これから始まる俺の物語
この物語は一人の男の日常生活を描いたものである。
ファンタジー展開もラブコメ展開も、大義の為に戦いに出ることもない。
楽しめるのは男子高校生の雑談だけで、それ以上は何も起こらない。
それでもいい人だけが楽しめる作品になっているので、そこは了承していただきたい。
では、開演しよう。
これから始まるのは、とある男子高校生の卒業までの道のりである。
「初めに一つ言っておこう。俺の物語に出てくるのは、基本的に男ばかりで女はほぼ出てこない。それは俺に彼女がいないからとか、女の子と話すと緊張してしまうからなどではない。女の子とは、昔から話が合わないことが多いので俺からお断りしているだけだ。では参ろうか、これから始まるのは俺の熱くて、情熱的で、熱狂的な物語だ」
日が暮れ、誰もいなくなった教室で俺の物語がスタートするのだ。
「お前の物語、どんだけ熱いんだよ」
男は、急に教室に入ってきて、俺の華麗なる語りにツッコミを入れてきた。
こいつは俺の数少ない友人のマルこと丸井隆。
その容姿は整っており、初対面の女子であればすぐに惚れてしまうであろうし、本人もそれを自覚しているところがあることが腹立たしい。
校内でもそれなりに目立っており、誰とでも気兼ねなく話ができる、陽キャラって奴だ。
さらに、どこの誰の勧めか知らないけど、突然金髪にして高校デビューをした変わり者だ。
「ていうか、よくこんな誰もいない教室でそんなことできるよな。寂しくないのかよ」
確かに、授業が終わって皆下校したり、部活に行ったりしたが、ここは俺の教室なのでどう過ごそうが俺の勝手である。
「なにを言っているか全くもって理解できないな、マル」
「あと、お前に彼女ができないのはその意味わかんねぇキャラのせいだからな」
「貴様は俺の事が何も分かっていないようだな」
「いや、10年以上もお前とつるんできたからそれなりに分かってるよ」
「俺は彼女ができないのではない、作らないだけなんだよ」
「それはイケメンの台詞だな」
「まさに俺の事を言っているな」
「こういうこと言う奴は大抵イケメンじゃないのに、お前割とイケメンの部類だから何とも言えないな」
それはそれで恥ずかしいからやめて欲しい。
「そんなことはどうでもいい、なぜ俺の始まりの場所に貴様が登場するのだ」
「いや、お前の方から一緒に帰ろうとか言ってきたんだろうが」
「確かにそんなことも言ったかもしれないが、遥か昔なので忘れたな」
「昼休みだろ」
いちいちツッコミを入れる奴だ。
「まあいい、ともかく共に帰るとしようか」
「その言い方さえなけりゃモテると思うんだけどなぁ」
始まりの場所は名残惜しいが、俺たちは帰宅の準備を済ませ、下駄箱に向かった。
「そういや、サイ。お前今回の中間試験どうだった?」
「ふん、俺にとって試験の結果など気にするに値しないことだ」
ついでだ、俺の名前が出たところで自己紹介をしておこうか。
俺は斎藤信二、友人にはサイと呼ばれている樫ヶ峰高校2年生だ。
一つだけ情報を解禁するのならば、部活がゲーム部、放課後に集まってゲームするだけの暇つぶし部だ。
「まあ、お前が学年の3位の成績だったことは知っているけどな」
知っているなら聞いて来るな。
「俺の能力を持ってすればテストなどただの時間つぶしにしかならない」
「そんなこと言いながら、お前がテスト前になると毎晩遅くまで勉強してること知ってるからな」
揶揄するような口調でいつも通り俺をからかってくるのは今更気にしない。
「俺の事はどうでもいい、そういう貴様はどうなんだ?大して勉強してるところは見てないが」
「まあ可もなく不可もないって感じだな」
「貴様、そのような気持ちのままだと一生そのままだぞ」
「そんなこと言ったってよ、人には向き不向きってもんがあるだろ?俺には勉学は向いてないんだよ」
どこか寂しそうな顔をしながら、自分に言い聞かせているように感じた。
「それをどうにかしようとすることが努力と呼ぶのではないのか」
「そのキャラの奴が努力とか言うことに笑えるわ」
「俺は真剣に貴様の事を考えて言っているのであってだな…」
「はいはい、わかりましたよ。次はもっといい点とれるように頑張ってみるよ」
相変わらず、適当に物事を考えている奴だ。
これ以上この男に何を言っても無駄なようにしか感じないにもかかわらず、毎度毎度説教をしてしまう俺もいる。
「そんなことよりさ、お前に耳寄りな情報があるんだけど聞きたくないか?」
お前が持ち出した話のくせに『そんなこと』とはどういうことだ。
「聞くだけ聞いてみようか」
「俺のクラスの高島久美子ちゃんいるだろ?」
「うむ、学校にあまり来ていない女子だな」
「そうそう、その子が明日から学校に戻ってくるらしいぜ」
「それが俺とどういう関係があるのだ?」
「まあお前とは何の関係もないけどな」
そういうマルの表情は笑顔で満ち溢れていた。
一体、そんなに笑うほど何が面白かったのだ?
