ver.1.1.1-48話 お約束は、きちんとあって
【オララゴォォォォォォン!!】
「「「負けるかごらぁぁぁぁぁ!!」」」
咆哮を上げ、プレイヤーたちへ攻撃を仕掛けるオララゴン。そして、対抗するかのように気合いを入れた雄たけびを上げるプレイヤーたちの戦況は今、一進一退の攻防を繰り広げていた。
形態を変え、大きなドラゴンとなったオララゴンの攻撃は変化しており、巨大な質量での攻撃から広範囲のブレス攻撃が多様化され、電撃や吹雪、暗闇などの様々な脅威が襲い掛かる…‥‥しかし、プレイヤーの方でもその多種多様な攻撃に対しての対抗手段はすでに生み出されており、防衛をする者たちには素早く対策を施して少しでもダメージを減らす。
だがしかし、流石最終レイドバトルのボスと言うだけあって、そう簡単に倒させてはくれないだろう。いや、むしろ今もなお、こちら側の敗北が決定するゲージが着実に貯まり続けており、完全復活の時が近くなったせいなのか攻撃の頻度がより上がったようにすら思えるだろう。
「こうなってくると、決定的な一撃が欲しい所か‥‥どちらも決定打に欠けるからこそ時間を稼がれているようにも思えてくるからな」
のんびりとゲームを進めたくはあるが、このレイドバトルの状況では流石にそうはいっておられず、勝敗を素早く決する手段を模索したくなる。
焦るのは禁物だが、このまま行くと確実に敗北が見えるからこそ、決定的な手段を手に入れたいのだ。
「もうちょっと、オララゴンについて調べるべきだったか?」
復活のための動きという事は、オララゴン自体にはきちんとした生前の姿があったのだろう。討伐され、命を散らす前のその時の話について調べていれば、倒す手段がそこで見つかったかもしれない。
強大な敵だからこそ、その名は後世にも響いていただろうし、だからこそ探るための手段は多くあったかもしれないのに、それを怠ったツケがここに来て響いたと僕は思っていた。
そもそもプレイヤーたちは、このアルケディア・オンラインを遊ぶものたちであって、元からこの世界の住人ではない。だからこそ、住人たちが仮にその脅威を知っていたとしても、どれだけのものなのか受け止める間隔が違って…‥‥
「‥‥‥いや、住人か。そこに希望があるか」
ふと、考えこんでいる中で僕はその事実に気が付いた。
自分達が良く知らぬのであれば、良く知っているような者たちに聞いた方が良いという事に。この戦場だからこそ、集まっているNPCも多いからこそ、彼らの中にオララゴンについて詳しく知っている者がいてもおかしくはない。
人間のNPCかドワーフのNPCか…‥‥いや、ここは長寿を連想できるというか、話の語り部としてのイメージも持つのであれば、長寿の種族のイメージもあるようなものたちに聞く方が望ましい。となると、条件に当てはまるのは…‥‥
「のじゃ?オララゴンの弱点とか何か知っていないかと?」
「ああ、プレイヤーではよく知らなくても、NPCの、それもエルフののじゃロリなら知っていそうだから聞いたが、どうだ?」
「残念ながら、わらわも詳しくは知らぬのじゃ。というか知っていたら、真っ先にその弱点めがけて攻撃するしのぅ」
後方の安全な方へ一旦下がり、舞によるバフを参加している全員へかけ続けていたのじゃロリことレティアに問いかけてみたが、残念ながら望んだ回答は得られなかった。
それもそうか。かなり大昔の事のようだし、いくらエルフたちが長く生きるイメージがあったとしても、彼女達が生きている今よりももっと昔のことだろう。
というかそもそも、言った通りにこののじゃロリだと、弱点を知るや否や意地悪く攻めそうなものだからなぁ‥‥‥そこに考えが至らなかった僕らがまだ未熟と言うべきか。
「意地悪く攻めそうだなとか、思っておらぬかのぅ?」
「いや、全然」
【シャゲシャゲ】
【ガウ】
【バルゥ】
【これっぽちも考えていないのデス】
「ならなぜ、全員目を合わせぬのじゃ?…‥‥まぁ、気にしている暇はないじゃろうな。奴が早めに倒れてくれねば、復活された瞬間わらわたちが死亡確定するしのぅ」
それもそうである。ここでオララゴンが復活して、プレイヤーたちが全員敗北としたら、残されるNPCたちだけではどうしようも無いだろう。
僕らとは違って一度の生しかないからこそ、ここで終わったらもう何も残らない。
「まぁ、どうにかする手段になるかもしれぬという事ぐらいは知っているのじゃがな」
「それを先に言えよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
なんか終わってもただでは終わらなそうな代表格は、こいつじゃないか?
