ver.6.1-115 喜ぶべきか悲しむべきか
―――外なる世界の、分かり合えないモノ。
それがどのようなものだったのかは、最後まで不明な部分もあった。
しかし、それでもこの世界のモノとは理解し合えないものでもあり、排除しかなかった。
もう少し、どうにかできたのではないかと思う部分もある反面…すべてができるような驕りは捨てて、きちんとできないことを見つめたほうが良いと思う部分もある。
それはともかくとして、結局は太陽を利用した処分によって、どうにかなかったが…ゲームの世界とは違い、ここは現実の世界。
それゆえに、しっかりとした代償があることも目をそらしてはいけないことであり…
「…僕/私の」
「完全分裂除去が…」
「「…え、これ代償になっているの?重い方なの?軽い方なの?」」
【それは、主様方の受け取り方次第でしょウ。女神とはいえ、太陽に生身で突っ込んだ結果、この程度で済んだと考えれば、軽い方でもありますし、二度と人間側の主様のほうは女神に成れず、反対に女神側の主様のほうは人間に戻れないので、重い方とも受け取れますネ】
太陽周辺に漂っていた春を回収しに、グレイ号が海底から飛び立ち、現在宇宙空間にいる状態だが、その内部にある治療室にて…春、いや、人間と女神はそろってお互いの顔を見る状況に困惑させられていた。
世にも奇妙な、自分同士の対面。
どうやら太陽に突っ込んだ影響は相当大きかったようで…元々の身体から、元の人間部分を守るために身体が自然と動いた結果、僕/私は分裂したようである。
元々の人間としての自分と、女神としての自分。
お互いにじっくり見るのは変な気分だが、それでもお互いに相手は自分であるという意識があり、説明せずとも理解できてしまうのは妙な物だろう。
「と言うか、元に戻れないって…」
【人間部分の保存のために、女神の力が裂けて変じたようですからネ。ただ、その結果として女神の力自体が大幅にダウンした上に、人間の肉体と分離したのでしょウ】
「大幅ダウンか…弱体化は受け入れられるけど、こういう分裂って、寿命が半分になったりするのが定番じゃないの?そこは、大丈夫?」
【ご安心ヲ。成分分析を行いましたが、女神側主様は100%女神成分、人間側主様は85%人間成分であり、完全に分かれているので別種族として…まぁ、元は一つですが、それぞれ既に別の個体として存在できているようデス。なので、寿命もずれるので大丈夫デス】
カタカタっと既にグレイ号に搭載されていた分析器の結果を見て、そう答えるロロ。
どうやら完全に分離してしまった状況であり、どうもオンライン上でも同様に反映されているのか、既にこの身には女神はなく、女神のスキルの消失も起きているようだ。
「と言うか、ちょっと待って?今、女神側は100%女神って聞いたけど、人間側が85%人間成分って…え?15%分、他に何か余計なものが混ざっていない?」
【10%は妖精成分ですネ。女神の影響も受けて出ていたものですが、女神分離時に純粋女神としての部分と分離するためか、人間側に置き去りになったようデス】
「あとの5%は何!?」
「元の人間のほうの自分に、何が混ざっているの!?」
【---世の中、知らないほうも良いことがあるのデス】
「「本当に何があったの!?」」
余計にヤバい情報が出つつ、はぐらかされるので後で絶対に問い詰めようと心に決めたところで、今はこの状況の整理だ。
あの外なるものは既に消滅しており、二度とこの世界には来れないようになったらしい。
依り代となっていたらしいモノ…元はおそらく人間だったものは残念ながら手遅れであり、こちらは救えなかったようだ。
これに関してはご冥福を祈るしかなく、事後処理として片付けはするらしい。
「ただまぁ…なんというか、それで分離した以上、女神と人間の二人になったのは別に問題はない。こういう事例が無いわけではないからな」
「個人的には、春が二人になったのは何とも言えないけどね…」
はぁぁっとため息が聞こえてくるのは、グレイ号が宇宙空間へ飛び出す際に、乗ってきたミーちゃんと…頭に角の生えた、銀髪紅眼の人…オンライン運営会社の技術関係の人のようで、今回の騒動に関して手を貸してくれた人らしい。
他にもあの場所には色々といたが、そちらはしっかりと帰還したようで…こっちの二人のほうが、船に乗ってきたようである。
目的としては…
