ver.1.0-3話 始まりの街、基礎をしっかり叩き込もう
門を抜けると、そこには人がにぎわってる光景が広がっていた。
「すでに結構な数が、ログインしているなぁ」
休日の朝とは言え、ログインする人は案外多い。いや、休日だからこそ初ログインなどを考えてやる人も多いようで、次から次に先ほど僕が出てきた門から人が流れてくる。
チュートリアルは終えたのである程度の自由はあるが、それでもしっかりとある程度の指針を整えておきたい。準備はそれなりに必要そうだし、のんびりしたいのであれば進められる分はやっておかないと大変だからね。
「まずは、チュートリアルも終えたけど、ネットからだけじゃなくて実際に人から聞いて情報を‥‥‥」
「おいごらぁ!!そこに突っ立っている雑魚来いよ!!」
「初心者様だろう?だったら俺たちが丁寧に遊んで教えてやるぜぇ!!」
…‥‥何かこう、典型的な関わったら不味そうな類の声が聞こえてきた気がする。いや、確実に面倒なのというか、初心者狩りをしようと考えているやつなのか?
このアルケディア・オンラインはPvP‥‥‥要はプレイをしているアバター同士での戦闘も互いの合意さえあれば可能らしいが、それを利用して初心者を相手にして戦闘を仕掛ける人がいるらしい。もちろん、当り前だが問題行為であり、通報されれば厳しい処罰があるはず。
ついでに言うのであれば、処罰は3回までが限度とされており、それ以降はアカウント凍結となるそうだが…‥‥その回数が頭の上に表示されるのである。2回と出ているけど、懲りていないのかな?確かネット情報だと複数のアカウント作成はできないはずで、一度凍結されるともう二度と遊べないはずだが…‥‥
取りあえず、そんな輩は無視すればいい。関わらない方が得策である。
そう考え、僕はさっさとその場を離れることにした。後方から追いかけてくる声が聞こえてくるが、だんだん遠ざかっていく。周囲の他の人達が集まってきており、排除するために動いているようだ。
楽しくやりたいのであれば、きちんとマナーやモラルを守らないとね。
「さてと、まずは錬金術師がこのアルケディア・オンライン内でどのように動けるのか、チュートリアル以外でも試す方法として…‥‥ここで聞いてみるべきかな?」
いろいろと面倒そうな輩を振り切った後、僕はとある店の前に来ていた。
様々なプレイヤーたちが入り混じる、オンラインゲームならではのテンプレというべき『酒場』である。まぁ、酒が本当に出されているわけじゃなくて、プレイヤー同士が交流して情報を集める場所として開放されており、喫茶店という方が正しい所だけどね。今後のアップデートだと多分そっちに変わるな。
そう思いつつ、中に入って見ると外と変わらず賑わっていた。あちこちでパーティを組んでいる人たちが次に向かう場所を議論し合っていたり、手に入れたアイテムや素材などを見せ合っていたりとしているようだ。
「そして初心者に色々と教えてくれる、『教官ゴリラマン』という方が、あなたでしょうか?」
「うほぅ!!そのとおりだ!!」
問いかけると、筋肉ムキムキなゴリマッチョ…‥‥いや、ゴリラそのものと言って良いようなプレイヤーがそう答える。NPCかと思いたかったのだが、そうではなく、しっかりとしたプレイヤーの方なのだ。
「おお!!貴方が伝説のゴリラマン!!」
「数多くのゲーム内で必ずと言って良いほどゴリラそのものとなり切り、新人を導いてくれるという!!」
「ネットの海で見かけたけれども、ここでも活動していたのですね!!」
周囲にいた僕と同じく初心者プレイヤーたちが集まって口にしあう。色々とツッコミどころがあるのだが、このゴリラマンという人は有名人なようで、このアルケディア・オンラインが開始されてすぐに現れた時には、彼を慕うファンたちが一気に集まったとも言われている。
一応、開始して1週間もしたら落ち着いたようだが…‥‥それでも、教官役として初心者たちを導く道を取っているようで、そのせいか称号と呼ばれるプレイヤーに与えられる呼び名として『教官ゴリラマン』というそのままなものを運営直々に与えられていたそうだ。
‥‥‥なお、ゴリラそっくりなアバターは本来生成不可能に近いらしいが、この人はそれを成しとげた偉業を持っているという逸話もあるらしい。どうも設定時にある程度は装置を被っている人を反映するのだが、それが強烈にゴリラな方向に出たようで、一説では本物のゴリラがプレイしているのではないかと言われていたりする。ネット情報だと全部ゴリラのアバターらしいからな。
「さぁ、ここに来たという事は君たち全員初心者で、どうやって過ごせばいいのか、どの様に活かせばいいのか、どう遊べばいいのかわからないというのだな!!安心するがいい、このわたしがしっかりと皆にここでの当り前なことや、過ごし方、遊び方、楽しみ方を伝授しよう!!」
うっほぅっとポージングをとってそう告げるゴリラマン。
