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♯12

 アルバ村には、周辺の集落から更に戦士達が集まってきていて、城塞都市バーリンへ向けて出発する時には、獣王の率いる兵は文官も合わせると七十近くまで増えていた。獣人の集落は小さなものが点在しているので、各地から小人数づつが、バラバラに此処へ向かって走ってきているらしい。順次合流して最終的には千人規模になるそうだ。


 国の最大労働力にもなる若者達を、一箇所に集結させるのは、費用的にとても痛いと猫人の政務官ノアさんがぼやいていた。


 第一陣の陣容は少数精鋭だが、目的地の何処かで、もし敵がいたとしても、まだ溢れてはいないので、一旦下がった場所に前線を構築し、そこに後詰を集結させれば、充分な迎撃体制がとれると言う判断である。


 集落の門の外に集合した獣人軍の軍勢は、みな戦意に溢れた表情を浮かべていて勇ましい。

一言で獣人軍と括っても種族は多様なので、体格にも差があり、毛色も様々で統一感に欠けている感じがなかなか個性的だ。


 そして此処からは、他領へ向かうので、全軍は騎乗して後方にいわゆる輜重兵しちょうへいと呼ばれる補給部隊を率いて進む。身体の大きな獣人兵が、それに見合った大きな馬に騎乗して、青と白地の吹流しの様な旗が、隊列に幾本もはためく姿は美しい絵画のようだ。


 でも残念ながら、馬がオレを乗せたがらないのと、そもそもオレが馬に乗った事がないので、オレは後方の荷馬車部隊に運ばれていく格好になった。イリスが付き合って一緒に荷馬車に来てくれたけど、オレも馬に乗れると勝手に思い込んでいたので、これはかなり無念である。


 だけど、城塞都市バーリンからやってきた、ドワーフの戦士達と合流してテンションが少し持ち直した。騎乗した獣人が大きいので、隣に立つドワーフは随分小さく見えるが、横幅はがっしりしていて、立派な鎧を着込んでいるので、かなりカッコイイというか見ごたえがある。


 獣人軍とどうやって歩調を合わせるのかな? と思っていたら、大型戦車が二台、野生的な大型の羊のような動物が四頭で牽引する形で前の方に並んでいた。オレは傍に近寄って、ぺたぺた触りたいのをぐっと我慢する。


 戦車の前には、レールの上を左右に動かせる、大型のクロスボウが搭載されていて、矢が上から自動で装填されるような箱まで付いてる。あの戦車のってみたいわ。


「アユム、あれに乗ってみたくても我慢だ」


「えー、オレ口に出して喋った? えー」


 イリスがクックックと笑ってるんだけど、これは完全に手のひらの上で遊ばれてるな。いや、今は確かにそういう顔してましたよ。くそう。


 獣王の合図で、ドワーフの戦車に先導された獣人兵達は、長蛇の列をつくりバーリンへ向けて出発した。


 アルバの集落を出て暫くは、フラットな草原とは言え、当然波打ってるし、戦車は大変じゃないかなと思って遠目に観察していたんだけど、大型の車輪がちゃんと段差を乗り越えていく。仕組みが見えないけど、あれちゃんとバネとか付いてるな。模型の足回りしかわからないけど、凄い興味がある。


 獣人軍の幌馬車は、揺れも凄いし常にガタガタなんだけど、イリスが平気な顔で休んでるので、オレも負けずに、なんでもない感じをよそおいつつ座っていた。


「イリス、ドワーフの国にも巫女はいるんだろ? その人は異変とかは感じていないのかい?」


「ドワーフ王国では、我らの巫女頭にあたる人を、祭司長と呼んでいる。私はお会いした事はないが、ミレイアさまの話では優秀な方だそうだ。歴史上最悪の災害だった『カ・ア・アイ』もドワーフ王国で起こってるからな、既に警戒を高めていて、領内の巡回を強めているが未だ異変なしだ」


「そうか、敵はじっと地下に潜んで、力を蓄え続けてるのかもしれないんだね」

 

