ver.4.2-0.6 ミステリートレイン
二日目のミステリートレインも、朝風呂に入ってさっぱりして、のんびりと過ごしていく。
だが、目的地までずっと走りっぱなしってわけでもなく、お風呂の温泉の入れ替えや、燃料補給などのために駅に立ち寄りもするのだが…
ミョ~ンミョンミョ~ン♪
ツッキュツキュボーピツキュツキュビョーシ♪
「…聞いたこともない音色のセミが鳴く、滅茶苦茶否山中の駅かぁ」
「温泉が必要だから、補給する場所のイメージとしては間違ってないのかもしれないけど…どこだろう、ここ」
停車中、乗客は自由に駅構内を歩き回ることができるようだが、本日停車した駅はどこのド田舎だというほどの閑散としまくった無人駅だった。
うっそうとした森の中であり、駅の周囲に人気はない。
変わったところといえば、駅に巨大なタンクがいくつか設置されており、各タンクからそれぞれホースが伸びて車両へ中身を注入しているぐらいだろうか。
「というか、温泉以外のもあるのだろうか」
「飲料水なんかも補給しているようだけど、すごい量だな…」
ゴッゴッゴッゴと勢いよく注がれており、停車時間としては15分ほどと長い様な短い様な時間である。
田舎の駅だと短め、都会の駅だと長めに感じるが…中途半端な感じがするだろう。
まぁ、そんなことは気にせずに迷子にならない程度に周辺を見て回るが、本当に何もないド田舎にしか思えない。
むしろ、ここに駅を設置していても誰が利用するのだろうかと思えるレベルである。
「あ、普通に列車の時刻表が掲載されて…うわぁ」
「どうしたの、春?」
「ミーちゃん、ちょっとこれ見て」
「どれどれ…うそぉ、次の列車までの感覚が1年単位…」
1時間とかはまだ分かるが、一年後なのは長いと思う。
ここで列車を逃せば来年まで来ないとか、ド田舎すぎるレベルでもほどはあるような…
「あ、でも私の知っているところだと、10年単位だったのもあるからまだましな方か?」
「いや、十分がないと思うよ!?10年単位ってその鉄道会社潰れると思うんだけど!!」
より上をいく鉄道があったのか。
そう思って問いかけたが、ミーちゃん曰く普通の列車ではないようだ。
「まずあれ、列車じゃなくて…確か、人力車だったような」
「人力車で10年単位な時点でおかしいんだけど!!」
「やる人、吸血鬼なんだよ」
「…え?」
かくかくしかじかと説明を受ければ、趣味で長期スパンの人力車を行う吸血鬼の人がいるらしい。
どういう趣味なのかと思ったが、どうも年一回ぐらいしか活動できないほどの超低血圧…血圧の問題で済ませていいのかと思うレベルだが、その活動できるときにすっごいハイテンションになって、滅茶苦茶に暴れてしまう癖があったそうだ。
本人に人を害する意図はないが、それでもそのハイテンションになってしまう時はすさまじい動きをしてしまうようで、ちょっとした天災になるらしい。
そんなのが同族に居たら風評被害やどさくさに紛れて退治してくる輩の巻き添えになりかねないということで、大昔に吸血界隈で話し合われた結果…人力車をやらせようという結論になったそうだ。
「ああ、普通に観光地にあるような1~2人乗せるタイプじゃなくて、100人単位で乗れる特注品でやるらしいよ」
「団体客専用吸血鬼の人力車ってどこからツッコミを入れれば良いのやら…」
しかも、無駄にパワフルに動けるからどんな悪路でも制覇してしまうようで、めったに行けないような秘境の地まであっという間に行けるから、かなりの人気が出たそうだ。
おかげで100年先まで予約で埋まっており…ちょうど去年がその動けるときがあったそうで、その時は吸血界隈の希望者限定慰安旅行というもので集まり、利用したという。
「アレはすごかった…そう、マッハを超えそうな速度なのに事故ることもなく、滝を駆け上ったり崖を垂直ぎりぎりで下ったり、ちょっとしたジェットコースターみたいな感覚も味わされたけど、ゆく先々が並大抵の人ではいけないような秘境ばかりで…印象に残ったなぁ」
ぐっとこぶしを握り締め、そう力強く語るミーちゃん。
気に入ったようだが、次に乗れるまでまだまだ長いのが悔しいようだ。
「もっと早く、知っていればよかったと思うよ…ふふ、10年後にでも春と一緒に行けたら予約しようと思ったけど…100年先まで埋まっているから、最短でできたとしても110年後…普通の人間なら死んでいるよね」
「そりゃ、僕自身普通の人間だし…」
そこまで長く待たされてどうにかできるの、本当に人外でしかないだろう。
なお、そんな人外たちでも長期スパンの波は厳しいようで、意外にも人並みの寿命を持つ人もおおいようだ。
そう考えると、そんなレベルの奴に乗れるのは本当に長生きの人で…ん?
