ver.3.2-64 ひび割れつつ、砕け散りつつ
‥‥‥逃げ切ったのは良いだろう。手持ちのものをいくつか犠牲にしたが、デリートは免れたし、目的は一つ達成することが出来た。
悪魔を捕えつつ、あの状況から逃れ、戦果としては中々良いものだろう。
「あとは、いくつか実行するためゆっくりとできそうな場所かのぅ…‥‥」
そうつぶやきつつ、アティは周囲を見渡し、警戒を緩めずに気を張り続ける。
逃れることが出来たとはいえ、まだ油断することができない状態。
そもそも、監視の目などをごまかす手段があるとは言え、あの状況を考えると何処かに色々としかけられていてもおかしくはない。
ならばここは一旦、まだ不安定な状態ではあるが現実世界の方へ戻るべきかと考えたが‥‥‥またろくでもない目に遭う可能性が大きい事を考えると、完全な状態で帰還したい。そもそも、不完全な状態だからこそあのような滅茶苦茶な奴らに巻き込まれたのであり、完全であればどうにかできるはずなのだ。
‥‥‥正直、あの凄まじい人の欲望をみると、どうにかできるとは思えなかったりするが。
とにもかくにも、まだ戻れないだろうし、ここはもう最後までやり切ったほうが良いだろう。
今はどういう訳かちょっと運営側の動きが手薄で甘いので生かされているのに近い状態であり、二度目はないと思えるからだ。
「そう考えると安全な場所を探したいのぅ‥‥‥天界、魔界は無理じゃし、どこかの島がちょうどいいかもしれぬな」
いっそ自分を目立たせないために、よりやばいものがいる場所に身を潜めたほうが目立たずに済むかもしれない。
その条件を満たす場所が無いかと探し‥‥‥そして彼女は候補になりそうなものを一つ見つけた。
「ふむ…‥‥海の方にある、島国の一つ。恐竜がわんさか栄えておるという恐竜帝国が良さそうじゃな」
自分よりも大きく、迫力溢れる恐竜‥‥‥正確に言えばこの世界ではモンスターの扱いである彼等だが、そんなものたちの中に身を潜めれば目立たずに済むに違いないだろう。
それに噂では帝国と名が付くだけに収めている帝王、女性らしいので女帝というべき様なものが座に就いているそうで、その女王の僕だがなんだかがより色々と目立っていることが多いそうで、最適な隠れ蓑に出来ると判断する。
問題は恐竜帝国に向かうまでに、船に乗る必要性が生じるのだが、乗船中に狙われたら逃れようがない。
潜水服は既に駄目になっており、大海原に逃れてもどこかで溺死の可能性があり、この世界のNPCでもある身なのでそこで命を散らす可能性も否定できない。
「‥‥‥じゃが、動かねばどちらにしても消去あるのみじゃ。じゃったら、賭けるしかないのぅ」
どうせ捕まってしまえば運命は変わらないのだし、全てをやり切れる方に賭けたほうが良いだろう。
そう思い、彼女は乗船できる場所まで歩み始めたが‥‥‥その時、彼女は感じることが出来ていなかった。
今はまだ、支障が出るようなことにはなっていない。
けれども、限界という名を冠した死神が、ゆっくりと忍び寄ってきていたことに‥‥‥
「むぅ、全力で逃げたせいか、ちょっとまだ疲れが抜けぬような…‥‥いやいや、ココで止めたら消去への道が浮かぶのぅ‥‥‥」
…‥‥その一方で、彼女の目的地である恐竜帝国は今、大発展を遂げていた。
「ふははははは!!栄えまくっているのデース!!」
【アンギャァァァスゥ!!】
【ホゲェェェン!!】
本日は恐竜帝国に定められた記念日の一つで、お祭り騒ぎになっていた。
あちこちで名のある大物恐竜たちが蠢き合い、本来であれば肉食草食の関係性にある者たちでさえ、この時ばかりは争いをやめ、お互いに仲良く楽しみ合う。
こういう祭り騒ぎは現実だろうとVRMMOの中だろうと、人であろうとそうでなかろうと楽しめるようで、島外から訪れるプレイヤーたちも混ざって一緒に楽しんでおり、ある意味カオスな空間となっていた。
「はははは!!酒じゃないけど酒っぽい飲み物があるのは良いなぁ!!」
「でっかい卵焼きもあるけど、こんなの現実では食べられないから良いよなぁ!!」
恐竜帝国なだけに色々とビッグサイズな食べ物やその他アイテムもそろえられており、見るだけでも楽しめるようになっているだろう。
ここに集う者たちは心の底から楽しんでいたのだが…‥‥その中で一人、脱出を目論む者がいた。
「…‥‥良し、身代わり用のスキルが出来て良かった。今なら、逃げ出せるかもしれない」
【ゴゲェゴエゲェ】
食虫植物のようなテイムモンスターを隠れ蓑にしつつ、人混み恐竜混みに紛れて進み、彼は海辺の方へ向かう。
ここの港ではすぐに手が回っているかもしれないが、遊び場として開放されている海辺の砂浜であれば、まだ手薄であることは既に調べがついているのだ。
「あとは、全員船にしつつ、防水・防塩加工をして…‥‥行くぞ」
気が付かれぬように音を立てず、花火に紛れて煙を焚き、そっと離れ行く。
このまま後はうまい事流れ着き、どうにか新しい地へ向かうその影は…‥‥残念ながら、既に見透かされている事なんぞ、彼らは知る由もないのであった。
「…‥‥とは言え、かまいすぎるのも駄目なのは学んでいるのデース。さて、どうなるのか楽しみなのデース」
それは近付いているのだが、気が付いたときは遅いだろう。
いや、だからこそあえて、甘くしているのかもしれない。
その一方で、既に運命が決まった逃亡劇があったようだが‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥忘れている人、そこそこいそう。