とにもかくにも、話を聞くところによれば、オララゴンの強さ自体は昔から色々と言い伝えられており、その強大さは今とは比較にならなかったらしい。
今は復活途中のアンデッドに近い存在だからその力は大幅に減退しているそうだが、それを聞くと生前がどれぐらい強かったのか想像し切れないだろう。
だが、それだけの強さを持っていながらも、今の姿を見る限り一度は確実に倒されたのだろう。であれば、その倒された時のヒントさえあれば、どうにかできるかもしれない。
「奴は状況に合わせて、身体をその時に合わせて作り替えることが出来るそうじゃ。力が必要な時は筋力を増加させ、素早さが必要な時は太さを失わせ、重量が必要な時は膨らみ‥‥‥モンスターの進化よりも格段に上の形態変化を行うそうじゃ」
「となると、あの形態変化もその特徴だと?」
「そうじゃろう。まぁ、生前ほど力がないゆえに今の状態が限界なのじゃろうが…‥‥どうも変わらぬ場所があるようじゃ。おそらくそこに、倒す鍵があると言えるかのぅ」
オララゴンの脅威的な部分は、その作り変えられる身体という特徴。だがしかし、どれだけ作り替えたとしても必ず変わることが無い部分があり、そこが討伐するヒントになるかもしれない。
思い出してみよう。奴の姿の変化で、変わらない部分があったかという事を。
オオトカゲのような姿から、大きなドラゴンのような姿に変化した中で変わらなかった部分は‥‥‥
「いや、無いような?」
【シャゲェ?】
首を捻って考えてみるも、どこに変わらなかった部分があると言うべきなのか。
体躯がしっかり変わっているし、あちこち耐性が増大しているし、どこにも変化のない場所は無い。
【ふむ‥‥‥あ、ちょっと今、思いつきまシタ】
「何かわかったのか?」
【ハイ。外見上は、ほとんどすべて変化していると言って良いでしょウ。ですが、それはあくまでも外見だけですが、中身はどうなのでしょうカ?】
言われてみれば、そこは盲点だった。変化のない場所を捜そうにも、外見だけで見ても分かるわけがない。けれども、あの姿の変化の中で内臓がどうこうと言われても見る場所が無かった‥‥‥いや、違うな。
「そうか、頭の中か」
変化の中で血肉を得て大幅に変わったオララゴンだが、その中で変わっていない場所を考えるのであれば、視点から見えない場所が当たるかもしれない。
そう考えて色々と当てはめてみれば…‥‥可能性として一番大きいのは、オララゴンの頭の中身。いや、普通の生物は頭が弱点というか潰されたら否応なく命を落とすかもしれないが、ありきたりな部分だからこそ狙う意味はあるだろう。
「だったらすぐに攻めよう。残りゲージはもう少ないし、頭の中身へ直接大きなダメージを与えよう」
「しかしのぅ、おぬしらどうやる気じゃ?全部のプレイヤーが協力しても、あのタフなオララゴンの頭の中身へ大ダメージを与えられるのかのぅ?」
それが問題だが、やりようはあるはずだ。大きな力を一気に全体ではなく、本当に狙うべき一点を定めて、一点集中での強力な一撃を叩きこむ手段はあるはずだ。
となると、頭へ直接狙って攻撃できる手段とすれば…‥‥
「よし、セレア。槍を使え。貫通力がカギとなるかもしれん」
【バルルゥ!】
一撃において、一点集中させる攻撃手段としては、槍があげられるだろう。
けれども、貫通力を高めて入れたとしても、それが完全に貫ききれなかったら意味がない。ましてや、彼女一人の力だけで突き刺そうにも仕留め切れない可能性がある。
‥‥‥だがしかし、僕の職業は錬金術師、いや、上級職のモンスターアルケミストであり、即興での改造はやりやすい。
しかも、LMPのスキルで力を借りれば、より強い力を放てる可能性が大きいだろう。
「全員の力を借りると、思いっきり化け物じみた姿になりかねないけどね‥‥‥なんとかごまかせるように、ある程度変装しておくべきか」
後々他のプレイヤーに狙われても困るし、ここは盛大にやりつつバレないように姿を変える必要がある。
色々と考え、改造を施しつつ、残り僅かな時間に僕らは賭けるのであった‥‥‥‥
「なるほど、ご主人様はいざとなれば私から力を借りて、メイドになる事も可能なのですネ」
「いや、メイドにならないからね?」
むしろ、確実にやるべき場面でその姿になる意味はあるのか?
そもそも、使用人はテイムモンスターの類に入るのか?スキルの対象になるのか?
いや、例えなったとしても流石にメイド服を着ることは無い。やるとしても鎧ぐらい。
何にしても、決定的な一撃を決めなければ、このままでは非常に不味いのである。
次回に続く!!
‥‥‥さらっとボケ役になってきたな。ツッコミ業界の深刻な人材不足に、頭を悩ませる今日この頃である。




