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♯16

 城砦都市バーリンでは、獣人軍の部隊が持ち帰った報告を受け、周辺の山間部に点在する集落の全てに、バーリンへの緊急避難を呼びかける使者をだし、同時に探索に当たらせていた軍を再編。


 外に出てきた敵の掃討作戦を行いながら後退し、集落ではなく、準備の整っている城砦都市へウーズの群れを誘導すべく出陣して行った。


 獣人国からも第二陣がバーリンに到着し、総勢三百五十を越える人数まで増え、個々の能力を生かして連絡や索敵などの後方任務を担当している。


 ウーズは炎を嫌がるので、街道の要所には木のやぐらが組まれ、防衛線に適した地形にはバリケード作りと、周辺に延焼しないように地面を整地する作業が急ピッチで進められている。


「ねえイリス、ウーズは城砦都市の外壁を染み込む様に通過出来るのかな?」


 オレ達は、見事ベーゼを発見して報告をもたらした英雄として、現在城砦都市バーリンの賓客として遇されている。


 オレ個人としては、最前線で戦ってる部隊がいるのに、後方待機はちょっと手持ちぶたさなんだけど、ドワーフ王国内で起こった件だけに、主軍はドワーフの部隊という事で、此処は一旦前を譲る場面だそうだ。


「記録が少ないので確証はないが、石垣や地面は大丈夫だと思うぞ」


 イリスが結構自信ありげに答える。


「昔、エルフが捕獲したウーズで行った実験の記録があって、普通の水ならすぐ抜けてしまうような荒さの目地でも、アレは抜ける事が出来ないとある、ある程度のサイズのひび割れとか穴か無いと潜めないんだ」


「そうなんだ」


「ぎりぎり入れるサイズの割れ目や、穴に身体を押し込んで、時間をかけて中を溶かして巣穴にするらしい。得物が来ると巣穴の口を開き、上から襲いかかる感じだな」


「天井のある坑道とか、急斜面の岩壁があるところは、湧きだして落ちて来ると脅威なんだね」


「そういう事だ。だが逆に開けた街道では潜む場所も無し、移動速度が遅い奴等にはメリットがない。現状ドワーフ軍は有利だな」


 イリスの言う通り、ドワーフの軍勢はバリケードで火の壁を作り、わざと開けた中央から抜けてくるウーズを、人の背丈ほどある大型の矢を撃ち出すバリスタを使って核を撃ち抜き、ウーズは数を減らしつつある。


 猫人ノア政務官の話では、ドワーフ軍は意気が上がり、ウーズの群れがバーリンにたどりつく前に全滅するのではないかと、楽観的な意見まで出ているという。


「ただ……」


「ただ?」


「敵は予定よりはやく動き出してしまったのは間違いない。だが、それにしても少々楽すぎるな。そもそも親玉がまだ出てきていない。このままでは終わらんよ」


 少し怖い顔になっていたイリスが、思い出したようにフッと微笑んで、いつものくだけた感じに戻ってオレの腕を引っ張る。


「折角バーリンにいるんだ。アユム、一緒に美味しい物を食べに行こう」


「そういえば、ずっと戦闘食ばかりで、まだレストラン行ってないね」


「ジューシーな肉汁たっぷりのケバブを薄皮パンに挟んで、甘辛ソースかけたのが天国に行きそうな位美味いぞ」


「そ、それは絶対に行かないと」


 尻尾ふりふりのイリスと連れ立って、部屋を出ようとした時に、お供の護衛騎士を連れた祭司長のサーラ嬢が、ドアの前まで来ていた所にばったり出会ってしまった。


「あっ、アユム様、どちらかにお出かけですか?」


 サーラ嬢に声を掛けられて、流石に何か食べに行ってきますと言うほどオレは空気が読めない訳じゃない。サーラ嬢きっとオレの所に来たんだよね。オレはイリスに教えて貰った、身分の高い相手の前で一般的に行われる、片手を胸に当てて、頭を下げる仕草で答える。


 

「これはサーラ嬢、我等に何か御用でしょうか?」


「エルフの首都リュミエールから魔道部隊の隊長フラム様が、部下の魔導師五名と共に到着なされました。アユム様とイリス様に御紹介しようと思って参りましたの」

 

 サーラ嬢がぱあっと明るい笑顔で言う。


 彼女はオレ達が探索から脱出に至るまで行動を共にしていたが、自分の予知があまり役に立たなかったことを申し訳なさそうにしていて、見るからにしょげていたので、エルフの援軍という朗報を伝えに来た事が嬉しかったのだろう。


 イリスの話でも、今回は先手を取って此方が押している情勢なので、直ぐに来てくれるかどうかは五分五分と言っていた。此方からの早馬が届いて、即隊長クラスが到着したという事は、転移石を使って飛んできたのだろう。もしかすると、多くの軍勢も現在山越えの途中で、此方に向かってるかもしれない。


