ver.3.2-70 接着剤は、そう容易くつかない
「ふふふふふふふ」
「ついについについに」
「「完成だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
海に浮かぶ一つの島。
その島にて、幼女と喰われかけのものはそろって歓喜の声を上げ、自分達の努力の結晶が形になったことに喜びを全身から表現していた。
「その島からの物や流れ着いたものなどを利用して、頑張って組み合わせて」
「頑張って設計し、間違ったところを試行錯誤して改めて」
「何度も何度もやった苦労がついに」
「実ったのぅ‥‥‥」
女帝の支配から逃れるため、利用しつつ自分の目的を果たすため、お互いに目指すところがずれているとはいえここに拠点を作り上げる気持ちは同じだった。
お互いの持ちうる力を使って注ぎ込み、この日この島はようやく彼らの手に入ったと言っても良いのだろう。
あちこちが綺麗手入れされて通りやすい道が作られ、滝をくぐれば秘密の出入り口がお出迎えし、漂着物を利用して作り上げた監視装置で島全体を確認することが可能な、秘密基地。
惜しむらくは材料が漂流物等のため火薬等の入手は叶わなかったが、その代わりに石を投げ飛ばす兵器や弓矢なども配置し、仕掛けているので一人で全部動かすことが可能な防衛手段もしっかりと配備できている。
「これで誰かが攻めてきたとしても、すぐに気が付き、応戦することが可能じゃなぁ」
「籠城戦に備え、加工した干物などもたっぷり保管しているし、いざとなれば大丈夫な脱出装置‥‥‥地下水脈を利用した超出力脱出ボートも完備」
更に内部には全天候対応の栽培所や、お互いの私室、兵器開発室などもそろえており、立派な要塞にもすぐに転じる事が出来るだろう。
何かと考え、対処方法を積み重ねた今、まさに安心安全な居場所を確保することが出来ていたのであった。
「さてと、まずは祝いの酒じゃ!!ブドウメッシュから作り上げた蒸留酒は出来上がっておるかのぅ?」
「すでに出来ているぞ!!こちらのテイムモンスターはほぼ植物な奴だけに、栽培技術からの品質見抜きなども最上のものだ!!」
【【【ギュルッパァァア♪】】】
わんかさかと出てきたのは、中三病のテイムモンスターたち。
ほぼ食虫植物のような見た目のものたちが多いのだが、植物なことは植物であり、どのような実が一番熟していたり、加工する際に気を付ける点などを熟知しており、最高の評価…‥‥まさかの20越えの品質『ギュルベラワイン』というものを作り出していたのだ。
こぽこぽとそれぞれのグラスに注ぎ、全員酒盛りを始める。
VRMMOの世界ゆえに酔えるわけではないのだが、気分的に盛り上がるのと状態異常『酩酊』『笑い上戸』などになれるように仕掛けており、現実と大差なく楽しめ工夫は既に凝らしているのだ。
「それじゃ、この我々の拠点としての島の完成を祝い、ここに宴の場を宣言するのじゃ!!」
「おおおおおお!!」
【【【ギュベェェェェン!!】】】
完成した事でのテンションが高く、全員宴が開かれることに喜びを表す。
今ここに、一つの楽園が出来上がったのであった…‥‥
「‥‥‥ふへへへ‥‥‥もう飲めないぜぇ‥‥‥ログアウトするのもありだけど、ちょっとこの心地いい感じのホンワカをもう少し味わいてぇ」
【ゴベボォォォゥ】
‥‥‥盛り上がり、いつの間にか周囲が暗くなりはじめていたころ。
既に宴の場は終盤を迎えており、周囲にはぐでーんっと酔いつぶれつつも幸せに浸る者たちが倒れ伏していた。
「くくく‥‥‥よしよし、頃合いじゃろうなぁ。自分、先に私室に戻っておるからのぅ」
「おーう」
鏡面ののじゃロリことアティは、宴の場からのっそりと自然に抜け出し、島内に作った自分の部屋に入り込む。
宴の場の酒盛りは楽しかったとはいえ、自分のやる目的に関して忘れていたら意味がない。
そう、完成までに協力して心血を注ぎ作り上げたとはいえ、きちんと最後までやることは覚えていたのである。
「さてと、ちょうど一人きりになれたうえに。色々とやるために必要なものもこの島だけで十分そろえたからのぅ‥‥‥よーし、酔いの勢いで一気にやってしまうかのぅ!!」
バシィッ!!
「ぬ?何じゃ、今の音?なんかこう、痺れたような気がするのじゃが‥‥‥むぅ、姿勢が悪くて少々正座の時のしびれのような状態になっているのかのぅ?ま、気にするほどでもあるまい」
そんな中、突然響いた音と不可解な痺れに、一瞬アティは疑問を浮かべたのだが、まだほろ酔い気分が残っていたので気に留めずに作業に移った。
だが、実はもう、限界は来ていたのだ。この島を完成させたことの喜びと宴での酒盛りによる酔いの相乗効果で気が付かない状態であり、静かに崩壊の時がゆっくりと忍び寄っていたのだ。
それはもう必然の事だったかもしれないが…‥‥意図せずして、彼女は自身の身に起こっていることを知らずに動いており、気が付かずにプログラムを作り上げていく。
バチィ、ビシィ、パシィ
「ふむ、外で酔っ払って踊ったやつもいたからのぅ。変な踊りでも続けておるのかのぅ?」
嫌な音が響いているのだが、気が付く音はない。
いや、既に気が付くために必要な感覚自体が壊れてしまっており、どうしようもなかったのだ。
「ふぉぉぉぉぉぉ!!さてさていきおい付けてどんどんやるかのぅ!!悪魔セットOk、像内部プログラム再構成からの組み合わせOK!!どんどん組み合わせてやっていくのじゃぁぁぁ!!」
知らずにいる事が出来るのは、ある意味幸せなことなのだろう。
もしかすると、この作業を進めている間にも運営の手が伸びてこなかったのはこのことを知っていたからこそ、最後の時を過ごさせるために放置しているのかもしれない。
ただ、その事をアティは知る由もなく、自身の終わりに気が付かぬまま最後の作業に移り始めるのであった‥‥‥‥
【‥‥‥NPCコード、367-R。ブラックボックスの修復不可能。内部からコードが壊れていきます】
【存在消去プログラム、使用の意味なし。自己崩壊を開始。いかがいたしますか】
【我々のミスから生まれた者だ。最後の慈悲‥‥‥いや、詫びとして、この作業は続けさせろ】
【【了解】】
…‥‥そしてその行動を見ている者たちがいたが、終わりの時を知っているがゆえに、邪魔することはしないのであった。
どんなやらかしやろうでも、終わりの時が近づいている。
けれども、その命の輝きに目を放すことはない。
そして交わるように‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥ようやくそろそろ、ハルの方と話を混ぜれそう。




