ver.3.0-23 それは悲劇か、それとも喜劇か
‥‥‥結界石自体の破壊は、他のプレイヤーたちも試みているようで、あちこちで戦闘している音が聞こえてくる。
守っている妖精女王から遣わされたモンスターたちは強いようで、中々激しい戦いになっているようだが、そこに交じりに行くのはちょっと難しい。
ならば、まだ攻めこむようなことがない、罠の張りやすいところがないかと探していると‥‥‥
ペポーン!!
―――――
>悪魔&堕天使の働きにより、結界石の一つが消滅しました!!
結界石:3/5
―――――
「あ、今回のイベントの逃げている二人も、壊せるのか」
悪魔と堕天使を捕縛するための結界と聞いていたが、どうやらその二人が手出しできないわけでもないようで、見つけ出して破壊したらしいお知らせが出てきた。
放置しておけば勝手に全部壊しそうなものだが、クエストが開始してそろそろ1時間は経過しているので、ペース自体はそう早くもないようだ。
…‥‥そもそも、その悪魔と堕天使を捉えるための結界石だから、もしかすると破壊に手間取るような仕掛けがあるのかもしれない。だとするとやはり、放置しておくだけでは時間がかかり、クエスト失敗になりうる可能性も高いだろう。
「まず何で、その二人が妖精女王に狙われるのやら…‥‥妖精郷にとって危険な存在ならむしろ、追い出すなどの手段があるとは思うんだけどなぁ」
何故、妖精女王がこんな大がかりな仕掛けを施してまで捕らえたのかが、未だに明かされていない。
周囲を飛び交う妖精たちに問いかけようとしても、どうもこの件に関しては色々と込み入った事情があるようで、話してくれない。
『ンー、チョットムリー!!』
『女王様、アレダシネー』
『悲シイヨウナ、自業自得ナ事情ナンダヨー』
苦笑いを浮かべる様な、複雑そうな声なのがそろっていたのが気になるが、本当に何が原因なのか。
結界石のありかを探りつつも、なんとか話してくれる妖精がいないかと探る中…‥ふと、何か物音が聞こえて来た。
プレイヤーの歩くような音ではなく、ふよふよとこう昔風の浮いている物体が動くような音が聞こえて来たので、茂みに隠れて見てみる。
そしてそっと目を向けてみれば‥‥‥そこには、妖精たちよりも大きそうでありつつ、人間とは違った雰囲気をした女性が歩いていた。
いや、違う。歩いているような動作に見えるが、足元は地面から浮かんでいる。某青猫ロボは3センチほど浮いて歩いているとか言う設定をどこかで聞いたような気がするが、それの10倍ほど、はっきりとした状態になっているだろう。
(‥‥‥雰囲気から察するに、あれが妖精女王なのかな?)
見た目的には20代ほどの大人の女性と言う様な感じだが、豪華なドレスを身に纏っており、背中にはこれまた大きな妖精の翼が生えそろっている。
頭の方には花の装飾が施されたティアラを載せており、手にはチューリップのような形をしたステッキを持っているようだ。
『イナイ、イナイ、イナイ‥‥‥ドコカシラァ、悪魔サンニ堕天使サン。隠レズ逃ゲズ、出テオイデー!!』
何かおかしな副音声が聞こえるような声で探しているようだが‥‥‥何だろう、妖精女王と聞くとイメージ的にはほんわかとした平和的なものを浮かべたかったのに、恐ろしい狩人のようなオーラを身に纏っているように見えるのは気のせいだろうか?
ギラギラとした目で周囲を探っており、見つからないように必死になって気配を消してしまう。
『アア、イナイナイナイナイイナイ!!ドコダドコダァァァァ!!』
妖精って、ホラーカテゴリに入るっけ?どう見てもファンタジーの中のファンシーな存在からかけ離れた、ホラーな存在の中でもかなりキッツい悪霊の類にしか見えない。
妖精女王なのに、なんか妖怪女王の文字が似合う気がするな…‥‥怪物や恐竜女王ならば既にいるらしいし、第3の新しいホラー女王ジャンルとして定着するのかもしれない。
そんなことを思いつつ、妖精女王が去るのを待った。
幸いなことに長居はしないようで、数分後には姿も見えなくなり、何処かへ去ってくれたようだ。
「正直言ってかなり怖かったな‥‥‥おもわず録画しちゃったけど、これどうしようか」
こういう時にお手軽に撮影しやすいのは良い事なのか悪い事なのか、何とも言えない。でもこの恐怖映像、後々何かに利用できそうなので取っておくか。
「さてと、とりあえず気を取り直して結界石を‥‥‥お?」
ポッペポーン!!
―――――
>プレイヤーたちの働きにより、結界石の一つが消滅しました!!
結界石:2/5
―――――
恐怖の映像が流れていた間に、どうやら他のプレイヤーたちが破壊に成功したようだ。
このペースならば、予想よりも早く全部破壊し、クエストをクリアして全員ここから出られる可能性が大きいだろう。
期待が大きくなってきて、希望が持てそうな…‥‥そんな時だった。
ズゥゥゥゥン!!
【ギャァァァァァァァァァス!!】
地面が揺れたかと思えば、何やら妙な咆哮が聞こえて来た。
音がした方向を見れば、妖精郷の花畑から少しだけ離れた森のような場所に、大きな腐ったドラゴンのようなものが出現していた。
―――――
>堕天使によって『アンデッドドラゴン』が召喚されました。
>プレイヤー、その他NPC関係なく、暴れまわります。
――――――
「さらっと危険なものを出してどうすんの!?」
物事が順調にいくことは、そうそうないのだった。というか、追われている立場の一人が、余計に逃げにくくするなんて意味がないだろ。
「何やってんだこのやろぉぉぉぉぉ!!」
「ごめーん☆ついうっかり、結界石を破壊しようとして間違ったのだしちゃった!」
っと、なにやらアンデッドドラゴンとやらが出てきた場所から、駆け抜けてくる二人組の姿が見えてきた。
あれが多分、今回のクエストの原因となった悪魔と堕天使なんだろうけれども…‥‥あれ、ちょっと待って、あのドラゴンも一緒に追ってきてないか?
「って、こっちに来ないで欲しいんだけど!?なんで来るんだよー!!」
「おいこら、巻き添えでたんだが!!」
「まぁまぁ、今は逃げるのが良いよー!!」
…‥‥出した元凶らしい人の方を、わざとクエスト失敗として、妖精女王の前に突き出すべきだろうか。
面倒事に巻き込まれたようだ。
いっそさっきの女王まで誘導したほうが、良いかもしれない。
そんな事を思いつつ、さっさと逃げねば…‥!!
次回に続く!!
‥‥‥後で聞いたら、どこかのメイド経由でお仕置き下りそう。