ver.3.1-49 二兎を追う者は一兎をも得ず、ならばまとめてひとつにすればいい話
‥‥‥妖精女王の城の何かと、悪魔の何かに関して、特定はすぐにできないだろう。
何しろ城へ向かおうにもあの妖精郷にあった城は、湖の真ん中にありそう簡単に渡れそうな場所には無かったし、悪魔に関して言えば魔界にいるけれども誰なのか分からない。
ならばどうするのかと言えば、どっちもできそうな部分からやってみるのが手っ取り早い。
「という事情で、知り合いにちょうどいたなぁっと思って、メールを送ったんだよね」
「なるほど‥‥‥深刻そうな事態になっているようだが、それで俺を呼んだのは理解できた」
かくかくしかじかと簡潔に説明したところ、目の前の悪魔‥‥‥妖精女王に狙われている一人である悪魔ゼアは理解してくれたようだ。
「だが、一つ言わせてほしい‥‥‥それで俺に犠牲になれと!?悪魔を犠牲にするって悪魔以上の悪魔じゃないかプレイヤーよ!!」
「まぁまぁ、ココはおとなしく協力しようよ☆オイラたちとしても、なんかこの世界そのものがやっべぇことになりかねないことは嫌だしねぇ☆」
「だからと言って、俺だけ拘束して動けなくするって、生贄にする気かよ!!」
「そうだよ☆。ああ、安心してほしいよゼア。オイラは君の屍を越えて、必ずやその悪しき企みらしいものを食い止めるよ☆」
「屍って、亡くなる前提のようなことを言うなシルルぅぅぅ!!」
びたんびたんっと、ぐるぐる巻きに拘束されているゼアを横目に、ニヤッと笑う堕天使シルル。
悪魔以上に悪魔な笑みを浮かべている堕天使って、本当に元天使なのかとツッコミをいれたい。
【ふむ、ご主人様がちょうどいい知り合いがいると聞きましたが‥‥‥悪魔と堕天使ですカ。これまた変わった友人を持ちましたネ】
「ああ。ついでに二人とも、妖精郷に出入りできるからな。妖精女王の城を探るにも、一人だと厳しいのがあるしね」
‥‥‥そう、どう動けばわからない状況であれば、まずは手が届くところから動いてみるのが良い。
だが、素直に動くとは限らないので悪知恵を少々働かせ‥‥‥先に堕天使の方に話を通しておいたのである。
というのも、悪魔の方はどう見たって苦労人であり、苦労を負わされる原因は以前に出会った時に見ても堕天使にあるようだと思っていた。
もめ事を堕天使の方が起こし、それを解決させられざるを得なくなっている‥‥‥そういう関係性を見抜き、僕は考えたのである。
「もめ事を起こす奴は大抵、何か面白そうだからなどの理由が多い。だから、先にシルルに事情を説明しつつ、この囮作戦を提案して話したが‥‥‥こうもうまくことが進んでしまうとは思わなかったよ」
「はははは!面白そうなことなら、いつでもどこでも突撃するのさ☆。まぁ、そんな性格だから堕天使なのもあるんだろうけれども、それ以前に滅茶苦茶ヤバそうな事態が進んでいるなら、この世界に住まうNPCとしては当然協力するでしょ☆」
「本音は?」
「‥‥‥いい加減、妖精郷をより気楽に出入りしたいから、妖精女王の相手をしっかり見つけようかなと思っていたけど、楽したかったのでこの作戦に乗りました」
「あっさり白状しやがったぁぁぁぁぁ!!」
苦笑いを浮かべて語るシルルに、怒りの表情を見せるゼア。
だが、いくら暴れてもその拘束は解けておらず、打ち上げられた魚のごとくじたばたと暴れまわることしかできていない。
「くそう!!なんだこの縄は!!全然切れないんだが!!」
【船のつり上げにも使える、頑丈な金属製のロープですからネ。頑張れば大陸一つ牽引する力持ちによって、大陸を無事に動かせる代物にもなる可能性を秘めているのデス】
「お前が原因かぁ!!あの使用人の系譜は、なんでこうもそんなものを生み出すんだよ!!」
おや?ゼアはロロ、いや、その使用人に関して何か知っていることがあるのだろうか?
