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ver.1.1-29話 知る事もないけれども、今はただ…

【ウボロォォォォン!!】

 

 咆哮を上げ、自身の士気を高めながらドリルデッド・デュラハンは周囲を見渡し、そして生者の気配を感じ取る。見えぬように煙幕を捲かれたようだが、光を失っているからこそ周囲の状況は心の目で探り取ることができ、多少の工作は無意味である。

 そう思い、デュラハンは自身の執念と共に歩む愛馬を走らせ、感じ取った生者の気配を頼りに先を急がせる。


 逃げられないようにしている工作を自身も行ったが、それでも油断せずに気配を感じつつ、相手の動きを心眼で見透かしていく。


―――投擲、3。直撃、否。


 投げつける動作を捉え、回避を行う。何を投げているのかまでは不明だが、炸裂すれば先ほどの煙幕同様に厄介なものになるのは間違いないと感じ取る。

 ならば、回避を行うだけでいいと思ったのだが、その行動は誤りであるとすぐに理解した。



ドカァン!!ドカァァン!!ドッカァァァン!!

【バルヒヒヒーン!?】

【ウボロアァァ!?】


 直撃していないはずなのに、突然全身に感じ取れる強烈な衝撃。痛みはすでに失っているはずなのに、それでも攻撃されたということは実感できた。

 とはいえ、どういうことなのか。確かに自分は回避をしたはずなのに、空中でいきなり何かを爆破したようである。いや、違う。突然の爆発ではなく、何かの細工がなされているのだろう。

 自身の回避を読んでの、内部に何かの破片を仕込んだ爆発物を確実に当てるための、ほんのわずかな小細工。けれども、その読みは一つ間違えれば効果を発揮せず、読むには回避しつつもどれだけの距離にいるのかなどを計算しなければならない。

 狩られる立場にいるからこそ、狩る立場の読みを上回り、どうにかする手段を練っている様子。

 そしてそれは、逃げられない状況にしているからこそ、逃げではなく攻めの姿勢のようであり、それだけ真剣に自分たちを相手にしているのだとデュラハンは感じ取る。




【ウボロォ、ウボロロロロロロロロン!】


 咆哮を上げ、今の爆発での驚愕はすでに取り除かれた。だが、相手は同じような手が通用しないと分かっているだろう。

 そしてこちら側の読みを探り、戦いを選んだその意志に、思わずデュラハンの馬上槍の先に付く首は、騎士の兜をかぶっていながらも口角を上げた。

 嬉しいのだ、ただ生者を狩るだけになっていた己に対して、抵抗を見せてくれる様が。今までにいなかったわけではないのだが、それでもこうやって面と向かって戦ってくれている様子には、残る騎士としての心が興味を惹かれ、闘志を燃え上がらせる。



【ウボロォォォォォン!!】


 ぎゅいいいいんっと回転する馬上槍(ドリル)を回転させ、風を生み出させるデュラハン。先ほどのような小細工は、この手に入れている風を起こし、大地を突き破る力で吹き飛ばせばいいだけという対策が既に構築された。

 それを相手は次にどう読むのかを考え、そして愛馬と共に再び駆け抜ける。

 さぁ、次はどう出るか。回避を誘う攻撃はこの槍によって吹き飛ばし、効果を失わせている。かと言って、まともに正面から受け止める事もできないだろう。




 けれども、その考えを相手は読んだのか、思わぬ動きの方に出た


「『水コンボ』と『水の加護』!!」


 相手の声が聞こえ、どの様な手段を取ったのか心眼で見ると、何やら相手の手に液体のようなものが纏わりついている様子がうかがえた。

 聞こえて来た名称から察するに、水属性の攻撃なのだろうが、それをどう生かすのか?爆発物に対して使用しても、威力を水で包み込んでしまって効果を発揮しないように思える。


【ウボロォォォォォン!】


 どう出るのかは少し読めないが、それでも何かを仕掛けてくるのは間違いないだろう。ならば、その手の内を明かしてもらい、どの様な動きをするのか読めばいい。

 そう思い、デュラハンは風を起こしながら槍を振るえば、驚くこことに生者は避けるそぶりを見せない。真正面から突然液体をかけられつつも、それがただの水であることは確認できている。

 諦めてその命を刈り取らせるのか‥‥‥‥そう思った、次の瞬間である。



ズルべシャァァ!!

