ver.1.0.1-13話 白くはないけど、そこは見ないふりを
「ふぅ、ひとまずはある程度の鉱石が集まって来たし、この辺りで切り上げるべきかな?」
【シャゲシャゲェ】
ツルハシをしまいつつ、手に入れた鉱石の数を確認しながらつぶやくと、マリーが頷く。
今回の鉱山探索でカツンカツンっと地道に掘りつつ、出てきたモンスターとも交戦してレベルもちょっと上がったことも確認し、これらで何が出来るのか想像すると結構楽しい。
鉱石系は現実だと精錬は非常に大変なのだが、ここはアルケディア・オンライン内なので錬金術の作業だけで簡単にインゴット化できるし、使い道は色々と多い。金属の防具や武器なども作れるし、装飾品などにも回すことが出来るだろう。
ネット上の猛者の中には現実での職人が本当に腰を入れて作り上げた日本刀や、出来る限りの手段を模索して銅像を作り上げる人などもいるし、人それぞれが無駄なく楽しめるのは良い事だ。‥個人的には、日本刀はちょっと欲しいけれどね。
「ついでにログアウトもしたいけれども、ちょっとだけ肉や野菜も手に入ったしご飯も作ろうかな」
採掘中に出てくるモンスターたちは、鉱石以外のものも落としていた。流石に鉱山に出てくるとは言え、全部が鉱石関係のドロップ品にはならないらしい。まぁ、近いものとしてかキノコなんかが多く出てきたりしたけれどね。まぁ、キノコは現実でも嫌いな食べ物なのでNPCのショップ辺りにでも売るのは確定だが。
とはいえ他の食材もあるから、ここでちょっと調理してみるとしよう。幸いにもこのエリア開放後に調理器具も少々増えているので、買っておいた器具を使ういい機会だ。
ここは割と簡単な、いや、現実だと結構力仕事なのできつい部分もあるけど、お手軽にうどんを作るとしよう。きつねうどんが好みだが、残念ながら油揚げを作れていないので麺とスープだけのさびしいものになるけれどね。
「えっと、ネット情報だと『ベター粉』が、麺類系料理の大本にできるんだっけか」
―――――
『ベター粉』
薄力粉、強力粉、小麦粉、パン粉など、出来上がるものを考えながら使用するとその料理に合った粉の性質に化ける不思議な粉。モンスター『ゴロゴロロック』からドロップするアイテムの一つであり、その万能性の高さゆえに多くの料理人スキル持ちに親しまれている。
ただしあくまでも合った粉の性質に変わるだけであり、本質まで完全にならないのが難点。完全に再現をしたいのであればきちんとした同様の粉を手に入れることが推奨される。
―――――
今回はうどん目的なので、同様の調理方法をしっかりと調べ上げてまずは麺から作り上げる。
岩塩をドロップするモンスターから得た塩を水に混ぜ、食塩水を作り上げ、そこに粉を投入して混ぜ合わせていく。普通は薄力小麦粉を利用するそうだが、ここでベター粉を利用し、しっかりと混ぜていく。
ある程度固めつつ、こねくり叩きまわすがちょっとばかりコシが足りないかもしれない。
「マリー、ちょっとこれぶん回して叩きつけまくってくれ」
【シャゲ!】
なのでここは、人以上に力が出せるモンスターの力を借りてガンガン叩きつけまくる。衛生面をゲーム内で考える必要は無さそうなものだが、一応自由度の高いオンラインなので付けられている可能性も考え、きちんと清潔な布地でくるみつつ、ひたすらたたき上げてもらう。
ばっこんどっこんっと、ひたすら叩きまくって良い具合にするまでに、うどん汁も必要になるのでやっておこう。
鍋を用意し火にかけ、水、醤油など‥‥‥ちょっとばかり調味料は似たもので代用する。出汁に関しては鰹節が欲しいところだけどないので、ここは名前的に似た『カチュラブシ』でどうにかならないかと試してみることにした。
―――――
『カチュラブシ』
魚のカツオにカツラをかぶせて剣を持たせたような武士の姿をしたモンスター。
キャット系モンスターの集団内に数体は紛れ込んでおり、自身のみを犠牲にして捕食されると、捕食した相手の攻撃力を30%も一気に強化してしまう特徴を持つ。
なので発見次第全力で真っ先に討伐が推奨されており、中にはその特徴を利用して自身のテイムモンスター(キャット系)をパワーアップさせる手法をとるプレイヤーも存在する。
ドロップアイテム名もそのままであり、この作品内では珍しくドロップアイテムと名前が同じである。
―――――
ぐつぐつ煮詰めると良い香りが漂って来て、汁が出来上がってきたことを示し始める。
なのでこの辺りでちょうど生地も叩き終えたのでしっかりと麺にカットして別の鍋でゆで上げ、さっと用意しておいた丼皿に入れておく。
