ver.5.1-47 流れに任せつつも
…アルケディア・オンラインの宇宙フィールドとは異なり、流石に現実の世界の宇宙空間は、通常の技術であれば移動するのに相当な時間がかかるだろう。
だからこそ、有人ではない観測衛星の類を除けば今の人類はまだ太陽系から出ることはできておらず、近場でも月や火星を目指すことが多いのだが…
「…それなのに、修理終えたばかりというのに、たったの3分程度でもう冥王星のあたりに到達しているとか、凄まじい速度だよね」
「なんというか、ここまで来るのに本当は相当な時間がかかると思うのに…無茶苦茶だよ」
【それが、私の改造したグレイ号の自慢の航行速度ですからネ】
僕とミーちゃんのつぶやきに対して、普段よりちょっとだけ自慢げな声でロロがそう答える。
月を出発してからすぐに、航行期間を短縮するために小ワープを行ったのだが、こうやって現実世界で行われると、今更ながらどれだけの改造を施したのかと驚愕させられる。
いや、そもそも魔導船だったといっても、グレイ号の一番最初の形が帆船だったはずだしな…何をどう間違えればこのような宇宙戦艦にまで改造できるのかが分からない。
それはともかくとして今、ハルたちは冥王星のあたりにまで到達していた。
どうやらこの辺りに、アルケディア・オンラインの世界に帰還できる特殊なルートが存在しているというのである。
【存在というべきか、軌道近くに設置されていて…ああ、通常の目視では確認できないようになっていますので、モニターに特殊カメラで映像を映し出しマス】
ぴぽぺっとパネルを操作し、モニターを見れば、そこには確かに普通の視覚では捉えられないような、何か靄の様なものが存在していることを確認することが出来た。
ロロ曰く、あの靄の様なものは空間が少々特殊なことになっているがゆえに視認できるようにすると細かい部分でずれて見えるようになっており、靄のように見えるようになっているらしい。
【あの空間に進入して先に進めば、アルケディア・オンラインの宇宙空へ戻れマス。とはいえ、実はあの内部、凄まじい迷路になってまして…下手に迷い込めば、永遠に出られなくなりマス】
「普通にやばい場所になってないかなソレ!?」
【サルガッソー海域とでもいえば良いデス。宇宙にいくつか点在しているそうですが、その一つという認識で良いでショウ】
「…船の墓場って話がなかったっけ」
何やら物騒な話も聞こえてきたが、一応、内部情報がしっかりと調査されており、地図通りに進めば迷うこともないらしい。
むしろ、たまに何かが迷い込むことがあるそうで、元の宇宙まで送るための巡視船なども入っているようだ。
「そんなのがいるって…え、これもしかして運営会社の管理下なの?管理できる運営って、一体何だ…?」
【残念ながら、そのあたりは使用人にはおりてこない機密情報のため、答えようがないのデス。今回利用するのは、特例の様なものですし、細かいことを言われても無理デス】
運営会社がここを管理しているのなら、何を目的としているのか。
また一つ謎が増えたような気がしたが、知ることはできなさそうだ。
今はとにかく、帰還のほうに意識を向けたほうが良いだろう。
【帰還用航路、セット完了。あとはグレイ号の自動操縦で到達可能デス】
「それで頼むよ」
航路を再確認し、船に任せていく。
地図を見ながら進めることも可能だが、自動操縦のほうが楽である。
まぁ、万が一の事態に備えてすぐに手動で操作できるようにもしており、道を外れたとしても地図があるので変なことにはならないだろう。
【このまま入り込み、進んで…およそ10分ほどで、通常アルケディア・オンライン宇宙空間へ入れるはずデス】
「意外に短いね」
【寄り道などなければ、早く進めるようデス】
迷い込むような空間の中で、寄り道をするような場所があるのだろうか。
疑問に思ったが、早く帰れるに越したことはないし、さっさと船に動いてもらう。
とりあえずこれで、後は何事もなく通常のオンラインの世界に戻れるのであれば良いのだと思うのであった…
「…いや、通常空間って言うことは、他にもあるの?」
【ありますヨ。まだ未実装ですが、そちらは今後のアップデートで予定されているようデス】
―――まだ見ぬアップデートの情報を聞き、どういうものになるのかと今から興味を持つハルたち。
そんな彼らが知らない場所で、蠢くものがあった。
【-----】
どこともわからない、謎の空間。
いつの間にか迷い込み、出られなくなってしまった場所。
ゆえに、無駄なエネルギーの消耗を避け、自身の存在を希釈して漂い続けていたのだが…強大なエネルギーを感知し、再起動した。
自身にインプットされているのは、ただ実験を行うことのみ。
何度も繰り返し行い、データを送信し、それらはある場所へ集められていく。
どのように利用されているのか、それに搭載された人工知能は知る由もない。
いや、知る意味もないので、淡々と与えられた命令をこなすだけ。
だからこそ、それ以外の無駄な行動を行う必要はないのだが…状況としては今は回収されるまで自身の状態を保つためにも、そのエネルギーを奪うことを判断し、ゆっくりと動き始める。
場所の状態が、通常の空間とは異なるようだが、搭載されている推進機関で動く分には支障がなく、そのまま進み始める。
感知する大きなエネルギーの中にも、何やら隠れているものがあるようだが、どちらでも関係がない。
単純に、今後の活動のために動ける分を多く確保できるのであれば、それでいい。
やや短絡的な思考のようにも思えるが、インプットされた命令以外のことを実行しないようにされていたために、インプット外のモノは単純なものとなっていたが、問題はないだろう。
ソレは未知の場所を進みつつ、感知したエネルギー源へ向けて、動くのであった…
トラブルも何事もなく、無事に帰還したかった
だがしかし、そうは問屋が卸さないと、どこかで運命の神でも見ていたのだろうか
迫りくる脅威が見えてくるのは、もうすぐ…
次回に続く!!
…さて、何やら厄介なものが見えてきた模様




