝に届いた訃報は、昨晩の喜びに満ちた酒宴の雰囲気を完全に塗り替えてしまい、王宮のみならず、市街や城壁にも半旗が掲げられ、人々は重たい表情のまま、忙しげに動き回っている。


 早朝、怪我をした姿で、ドワーフの王宮に転移してきたエルフが知らせてきた事の顛末はこうだ。


 夜明けまでまだ時がある早朝、王宮の地下にある歴代の王達が眠る墳墓から、大量のオークとトロールが現れ、一気に王宮内に溢れて手当たり次第に王宮の人々を殺しはじめたと言う。


 王宮内には、精鋭の警邏隊が常時詰めていて、首都リュミエール自体にも、王都防衛師団の約二千名が駐屯している。リュミエールは、山間部の谷間にあり、太古より増築されてきた首都の防壁は、通常の攻撃では落ちることは考えられず、過去の長い歴史において、王都の地が敵の足によって踏まれた事はない。


 エルフの祭司長は、王宮に詰めており、その足元でベーゼが育つという事は考えられない事態なのだが、現実にそれは起きてしまい、内側から扉を開けられた王宮は、警邏隊の防戦むなしく、朝を向かえる事無く落ちてしまった。


 エルフより一回り大きく凶暴なオークは力が強く、今回の敵はそれにもまして、完全に武装していた事が敗因に繋がる。


 通常、オークは凶暴であるが知性的ではなく、洗練された武器を作り上げるという事はないのだが、地下から途切れることなく沸いてきたオークの軍勢は、人族の精鋭師団のような立派な鎧兜を装備し、上質な槍や剣をもって襲いかかってきた。


 金属で補強された大盾は、エルフの矢をくい止め、力のあるオークが投擲する槍は、エルフを鎧ごと貫いてしまう。


 敵の軍勢にはエルフの倍の背丈を持つ巨人、トロールが数頭混じっていて、矢も魔法も怖れずに、一歩も引かず突撃して来た巨体を止める事が出来ず、相打ちになったものも多く、数を減らした警邏隊は、最後まで王を守りながら闘ったが、遂に力尽き全滅したのである。


 王宮に配置されている兵団はエリートであり、就任した際に首から下げるアクセサリーとして、ブルーの転移石をあしらったものが贈与される。


 もちろん、王族をはじめ文官たちも転移石を一つ以上所持しているので、最後に脱出が叶わなかった理由は不明である。


 事態をしって王宮に駆けつけた防衛師団約千名と、隊長のアルチスタは、オークの将が敬愛なる王の首級を槍の先に刺し、掲げて辱める姿に激昂し、王宮内に突撃を敢行するも、陣地の不利だけでなく敵はその数でも上回り、遂には撤退を余儀なくされ、涙を流しつつ王宮奪還を諦め、現在は首都リュミエールから臣民たちを避難させる為に動いているという。

 

 王宮を占拠したオークは、一旦市街に溢れ虐殺を行ったものの、王都防衛師団の反撃にあい数を減らし、現在は王宮にたてこもっている事から、その数は王都防衛師団の二千とほぼ同数か、やや上回る程度と推測されている。


 だが堅牢な王宮を攻める為には、更なる兵力が必要で、エルフの各集落からは、現在続々と男達が集結中である


 ドワーフ王バーリンは、巨大ウーズによって破壊された城壁の修理を後回しにして、第一、第二鋼鉄師団に支援部隊、合わせて約三千を山越えルートでエルフ領へ送る事を決定した。


 ドワーフの街は、祭りの宴から急転直下。


 まだ焼け焦げた匂いが濃厚にたち込める城外には、ドワーフ軍の戦略物資がずらりと並び、多くの人々が忙しそうに働いている。


 エルフ領への近道となる山岳路は、戦車で越える事が出来ないのでラクと呼ばれる小型の山道に強い山羊を使う。馬の半分位のサイズのが、並んでいる姿は実に可愛らしい。


 王の会議室では、損壊した首都の修復工事、今回の大遠征などの経費に関する膨大な書類が飛び交い、王の承認を得るために訪れる文官の列が引きも切らず、軍を率いて自ら出陣したかったドゥーリンは頭を抱えていた。


「かなり大変そうだな。ドゥーリンよ」


 ドワーフの侍従に連れられて、会議室に入ってきた獣王クレイグが苦笑しながらドゥーリンを慰める。


「おぬしはいいのう、その脚で自由に大地を駆けまわっている。ワシは石の牢獄に鉄の鎖で繋がれてる気分だよ。もう行くのか?」


「ああ、心配するな。オークにトロール、武技をもって闘う相手の方が、ウーズのような手足のない相手よりやりやすい。必ずや粉砕してくるぞ」


「おぬしの生に溢れる様をみると、元気がでるわい。クレイグ無事に戻れよ」


「戦勝祝いに、エルフの葡萄酒をたっぷり担いでくるから、楽しみにしていてくれ」


 ニッと笑ったドゥーリンとクレイグは、がっしりと握手をして互いの肩を叩いて別れた。


 獣人軍は自国へは帰らず、補充の兵を加えて、このまま山越えでエルフ領へと向かう。



 

 山越えの仕度をしているオレの所へ、フラムさんと五人の魔道師がやって来た。


 フラムさんは朝よりは大分マシな顔色になってはいるけど、思いつめたような厳しい表情であることは変わりない。


「アユムくん、私達も獣人軍と同行して、ドワーフ軍に先んじてエルフ領へ戻る事になった。よろしく頼むよ」


「はい、フランさん。よろしくお願いします。フランさんは転移で戻るのではないのですね」


「うむ、そうなんだ。先日此方へ向かって出発した部隊と合流したい。転移石というのは何処へでも転移出来る訳じゃないんだ。あらかじめポータルと呼ばれる転移点を設置してある場所へしか飛べない。部隊はこちらへ移動中だから、我々が一番はやく接触できるだろう」


「そうなんですか、じゃあ準備していない森の中に突然現れる事は出来ないんですね」


「その通り。獣人国のアユム君が現れた場所を調査したかったんだが、それどころではなくなってしまったな」


 辛そうな表情のフラムさんを慰める良い言葉がみつからない。

出会って間もないオレが、下手に慰めるのも何か違う気がする。


「フラムさん、オレ……この身体のオレは全力で戦いますから」


 フラムさんの顔がふっと緩み、にっこりと微笑んでくれた。


「ありがとう。憎きオーク共に、我らが全力をみせてやろう」


 オレとフラムさんが固く握手をかわしてる所にイリスが走ってきた。


「フラム、先発五十の準備完了だ!出るぞ。アユム、我らもだ」

 

 まもなくバーリン城外に整列した五十の獣人と六騎のエルフにオレとイリスが加わった五十八名が勢ぞろいする。


 街道の左右に並ぶドワーフの、地を打ち鳴らす声援を受けながら、オレ達はエルフ領へと出発した。




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