VSユリキドール編
予定よりも少しどころか大分遅れてしまったけれど、今から配信を始めるとするか。
SNSでも告知をしてっと…よし、始めるか。
「『皆さんどうも、サイバーネットです。本日は急遽企画を行っていきたいと思います」」
配信タイトルはこんな感じでいいだろう。さてと、人が来るまで待つとするか…
…1分程経つと、10人ほどのリスナーが来た。
「いらっしゃいませ、喫茶サイバーネットにようこそ」
『待ってました!(カシオ)』
『今日はどんな企画をするんですか?(有事)』
『相変わらず声がかっこいいです(ひめきゅん)』
とりあえずジャブ程度の挨拶をかまして配信を始めた。
「今日はですね、私の身の回りに起こった出来事について語っていきたいなと思っております。同時に普段はあまりしない質問コーナーをしていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします」
既に少しお察しかと思うが、リアルで『サイバーネット』が知られたくない理由の一つはこれだ。
この口調と甘い造り声が普段とはあまりにもかけ離れているため、俺の校内での居場所がなくなってしまう。
まあ既にないようなものだが。
『この声で寝ます(かおりっち)』
『女にちやほやされてんじゃねぇぞ(ユリキドール)』
この手の僻みはもう慣れた。1万人も登録者がいるとそれなりにアンチも出てくることは仕方のないことだろう。面倒なので極力、相手しないようにしている。
「では、まず本日起こったことからですね…」
とりあえず、今日あったことから話してそこから情報を拾っていくしかないか。
あんまりいい策とは思えないけど、現状で出来ることと言えばこれくらいしかないだろう。
「本日ですね、私が学校から帰宅する際に…」
『手紙が下駄箱に置かれてたんだろ?(ユリキドール)』
…ちょっと待て!もしかしてこいつがさっきの女か?それとも何か知ってんじゃないのか?
「と、話そうとしたんですけど、ちょっとお花の方を積んできてもよろしいでしょうか?」
『全然おけおけw(クズ餅)』
『いきなりの尿意…(レーシングキャット)』
『配信始める前に行っとけよ!(ユリキドール)』
俺は音声をオフにして、こいつについて少し調べることにした。
アカウント名は『ユリキドール』、登録者数は100人か。
大体5000人を超えてくると、それなりの配信者だが100人程度じゃ配信すらしていない奴が大半だ。
他には…自己紹介文に『女にチヤホヤされる奴は徹底的に潰します』って書いてるくらいか。
どうでもいいけど、こんな自己紹介文の奴を登録する100人はいったい何者だよ。
…やはり、ここからではそんなに有力な情報は掴めないな。
よし、ならばこいつを話題に挙げてやるか。
「お待たせしました。少し、お花の方を積みに行ってまして申し訳ございません」
『リスナーを何だと思ってんだ!さっさと配信しろ!(ユリキドール)』
俺が音声をオンにすると同時に『ユリキドール』は絡んできた。
『ユリキドールさん、荒らし行為はマナー違反ですよ(カイト3)』
「それで先ほど考えていたんですが、本日は急遽予定を変更しまして、リスナーの皆さんの事を知っていこうと言うものにしたいと考えてるのですが、いかがでしょうか?」
『サイバーちゃんの好きなようにしてぇ(ニオウ海)』
『クソワロタ(大きなヒト)』
「ありがとうございます。それで、まあ一人ずつピックアップかなと思うんですが、誰からにしましょうか?」
『誰でもいいんですか?(オーストルリア)』
「誰でも大丈夫ですよ。今日来たって人でもいいですし、昔から来てくれてる人でも大歓迎です」
『じゃあ、あたしでもいいですか?(η119)』
『俺も話したいなー(ブラストマン)』
『じゃあ、『ユリキドール』でいいんじゃね?(マルオ)』
「なるほど、指名が入りましたか。では、その『ユリキドール』さんが一人目ということでよろしいでしょうか?」
『その後、予約しておきます(カイト3)』
『おらはその次で頼むんだな(クズ餅)』
「ちなみに、『ユリキドール』さんはいらっしゃいますか?」
