ver.2.0-16 経験上、という話はうまくいかないこともあるのだが
「…‥‥ルトの進化、『特殊条件進化』ってなっているな」
「ああ、Ver.2.0で隠し要素として追加されたやつだったかな?」
「あらあらぁ、それはそれで面白そうねぇ」
黒き女神に巨大毛玉、筋肉ダルマと絵面としてはカオスな状況だが、出て来た情報に彼らはすぐに飛びつき、各々が置かれてしまった状況を見て見ぬふりをするために僕の方へ近づいて来た。
なお、超悪臭状態のグランプさんは離れた場所にいるが、あれは仕方がないだろう。でも、その対価というべきなのか周辺からモンスターが寄ってくる気配もないので、安心して話し合いができる状況になっているのはありがたい。
とにもかくにも、黒き女神へと強制的に変わった僕の影響なのか、ルトの進化条件が整ったようで、進化先が映し出されていた。
ただ、その進化の様子はどうもこれまでの選択式のものとは違っているようで…‥‥
―――――
>『畏怖状態』を経験したことで特殊な進化が解放されています。
>この進化を選択した場合、通常進化ができなくなります。
特殊進化先:『カオス・スキュラ』
通常進化先の一つが条件の獲得により、変化を遂げた姿。
通常の進化先とは色合いも異なり、通常攻撃に確率で『恐慌状態付与』が付き、魔法による攻撃では確率で『畏怖状態付与』となります。また、非常に低確率で特殊攻撃で『即死』が可能になります。
>本当に、この進化を行いますか?
―――――
「滅茶苦茶不穏な文字ばかりが並んでいるんだけど」
「恐慌、畏怖、即死がそれぞれで確率付与…‥‥なんかえげつないものがそろっているね」
これまでの進化の面子は、何かと有効なものが多かったというか、見た目の大幅な変化を除いてはまだまともにつくような能力が追加されていた。
けれども、今回の進化に限ってはまともではつかないような、結構滅茶苦茶な効果をもつようになるようで、怪しさしかあふれてこない。
「即死攻撃事態は、他にもやるモンスターもいるわねぇ」
「でもあれは、確定即死攻撃というしろものだぜーよ。いや、執拗に急所を狙う凶悪モンスターだったぜーよが‥‥‥それでも、テイムモンスターとしてテイム出来る中に即死攻撃をもつようなのはいなかったぜーよ」
「そりゃそうだべさ。敵ならまだしも、味方で低確率でも即死効果を持つ攻撃が出来るなら、ゲームバランスの崩壊を招きかねないのだべ」
遠距離からグランプさんがそう口にして、僕らも同意する。
そもそも他の攻撃も戦闘時には便利そうだけど、場合によっては色々と面倒ごとになりかねない気がするんだよなぁ…‥‥というか、黒き女神の姿になって出て来た進化条件だから、余計に警戒してしまう。
けれども、逆に言えばこの状況でなければ出なかったかもしれない珍しい進化先という事で、前線や攻略を行うぽっけねこさんたちにとっては気になるようだ。
「むぅ、でもこれを一度選択すると、通常進化が不可能か…‥‥悩ましいかもね」
「タコのモンスターの通常進化って、そもそもどういうのがあるんだろう」
「確か、キングオクトパス、マスコットパス、ボクサーパクト、タコ焼きマンなどがいたわねぇ」
一概にタコのモンスターと言っても色々いるようで、同じようなものだとしても違うところもあるようだ。個体差がどうも濃くなってきているようで、仮に同種族に進化したとしても次の進化先が大きく異なっていたりするせいで、攻略情報を伝える側としては非常に苦労するらしい。
「でも、それらとはまた違うかもしれない進化ってことか‥‥‥この際、やってみるべきか?」
選択肢からはどう考えても怪しい香りが漂ってくるのだが、この機会を逃せばできなくなるかもしれない選択に、逃しにくくなる。
それに、白黒の塔を攻略している今、周囲の風景が本当に白黒しかなくて色合いが非常に足りない‥‥‥進化でまた違った色合いになるのならば、その色を見たくなるだろう。
―――――
>選択、受理しました。
>『ボルトクパス』の『ルト』を、『カオス・スキュラ』へ進化させます。
―――――
‥‥‥結局、好奇心には勝てずに、進化を選択した。こういう時に限ってどうなるのかはマリーたちで既に経験済みだが、それらとはまた違う結果になってほしいという期待もある。
そう思いつつも、進化を選択した途端にルトの身体が進化の光を纏い始め‥‥‥
ドルルルルルルルルルルルルゥ!!