 イリスは珍しく即答せず、少し考え込むような仕草をした後、ゆっくり口を開く。


「ベーゼが知恵を付け、自らのダンジョンを作って配下を作りはじめた時、ある程度数が増えてくると、外に出てくる魔物が現れる」


「ボスに命令されてないのに、勝手に出ちゃうの?」


「そうだ、命令をよく理解出来ないレベルの知能なのか、中でより強いやつに喰われるのを避けて逃げだすのか、その辺の事情は知らないが出てくる。そして外で勝手に生き物を狙いはじめる訳だが、受肉していない奴らは動きが遅く力も弱い、ふらふらしているうちに誰かに発見されて始末される」


「魔物を発見した報告があると、軍が動きその周辺を捜索してダンジョンをみつける。捜索範囲さえ狭められれば、発見は容易なんだ」


「今回は魔物を見たという報告もないんだね?」


「報告もないし、怪しいと疑われる行方不明者もいないそうだ」


「巫女様もわからない、目撃者もいないで打つ手なしか」


「いや、そうでもないぞ」


 イリスが全然困ってない風のとても良い笑顔で微笑む。


「既に色々考えて策を練ってるんだね?」


「カンだ。我ら獣人の直感は凄いぞ。きっと見つかる」


 何も考えて無かった! 結構衝撃の告白だ。


 うーん、そんなんでいいのか? と眉が八の字になるような表情のオレに、イリスが馬車の進む先を指差して言った。


「アユム、いま道はずーっと上り坂だろ? あの先の丘を越えると、アユムが楽しみにしてる凄い光景が現れるぞ」


「え、ちょっとマジで?」


 馬車は進み、丘の上にさしかかると、荷馬車の前で立ち上がって其方をみていたオレの眼下に、丘を下った先の平原に聳える三角の巨大な山のような都市が見えた。


「すっげー!」


 でかい、城砦都市と言っても文明的な水準から想像して、中世のお城くらいかなと思ってたんだけど、予想を突き抜けて大きい。ぐるっと都市を囲む石垣は、万里の長城的な現実的な高さだけど、その中に山型に聳える建物が外壁の数倍の高さがある。


「此処は元々は大型で良質の石が切り出される石切り場だったらしいぞ。此処を気に入った大昔のドワーフの王が、建築家を指揮して山を丸ごとお城にしてしまったそうだ」


 そうか、山のような建物じゃなくて、斜面を削って石の建物が並ぶ山なんだ。つくり方が上手なせいで、山全部がひとつの建造物みたいにみえる。


 軍の隊列が大きく開いた外壁の門をくぐると、獣人国の青白の国旗と、ドワーフ族の赤の国旗を両方掲げた市民が、しっかり舗装された広い道の両側から歓声で迎えてくれる。

 

 ドワーフの街は一階が石組みで、二階以上が木造になってるものが多い。


 太い木材でつくった骨組みに白い壁で周辺の建物は統一されている。建物の角には立派な彫刻が施されているものが多い。イリスによると、作りが同じなので、彫刻の装飾が目印になるそうだ。通りの名前もそこの代表的な彫刻が由来になっている。


 イタリアのトレビの泉みたいな、彫刻の足元から水が沸きだしてる噴水広場もあるし、街の綺麗さから上下水道は完備されてるとおもう。


 前方に大きな旗が並ぶ門が見えてくると、その前に軍装のドワーフ兵が整列してる姿も見えた。此方の姿を確認した門の方から、ブオオオと太いラッパのような音が鳴り響き、扉が左右に大きく開きはじめる。


「おそらく国王自らが、門まで出迎えに来たな」


「ドワーフと獣人の関係は良いんだよね?」


「歴史的にもドワーフと獣人は仲が良いな。うちのクレイグとドワーフ王のドゥーリンも仲良しだしな」


「首都の名前がバーリンで、国王がドゥーリンか、間違えないように覚えなきゃ」


「私達とあいつらが気が合う一つの理由として、堅苦しいのはできるだけ省略、を是とする点が挙げられる。エルフや人族は、マナーとか礼儀作法とか、しきたりが多くて面倒くさいのだが、私達はそういうのを嫌うからな。アユムは結構気を使うから心配かもしれないけど、例え王の前で名前を間違えても大丈夫だぞ」


「そうか、少し気が楽になったよ」


「ちなみにな、エルフや人族のところでやらかすと、これだ」


 イリスが自分の首を手刀でとんとんと叩いてニヤッと笑った。



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