「でも、もしかしたら、その子とお前が運命的な出会いを果たすかもしれないだろ?」
「ふん、貴様はそのような妄想しか考えられない脳みそになっているのか?」
「お前にだけは言われたくねぇわ」
そうこう話してるうちに下駄箱に着いた。
「あ!」
靴を履き替えようとすると、俺の下駄箱に何かを入れている女がいた。
「ごめんなさい!」
そう言い残し、女は逃げるようにその場を去っていった。
俺たちは俺の下駄箱に向かと中に手紙が入っていた。
「おいおい、もしかして女の子からラブレターじゃないのか?」
「バカか、お前は何時代の人間だ。告白ですらSNSで済ませてしまう現代においてそのような手紙を置く女などもはやいるわけがなかろうが」
「いいから開けてみろよ」
そのようなことはないにしても『お前の秘密をばらされてたくなかったら…』的な脅迫文や、『明日の放課後○○で…』などの不良に目をつけられた的な内容だったら怖いのは確かだ。
俺は恐る恐る中身を開けると、中にはたった一言だけ書かれていた。
「『サイバーネットさんですか?』」
瞬間、俺は戦慄が走った。
「は?サイバーネット?どういうことだ?」
マルは分かっていないようだが、俺にはその一言だけで全てを悟った。
『サイバーネット』とは、俺が現在行っている配信アプリのアカウント名だ。
それだけなら何ともないことだが、このアカウントは俺の完全プライベートなもので、リアルでは誰にもその存在を教えていない。
表には出せないような恥ずかしいことも普通にするので、極力リアルでは知られたくない
そもそも配信をしていることすら誰にも教えていないのになぜあいつはこの名前を知っているのだ。
「よくわからない、俺の名前が斎藤だから間違えたのかもしれないな…」
内心かなり焦りながら、とりあえずこの場はマルに気付かれないことを優先した。
「ふーん、そういう間違いもあるもんだなぁ」
マルは何処かを俺を疑ったような視線を向けながら、探りを入れてきた。
「よ、よいではないか。我らには関係のなき話題である。さあ久美子ちゃんの話に戻ろうか」
「変な口調になってる上に、久美子ちゃんのこと全然興味なかったじゃねぇか」
「そんなことはない、不登校の子が学校に戻ってくるのは同学年の者として嬉しいことではないか」
「ふーん、あんまそういう風には見えねぇけどな」
こいつは妙なところで勘がいい。
「まあこんなとこに突っ立っても仕方ねぇし帰るか」
すっかり桜も落ち、部活帰りの生徒が多く帰る中、俺たちも学校から10分で着く家に帰ることにした。
「貴様はC組だから久美子ちゃんの事はよく知っているのではないか?」
「さっきも言ったけど、久美子ちゃんってあんま学校に来ないからよくわかんねぇな」
「同じクラスのなのに、それは少し非情なんじゃないのか?」
「いやいやそんなことないぜ。クラスが同じだけで全然知らない奴だっているもんだし、違うクラスでも仲のいい奴はいる」
「何が言いたい?」
「要は、人間関係ってのは同じ環境にいるかどうかじゃなくて、自分がどう思うかってことだよ」
「ほう、中々興味深い話題じゃないか」
確かに興味深い内容ではあるけど、それよりも上手く違う話に移行できた安心の方が強かった。
「現にお前だってそうじゃねぇか?同じクラスの友達なんてほとんどいねぇだろ」
「わかってないな、俺は自ら望んで孤独を選んでいるのだ」
「強がりでも、そんな風に言えるようになって良かったよ」
