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14/54

♯14

 翌日、充分に休息をとった獣王軍は、早朝から城砦都市バーリンを出て、更に南にあるマダウ山脈に点在する、既に廃鉱となった鉱山の探索を開始した。


 鉱山には、試掘によって鉱脈が見つかっても、本格的に稼動を開始すると、早期に出なくなる物もあり、そのような場所では坑道が短いので、比較的容易に調査がおわるが、豊富な資源を誇るものの、坑道が深くなりすぎて、それ以上の採掘が困難になった場所や、大きな事故によって放棄された場所では、調査事態が困難な場合もあって、情況は遅々として進まない。


 獣人軍は、部隊を二つにわけ、二箇所を平行して調査していて、ドワーフの軍も同時に五箇所の調査を行ってはいるが、調査開始から三日経過しても、未だ手がかりは掴めずにいる。


 調査開始から四日目の朝。


 オレ達は、朝早くに野営地を出発して、今日の調査予定の廃鉱、ホール鉱山跡へ向かう。掘削範囲が大きくなりすぎて、安全面の配慮から閉山になった大型の鉱山で、岩盤を真っ直ぐ下に掘り下げて螺旋階段をとりつけた最大の縦坑は大穴と呼ばれていて、上から見ると、空気が流入するせいで吸い込まれそうになるという。


 昨日から山道も岩だらけ、埃だらけで、今の季節が真夏なものだから、遮る木々の無いこの辺りは、直接日差しがあたると暑くてかなり辛い。


 鉱山の中に入ってしまうと、ヒンヤリと涼しいのだが、行軍中の獣人の皆は、毛皮を汗で濡らしながら我慢している。全員が立派な毛皮持ちなので、かなり辛そうだ。それに比べてオレはまったく汗をかかないので、オレ達と行動を共にしているドワーフの祭司長サーラ嬢は、オレのひんやりした肌を面白そうにぺたぺた触りながら、「アユム様の背中におぶさったら、ひんやりして涼しそうですね」などとのたまったので、お世話係りとして付いてきた女性に、はしたないです。とがっつり怒られていた。


 廃鉱の鉱山跡は、事故防止のため入り口が簡易的に封鎖されているのだが、ホール鉱山跡に到着して、部隊が封鎖してある筈の入り口を開放しようと作業を開始した所、鉱山の中にトロッコが入っていくレールが並ぶ入り口は石組みで天井まで封印してあるのだが、その横に取り付けた人一人分の小さな点検用扉の鍵が外れていて、何者かが最近出入りしていた形跡があるということがわかった。


 部隊はいざという時の緊急脱出も視野にいれて、探索に入る前に入り口を塞ぐ石組みをどかす作業に取りかかる。


 オレは自分の索敵に自信があるので、初日から部隊の先頭を志願したのだけれど、その事でオレ達の調査隊を率いている獣人軍の女参謀、豹人のアドリアさんに大いに気にいられて、犬人族の兵士達にアドリア参謀に食べられるなよ……とひやかされてしまった。


 別働隊を率いて別の拠点に向かった獣王にも、アユムの周りはイリス、アドリア、サーラ嬢と美しい花に囲まれているな、と言われたけど、イリスは可愛いけど女性と言うかワンコだし、サーラ嬢はちびっこだし、アドリア参謀は色っぽいけど白く輝く犬歯が迫力あって、文字通り喰われそうな感じで怖い。


 まあオレもちっちゃい恐竜みたいな姿だから、そういう浮ついた話にはならないけどね。


 「封印してある廃鉱のなかに、何者かがいる可能性が高い。野郎共、ぬかるんじゃねーぞ。アユム、先頭を任せる。イリスはサーラ嬢を警護しながらアユムの後方だ」


 てきぱきとアドリアの指示がとんで、オレ達は撤去された石の山を乗り越えて一列縦隊で進入を開始した。オレはランタンの灯りが全くなくても、前方の通路の様子を頭の中に立体図のように感じることができる。ランタンを持つとかえって邪魔なので、斧を無造作に構えながら、進路をクリアしていく。蝙蝠とか小動物は見かけるけど、怪しいものの姿は見当たらない。


 最後方から付いてくる部隊が、坑道の照明器具に順次灯りを入れていくので、後ろを確認すると、全周が手掘りの荒々しいドームの天井が、オレンジ色に照らされて、凹凸に反射した光がゆらゆらと動き、火事の現場の様に燃え上がっているように見える。


 通路の中央には敷かれた線路が二本残っていて、赤茶けて錆びた感じから、放棄されて時間が経過してる事が伺われた。行く手が真っ暗な坑道を先頭に立って進んで行ってるのだが、何も見えないかわりに、何処で鼠や蝙蝠のようなものが動いているかとか、壁面が何処にあるかという感覚ははっきりしてるので、全然怖くはない。


