ver.2.1-37 体育座りは、どこでも基本なのか
おかしい。真面目な戦場のはずだったのに、どうしてこうなった。
‥‥‥レイドボスとして、存分に暴れるのは中々無い体験だろう。
全力で相手を薙ぎ払い、蹴り飛ばし、可燃性の毒の霧を出してそこに黒い炎を当てて爆発させたりと、何かと普段やる戦法がさらに強力なものになってプレイヤーたちを吹き飛ばす光景は、ちょっとした無双状態ともいえるかもしれない。
だがしかし、プレイヤーたちとてただで倒れることも無く、しっかりと事前に運営からの告知から弱点武器屋属性なども調べ尽くしているようで、こちらの攻撃を耐えてから反撃を仕掛けてくるなど、油断はできず、けれどもそれはそれで白熱した戦いが楽しめるので面白くもある。
そう、できればその戦いに集中させてほしいところなのだが…‥‥世の中うまいこと行かないものである。
「「「「ひっぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
ドォォォン、ドッカァァンっと爆発し、ふっ飛ばされているのは欲望戦隊ミセタインジャー。悲鳴を、涙を出しまくるもその弾幕は収まることはなく、さらに激しいものになっていく。
『‥‥‥でも、こっちの出したものじゃないんだよね』
レイドボスとして参戦しているせいか声がやや加工されている状態でつぶやくが、その言葉に周囲にいた他のプレイヤーたちもうんうんと頷く。
無理もないだろう。レイドボスでもないのに、レイドボスがやるようなド派手な攻撃を2人のプレイヤーがやっているのだから。
正義の戦隊もののを被った欲望渦巻く者たちに対して、制裁を下している光景は何か間違っているようなそうでもないような空気を生み出し、全員同じ気分になるだろう。
「ひぇぇぇぇ!!やめてくれえぇ!!ルーン、ラサーダ!!今はレイドバトル中で、全員と協力せねばいけない場面じゃぞ!!」
「お願いしますよお孫さんに姉御ぉぉぉ!!」
「こちらも酷い目に、合うんですけどぉォォ!!」
「家族構成に含まれていないのに、巻き添えを喰らうんだが!?ロリッコの攻撃ならともかく、圏外レベルのと、」
ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
「だまらっしゃい!!最初から心の声が駄々洩れだから、すっかり全部聞こえていたんだよ!!」
「お爺ちゃんたち、まーだそんなことを言っているの?もぎ取らなければいけないの?」
強烈な爆発でふっ飛ばしているのは、背丈が小さなお婆ちゃんと、しっかり重装備の鎧を着こなした女騎士のようだが、何者なのかはここまでのふっ飛ばしで既に誰もが理解しているのだろう。
そう、あのお婆ちゃんこそがミートンの奥さんにしてこのアルケディア・オンライン内ではプレイヤー名をラサーダと名乗り、女騎士の方が孫娘のルーンさんらしい。
どうも戦士と魔法使い、その上級職の立場にあるようなのだが攻撃力を見る限りではラサーダさんの方がはるかに上を行くようで、そこそこレベルが高いはずの欲望戦隊を赤子の手をひねるように、いや、さらにねじり切っていくような様を見せ付けてくる。あ、本当にぶちぃぐしゃぁっとねじり切った。
『あのー、レイドバトル中にボスを務めている自分が言うのもなんですが、喧嘩はできればよそでやってくれないでしょうか?』
「あらあら?済まないわねぇ、お邪魔してしまって。でもね、それは無理よ。この男たち、この場から去ることが出来ればすぐさま逃亡するのが目に見えているもの!!」
戦場が少々士気を吹き飛ばされたので、いったん中断させて注意を告げると、ミンチになったミートンを手にもちながら、穏やかに笑ってそう告げるラサーダさん。
うん、確かにそうかもしれない。
一応、この場は戦闘領域としてプレイヤーたちが強制的に転移させられており、逃げることができないようになっている。
だがしかし、戦闘領域から退散して出てしまえば、通常プレイと同様に逃走を図る事も可能であり、彼らがこの場から逃げたらすぐさま世界の果てまで逃げそうなのは目に見えているだろう。
‥‥‥ならばログアウトして現実でやりあってほしいと思うのだが、それはそれでできないらしい。
「すみません、黒き女神様。お婆ちゃんは一度怒ると、本当に血を見る様な争いを見せかねないんですよ。お爺ちゃんは道場の頂点に立っていても、武術ではお婆ちゃんの方がはるかに強くて、過去に何度救急車にお世話になった事やら…‥‥でも、あんな人たちだからそれでもどうにか生きているんですけれども、万が一という事もありますからね」
心配しているようにルーンさんが代わりに説明してくれたが、確かにゲーム内で無いと本当に刃傷沙汰になりかねないらしい。それだったらむしろ警察にお世話になってくれたほうが良いような気がしなくもないが、そこまで大事にもしたくないそうだ。
それはちょっとした家庭内DVになるではないかとも思えるが、ほとんどの原因はミートンさんたちがやらかすことのようで、それに対してラサーダさんが激怒するそうな。
何にしても、暴れまわるのは流石にこちらが目立たなくなるというか、レイド戦の障害になりかねないので一旦戦いの場を治め、運営側に連絡する。
すると、流石にこの騒ぎが長時間出ると支障がでると判断してくれたのか、特別な一室を用意してくれるそうで、そちらに移動させてから再開できそうである。
【ブモゥ、ブモォォゥ】
「よしよし、マッチョン。お爺ちゃんたちへ沙汰が下されるまで、ちょっとこっちで遊ぼうね」
【ブモゥ】
体育座りをしながら巻き添えに遭わないようにマッチョンが待機していた。このオーク、状況を冷静に判断して、いつの間にか避難していたようで、中々状況を読む力が高い様子。いや、そもそもこんな状況を味わっていたら、否応なく適応するのかもしれない。
そして10分後、無事に欲望戦隊及びその奥方や孫たちがその場から去った。
「よぉぉぉし!!今の休み時間でたっぷり休憩ができた!!」
「黒き女神様、気を取り直して挑ませてください!!」
『言われずとも、こちらも全力を出させてもらおう!!』
…‥‥正直言って、あの夫婦喧嘩を見たせいで何とも言えない空気が漂い、その場にいる全プレイヤーたちはその雰囲気を吹き飛ばすために、レイドボス戦へ集中し始めるのであった。
ちょっと残っていた赤いもの?そちらは再開する前に、しっかり全員で掃除しておいたよ。プレイヤーたちも一緒になってやっていたが、誰だって汚くなるというか凄まじい戦場跡地だとやりにくいからね。
気を取り直し、改めてレイドをやるとしよう。
あちこちの様子を探れば、どうやら刺客なども解き放たれているようで、混戦している様子。
ならばこちらにも来るのだろうが、この現場でどう来るのか…‥‥
次回に続く!!
‥‥‥しかし、ミートンよく結婚出来ていたな。あの奥さんとどうやって結ばれたのか、その話が非常に気になる。




