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ver.5.1-68 ■■■の記録

―――それは、偶然の出来事だった。


 私は、何事にも楽しさを感じられないような…むかしから、感情が欠落しているような人だった。

 評判が良い、感動できる、喜劇で腹が痛くなる等々、様々な話を聞く中で実際に見たり聞いたりするものの、どれも私の心を動かす様なものはない。


 そんな中で、非常に優れた完成度だという評価を得ているアルケディア・オンラインというゲームを

試してみても、同じような結果になるはずだった。



 そう、それは運命の女神が引き合わせてくれたかのような…




「うわぁぁぁぁぁ!!ガチでやめろぉぉぉぉ!!」

「ふはははははは!!待つのデース可愛い弟よー!!」


…とある場所で偶然見かけた、どこにでもありそうな姉弟のじゃれあうような声。

 いや、その声色としては片方はそのままだが、逃げている弟らしい人のほうはガチ目の恐怖の声を上げている。


 何事かと思い、声の方向をみて…彼女は運命に出会った。



 物凄く威圧感のある恐竜に追われて、死に物狂いのような表情で逃げている男性。

 死はこのゲーム内だとデスペナルティ扱いであり、本当に亡くなるわけではないのに、捕まったら最後というような絶望感の染まった恐怖の表情。


 普通に恐竜に追いかけられたら、そんな顔になっても良いが…この時、何かを感じ取った。


 動かなかったはずの心が、ブルりと震えるような不思議な感覚。


 そのまま彼らがそばを通り過ぎて行ったが、いなくなっても余韻を残すようなこれは、何なのか。


「…もしかして、これが恋なのかな?」






 少女漫画等であるような、一目惚れ。

 もしかしたら今、まさにその通りのことが起きてしまったのかもしれない。


 パンを咥えて激突したり、助けられたり、惚れ薬を飲まされたりなどの様々な手段があるだろうが、恋に落ちるというのはある日突然来るものなのだろうか。


 本当に恋なのか、確かめたく思い、その日から彼女は変わった。



 どこにあの姉弟がいるのか調べたところ、割と簡単に見つかった。

 どうやら巷では噂になっているらしいプレイヤーのようで、逃げる弟を追いかける姉という光景は見慣れたものになっているらしい。


 けれども、何度見てもなぜかその弟の方の…恐怖に泣き叫ぶ顔や、反撃の手を出そうとしても無駄に終わる絶望の顔、用意をして返り討ちにしようとしてことごとく失敗する不幸の表情…その他様々なものを見て、心が踊り狂う。


 ああ、これは恋をしているのかもしれない。彼が好きなのだろう。

 あの恐怖の、絶望の、悲劇の、救いようのないその顔が。

 もしも、それが自分の身に怒れば同じような感情を味わうのかもしれないが…いや、それはそれで、面白いのかもしれない。


 ああ、気になる。どうやったら、手に入れられるのだろうか。

 何をすれば見ることが出来て、どのようにすれば私も感じ取れるのか。

 普通では手に入らないような、何かが欲しくて…気が付けば、こういうオンラインゲームではまずいこともある、現実の世界での彼についても調べていた。


 どこに住まい、何をしているのか。

 どのようにしてあの姉から逃げる手を模索し、そして無に帰してしまうのか。

 希望をもって挑み、絶望を味わい、立ち上がってはさらなる恐怖を植え付けられて…その行動がいとおしく、自分のものにしたい。


 



 気が付けば歯止めが利かなくなっており、写真や動画の容量もかなり圧迫されている。

 得るために使った手段は数知れなかったが、幸いなことに資金に関しては問題はない。


 なぜなら彼女は■■■で…現実でどのような手段もとれるし、このオンラインの世界でもやろうと思えばできるもの。



 

 そしてある時、せっかく集めたものが彼にばれてしまったが…ああ、秘密がばれてしまうこの感覚は、これはこれで難と気持ちがいいものなのだろうか。

 彼は気が付いていないのだろう。私が単純に、物事をさらけ出すわけがないことを。

 秘密に見せかけた、私の欲望を満たすだけの道に沿って動いているだけだったというのに、見事に思い通りに動いて物凄く嬉しい、面白い、可愛い、楽しい楽シイタノシイタノシイ…!!





 ああ、いつしかこの思いは溢れすぎて、身を堕としてしまっただろう。

 けれども、その思いがあるからこそ、私はどのような場所からも迫り、味わうことが出来る。


 監獄なんぞ、意味をなさない。そこに彼がいるのであれば、どのようなところであろうとも0距離で迫ることが出来る。


…だからこそ、邪魔するものはご退場を願おうか。

 ううん、邪魔をするならそれはそれで、別に良い。


 隔てられるからこそ、拒絶の壁が高いからこそ、より得られるものは大きくなる。

 たとえ相手が自分とは違った方向性の欲望と変態性を身に秘めていたとしても、それは物事を美味しくするためのスパイスにしかならないだろう。



「さぁ、だからどんどん抵抗して頂戴!!私がより心を躍らせることができるように!!」


 心から叫ばせてもらおう。私が私として、動けるこの喜びを。

 彼が折角抵抗するために、色々と用意してくれたのだろうけれども、これもまた私の心を震わせ、満たせてくれる。


 何やら神なる存在もいるようだが…ええ、問題はないでしょう。

 相手が神だろうと悪魔だろうと、障害となるのならばゆっくりと味合わせていただきましょう。


 それらは全て、私が持つ愛を、これでもかと燃え上がらせるだけの燃料に過ぎないのだからね…



「ああ、愛って、恋って、素晴らしいものねぇぇぇぇ!!」

何がそれを動かすのか

理解したところで、どうにかなるものではない

どのようなものでも人は…

次回に続く!!



…現実であっても、ゆがまされるもの

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