【バルヒヒヒヒ!?】

【ウボロォ!?ウボォォォン!】


 突然、駆け抜けていた愛馬が滑り、騎乗していたデュラハンはバランスを崩した。この辺りの様子は綺麗に整えられた床がある程度で、障害になる要素はない。

 であれば、何を仕掛けたのかは明白である。


【ウボロォォォ!!】


 落馬すれどもすでに命を失った身であるからこそ、体に異常はない。とは言え、地面に接して濡れた感触を感じ取れるだけで、何が起きたのかは説明が付く。

 そう、相手は水属性の攻撃を使用して、デュラハンたちではなく床を狙った攻撃を仕掛けていた。水属性の攻撃に混じって、同様の液体の何かをぶちまけていたのだ。

 おおかた油かその他の滑る液体であり、本来は少しは匂いを感じさせるはずだが、水の攻撃の中に包み込むことで洩れなかったのだろう。


【バルヒヒ!!】

【ウボ、ウボロォロォォン!!】

【バルヒヒーン!?】


 すぐに立ち上がっていた愛馬が駆け寄ってきて乗せようとしたが、デュラハンはやめさせる。

 再び騎乗して高速で戦闘を仕掛けるだけ、相手の方がかく乱しやすくなるようだ。逃げる気もなく、正面から迎え撃つようだが、それでも多少の小細工は仕掛けているようで‥‥それでも、気分が悪くなるような邪悪な類ではないことを感じ取らせる。

 相手の生者は絶対に刈り取らせないだけの意思をもって、出来る限りの手段を使いつくして挑む気なのだ。勝機がほんのわずかしか無くとも、それを手繰り寄せるだけの覚悟を持っているのだろう。

 


【ウボロォォォン!!】


 であれば、その使いつくすだけの意思を持つのであれば、こちらが応えてやるべきだろう。多少堕ちた存在になったとしても、相手が全力を尽くしてくれる様子にかつての騎士道精神が動く。

 そして、予備の剣を持ち、相手へ放り投げた。


「っと?何で、こんな大きな剣を投げて‥‥‥いや、デュラハンって言うけど騎士鎧だし、もしや‥」


 何かをつぶやいているようだが、その予想に間違いはないだろう。馬上に乗っての狩る側と狩られる側の勝負をするのも悪くはないが、全力の勝負であればこちらの方が性に合っている。

 なぜならば、それでも彼は騎士なのだから。どれだけ身を堕とそうとしても、その心のありようまでは決して堕としきることは無い。

…‥‥いや、既に生者を何体も狩りまくっている時点で色々とアウトだとは思うかもしれないが、それでもここは生前の想いが湧き上がる。


「ログに表示が‥‥‥剣での決闘を申し込んできた?速度重視の狩りではなく、騎士としての戦いを行いたくなったのか?」

【ウボロォォォォォォォ!】


 多少の小細工は認めよう。罠にかけようと、ある程度の細工を考えようとも、それは全て持てる分を使うだけに全力を尽くしたことに変わりはないのだから。

 命乞いをするような輩ではなく、逃げる意思は最初は持っていたようでありつつも、それでも腹をくくって抵抗してくるのであれば、その抵抗を認め、騎士としての勝負を挑みたい。



「…‥‥馬上槍に対して剣で相手しろと言うのもなんか変だが‥‥‥だが、やらないわけにもいかなさそうだな」


 感じ取れる。光を失いし目でも、心眼で相手の行動が、表情が、感情が。正々堂々とした申し出に対して受け取る気はあるようで、狩られる側ということを忘れている可能性もあるのだが、それでも自身の申し出を受けてくれるだけの度胸はあるようで、再びデュラハンは口角を上げる。


「良いだろう、受けようかその決闘を!!かけるのは互に命のようだけれども、こっちは渡された剣だけでもほぼ素人だし、その他の手も尽くさせてもらうけどな!」

【ウボロォォォォォォン!】


 土俵に上がってくれたようで、自身と対等に戦う決意を持ったのだろう。あらゆる手段を用いても、彼が全力で相手をしてくれるのであればそれでいい。

 今はただ、狩る者狩られる者としてではなく、しばしの間、かつてあったはずの騎士としての想いを引き出してくれるだけでいい。


「というわけで先手必勝!!武器屋で前に見つけたガントレットに爆裂薬を仕込んだ、ロケットパァァンチ!!」

【ウボロォォォ!?】


 とはいえ、流石に剣を最初に使うのではなく、拳を飛ばしてくるのはどうなのか。というか、どういう理屈で飛んでいるのかはデュラハン自身には分からないのだが、面白い攻撃をしてくるようだ。