色々と濃いような気がしなくもないが、とりあえずこの業界ではすごい有名だという「ゴリラマン教室」とやらに参加させてもらい、じっくりと学ばせてもらうことにしたのであった。
「さてと、まずは初心者ならば最初の活動範囲として、この始まりの街があるだろう。他のエリアも順次アップデートで解放されるらしいが、基礎を徹底的に叩き込みたいのであれば、ここほどうってつけのものはない!」
「そうなんですか?外に出て、モンスターを倒してレベルアップとかもあるとおもうのですが‥‥‥」
「ああ、その方法もあるだろう。とは言えここはアルケディア・オンライン、自由度の高さゆえに経験を得るやり方も様々だ!!何もすべてを戦闘で得る事もなく、交流を深めて得られるものもある!!」
誰かの問いかけに対して、むきぃっと違うポージングを取りながら、そう口にするゴリラマン。ついでにどこからともなくホワイトボードのようなものを取り出し、手作りした地図を張り付けていた。
アルケディア・オンラインの自由度の高さから、独自にこういう機材を用意できるらしい。一応、それなりに必要経費などもあるらしいが、そんな事も気にせずにばんばんと人のためになるような教鞭を振るってくれるようだ。
「ここで色々と調べたが、交流を深める事で利用可能になる施設もある。その施設を利用したい人のために、まとめた地図だ!」
ばぁっと広げられたのは、この始まりの街を記した地図であり、よく見れば細かく情報を載せている。スクリーンショットというべきか写真などもしっかり添えられており、あちこちの詳しい説明を載せていた。
「ああ、それと念のために言っておくが、このゲーム内のNPCたちをただのゲームの住人だと思ってはいけない。実際に生きている人を相手にするようにと、心がけておくように」
「どうしてですか?」
「うむ、このアルケディア・オンラインで生活し、事細かく観察を続けていたのだが、設定されたワードのみを話すことはないらしい。AI技術を駆使して、本当に生きた人を相手にしているようにしているらしいが‥‥‥そのあたりはまだ不明な点が多くとも、相手をなめてはいけないだろう。良い例がこの映像だな」
操作を行い、全員のアバター前に映像を映し出すゴリラマン。
見ればそこには、始めて3日目という字幕が貼られているとともに、とあるNPCに迷惑行為を繰り返すプレイヤーの姿があった。どうやら職業は戦士のようで、剣を振り回して当てるふりをしており、NPCがびくっとびびる反応を楽しんでいるらしいが‥‥‥次第にNPCの額に青筋が入っていき、次の瞬間、
どごぅう!!
「「「「!!」」」」
NPCがまさかの渾身の一撃を繰り出し、的確にプレイヤーの急所めがけて、武器を振り落とした。いや、武器と言ってもプレイヤーの持っていた剣を素早く奪い、刀面ではない方で強打したのだ。
しかも男性プレイヤーに対してであり…‥‥プレイヤーのHPが一瞬で0になったようで、その場から消えてしまった。
「‥‥‥これは単純に、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントといった、運営が禁止していることに触れているからこそ起こった事のようにも見えるが、それにしては衝動的であり、感情がないようには見えない。現実に人がいるのと同じように設定されているようでもあり…‥‥関係を最悪にすれば、このような悲劇が起こるといういい例だろう」
「あのー、このあとこの人はどうなったんですか?」
「瞬時にHPが無くなったようで、しかも行為の問題性から盛大に多くのペナルティを受けていた。とは言え、まだ懲りていないのか、それとも仕返しを考えてなのか、もう一つ映像が‥‥‥‥」
…‥‥徹底的に、この世界でのやって良い事と駄目な事を学びつつ、僕らはどう過ごすべきなのか学ばせてもらった。とは言え途中から、思いっきりアウトな人の末路公開映像祭りになっていた気がしなくもないが、それでも人にやさしくしようと全員心に決める。NPCの中で綺麗な人に、本当に犯罪まがいなことをやらかそうとした人が、ドナドナされていったからなぁ…‥‥
何にしても、学べることは多くあり、終えたところで全員でゴリラマンへお礼を述べる。
「「「「どうも、教えてくださりありがとうございました!!」」」」
「ああ、お礼を言うのは構わん!!ただ、このアルケディア・オンラインの世界をじっくりと遊び、そして楽しんでくれたまえ!!」
そう言いながらゴリラマンは次に集まってきた人たちのもとへ動き、同じように教鞭を振るい始める。
ああいう良い人もいるのに、何故問題を起こそうとする人が出るのか、本当に疑問に思ってしまうのであった…‥‥
「しかし、ゴリラマンって種類は何ゴリラになるんだ?」
「マウンテンゴリラ?キングコング?」
「いや、ゴリラマンはゴリラマンじゃないのか?」
本日はここまで。
このあとゆっくり更新いたしますので、長い目でお楽しみを!!