ver.1.1-32話 苦労してこそ、喜びもひとしお
【バルヒヒヒーン!!】
勢いよく雄たけびを上げながら、輝く床を疾走するセレア。チャリオットにそこそこの人数が乗車しているけれども、重さに対してものともせずに速度を落とさず、一気に先へ行く。
ずだだだっとそうこうするたびに後方に砂塵が舞い、床が砕けっ散っているのを見ると相当力強く踏み込んでいるのだろう。それでもチャリオットの方に負担もかからないようになっているのを見ると、こちら側も考えてこれでもある程度の加減をしているのかもしれない。
バシィィン!!バシィィィン!!
【ピゲェェェェ!?】
【ポンプワァァァ!?】
そしてついでのように、轢かれていくモンスターたちの断末魔に、思わず手を合わせてしまう。チャリオットの効果なのか、轢ける対象となるモンスターが自動的に前に出るようで、積極的にどんどんやって来て、もしもドロップ品が自動収納されなかったり絶命して肉体が消えなければ、今頃後ろを振り返るのが非常に怖い光景になっていただろう。
「そしてかなり楽に進めるが‥‥‥これはもしかすると、移動手段としての革命が起きるかもしれん。ハルさんがテイムしたシャドーホース以外にも馬系統のモンスターはいるだろうし、テイムして同じ様な方法を試すやつもいるだろう」
「そこまでのものかな?」
「ああ。移動手段は徒歩や馬車もあるが、徒歩が面倒な人もいるのだが、馬車では低確率で盗賊の襲撃が発生するからな‥‥‥そう言う人たちに対して、かなりの需要を産むだろう」
なお、ドロップ品の品質や得られる経験値自体は、そこまで高いものでも無かったりする。流石にこれが高品質に大量経験値獲得だとバランスが崩壊するから考えての調整がされているのだろうなぁ。
とにもかくにもふっ飛ばして突き進みながら先へ行き、先ほどの戦闘していた場所も風と共に過ぎ去って、いよいよ最奥部へ到達した。
ここまでの道中でいくつかの鉱石を得ているけれども、それでもドラメタルとやらは入手できていないので、ここでようやく手に入る可能性が高いだろう。
だがしかし、そうやすやすと手に入れさせないというかのように、これまでの道中ではなかった大きな扉がそびえたっていた…‥‥いや、違うな?
【ドブラァァァァァ!!】
「「扉その物がモンスターかよ!?」」
―――――
『アイアンドォア』
ダンジョンボスがいるフロア目前と見せかけ、実は扉その物がモンスターとなっている存在。普段は壁と一体化して普通の扉のように見せかけているのだが、人が接近すると反応して暴れ出す。
ミミックのように擬態して待ち伏せるようにも見えるが、接近と共に暴れ出すことから待ち伏せの習性はもっておらず、なぜそのような見た目をしているのかは不明である。
一説では、モンスターが扉と何らかの要因で合体してしまい、戻れなくなってしまった悲しき存在とも言われている。
―――――
扉の先に待ち受けているパターンではなく、扉その物がモンスターとは流石に予想外だった。流石アルケディア・オンライン、斜めの上の方向からやってくるとは思わない。
とはいえ、ただのネタ的な存在でもないようで、ガッタンガッタンと体を揺らしながらアイアンドォアはこちらの方に体を向け、その扉を開ける。
ドォォォォォン!!
【バルヒヒヒィン!!】
何かを察知したのか素早くセレアが動いて回避すれば、先ほどまでいた場所の地面が抉れ、何もかもが吹っ飛んでいた。
「ドアの正面口から、衝撃波かよ!?」
「しかも範囲が結構でかいぞ!!」
大きな扉なだけに、射程範囲はかなり広いようで、僕らは回避をしつつもギリギリのところで攻められている。
真正面に立てば衝撃波を食らわせ、ならば真横ならと思えば全開になって扉を側面からぶつけてこようと突撃される。
爆裂薬などを試してみても、その扉の中身は無いようで、通過して効果を成さない。
【ドブラァァァァアァ!!】
「くそっ、全然攻撃が通用しねぇ!!」
「ドアその物が本体かもしれないけど、当てにくいな!!」
本体は大きな扉だけれども、真横に向かれると結構薄く、攻撃が当てづらい。後方から回って狙っても開閉して素通りさせ、接近戦を試みても後方へ下がったりして全然直撃させてくれない。
一応、攻撃自体は基本的に衝撃波の方に頼っているようで、回避にさえ専念すればダメージをあまり負わないけれども、それでも周囲の地形が荒れてきて、チャリオットではきつくなってくる。
‥‥‥このままだと走行不能なほどになってしまい、全滅の可能性もある。けれども、黙ってやられる気もないし、ちょうど回復してきた頃合いだ。