「…そういえば、ミーちゃんの場合はどうなの?」
「何が?」
「いや、100年過ぎても生きる気みたいだけど、真祖ってそこまで生きれるの?」
「可能って聞いているよ。一応、吸血鬼の上位のような…それこそ、不老不死レベルって言うからね。私の聞いたところだと、100年どころか千年以上生きている真祖もいるっていうしね」
ふふっと穏やかに笑いながら、そう答えるミーちゃん。
やっぱり人外だからこそ、人外じみた寿命なのかと思うと同時に…ふと、気が付かされた。
そっか、そこまで長生きするけど、その先に僕は死んでいるかもしれないのか。
流石に生身の人間が100年以上生きるのは厳しいし、頑張ってもよぼよぼのおじいちゃんになって、動けなくなっているだろう。
そんな中でもミーちゃんは昔と変わらず意気揚々と過ごして…いつか、別れるかもしれないのか。
「…それってなんか、寂しいな」
「ん?…ああ、私より春が遠い将来、先に逝ってしまうかもってことか…うん、寂しいね」
僕の考えていることが読めたのか、あるいはもっと前からそのことに気が付いているのか、ミーちゃんもどことなく寂しそうな顔になる。
そうだよ、ミーちゃんのほうがもっと長く生きるのであれば、より別れを経験することになるだろう。
親しい相手ほど別れの時がつらく…それを何度も繰り返すのは、どれだけつらいことなのだろうか。
「でもね、春。それでも私は大丈夫だよ」
「どうして?」
「知り合いの苦労人に聞いたけど…死での別れはほんのひと時で、またどこか、長い年月をかけて巡り合える時があるって言うからね。もしも春がぽっくり逝っても、また再び巡り合えたら一緒に過ごそうって決めているからね。別れは必然としてあるけれども…出会いもその分ある。ならば、悲しんでばかりじゃなくてずっと楽しんで、その人との時間を過ごせばいいってわかっているからね!」
さっきまでの寂しい顔から一転し、きらきらとした明るい顔でそう口にするミーちゃん。
彼女はもう、わかっている。だからこそ、悲しんでばかりではなく先を見て楽しもうって考えに至ったのだろう。
ああ、そうだよ、ミーちゃんはそういう人なんだよ。
たとえ別れがあって悲しんだとしても、また次を見てより楽しいことをして過ごせる、強い人だしね。
そう思うと、どこか安心するような気持になって、僕も寂しい気持ちがどこかへ飛んで行ったような気がしたのであった…
「そういえば、吸血鬼って眷属とか作って一緒に過ごしたりするっていうけど、真祖であるミーちゃんもやらないの?」
「あー…やろうと思えばできるけど、中々長い時を過ごそうって眷属っていないんだよね…やったとしても、後で後悔して結局殺し合いになって、お互いに亡くなった例もあるんだよ。相性というか、なんというか、そのあたりが難しいんだよね」
「そういうものなのか」
「でも、生きてさえすれば幅広くできるって聞くよ。同じ人間や、定番の犬や猫、蝙蝠なんかも可能らしいけれども、人というか吸血種族によってはシロクマやペンギン、牛、馬、巨大怪鳥ギョギョギョギョゲラス、ダイオウイカ、軍隊アリとか眷属にしているって話もあるよ」
「後半が明らかにおかしいんだけど。いや、ダイオウイカはまだギリギリか…?」
…巨大怪鳥ギョギョギョギョゲラスって何だろう。滅茶苦茶言いにくいし、魚っぽい様な気がするのに怪鳥って言うなら鳥なのだろうか。
巨大怪鳥に関してどういうものなのか、春がミントに来ていたそのころ。
とある大企業は今、大騒動が起きていた。
「うぉおおおおおおお!!嘘だろぉぉぉ!!」
「大変です大変です大変です!!各地に送った部隊が次々に全滅しています!!」
「それどころか、相手にばれたのかこちらの方にハッキング侵入があり!!」
「ファイヤーウォールや逆ハックでどうにかしてますが全然もちませぇぇん!!」
「…どうして、こうなった」
大騒ぎになっている社内を見て、そうつぶやくのはアロンガスフロンティアのトップであった副社長のアロンガス。
社長じゃないのにトップの立場にいるのは、会社の経営方針を自身が様々な企業から盗んだデータを基にして生みだしたスーパーコンピューターを上に置いて経営を任せているからであり、生みの親と設立者ということで、副社長の立場に居ながらも、事実上のトップを牛耳っていた人だった。
その生みだしたコンピューターが、経営方針を次々と打ち立てていく中であった、メーゼ・イワド社によって作られたVRMMOのアルケディア・オンラインで神系スキルを所持している人を誘拐し、自身の手駒にすること。
その方法は非合法な部分が明らかに多かったが、これまでの経営の中で間違えることがなかったその選択に全員が従い、先日情報を抜き取ることに成功したのでうまくいっていると思っていたのだが…わずかな間に一気に突き止められているようで猛反撃を受けていた。
「ええい、社長はどうした!!まだこの状況に対して動いていないのか!!」