「女神の天界送り?」
「そうだ。元の状態なら天寿を全うした後の第2の生として来てもらうはずだったが…分離し、女神の部分だけになった今はすぐにでも来てもらう必要がある」
「裏界隈にも色々とあって…うう、私としてはこっちも春なのに、悲しいかも…」
女神と分離した以上、その女神のほうをこの世界から別の場所へ移さないといけないらしい。
これまでは混ざっていたから特例のような物で居続けることができたが…その特例の状態が失われたことで、すぐにでもここから女神のほうは去ってほしいとのことだ。
「まったく…上のものめ。本来な天使とかの役割なのに、悪魔にやらせる気かよ…」
「え、悪魔なの?」
「ああ、我が名はゼリアス、大悪魔にして混沌と…いや、ものすっごい悪魔的には不名誉なものがあるから省かせてもらおう。一応、これでも神界隈の砲にもつながりがあるからな…物凄く、悪魔として本気で嫌なつながりもあるが…どうにもならないのが、本当にこうもどかしい…!!」
ギラリと紅の目を光らせつつ、はぁぁっとため息を吐く悪魔ゼリアス。
どことなく、親近感と言うべきか、何かしらの苦労人気質が垣間見えるようだ。
【仕方がないことですが、そのため主様の女神側のほうは…このままゼリアス様へ連れてってもらうことになりマス。使用人としては、そのままついていきたいところですが、私は一人しかおらず…人間側の主様へ仕えさせてもらいマス】
「それ以前に、お前ら使用人…と言うか、その上の奴ら、一族全員神界隈のほうは出禁だよな?」
【それはそれ、これはこれデス。それに、一部姉妹が伺っているとは聞いておりますガ?】
「…禁止しても、ぬるっと出てくるからなぁ…」
頭を抱えるように言う姿は、マジの苦労人の雰囲気を醸し出している。
もしも都合が良ければ、話したら気が合いそうだ。
とにもかくにも、この分離状態は治ることはないそうで、女神の僕/私はここから去らなければいけないらしい。
ぱちんっとゼリアスが指を鳴らせば扉のような物が出現し、まばゆい光を放ちながら開く。
「…まぁ、ここで別れを受け入れられるかと言えば…不思議なことに、すんっと受け入れられるよなぁ」
「私/僕も僕/私だから、本当は居続けたいけど…それはもうできないって、どこかでわかっているからね」
お互いに、変わることはない僕/私。
けれども、このような時が来るのはわかっており、それが少々別れたことで早まっただけの、単純な話だ。
だからこそ、抵抗することもなく、素直にその扉に入っていく。
「それじゃ、私/僕はこのまま女神としてやっていくね。元の部分があるだけ、本当は受け入れたくはないという思いもあるけど…別れたせいか、それも消えつつあるかも」
「ああ、わかったよ僕/私。…元気でな」
お互いに、これ以上言葉を交わす意味もない。
アレは自分であり、そして違うものであり、人と女神。
元より一緒にいたこと自体が異例のような物であり、そもそも目覚めることも奇跡のような物。
それの根本的な原因を辿れば、あののじゃロリが原因なのは納得がいかない思いはあれども…どうせ、巨大な力は人の身では持て余すからこそ、女神の身で持ってもらえばいい。
二度となれない、黒き女神。
けれども、いなくなったわけではない。
手を振り合い、そして扉が閉じ…黒き女神は、この現実世界から失われたのだが…別の世界へ旅立っていったのであった…
「…ところでロロ、10%の妖精は受け入れるとして、本当に後5%は何なの?」
【ピュフルルルゥ~♪ピュルルル~♪】
「口笛を吹きながら、思いっきり目を横にそらすな!!一体何を、知ったんだよぉおおおおおお!!」
「あ、今私/僕、不安持っている。確かにあの5%は何だったんだろうか…」
「…世の中には、知らないほうが良いこともあるぞ。ああ、女神100%になったなら、気にせずに進め…後で、あっちのお前に胃薬を郵送してやるからな…」
―――
>『黒き女神』のスキルが消失しました。
>以降、使用不可能・再習得不可となります。
>神域は神そのものが失われたわけではないので、存続されます。
―――
かなり長い間、使っていた女神の消失
けれども、失われたというよりも別離しただけのもの
二度と会えないわけではない自分自身との一時の別れであり‥‥だからこそ、悲しむことはないのだ
そういうわけで、次回に続く!!
…鼻水がガチでひどい




