ver.6.0-70 一撃をもって、光を届け
…正直なことを言えば、この戦いに勝ち目があるとは思えない。
それは、わかっていたことである。
だがしかし、それでもやらなければいけないだろう。
偶然とはいえ、ここで出会えた息子に対して滅多に見せられない、偉大な父の背中を見てほしいという思惑もありつつも、ここで悪しき筋肉は断たねばいけないという使命感があるからだ。
例え確率がどれほど0に近かったとしても…そう、それは近いのであって、0ではないからこそ、必ず希望を手繰り寄せることができる。
その希望を手繰り寄せるための手段として、最も有効的なものが…
「そう、我らが『筋肉』である!!諸君、筋肉ギルドの名に懸けて、我々の筋肉を活かして、悪しき筋肉を持ちうる輩と、清く正しき筋肉を持たざる者へ、素晴らしき正義の筋肉を捧げるために、鍛え上げてきたその筋肉を筋肉で組み合わせて、筋肉で覆いつくし、希望を筋肉で引き寄せるのだ!!」
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
マッスルバーンが号令をかけると、答える筋肉ギルドの面々。
急な集結要請だったとはいえ、それでも各々がこの状況に対して助けに来てくれたのだ。
「すなわち、我々がやるべきことは…筋肉による筋肉のための筋肉合体だぁぁぁぁ!!やるぞ、皆ぁぁぁぁ!!」
「「「「やってやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
ここにツッコミ属性を持っている人がいれば、どれだけ筋肉と叫びゲシュタルト崩壊をさせるのかと言ったのかもしれないが、あいにくながらここにはそのような人員はいなかった。
いるのはただ筋肉だけを愛し、筋肉に全てを捧げ、筋肉をもって今、レイドボスへ挑む覚悟を持った者たちだけである。
雄たけびと共にそれぞれが最大限のポテンシャルを発揮できるようにバフをかけまくり、組み合わさることでさながら列車の重連のように力を増大させるようにして、筋肉ギルドの面々が重なっていく。
その筋肉には各々筋肉神の加護を当たり前のように有しており、それすらも重なり合い…今、一つの巨大な筋肉の巨人と化した。
マッスルバーンのなっていた、大きな筋肉の体。
それすらも凌駕し、今や星すらも片手で握りつぶせそうな、黄金にも宝石のようにも、光り輝く巨人の肉体。
「金剛筋肉合体、ギガント…いや、違う。この筋肉は…」
「「「「天すらも砕くことのできるー――」」」」
「…うわぁ、ガチですさまじい筋肉の巨体で、レイドボスたちに殴りかかっているよ」
「むさくるしさも、ここまでぶっ飛び過ぎると感嘆に値するよね」
「集合筋肉式合体か…その手もあったが、姉には通用…いや、それは今は良いのか」
グレイ号の艦内、上部モニターに映し出される戦況を見て、ハルやミント、中三病は各々感想を口にする。
決戦用兵装アルテマカノンの準備中であり、ここであの筋肉たちがレイドボスを抑えて時間を稼いでくれるのは良いのだが、その光景が色々とすさまじいのだ。
正直言って、ハルの黒き女神も大抵無茶苦茶なことができるが…それと比較しても、彼らの情熱と筋肉への熱過ぎる想いには勝てないと思わされるだろう。
【どうやら全筋肉ギルド所属プレイヤーたちが一心同体となったことで、顕現した特殊なスキルのようですネ。合体系スキルの中でも超高難易度の分類に値するもののようですが、まさかここでこのようなものが見れるとは、これはこれで貴重なデータになりますが…今は、カノンの準備へ集中いたしマス】
五番艦が無いゆえに、必要な作業が多いようで、素早く動いて準備を進めていたロロが少しだけ止まってそう言いつつ、すぐに作業へ戻る。
どうやらあれは一種の奇跡のようなもののようで、なかなかお目にかかれないようだ。
そんな奇跡が、筋肉で起きるのはどうなのかと思ったが…時間稼ぎになるのであれば、気にしなくていいだろう。
むしろ、このまま決戦用兵装を使うことなく、彼らの筋肉によってレイドボスを潰すことができればよかったのだが、そうもいかないようだ。
「やはり、砂漠+惑星破壊ミサイルの力を得たシードと、その親である元々のレイドボスのほうが自力が上なのか、押しきれないな」
筋肉無双劇場が始まってもよさそうな勢いではあったが、世の中そううまく事が進まない。
これで解決するのであれば、全世界が筋肉に注力するだろうと思っていたが、進まないからこそ、そんなことは起きていないのであろう。
