ver.3.0-20 星になったもの、どこかにおいておくとして
‥‥‥新しいアイテムを手に入れた以上、それを使用してみたい好奇心が沸き上がるのは、当然のことかもしれない。
未知の場所になるだろうけれども、そういう場所を探索するのもアルケディア・オンラインを楽しむ要素にはなるからだ。
「でも、吹いた人しか入れないかぁ‥‥‥テイムモンスターたちもいけないようだし、ちょっと見に行ってみる程度にするけど、トーカはどうする?」
「んー、私もできれば見に行きたいけど、いけないなら潔く諦めるしかないから待っているよ。その間、お兄ちゃんのテイムモンスターたちの面倒を見てあげる♪」
「その前に、解放してほしいのじゃが」
「だーめ!!」
「なんでじゃぁぁぁぁぁ!!」
掲示板に載せられるほどの悪行をしていたのじゃロリが拘束されているのであれば、ここでトーカによって捕縛されている方が世のため人のためになるかもしれない。
心の中でそう思いつつも、僕は手に入れた妖精郷の笛を使用することにした。
ほんのちょっとだけの見学のつもりで、良い光景があればきちんとスクリーンショットを撮影していくことを忘れないようにしつつ、笛を吹いてみる。
どうやら演奏がうまくない人でも、吹いてみるとそこそこいい音色が鳴るようで、ピョロロ~♪っとなると同時に浮遊感を覚える。
そして次の瞬間には景色が転じており、花畑の中に立っていたのであった。
「…‥‥これこそ、ある意味ルー〇っぽいのかな?」
とにもかくにも、辿り着いた妖精郷とやらを見渡してみれば、辺り一面は現実世界でもなかなかお目にかかれない規模の凄い花畑が広がっている。
とは言え、全部が花で埋め尽くされているわけでもなく、桜やその他木に咲く花などもあるようで、あちこちで花びらが舞う光景になっているようだ。
また、花びらの中に紛れて飛び回っているのは瓶詰めされていた妖精たちのようで、解放された空を楽しんでいるのか楽しそうに歌っており、花に着地して休んだり、花びらに乗って遊んでいたりと和む様子もうかがえる。
『アー!マタ、プレイヤーサンガキタヨー!!』
『ヨウコソ、妖精郷ヘ!!』
『歓迎歓迎、女王様ニ選バレタヒト、イツデモオイデー!!』
あちこちでそう口にしつつ、楽しそうに飛び交う妖精たち。
ここに来れる人は、現時点で知る限り善意で願い事を使用した人ぐらいだが、またと言っているという事は他にもいるのかもしれない。
「でもネット情報だと見なかったような‥‥‥あ、でも知ってしまったら100%善意ともならないのか」
あくまでも完全な善意が条件で、事前に知ってしまったら意味を無くすのかもしれない。
考えていなくてもちょっとでも思うと、結果として駄目になる入手法…‥‥中々シビアというか、厳しいアイテムの入手方法ではある。
でも、その分ここに訪れる人は善意でやる人が多いようで、ちらほらと少ないながらも見かけつつ、互に軽く挨拶をすれば返って来るし、中々過ごしやすい場所でもあるだろう。
だからこそ、妖精たちも自由に過ごしているのだろうし、仲には花畑で寝転がって満喫している人の姿も見る。
「けど、それならもうちょっと制限軽くしてほしかったかなぁ‥‥‥テイムモンスターたちも一緒なら、もっと楽しみやすいのに」
まだまだ調整中なのだろうかと思いながら寝転がっている人を見ていると‥‥‥ふと、見覚えのある姿を目にした。
「あれ?ゴリラが寝転がって‥‥‥いや違う、ゴリラマンさんか」
「うほっ?今わたしの名前を呼んだのは‥‥‥ほぅ、最初の方で教えてあげたハル君か」
「名前、憶えていたんですか」
「ああ、そうだ。人を導き、楽しませるものたるもの、受講した生徒たちは全て覚えているモノなのだよ」
そこにいたのは、アルケディア・オンラインで最初のころに、遊び方などをプレイヤーたちに教えまわっていたゴリラのような姿をしたゴリラマンさん。
バージョンアップでだいぶ変わってきた世界とは言え、ゴリラマンさんの新人プレイヤー向けの授業は人気があり、未だに教えを頼む人も多いと聞く。
「それに、今はアルケディア・オンライン内で学業の塾講師もしているんでしたっけ」