『いるけど何?(ユリキドール)』
よし、引っかかった。このアカウント名『マルオ』は俺のサブアカウントだ。適当に話題にあげて俺がそれを推奨する形にすれば、リスナーもお前も乗ってくれるだろうと思ってたよ。
「『ユリキドール』さんのことを教えてもらえないでしょうか?」
『嫌だね、ネットで個人情報をいう奴なんてネットリテラシーが低い奴しかいねぇだろ(ユリキドール)』
こいつ、俺の企画を台無しにしやがって…
「言える範囲で大丈夫ですので…」
『暇つぶしに来てるだけだから!(ユリキドール)』
話にならねぇ。。。
『いいから、さっさと答えろよ(カシオ)』
『長引かせてサイバーさんを困らせるのはどうかと思いますけど(オーストルリア)』
『おめぇらみたいに気持ち悪いファンじゃねぇんだよ(ユリキドール)』
正体も気になるところだけど、これ以上は他のリスナーに迷惑をかけるのでもういいだろう。
「分かりました。無理矢理教えてくれっていうのも違うと思うので、また機会がありましたら色々と教えてください」
『そんな機会は来ねぇけどね(ユリキドール)』
『なんか今日の配信はいつものとは違うわー(まあまあ族)』
ダメだ、切り替えて次の事をしないと俺の評判にも関わるかもしれないな。
「では、切り替えまして次の方のことを知っていきましょうか。私から推薦すると『ユリキドール』さんのように話したくない人もいるかもしれませんので、立候補にしようと思います」
いつもの配信を取り戻さなくては…
『俺、予約してたで(山下製薬)』
『はあ?あんた誰よ?あたしが初めに言ってましたけど!(ラララララ)』
『トイレットしてきていいすか?(地下駐車場)』
『トイレット笑笑』
『いいから早く行ってきな笑(再登場)』
『ユリキドール』のせいで配信が荒れてしまっている。あいつのせいかわからないけど。
現在のリスナーは54人か…これなら言い訳に使えるか。
「初めは10人ほどだったので一人一人の事を知っていけるかなと思ったのですが、54人の方々にも来ていただいてる現状ではそれも難しいと判断いたしましたので、今回の企画はまたの機会ということにさせていただこうかなとしました、度重なる変更により申し訳ございません」
分かってたことだけど、配信であいつを見つけることは難しそうだな。
あと、リアルの話をネットでしてもウケが悪そうなことも理解した。
ちょっと荒れてしまってるし、今日の配信はそろそろ終わろうかな。
もう一時間も経ってるし…
「と、ここで配信時間が一時間を経ちました。皆さんも明日の予定もあると思うので、今日はこの辺りで終了しようかと思います」
『まだ聞きたい―(オーストルリア)』
『唐突すぎではござらぬか?(ござる侍)』
『今、トイレットから戻ってきました(地下駐車場)』
『おかえりwww(再登場)』
俺は荒れているコメントを無視しながら続けた。
「それでは本日はこの辺りで終了したいと思います。また明日も来てねー。さらサイバー」
『くそつまんねー(ユリキドール)』
そうして、配信終了ボタンを押した。
ちょっと強引だったかも知れないけど、今日は俺が全く楽しめなかった。
おそらくリスナーも楽しめなかっただろう。
ユリキドールのせいというのもあるだろうけど、今日は変な企画をしてしまったのも原因だろう。今後はこういうことはやめないといけないな。
そもそも前まであんな奴いなかったよな?
急にどうしてあんな『あらし』が入ってきたんだ?んー、その辺の事も踏まえて今後調査していかないといけないな。
ま、夜も遅いしこれ以上考えてもよくわからないし寝るとしよう。
最後にSNSに感謝だけ伝えといて…
「本日はありがとうございました。私の至らない部分が多く見られた配信だったかもしれませんね笑。よろしければ次回の配信も来てくださいね(>_<)」
終了っと。
考えても仕方ないので、俺は寝る準備を整え、布団をかぶった。
最後のコメントも普通に腹立ったな…
皆さんの意見や批評など、よろしければ何でも送ってください。
なにぶん素人なので、より面白いものを読者の皆様と作っていけたらいいなと思っております。
よろしくお願いします。