♯19
夜、城壁の外で活動している部隊は、移動式バリケードを各所に設置して、いつでも防衛線を築けるように待機している。
巨大ウーズは、こちらの追撃が止まった地点を安全地帯と理解したのか、そこから動いていない。月明かりの明るい夜空に、篝火の炎を反射して赤く光る巨大な壁が、不気味な姿で聳えている。
「マズイな……」
城壁からウーズの姿を見下ろしながらイリスが呟いた。
「イリス、あいつは寝ないのかな?」
「そうなんだ、ウーズは寝ない、こっちは寝たり食べたりしないと動けなくなる」
イリスもオレも、配給された固いパンに固い肉を挟んだサンドウィッチをぱく付きながら、壁の向こうのウーズを監視している。
「アユム足りるか? もっともらってこようか?」
「大丈夫だよイリス、ありがとう。ねえ、イリス。この後の展開はどうなるかな? あいつは復活はしたけど、警戒して近づいてきてないよね」
「あんな知性のなさそうな姿だが、仮にもベーゼの上位種だ。もしかしたら、何か策を考えてるかもれないな。散発的に攻撃を受けて此方が疲弊した所を襲われたら持たないかもしれない。アユム、小型や中型があそこにどれ位いるかわかるか?」
「数はわからないけど、面積的に大型をもう一個つくれる位はいるね」
「同じ作戦ではおそらく倒しきれない。そして油の樽は何度も作戦を繰り返せるほど豊富ではない。前回より大規模に攻撃すれば、後一度が限度だろう」
かなり惜しい所までは追い込んだんだ。あいつの頭は穴だらけになって溶けていたし、燃え続ける炎を消すことも出来なかった。真ん中に核が見えてるんだから、上からあそこに入り込めば、核を刺してトドメなんだけど、一面が火の海で現実的じゃない。高い所から真下にでかい槍でも落とせないと無理……。
いや、思い出した。
そういえば、オレって……というか竜人って炎がなんともないんじゃないかな? あのとき、ダニエラとかいう女魔法使いの爆発的な炎の中から同類が平気な顔で出てきたし。
オレはおもむろに立ち上がり、城壁の彼方此方で赤く燃える篝火の前に来て、その中に右手を突っ込んだ。
「アユムっ、どうした……だ、大丈夫なのか……」
オレのただならぬ様子に駆け寄ってきたイリスが絶句している。暖かい、ぽかぽかしてとても気持ちいい。例えるなら丁度良い温度の温泉に肩まで入った感じだ。
思わず、あーっと声が漏れたオレをイリスがドン引きで見守っている。
次にオレは篝火の台座を両手で掴んで、倒さないように気をつけながら、ずぼっと頭を炎に突っ込んでみた。
あーっ、気持ちいい。これはあれだ、例えるなら熱いシャワーだ。汗をたっぷりかいた後の、頭から浴びる熱いシャワー。あーたまんねえ。あ、うっかり目をあけると少しひりひりするな。でも目をつぶったままで、周囲の様子ははっきりわかるから何も問題ない。オレは、燃えてる現場で余裕で活動できる。
「アユム、アユムっ、ホントに大丈夫か?生きてるか?」
イリスの心配そうな声で、オレは快適シャワー天国から戻ってきた。
「あ、ごめん、心配かけた? オレは大丈夫だよイリス」
「そ、そうか……ってあっ、アユムの頭あつっ、めっちゃあつっ」
俺の顔につい手を伸ばしてしまったイリスが、じたばたしている。普段クールなイリスのこんな姿みるのはじめてだな。オレは思わずニヤニヤしてしまいながら、イリスの瞳を覗きこんで告げた。
「オレ良い事おもいついちゃった。イリス、皆に相談に行こう」