そして慎重にこぼさないように丁寧に汁を注げば…‥‥
「良し、うどんの出来上がりだ!」
【シャゲェ!!】
―――――
『シンプルあっさりうどん』
制作評価:7
効果:シンプルながらも丁寧に作られ、コシがしっかりとしたうどん。もう少しトッピングや手際が良ければ評価がさらに上がり、効果も増えていたと思われる成長の余地がありまくる一品。食べるとMPを3割ほど回復させる効果を持つ。
―――――
攻撃力とか防御力ではなくMPの回復効果という謎があるが、副産物なのでどうでもいい。
メインなのは食べる方であり、いちいち気にしていたら大変だからね。‥‥‥キノコを入れるとさらに評価が上がる可能性もあったが、ゲーム内とは言え本気で苦手なので絶対やるまい。
「何はともあれマリーの分も作ったし、さっそく食べよう!」
【シャシャゲェ!!】
なお、マリーの場合流石に麺を持つための箸を利用できないのだが、顔を突っ込んで食べる気のようだ。後でしっかり拭いて綺麗にしないとね。机に椅子もこういう時のために用意しているので、座って食べやすくなったので作っておいてよかっただろう。
まぁ細かい部分は気にせずに、美味しいものならばさっさと熱いうちに…‥‥ん?
「じーっ…‥‥」
「…‥‥」
ふと、視線を感じてふり返って見れば、誰かがそこに立っていた。
見たことが無い少女というか、プレイヤーとは違うようで幼げな少女だが、NPCだとしても姿がちょっと違う。
基本的に人間ばかりの世界のはずなのだが、容姿的に美少女とは言えやけに耳が長く尖っており、足の方はごつい刃物だらけのブーツに腕にはこれまた刺々しいガントレットのようなものを付けている。アンバランスすぎるというか、それで何を蹴って殴るのか想像するのが怖いのだが。
でも、その凶悪そうな装備とは異なって、その顔はうどんに釘付けのあどけない少女にしか見えない。
「えっと‥‥‥もしかして、このうどんが欲しいのかな?」
「お?何じゃ何じゃ?わらわがこのようなものを欲しいと思って、声をかけているのかのぅ?一言も言ってないのにのぅ」
「それじゃ、いらないの?だったら僕らでこれを全部、」
「いらないとは言っておらぬのじゃ!!」
「だったら普通に欲しいと言えばいいのに‥‥‥まぁ、良いよ。もう一人前分はあるし、用意してあげるよ」
「本当かのぅ!?」
声をかけたら生意気そうな顔で返答してきたので、軽く冗談のつもりで言い返したら速攻で食いついた。
何だろう、面倒くさくありつつ単純で、一応美少女っぽい容姿なので可愛いとも思えるけれど関わってはいけないようなやつは。ロリコンではないけど、職場の同僚の真ロリコンに見せたら凄いことになりそうだ。
そう思いつつもきちんとお代わり用に考えていた分をよそい、彼女にあげることにした。
「のじゃぁぁぁぁ!!美味い、美味いのじゃ!!惜しむらくはもうちょっとトッピングが欲しいのじゃけれども、それでも集落のものよりもおいしいのじゃぁぁ!!」
椅子も予備を出して座ってもらいつつ、共に食べ始めると彼女はずぞぞっと夢中になって食べ始める。
確かに美味しいのだが、そこまで感激させるほどなのかなと疑問である。本職だったらもうちょっと美味しく作れただろうけど、細かく気にしないほうがいいか。
そして食べるだけ食べて、ほぼ同時に完食した。
「ふぅ‥‥‥美味かったのじゃぁ。人間の作る料理を疑問視する奴もいたのじゃが、こういう美味い奴を作れる奴がいるのを実感させると、一気に食の虜に出来そうじゃよなぁ」
「そこまでのものかな?というか今更だけど、君誰?」
「おぅ?しまったのじゃ、名乗らぬのは失礼じゃっただろう」
椅子から腰を上げ、口元を拭いてすぐに身を整え、少女は僕らの方に向き直る。
「ふふふふ、わらわは‥‥‥名はまだ無い!!現段階では開発途上の、次々回あたりのアップデートに追加されるところに出現する、新しい種族『エルフ』なのじゃが、運営共が色々と悩んでおるのじゃ!」
「要は、まだ開発途上のNPCってことなのか?いや、それにしてははっきりしているようなというか、自分から堂々と名乗るのはどうなのだろうか?」
「そこは突っ込まなくてもいいのじゃよ。どうせまだまだ試作段階じゃし、追加されればある程度の役目を持つからそこで分かるじゃろう。今はとりあえず、運営とやらからこの世界をうろつき、勧善懲悪、次々回アップデート宣伝も兼ねて自由に動くようにされているのじゃよ」