 少々驚愕させられたが、次はどのような手で来るのだろうか‥‥‥‥















【シャゲシャゲシャゲシャゲェェェ!】

【ガウガウガーウ!!】


‥‥‥決闘の場が設けられている丁度その頃。その場から上の階層では、先を進む一つの勢いが存在していた。



「ぜぇ、ぜぇ…‥完全にバーサーカー(狂戦士)になっているというか、何というか、凄まじい勢いなんだが‥‥‥」


 出てくるモンスターたちを蹴飛ばし、薙ぎ払い、粉砕し、固めていく二体を追いかけて中三病は走るも、戦いながら進んでいるはずなのにその勢いはすさまじく、中々追いつかない。


「まさか、ハルさんがいなくなっただけでこうなるとは、予想外だった。テイムモンスターは基本的にテイムした人の側にいるから分からなかったけれども、生死が不明なことになると暴走するのか‥‥‥」


 それが絆によるものなのか、はたまたはシステム上の都合によるものなのかは分からないが、おそらく前者の可能性の方が高いだろう。

 つかずはなれず、普段から傍にいるぶん。突然失われたその衝撃は大きかったようで、ログを見返すと『ロスト主ショック』という状態異常になっていることが分かった。


―――――

『ロスト主ショック』

テイムモンスター限定の状態異常。自分達をテイムしている人の生死が不明になった時、懐いているモンスターであればあるほど、高確率でこの状態異常になってしまう。

いわば突然飼い主を失ったべた慣れのペットが悲しむ状態に近く、生きているのかそうでないのか不明であれば、見つかるまで本能的にいる場所を探し求め、狂乱状態へ陥る。

なお、この状態異常時全ステータスが上昇し、懐き具合が高ければ高いほど引き上げ、最低でも1.5倍以上で倍率が上昇する。

―――――


 この暴れぶりを見る限り、かなり高い倍率でステータスが上昇して暴れているのは間違いないだろう。なんでこんなものがあるのだと思いたいが、テイムできない人たちがテイムをしている人を狙ってのPK、いわばプレイヤーキルを狙う事件が過去に存在していたらしく、その対策としてつけられたようだ。

 失わされればそのプレイヤーに対しての強烈な報復措置を行う意味でもあり、狙っていた人たちからして見れば思い通りにいかないどころか完全に殺る気で狙わることになる。

 とはいえ、この状態異常は主が戻ってくればすぐに解除されるそうで、反動で5分間のステータスダウンが起きるらしいが、この様子を見る限り蹂躙劇が繰り広げられるのは間違いないだろう。


「そして既に犠牲者が出ているんだが…‥‥あれ、どうするんだろうなぁ」


 そうつぶやきながら中三病が見るのは、マリーの長い蛇の身体に巻かれながら気絶しているロティ。わざとハルを落とし穴に突き落としたようには見えなかったが、何かを感じ取ったらしく最初に一気にフルボッコにして確保したのである。

 気絶している程度で済んでいるようだが、どうもキナ臭い情報も出てきており‥‥‥


「運営からの緊急連絡が出されているようだけど、一部NPCの暴走を確認しての、回収までの凍結処理‥‥‥もしかして、あの状態になっているってことなのか?」


 巻き付かれていると言っても、直接ではなく突然氷結した塊に飲み込まれているロティの姿を見て、そうつぶやく中三病。

 もしかすると、あの行動は何かしらの怪しい意図があった可能性も出てきており、とにもかくにも今は目の前の大暴走蹂躙劇を繰り広げている二体から目を離さないためにも追いかけるしかないのであった…‥‥


「というか、強すぎだろあれ‥‥‥ハルさんにどれだけ懐いているんだよ‥‥‥」

【シャゲェェ!!】

【ガウガウガーウ!】






正々堂々とした決闘。

フルパワーを突破した蹂躙劇。

どう考えても後者の方が目立ってしまう様な…‥‥

次回に続く!!


‥‥‥テイムされているとはいえ、一応モンスターだからなぁ。盛大にやれると言えばやれるけど、暴れっぷりをもうちょっと表現したかった。

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