 視覚には頼ってないので、オレは両手斧を構えたまま、ランタンも持たずにずんずんと進んでいく。

 

「縦坑に到着した。周囲には小動物しかいない。水平面はクリアだ」


オレの索敵をうけて、部隊が散会して円形のホール全体に灯りがともされ、ホールに繋がる昔の資材庫や、休憩室、トロッコの集積場などが次々と点検されていく。


「参謀これみてください」


 犬人兵が休憩所から背負子と蓋突きの籠を抱えて持って来る。


「新しいです。匂いからして二日前くらいでしょう。中身は食料に水です。ベーゼが固パンとか酒の小瓶とか、持ってるわけないですから、誰かが此処に予備を置いて下に潜ってますね」


 イリスが背負子の肩紐に顔を近づけて、しばらく観察してから目を細くして呟く。


「ドワーフの匂いだ。ベーゼではないな」


 ドワーフの匂いだという単語に、ぴくんとなったサーラ嬢とお供のドワーフの女性が、自分の腕をくんくんしてるのが可愛い。いや、心配しなくても大丈夫だと思うよ。オレ、ドワーフの匂いとか嗅ぎわけ出来ないしね。


「よし、この場で十名待機、ホールから出口までを確保だ。残りは縦坑を降りるぞ」


 豹人アドリアの号令で、オレ達はホールの中央に開く大穴に入って行く。


 岩の壁に螺旋状に階段が掘りぬかれていて、中央の吹き抜けの空間には、昔はリフトが上下していたそうだ。今はそれらの機材は再利用するため撤去され、がらんとした吹き抜けの空間が上下に伸びていて、下は暗闇に溶けて何処まで続いているのかは見えない。


「現在、縦坑の半分くらいです。縦坑は底までクリア。底から横穴が五箇所。横穴も近くはクリアです」


「アユムが探索してくれてるが、皆楽して油断するんじゃないよ」


 アドリアさんの激がとぶ。


 ようやく大穴の底に到着して、オレは沢山ある横穴を、ひとつひとつ見て回るが、感じる範囲には何も異常はなかった。


「参謀、あの背負子を持ち込んだ奴は、此処をすすんでますね」


 横穴の入り口を調べていた犬人兵の一人が声をあげる。イリスもそこへ駆けつけて、しゃがんでなにやら探った後に犬人兵と顔を見合わせ互いに頷いた。


「サーラ嬢、これからこの横穴の先を調査するけど、何か感じるかい?」


「ごめんなさい、でも正しい事をしているのは間違いありません」


 とりあえずは、閉められた鉱山に入り込んで、何かをしてるドワーフを捕まえて、事情とそいつが見聞きした事を喋らせるのが先決だ。


 オレは先頭に立って、使われなくなったレールが残る横穴を奥へとずんずん進んで行く。これ全部、機械じゃなくて手掘りで掘ったんだから凄いな。横穴から更に伸びる枝もすべて踏破して、最後にたどりついたのはドーム型に天井の高い広間だった。

 

「ここで行き止まりですね。居ませんでしたね」

 

 広間には放棄されたトロッコや、採掘した物を運搬する箱などが山になってる場所があって、兵達が山を壊して隠れ潜むものが居ないか、丁寧に探しているが、オレの感知の限りでは、このホールで行き止まりだし、部外者は隠れていない。


 考え込むような仕草で、ホールをゆっくり歩き回っていたイリスが、ある壁に向かってピタッと立ち止まり、何もない壁面をしばらくじっと睨んだかと思うと、おもむろに右手をサッとあげた。


 犬人の兵が即座に反応し、静かにイリスの傍に集まり、壁や床を調べた後にニヤリと笑って頷いた。イリスがオレに手招きをして、壁に向かって思い切り殴るゼスチャアをする。よーし壁を壊すのはちょっと自信あるよ。


 オレが軽く助走を付けて、固い岩盤の壁をぶん殴ると、予想に反した軽い手ごたえで、岩盤に見える石材を張り付けた扉が内側に吹き飛び、その先に灯りの灯る車庫を三つほど繋げたような空間と、吹っ飛んできた扉の下敷きになって、バタバタしているドワーフの姿が現れた。


「ウオー、警備隊か? 何で此処がわかったんだ。ワシのつくった壁に見える扉をこんなにしてしまって……我ながら傑作だったんじゃぞ」


 体を伸ばしたり縮めたり、バタバタしながらようやく瓦礫のしたから出てきたドワーフの爺さんは、兵達にぐるっと囲まれている情況に、目を白黒させて呟いた。


「どうして、こんな所に獣人がこんなに大勢おるのじゃ……」



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