「ああ、そうだ。遊ぶだけではなく、学びも必要であり、このアルケディア・オンラインでは知識も生かせるからな。最近は巣立った生徒たちが戻ってきて手伝ってくれるので、たまにこうやって休むこともあるのだよ」
ゴリラのような見た目の人なのに、教育者としての志は高いようで、常に最新の知識を生徒たちに与えることができるように動いてもいる人。
ゴリラは森の賢者とも言う話があるけれども、この人にはまさにその言葉が似合うだろう。
「最近は友人も増えてな。ネスッシー水泳教員やチュカバン夜行教員なども増えている。卒業した生徒であっても、常に受け付けているから機会があればぜひとも受けて欲しい」
「人が思った以上に増えているんですね」
「そうとも、このアルケディア・オンラインはオンラインゲームだからこそ全世界に広がり、繋がる場所だ。国や言葉、考え方などが違ったとしても遊びたいという心の持ち主が集いやすく、だからこそ人も集まるのだ」
最新の情報なども集めやすいようで、攻略や前線にいるプレイヤーたちもたまに講義を受けているらしい。
ある意味生ける辞典というか攻略本というか、それとも熱意溢れるゴリラの教員というべきだろうか。
「とは言え、さすがにわたしもここに来れたのは偶然なんだがな。妖精の瓶詰の話を聞き、これまで受けた生徒たち全員に僅かでもいいから幸運が宿ってほしいと願ったら、どういう訳か妖精の女王とやらに気に入られたようでな、ここに来れたのだよ」
なお、その望みは叶っているようで、これから講義を受ける人たちも対象になるらしい。結構幅が広い大きな願い事のようにも思えるのだが、ゴリラマンさんの熱意に打たれた妖精が全力でやってくれたそうだ。
…‥‥そんな全力が出せるなら、僕の方の遭遇率関係もどうにかできて欲しかったけどなぁ。そこはやはり、人徳が違いすぎるせいなのだろうか。
「とにもかくにもだ、ここで出会ったのも何かの縁だ。妖精郷に訪れて調査は既に完了しているが、何処か聞きたい場所はあるだろうか?」
「あー、それじゃ、ちょっと待たせている人がいるんで、ここでお勧めの綺麗な撮影スポットがあれば教えてほしいのですが」
「任せたまえ。絶景スポットは既にいくつか確認しているが‥‥‥ふむ、ハル君の望むような光景を考えるのであれば、ここから東に歩いて2分ほどの近場にある妖精城が良いだろう。湖の中に浮かんでおり、泳いでいこうとしてもはじかれるようになっているが、撮るのは構わないようだ」
なんでも妖精郷には妖精女王が住まう城があるそうだが、その城には現在立ち入ることはできないらしい。
湖の中に浮かんでおり、特殊な結界のような物が張り巡らされて訪れられないようになっているのだとか。
「ちなみに、周囲の妖精たちに聞いたが、2~3日後の小規模なアップデートを待ってほしいという話だ。もしかするとここ限定のクエストが発生するかもしれないから、興味を持ったならその時にでもまた向かって見るといい」
「分かりました。ありがとうございます、ゴリラマンさん」
「いやいや、当然のことだ。人を導くというのはお礼を言われるためにやるのではなく、その人のためを思っての事。教育者として心がけるのであれば、それを活かしてより良い道に向かってほしいだけなのだよ」
うははははっと笑いつつ、ゴリラマンさんはもうちょっとこの花畑でゆっくり休むと言い、寝転がる。
想いもがけないところで意外な人に出会ったが、相変わらず変わっていない人であった…‥‥
「‥‥‥しかし、テイムモンスターを連れてこれないのは残念だとは思う」
「あー、それは同感ですけれども、ゴリラマンさんもやはり不満に思っているんですね」
「そうだ。このような美しき花園であれば、皆で共有し、楽しみ合いたい。それができないのは非常に惜しいが、開放される機会があるまでココの光景を写しておこう。わたしのほうの使用人も花が好きでな、ここの光景を見せれば喜ぶだろう…‥‥」
意外な人に再会しつつ、絶景スポットやらへ向かう。
そんなに時間をかけるつもりはないが、ここでゆっくりしたくなるだろう。
心地よい温かさの下で、花畑の昼寝‥‥‥皆で一緒にしたいものだ。
次回に続く!!
‥‥‥この善意溢れる人のまともさを、ちょっとでもあの人達に分け与えられたらなぁ。