 オレはイリスを見て頷いた。


「お供します」バーリンでの食べ歩きは、残念ながら御預けだ。


「真っ先に来るとしたらフラムだと思った」イリスが楽しそうに笑いながら言う。


「イリスはエルフの隊長を知ってるの?」


「ああ、一般的な世間で言われるエルフ像は、争いごとを嫌う穏やかな性質だが、フラムは獣人に好かれるような熱い男だ」


「あ、熱いんだ……」獣人に熱い男認定されるって相当だぞ。


「まあ、見た目は凄い美貌の中性的な麗人なんだが、武技は一流で、魔法に至ってはエルフのなかでもトップクラスだ」


「ふっふっふ、他を圧倒する実力者の君に褒められるとは、僕にとって最高の栄誉だ。どんな勲章より嬉しいよイリス」


 突然、後ろから聞こえてきた声にオレは驚いた。こいつ、どこから湧いた? こんな近くに来るまで気が付かなかった。


 声のした方を振り返ると、すらっとした細身の長身に、長いブロンドの髪を背中で束ねた、少女マンガの主人公の様な美形が立っていた。背景にバラの花を大量に背負ってるような感じがする。イリスは笑いがこみ上げてくるようで、抑えるのに苦労してる感じだ。


「相変わらず、無駄にキラキラしてるな。だがアンタが来てくれて嬉しいよ」


「イリスこそ、相変わらずミステリアスで美しい。必ずや君の期待に応えるよ」


 あー、なんか、イケメンの会話凄いわー。


 何気なく褒めるし、さらっとキザな事言うし。オレ、イリスとずっと一緒にいるのに、こんな台詞言った事ないよー。


「君がアユム君だね、僕はフラムだ、よろしくたのむ」


 フラムが男性だと知ってるのに、一瞬どきっとしてしまうような笑顔で、オレに向かって手を差し伸べてくる。線は細いんだけど、握手した時に、あ、こいつ強いな……というのははっきり感じた。


「アユムです。こちらこそよろしくお願いします」


「アユム君、今回エルフの国の祭司長ゼフィール殿も、此方のサーラ嬢もベーゼの発生が上手く感知できていないのだが、これは大昔の『カ・ア・アイ』の時と情況が被る。強い上位種のベーゼは、感知を妨害するという伝承があってね、その中で先手を取れたのは君のお陰だ。エルフを代表して君に感謝する」


 フラムは、片手を胸に当て深々とお辞儀をした。眉毛ながっ、ポーズ決まりすぎ、なんかオレ、自分が爬虫類系なのが少し悲しくなってきたかも。


「そうそう、アユム君にこれを」


 フラムがポケットから取り出した革袋から、青く輝く透明な石を取り出してオレに握らせる。


「イリスもこれを、そうそう、うちの工房の職人が琥珀色の宝石を使った、素敵なバングルを製作しててね、今都でちょっと流行ってるんだ。君の毛色にはえると思うんだけど、受け取ってくれるかい?」


「気持ちだけ貰っとく、アンタに装飾品なんて貰ったら、エルフのお嬢様方に、呪われそうな気がするから遠慮しておくよ」

 

 くどき文句みたいな事を軽く言ってる気がするんだけど、真面目で真摯なイメージに見える美形ってお得だわ。サーラ嬢とお供の女性も、顔を赤くしてうああってなってるし、オレには真似できないね。


「アユム君は、転移石は使った事無いよね? この石は僕に合わせて調整してるから、僕から距離にして十歩位なら、いざという時に一緒に緊急脱出が出来る。僕は発動までゆっくり二呼吸ほどだ。僕が合図したらこれを取り出して手で固く握る事」


「了解」


「じゃあ、イリスもアユム君もいるし、折角の戦力が城で燻ってるのも勿体無い。僕もアユム君の戦う姿をみたいし、これから一緒に最前線を軽く視察に行ってこないか?」


「視察と言う名の威力偵察か、フラム、ちゃんとドワーフ軍には話通してある?」


「あっ、それでしたら御心配には及びません。国王ドゥーリンより、エルフの部隊は遊軍として自由に活動し、ドワーフの軍勢は全面的にそれに協力するとのお言葉を頂いております」


 サーラ嬢の言葉に、フラムが背後にバラの花が咲くような笑顔で頷く。オレはイリスに肘で小突かれて、ようやく出遅れながらも反応した。


「行きましょう」


 戦場に向かうと決まった瞬間、オレの身体も熱くなってきた。この身体はそれを凄く喜んでるみたい。


 ドワーフ軍から借りた戦車に乗って、セーラ嬢達に見送られながら、城砦都市バーリンの門を出たオレ達三人は、現在の最前線である街道の要所へと向かった。




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