ver.2.5-閑話 とある船の語り話
‥‥‥魔導海賊船グレイ号。
あまりにもありきたりで安直な名前が付いた私だが、気に入っていないわけではなかった。
様々な海を駆け抜け、乗っている人たちと過ごしたあの日々は、今もなお鮮明に思い出せるのだから。
海賊として猛威を振るい、グレイ海賊団の船だけれども一員として輝き、楽しかった。
けれどもそんな生活は永遠に続くはずもなく…‥‥いつしか、ある海域で不慮の事故に遭い、私達はそこで人生を、いや、船生を終えたはずだった。
でも、運命のいたずらか、幽霊船として復活し、生前には無かった飛行能力を手に入れた。
これでまだ訪れたことない未知の場所へ向かえるぞと思ったが、船長含め皆は人に非ざる存在に変わり果てており‥‥‥そんな航海に耐えられなかったのだ。
魔力が回復する夜ごとに海から浮上し、私達は彷徨う。
終わりの見えない旅路だったが、それでもお互いにいるからこそ悔いもない。
いや、何かあったからこそ皆は現世に縛り続けられていたのかもしれないのだが‥‥‥‥それも、ついこの間前の話だろう。
どこかの知らぬ者たちが乗り込み、私達と戦闘を繰り広げた。
久々の血が沸くような、無くなっても心の底からあふれるような高揚感を久々に感じ取りながら全員そのあてと戦いあい、全力を出し尽くした。
その結果、縛られていたものがすべてなくなったのか…‥‥全員、満足げに逝ってしまい、私だけが残された。
でも、文句はない。船長が最後に託し、その力を見せてもらった相手なのだから。
ずっと漂っていると、何時かは狂った存在に成り果てる可能性もあっただけに、その可能性を無くしてしまった彼らにはむしろ感謝したいほどである。
そして今、私は託された相手のもとで第2の、いや、幽霊船としての生を考えると新しい相手の下で働くので第3の船生を過ごすことになったのだが‥‥‥‥
【むぅ、思った以上に経年劣化してマス】
「となると、このまま魔界での航行は不味いかな?」
【そうですネ。少々の修理では魔界での戦闘に耐えられないでしょうし、幸運なことに大事な部分などはしっかりと守られてますので交換の必要はないですが、色々と取り換えたほうが良いでしょウ。まぁ、少々は残るのでギリギリでテセウスの船にはならないでしょうが…‥‥修理どころか大改造が必要デス】
‥‥‥拝啓、あの世へ逝ったキャプテンへ。私は今、どうやら新しい生の前にバラバラにされそうな予感を抱かされています。どうすればいいでしょうか?
【諦メロ】
はい、この場に居なくてもざっくりと言われた気がします。
私は今、この者たちによって何処かへ運ばれて調べられているのですが、この先どうなるのでしょうか?
キャプテンが託した相手は、どうやら私の改造を目の前にいる使用人に任せたようですが‥‥‥何故でしょう、あの方の目が、気配がかつての生まれ故郷の造船場で働いていた親方に似ている気がします。親戚なのでしょうか?
【ふむ、ご主人様に任されましたがどう改造したものでしょうカ。一応、言葉も話せない類のようですが、長年の経験蓄積によって生を持っている‥‥‥船その物がモンスターになっていると言えますが、テイムモンスターになる部類でもないようですネ。意志をもった道具となると、付喪神などの類に近いようですし、自己修復の事なども考えると、色々大胆にやったほうが良いのかもしれませんネ】
そう言いながら、目の前の彼女は何やら物騒な道具を並べていく。
ギザギザ舌巨大なノコギリに、滅茶苦茶痛そうなハンマー、巨大なくぎに、溶接機。
その他海を行く間に様々な港で見たことのあるような大工道具と明らかにそうではないとツッコミを入れたくなるようなものが多くて、凄い不安になります。
【まあ、ベースとしては元の帆船のままの方が良いかもしれませんネ。下手に変えると壊れてしまう可能性が大きいデス】
そうですそうです。できれば本当にちょっとだけで済むような、簡単な修理で良いので‥‥‥
【後は少々、武器の入れ替えも必要デス。大砲などもさび付いてますし、ここはあっちで見る事のあるアニメやゲームなども参考に、実弾から熱エネルギー弾、ラム戦法などもできるように巨大な刃物を仕込む手もありますネ】
ちょっと待ってください。前者はまだ良いとして、最後のその仕込みってなんでしょうか?海賊船にそんな装備は必要なのかな?
【それに、飛行可能のようですが推進力が弱いですし、爆裂薬を燃料に特殊なエンジンを追加するのもありデスネ。残念なことにここでの技術や材料的に無限のエネルギーを生み出すようなエンジンは無理ですし、やらかせば船体そのものが爆発四散しかねないので、ここはおさえたものにして…‥】
本当に何をする気なの?というか、爆発四散するものを積むようなことをしなくていいから、できればまともなものにしてほしい。贅沢は言わないから、変な魔改造だけは避けてほしい。
【ああ、そうデス!折角大きな船ですから他に船員も必要になりますネ!この船自体が意志を持ってある程度は自由に動けるようなのでそこまでいらないかもしれませんが、流石に人数的に寂しいですし、この船をバラバラにして組み立て直す際に、部品を少々失敬して作るのもありでしょウ!】
…‥‥作るって、船員を?私をバラバラにした部品から?
何を言っているのだろうか、この目の前の人は。何かをしでかすような気がして、物凄く恐ろしい。
ちょっと逃げたくなって、こっそり下がろうとしたが‥‥‥残念ながら錨を降ろされた上に、作業するためなのか固定されてしまい、逃げようがない。
【ふふふふ、安心してください、魔導海賊船グレイ号。流石に作業自体を一人でやるのは厳しいので、姉妹を呼びまシタ。ゆっくりと眠るように、身を任せてくだサイ】
何をどう安心すればいいのだろうか。恐ろしく嫌な予感しかしないのですが。
そうこうしていると、彼女の周囲にいつの間にか同じような容姿をした者たちが集い始め、安全のためなのかヘルメットをかぶり、各々の持てる道具を手に持ってじわりじわりと迫りくる。
あの、その、本当に怖いのですが。海賊船として滅茶苦茶ヤバい海賊たちと戦ったことがあるのに、恐怖を抱かされるどころか生命の危機を感じるのですが。
しかし、抵抗はできない。私は固定され、動けないのだから。
【【【【ふふふふふふふふふふふふ】】】】
ひ、ひ、ひ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
…‥‥その日、声を出せていたならば、全世界に伝わるほどの悲鳴が出ていたのだが、誰一人として感じ取るものはいなかったのであった。
ぎーこぎーこー
ガリガリガリ!!
チュィィィィィン!!
ジュワアアアアアアアア!!
【‥‥‥‥ふぅ、主様のためにも、しっかりとした船に作り直しましょウ。おや?何でしょう、この称号‥‥‥『意志ある物に恐怖を与えしモノ』?恐怖って、何があったのでしょうカ?】
あれ?おかしいな。
この船の持つ、旅路の綺麗な記憶を見せたかったのに、
何で後半ホラー気味になったんだろう‥‥‥?
次回に続く!!
‥‥‥転生ものとかって生前の記憶を失うタイプもあるけど、もしかするとこんな風に恐怖での記憶消去もあるのかもしれない。よくある話なのかもなぁ。