「って、いつもの進化の光とはなんか違うんだけど!?」
いつもならばこう、全身が光に包まれて変化するはずなのだが、どこからわいたのか不気味な色合いの煙が噴き出して、ルトの全身を竜巻のように回り始め、姿を隠してしまう。
特殊な進化条件のせいなのか、それともその進化先が影響しているのかは定かではないが、通常では見られない進化の過程に全員が驚きつつ、あっと言う間に進化を終え‥‥‥その姿を、ルトは曝け出した。
【ギャベェ…‥‥ギャビィィィィィィィ!!】
鳴き声が変化し、雄たけびをあげながらルトはその姿を目の前に露わにした。
どこから持ってきたのか、それともセレアの時と同じ理屈なのか、その身に衣服は纏われている。だがしかし、その衣服はただの衣服ではないだろう。
地面まで長く伸ばされたローブのようだが、その布地は不気味な色合いを変化させ続け、ニュルニュルと触手がその下から垣間見える。
大きな先が曲がった三角帽子をかぶりつつ、びりびりと電撃を纏いつつ、その目に星が浮かんでいるかのようなきらめきを見せながら、きらりと八重歯を光らせる。というか、ほぼ上半身人型というか、スキュラの字があった時点で予想できていたけれども、これまた他の皆とは違う方向性に向かったようだ。いや、悪女感が出ているというのか?
「‥‥‥いやまぁ、もう人型に近くなるのは納得したけれども、なんかこう、イメージ的には魔女っぽい‥‥‥」
「人魚姫の物語に出るような、鍋を煮込んでいそうな魔女と言われても納得できるかもしれない」
「でもお婆ちゃんという訳ではなく、妖艶の美女なのは良いが‥‥‥なんだろう、恐怖を感じる気しかしないのだぜーよ」
「スキュラ、とついた時点で予想できたことだべ。でも、綺麗な方なのは間違いないだろうべけれども‥‥‥おおぅ、おっかねべぇ」
美しい魔女のような容姿に変化したのは、良い事なのかもしれない。でも、纏う雰囲気がすごい悪女感があるというか、本当に魔女っぽいというか‥‥‥電撃を放っていたタコの時とは違う雰囲気である。
【ギャビィ、ギャビィ?ギャビ】
【シャゲ?シャゲェシャゲ?】
【ガウゥ、ガウガウ】
【バルルルゥ、バル】
【ふむふむ、進化に全員驚いたようですが‥‥‥慣れたようですネ】
僕らが驚いている間にテイムモンスターたちが軽く話し合いつつも、驚くような様子は見せない。
どうやらいつものことだという感じに慣れてしまったようで、違和感もなく通常運転のようだ‥‥‥いや、いつものことでって理解なのはどうなのか。
とにもかくにも、新しい姿と力を手に入れたようであり、ダンジョン攻略の最中としては戦力強化はありがたいのであった‥‥‥‥
「しかし、絵面的になんかこう、悪の組織みたいな感じになっているね」
「言われてみればそうだぜ―よ。全員、黒で統一すればかなりありだぜーよ」
「いいわねぇ、写真ばえするわぁ」
「女幹部たちに女頭領…‥‥確かに、悪の組織っぽい感じだべなぁ」
「スキルで女になっている状態で、僕はきちんと男だからね!?というか、言われてみれば、悪の組織っぽさが増していたぁぁぁぁ!!」
‥‥‥以前にも似たようなことを言われたけど、確かに悪の組織っぽい絵面感が増していた。悪い事をする気なんて無いけど、これもうちょっとどうにかならないものか。
猛毒蛇女、格闘雌豹、くっころ風女騎士、メイド(?)、電撃の海魔女…‥‥
‥‥‥絵面がどう考えても、悪の組織っぽい。フラグにならないよね?
そんな不安も抱えつつ、ダンジョン攻略の方へ意識を向け直す‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥ネット上でまた何か言われそうな予感。さて、ハルはどういう風に受け止められるのやら‥‥‥