まぁ、そんな事はどうでもいい。今は一刻を争う事態になりかねないし、犠牲は覚悟しなければならないだろう。
「放置している間にも事態が深刻化しかねないし、事前にメールで手短に説明したからさっさと進めるよ。シルル、妖精郷へ行く用意は?」
「出来ているねぇ☆。作戦も理解しているよ。『悪魔を囮にして、妖精女王をおびき出し、城に連れ帰るどさくさでどうにか乗り込むだけだぜ作戦』、成功率は微妙だけど、失敗したところで彼だけが犠牲になるのならば、問題ない☆」
「問題大ありだよ!!というか、自由に動けても女王が逃すと思うか!?」
「思うよ。逃げ足の速い獲物と、身動きの取れない獲物、どっちを選ぶかって言ったら後者がほとんどだからねぇ☆」
獲物扱いなのも酷い言いようだが、気にしている場合じゃない。
こんなことをしている間にも、事態は深刻さを増してくるはずだ。
「それじゃ、皆一旦妖精郷に行ってくるよ。帰って来るまでに、居場所を探れたら頼む」
【シャゲ!!】
【ガウガウ!!】
【大丈夫デス。居場所の特定が出来次第、砲撃を行えるようにも調整しておきマス】
妖精郷に関して、出入りするための笛を吹かなければいけないのだが、そのもの以外は出入りすることができない。
そんなルールが存在しているので、向かってもテイムモンスターたちと共にいけないのが心細くも感じるが、できることはしなければいけないのだ。
「吹くとして‥‥‥あれ、そう言えば二人はどうやって行くの?」
「ん?オイラも笛を吹くけど、ゼアは絶対協力し無さそうだ‥‥‥うん、吹かないと向かえないけど、どうしようかな☆」
妖精郷へ向かうための道具を使用する気はないというように、先ほどまでツッコミで叫びまくっていたのに抗議の意思を見せて黙り込むゼア。
さて、どうした者かと思っていると、シルルが何かを取り出した。
「吹かない悪魔のために、この道具を用意しておいたのさ☆」
「何それ?」
「ああ、結構前にプレイヤーの方でニガ団子ブームがあったと聞いてね。その時に乗っかって作ってみた、『堕天使印のニガ団子』なのさ☆」
どこかの青猫ロボが出すような道具の名称だが、団子自体はヨモギ団子のように緑色なだけで、おかしなものには見えない。
「でもこれね、水に溶かすと…‥‥すんごい激臭になるんだよね☆」
「あ、なんか分かった。皆、一旦ハウスに避難して」
【ギャベェイ!】
【オォン!】
【ユッキ!!】
シルルの言葉にすぐに悟ったのか、全員われ先にこの場を離れる。
そしてゼアの方も分かったようだが、この状態では何もできまい。
「鼻に栓をしたから良いよー」
「じゃあ、ほいっと☆」
地面に団子を置き、水筒も取り出して中身をぶちまけるシルル。
団子が液体に触れた次の瞬間、じゅわっと何か溶ける様な音がするとともに、緑色の煙を噴き出し‥‥‥
しゅわぁぁぁぁーーーー
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
‥‥‥呼吸も止めていたようだが、臭いというのはそんな簡単に防げるものではない。
容赦なく悪魔の鼻を責めたようで、ゼアが悲鳴を上げる。
その隙に素早くシルルがゼアの分の笛を取り出し、彼の口に押し付けて悲鳴を利用して吹かせる。
ある意味最悪の方法ではあったが、ひとまず全員そろって妖精郷へ向かえるようであった…‥‥
「というか早く吹いて逃げないと僕らもやばいんだが!?鼻栓をしているのに香って来たぁぁぁあ!?」
「ほうほう、魔界の方で怪しいおばあさんが譲ってくれた特上の薬も配合していたけど、凄まじいねぇ☆」「-----(呪う、絶対に事が済んだらこいつら全力で呪う)」
人は時として、目的のために悪魔にもなる。
いや、悪魔以上の悪魔になるからこそ、恐ろしくもあるのだ。
堕天使の場合は‥‥‥いや、あくまでもあるのか、これ?
次回に続く!!
『堕天使印のニガ団子』
評価:13
効果:堕天使特製のニガ団子。凄まじい苦さを秘めているが、その真価は溶けやすさにある。
従来の団子は食べたりすることで味覚から攻めていたのだが、こちらは嗅覚からも襲撃できるのだ‥‥