「マリー、リン!!こちらがあいつの攻撃を誘うから、挟み撃ちで攻撃を試みろ!!そっちに攻撃が向かうなら、こちら側から攻撃に転じるぞ!!」
【シャゲェェェェ!!】
【ガウガーウ!!】
状態異常から回復し、ようやく本来の調子に戻った病み上がりとは言え、元気よく返答してチャリオットから二体は飛び降りる。
【ドブラァァァ!!ドブラァァァ!!】
【シャゲシャゲ!!】
【ガウガウ!!】
こちらに攻撃をしてきている間に、素早く動いて一気にアイアンドォアへ接近し、攻撃を仕掛け始める。
相手が薄かったり攻撃を素通りさせて来ようとしてくるようだが、そう来るのであれば広範囲で攻めればいいだけの話。
【シャゲェェェェ!!】
ぶぉぉぉぉんっと思いっきり長い蛇の身体をしならせ、体当たりを仕掛けるマリー。状態異常攻撃が得意ではあるが、こうやって物理的な攻撃面でもやりようはあり、鞭のようにビシバシと当てまくる。
【ガウガウガウガウ!!】
そしてリンの方も蹴りを連発し、直撃しないのであれば周囲の地面を飛ばせばいいと言わんばかりに踏み砕きまくり、その破片を直撃させていく。
挟み撃ちの攻撃手段には回避が難しいようで、着実にダメージは積み重なっていく。
【ドブラァァァ!!】
「っと、標的を変えたようだな」
「でもそしたら、今度はこっちの番だ!!」
【バルヒヒヒヒヒヒーン!!】
二体の攻撃が脅威と感じ取ったのか、攻撃対象を変えたようだが、それならそれでこっちが攻撃する番となるだけだ。
爆裂薬も道中の爆走の合間にたっぷり作っており、威力が少し落ちるが広範囲爆撃を狙っていく。
中三病さんの方もバトルアックスを当てにくかったが、それでも重い攻撃なのでセレアの疾走で当たる位置へ向かって進み、速度を攻撃に乗せて直撃させていく。
【ドブドブドブラァアァ!!】
あっちを狙えばこっちが攻撃し、こっちを狙えばあっちが攻撃し、いたちごっこやもぐらたたきのようなコンビネーションにアイアンドォアが怒りの咆哮を挙げようとも、それはもはや何の意味もなさない。
正直言って、あのデュラハン‥‥‥名もなき騎士王の方がはるかに強敵だったせいで、こんな単純な攻め方ひとつで翻弄できるぶん、攻撃力がいくら高くとも苦戦することはもうない。
じわりじわりと執拗に攻撃し、そしてついにその時は訪れる。
がばがばと開閉していたドアの速度も遅くなり、徐々に衝撃波の威力も低下していき、回避もどんどん甘くなって直撃しやすくなる。
ならば、ここが好機と見るべきだろう。
「今だ、全員一気にでかいのいくぞ!!」
「おお!!」
【シャゲェェェ!!】
【ガァァァウ!!】
【バルヒィィィィン!!】
特大サイズの爆裂薬に、痛恨の一撃のバトルアックス。転がっているだけの氷塊を武器がわりに叩きつけ、摩擦熱で燃え上がった蹴りを突きつけ、体当たりでふっ飛ばす。
各自の持てる攻撃の一撃が次々と決まっていき、攻撃後にはアイアンドォアの扉がふっ飛ばされて枠組みしか残らず…‥‥
【ド、ドブ、ラァァァァァ!!】
断末魔を上げ、バァァァンッと一気に倒れ込む。
そして倒れるや否や、キラキラとした輝きと共に消え失せ…‥‥後には、巨大な鉱石の塊が落ちていた。
―――――
『ドラメタル原石』
アイアンドォアのドロップ品でありつつ、高純度でドラメタルが含有されている原石。加工次第では大量のドラメタルの確保が可能であり、これ一つだけでもかなりの高値で売買が可能である。
―――――
「よし!!ドロップしたぜぇぇぇ!!」
「発掘じゃなくてドロップ品だけど、手に入れたことは変わりない!!」
【シャゲェェ!!】
【ガウガーウガウ!!】
【バルヒヒヒィィィィン!!】
ようやく苦労して手に入れたドラメタル鉱石に、全員で歓喜の声を上げる。
非常に苦労させられたが、それでもようやく僕らは目当てのものを手に入れることに成功したのであった‥‥‥‥
「というかハルさん、さっきマリーが武器に使っていた氷塊、どこから持ってきた?」
「あれ、そう言えばどこからといえば…‥‥あ」
…‥‥運営からの凍結処理みたいなものだったけど、見事に割れているな。そしてついでに言えば、どうしよう、この漫画表現でもめったに見ないような滅茶苦茶でかいタンコブ…‥‥
「…‥‥よし、見ないふりして元に戻すか」
「戻して大丈夫なのか、コレ?というか、戻せるものなのか?」
さらっとヤッチャッタ気がするが、見て見ぬふりをするか。
そう、これは凍結処理による改善作業の不手際という事で、ごまかせないか。
多分無理かもしれないが、一応討伐する功績を立ててくれたことだけでも称えるべきか…‥
次回に続く!!
‥‥‥文字通りの凍結処理を壊す一撃を受けて、大丈夫なのかコレ?おかしなことにならないよね?