何を言っているのだ?こいつは。
「お前、中学生まで友達ができないからって俺の連れのグループに入れてくれとか言って、泣きついてきたじゃねぇか」
マルは昔話をしながら、俺との数少ない思い出でも楽しもうとしてくれているのだろうが、逆にそれが辛い。
「ふん、そんなことは忘れた。それよりも久美子ちゃんはなぜ突然、学校に戻ってこようと思ったのだ?」
「あんま詳しくは知らねぇけど、どうやら学校に会いたい奴がいるとか何とかだそうだ」
「学校に来ないのに、学校に会いたい奴がいるとはどういうことなのだ?」
「SNSとかで繋がってた友達に会いたくなったんじゃねぇのか」
「俺たちが若かりし頃は、そんなものが普及するとは思いもしなかったがな」
「若かりし頃って…久美子ちゃんも同い年だからな」
「ならば、久美子ちゃんも同様に感じているはずだ!」
どうでもいいことで躍起になってしまったため、俺たちの間に変な間が生まれてしまった。
「ところで、話は変わるが、趣味の方はどうなんだ?」
手紙の話題になる前に、新しい話題に変えなくてはいけないな。
「あー、別に得何もないよ。相変わらず一次審査で落ちてばっかりだ」
「やはり厳しい成果ではあるな。だが、諦めるなよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけどよ、あんまり落選ばっかするから俺に才能がないんじゃないかって最近は思ってきたよ」
「やめたきゃやめりゃいい」
「さっきと言ってること違うじゃねぇか」
「自らにやる気がないのに、俺がそれをとやかく言ったって仕方がないってことだよ。お前にやる気がないならそれもやむを得ないということだ」
「そっか…ありがとよ…」
俺ってこんなに話すの下手だったか?もっと話題の広がる内容にしなくては…
「お前の方こそどうなんだ?」
「む?俺には趣味と呼べるものが特にこれと言ってないが…」
「趣味じゃないけど、そういうキャラだと学校で生きにくいんじゃないのか?」
「いや、この物語が始まったのは先程なので現在はそれほど困ってはいないが…」
「いや、そういうのいいから。お前が昼飯も一人で食ってるし、休み時間も一人で過ごしてるの知ってるからな」
マルは肝心なことはしっかりと言って、どうでもいいことは流すようなところはちゃんとしてる。
だが、こちらにもやむにやまれぬ事情というものがあってこのようなことになっているのだ。
「しかし、何も持たない俺にとってはこのようなキャラクターを作り上げるしか高校生活を送るために仕方のないことなのだ」
「ありのままのお前でいいじゃねぇか、それを見てくれる奴を見つけるのが高校生活だろうがよ」
感動の名シーンになり得るこの展開でも俺には心に響かなかった。
「やはり、貴様は俺の事を何も分かっていないようだな」
俺は、家まであと半分くらいあるにも関わらず、マルを置いて走り去った。
「なんだよ、あいつ…」
初めて、小説というものを書かせていただきまして右も左もわからないのですが、皆さんの批評、批判などもどんどん言っていただけると助かります。
私自身、この作品を通して自らが面白いと感じるものを作っていきたいと思っておりますが、まだまだ素人なので、一つずつレベルアップを重ねていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。