「そ、それが社長によればまだ想定内だということで、一つも指示がなく…」
「うるさい!!ならば生みだしたわたしが直々に聞いてくるぞ!!」
「聞いたのあんたなのにうるさいって何ですか副社長!!」
理不尽な応答がありつつも、アロンガスはずかずかと混乱する社内を突き進み、社長室…この会社の経営方針を生みだしているコンピューターの部屋に入った。
「社長、いや、グレードデンジャラスマネジメントコンピューター略して『グデンマネ』!!どうしたんだこの騒ぎは!!お前の指示通りに社員たちが動いたというに、今、すごい大混乱に陥っているんだぞ!!」
『---返答。パパン、落チツイテ』
『マタ、ハゲル。育毛、無理』
「デュアルシステムで二人になって、そんなことを言われて落ち着けるかぁぁ!!まだふさふさのアフロにもなれる量だぞぉおおおお!!」
『『半分偽物~、取レバハゲェ』』
問いかけて早々のムカつく返答に、思わず隠している残り少ない髪の毛が爆散しそうなほど激怒しかけたが、どうにか落ち着くアロンガス。
ここで暴れたとしても意味がないし、万が一にでも壊れてしまっては余計に不味いことになるのは理解しているからだ。
「グデンマネ、お前たちが出した指示通りに動いていたが、車内は大混乱に陥っているぞ?相手の反撃を考えなかったわけではないが、この状況に陥ることは想定していなかったのか?」
『回答、問題無シ』
『混乱、承知。演算回路、正常、想定内』
「どういうことだ?まさか、この大混乱も想定内ってことなのか?」
『パパン、正解』
『ママン出テイクホド察シ悪イノニ、察シ良イネ』
「…いちいち人をおちょくらないと、話を進められんのか」
『学習、ボケツッコミ、成長ノ糧』
『私タチボケ、パパン過労ツッコミ星人』
「どんな学習だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
冗談はさておきということで、ツッコミが流されたところでアロンガスは社長グデンマネの説明に耳を傾ける。
どうやら襲うことを計画して、この騒動が起きてもグデンマネの計算にあるようなのだ。
『反撃、必然。混乱、当然』
『パパン、臭イ。消臭、必須同様』
『ナノデ、コノ状況、想定シテイル』
『シテイナカッタラ、何モデキナイ。パパンノヨウニ、ママンヲコキツカッテ、デテイカレテ、失ウノワカリキッタコト』
『反撃想定内、犠牲了承』
『混乱デテモ、計画狂ワナイ』
「どういうことだ?」
『『神系スキル所持者、手駒計画。表向キデ本当ノモノデハナイ』』
「…は?」
その回答を聞き、アロンガスは耳を疑った。
狙ったのはこのコンピューターの指示によるものだったが、そんな話は聞いていないのだ。
『神系スキル、便利。人知デ計リ知レナイ未知ノ力、素晴ラシイ』
『ケレドモ、ソコニ手ヲ出セバ、相手動ク』
『事前理解サレ、対策サレルノワカッテイル』
『ダカラ、ソレヲ利用シタ』
『『計画通リ、彼ラ動カシタ。オカゲデ、想定内デ動ケル』』
「おい、何を動かした?そもそも、目的ってな、」
…言葉を続けようとした。何を目的として動いているのかと問おうと。
しかし、その次の言葉を言おうとした瞬間、アロンガスの意識は突然失せた。
『パパン、遅イ。速度不良。夢、切レタ』
『無理モナイ。浮カベテ長時間経過、劣化当然』
『他、落チ気味。マトメテ廃棄処分?』
『限界マデ、利用。資源有効活用、人ノ頭脳、貴重』
アロンガスの意識の外で、こぽこぽと水が循環して栄養を補充する音が鳴り響く中、何もないどこか深い闇で、そうコンピューターたちが会話している声が聞こえてくる。
けれども、それにどのような感情も抱かずに、その頭はただ彼らの補助をしていくだけの部品とされ、声は闇の中を過ぎ去っていく。
『計画順調、続ケテドウスル?』
『ターゲット、移動確認。相手大事ナモノ動カスツイデニ一緒、ワカッテイル』
『常人、追イツケナイケド…技術、十分。空間掘削強襲車、イツデモドーゾ』
『ナラ、次ノ段階ヘ定刻通リ出発進行!!』
『『ウシナワレヌ体、求メテ!!』』
声だけを聴けば、まるで仲良く喋っている兄弟や姉妹のように思えるだろう。
けれども、中身はそうではなく…ここでお互いに話していても、結局は同じ存在なので、一つに過ぎない。
そんなことはどうでも良いと既に割り切りつつ…グデンマネは次の一手へ踏み出すのであった。
『交換部品、ドウスル?』
『医療技術、進化完了。抜キ取リヤスクナッテイルケド、人材不足』
『ソコハドコモ、世知辛イ』
『イッソ、ソレ用ノ技術、獲得スル?』
『『イイネ、ソレ!!』』
いつかは来る別れ。でも、彼女はわかっている。
だからこそ、大丈夫だと思える半面、ずっと一緒じゃないと思うと寂しく思うところもある
今は大丈夫だが、どうなっていくのか…
次回に続く!!
…やばい、筆が乗ったのは良いけど、ちょっと危険な企業になり過ぎた