「その場のノリと雰囲気的に、バンバンババンっと勢いある戦闘ができるかと思ったけど、相手のほうがバンバン光線を撃ったりしていて、難しいもんね」
「欲望戦隊とは別ベクトルで変態的とはいえ、近いと言って良いような熱意があるとはいえ、より大きな力の前には厳しいか」
巨大な筋肉合体だとしても、相手はレイドボスでもあり、負けじと合体している者も混ざっている。
それゆえに、それぞれのぶつかり合いは譲り合うこともなく、むしろ争いの中に割って入ったせいか、元々のレイドバトルの形式としてはある意味正しいというべきなのか、苦戦させられている様子が見えるだろう。
「ロロ、アルテマカノンの発射まで、あとどのぐらいかかる?」
【あと3分ほどデス。想定以上に集中するエネルギー量が多く、放出時の輻射が相当危険なため、それから守るための防壁増幅装置も急ピッチで設置していますからネ】
かなりの威力があるようで、発射まではあと少しだろう。
そのぐらいの時間であれば、あの筋肉たちも十分耐えきれそうだが…
「発射したら、今の状態だと思いっきり巻き込むんじゃ?」
【そのあたりも大丈夫デス。アルテマカノンは乗算されまくった莫大なエネルギーを利用した強制分解・転換の効果があるのですが、効果が効く対象を絞り込めマス。かなりおおざっぱになってしまいますが、プレイヤーそのものにはダメージを与えないように設定済デス。逆に言えば、その設定以外のもの全て…この宇宙フィールド自体にも影響を与えるため、未知数でもありますので、今回はこの一射限りしか使用できないデス】
全部巻き添えにして吹っ飛ばすことが懸念されたが、一応どうにかなるらしい。
ただし、それほどヤバい代物だということで、この一発を外せば次はすぐには撃てない。
【そのため、主様。確実に外さないようにお願いいたしマス。砲撃可能状態まで、あと少しなので、今のうちに照準を定めるため…こちらを、どうぞ】
そう念を押して言いながら、ロロが近くのパネルを操作すると、席が一つ床からせりあがってきた。
どうやらアルテマカノン用の特別な砲撃席のようで、艦首砲に使用するものよりもさらに重々しい雰囲気を漂わせている。
「これで、照準を定めてか…対ショック、対閃光防御は?」
【すでに用意済みデス。あとは、これで狙うだけデス】
自動照準も本来は可能だが、今回の初砲撃のためにほとんどのリソースを制御に使用しており、こればかりは手動になったらしい。
そのため、照準器を手に取り、狙いを定める。
「照準調整…最終セーフティは」
【解除完了。反動に備えての重力アンカー全艦固定済みデス】
「安全弁解除、誤差修正…ロック」
確実に外さないように、まとめて…いや、筋肉たちは一応無事に済むらしいが、それでもなるべく影響が出ないようにして、あの凶悪なモンスターたちだけを狙う。
【エネルギー充填、1200%。臨界率突破、射出可能まであと1分】
「総員、念のために衝撃に備え!ある程度の反動を打ち消すようにしていても、来るときは来る!!」
素早く全員が着席し、しっかりと艦隊が急な反動で動いても大丈夫なようにする。
【射出、可能状態になりまシタ】
「良し、なら後は…この引き金を引くだけだ」
ぐっと指をかければ、相当な重さを感じさせられる。
狙いは既に定まっており、これを引きさえすれば放たれるだろう。
どれほどのものなのか、実際にやってみないと分からないが…迷う意味は、無い。
「アルテマカノン…発射ぁぁ!!」
ガチッと音を立て、引き金が作動する。
それと同時に、集められたエネルギーが一気に放出され、轟音と共に撃ちだされた。
―――決戦用兵装にして、現時点で最強クラスの兵装、アルテマカノン。
その本質は、莫大なエネルギーを利用した、強制分解・転換システムで…指定したものを除いて全てを変えてしまうことのできる代物。
それゆえに、撃ちだす艦隊自身にも相当な負荷がかかり、何度も使えるものではないが…その一撃が今、解き放たれて…レイドボスたちを、光の中へ飲み込んでいったのであった…
ドォォォォォン!!
【…着弾を確認、同時に各艦にも砲撃によるダメージが確認できまシタ。2番艦、エネルギーバイパスの焼失、3番艦、艦首砲口熔解、4番艦、全防壁システムダウン、全艦、メインエンジン出力が20~8%まで低下…】
放たれた、アルテマカノン
その威力は凄まじいが、代償も当然生じたようである
それでも、これには流石にレイドボスたちも…
次回に続く!!
…試射段階で、このデータである。完全な状態ならば、どうなるか。