結構メタい思考だと思うが、どうやら開発元が色々と考えている途中のようで、要は後でしっかりと固めるから今のうちにはっちゃけていいとお墨付きをもらっているNPCらしい。しかし、NPCとはいえこんなにはっきりと述べていたり欲しがったり、感情を持った動きを表現できるものかな?いや、ゴリラマンさんから習ったことを考えると、このアルケディア・オンラインは自由度が高い分、住民であるNPCたちもある程度の意思のようなものもあって、付き合い方によって色々と変わるって聞いたっけ。
「しかし、なぜにそんな喋り方…‥‥定番と言えばそうかもしれないけど、ここまで直球で投げてくるとは思わなかった」
「むぅ?わらわの喋り方かのぅ?このぐらい普通じゃよ。せっかくここで出会えたのでちょっとだけ漏らすのじゃが、すっごい変なのもいるから心しておくのじゃよ」
「何だろう、ソレはソレで凄い不安なんだけど」
【シャゲシャゲェ】
エルフのじゃロリというのは定番かもしれないが、もたらされた情報にかなり不安を抱かされる。マリーもなんとなく同じように思ったようで、肯定して頷いていた。
いまでこそこれが出るってことは、もっとヤヴァイのはどれだけなのか。
いや、定番がこれであって、そこから斜め上に変えているとか?エルフが出るってことは他にセットだとドワーフや獣人といった類が想像できるけど、斜め上だとスライムみたいなのが喋るかもしれん。
「そんなことはどうでもいいかのぅ。どうせまだ出来上がっておらぬし、プレイヤーたちの様子を見次第色々と変更もされるじゃろう。名前が今の段階でエリザベート⇒ミルア⇒ゴンザレス・ゴンザレス・ゴンザレス⇒ルルアと右往左往と変わっているやつがいるからのぅ」
「一つだけ名前の方向性が違うんだけど」
何がどうなってそんな変化を遂げるのか。というか、途中おかしいのが出来上がっているのだが。
このアルケディア・オンラインの開発に携わっている人たち、もしや頭がちょっとおかしい人が混ざっているのではないかと思ってしまうのであった。
とにもかくにもツッコミどころがありつつも、のじゃロリエルフは改めてこちらに向き直る。
「さてさて、ちょっとだけ出会うだけのつもりじゃったが、ごちそうしてもらったしお礼もしておくかのぅ。わらわはまだまだこの周辺を見て回るのじゃが、サービスもしてやろう。こいつを受け取るのじゃ」
―――――
>「開発途上段階NPC」からアイテムが送られようとしています。
>受け取りますか?
―――――
っと、なにやらログの方にそう表示が出てきたのだが、この子は僕らに何かを渡すようである。ログの表示を見ても開発途上段階と書いてあるが、出来上がったらどういう名前になるのか気になる処。
でもまぁ、お礼というのであれば貰っておくべきかな。
―――――
>受け取る決定を確認。アイテムが転送されました。
>『???の許可証』を獲得。予定されているアップデート後に詳細が解放されます。
>称号『開発段階との出会い』、スキル『女体化』を獲得しました。
―――――
‥‥‥ちょっと待て、今何かおかしいのも混ざっていなかったか?いや、称号の方は分かるけれども、スキルのこれ何?
「くくくくっ、そのスキルは使い処が難しいが、使いようによっては面白いことになるからのぅ。さて、さらばじゃぁ!!」
「おいまて!!何でこんなスキルを、って早ぁぁぁぁ!?」
何でこんなスキルを得させたのかという問いかけを聞く間もなく、のじゃロリエルフ少女は速攻でその場を逃げ出してしまった。
しかもかなり足が速く、あっと言う間に姿が見えなくなって僕らはあっけに取られてしまう。
「いや、本当に何をしに来たんだよあいつ!?」
【シャゲェ?】
とりあえず、後でネットの掲示板へのじゃロリエルフ少女への警戒をするように上げておくべきか‥‥‥
色々と悩まされつつも、どうするべきなのか迷う羽目になるのであった。
―――――
>‥‥‥特殊なスキルの獲得を確認。
>条件がクリアされました。
>今後のテイムモンスターたちの進化先が増えましたが、説明からスキルによる影響は非表示されます。
ゲームとは言え、そんな事が出来て良いのだろうか。
そもそもなんでこんなものを与えて来たのか。
開発をしている人たちに盛大に文句を言ってやりたい‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥なお、今回ちらっと出て来た名前の人は、登場予定あり。どのぐらい名前が変わるのか、そこで判明するつもり。