ver.2.5-42 対空に関して、真面目に考えてみる
「対空攻撃手段を探ると色々あるな‥‥‥」
魔界から帰還しログアウトした後、僕はネットで対空戦闘に関して情報収集をし始めた。
魔界が解放され、これまでの戦闘の見直しなどにうってつけの場所ではあったが、空の相手の攻撃手段に関してはまだまだできていないことが多かった。
というか、そもそもの話、これまでの相手は陸上か海中だったからなぁ‥‥‥いや、海中に関しては釣りあげているから微妙なところだが、横の戦いしかしていなかったわけだ。
しかし、天界・魔界が解放されたことで大空からの相手も今後増えることが容易に予想が出来るので、その事も考えると多くの対策が必要となる。
調べてみたところ、この対空戦闘に関しては他のプレイヤーたちも真面目に取り組み始めたようで、情報交換があちこちで行われている。あらかじめ予想して対策をしていた人もいたようだが、それでも開発段階という事で苦戦している人も多いようだ。
空に網を撃ちあげたり、重りを投げて絡みつかせて動きを奪ったり、電撃でしびれさせ、毒の霧を上に打上げ、焼き鳥にするために火を放ち、花火で応戦しようと様々な取り組みが出ている。一応、どれもこれもやろうと思えば可能だが、完全に応戦し切れるわけでもない。そもそも魔界のモンスターたちは状態異常攻撃を仕掛けてくるだけに、毒などの耐性もそれなりに高くなっているようだし、あの高い天井を飛ぶんじゃなくてしがみついてカサカサ這いまわる奴もいるらしい…‥‥Gかな?あ、でもネットの話だと巨大版と小型大増殖のやつもいるようで、殺虫スプレーの開発をしている人もいるらしい。
「とりあえず、今は対空手段の方法として‥‥‥テイムもあるのかな?」
対空武器の開発にテストなどで時間がとられるならば、いっそ空を飛ぶことが出来るモンスターをテイムして対抗するという案を出す人もいるようだ。
ただし、その方法は場合によっては余計に時間がかかる可能性はある。そもそも、テイムできる確率自体が相当低いし、条件も不明なのも多い。複数の相手に対しても、1体だけだと厳しいからね…‥‥対抗して同時に出せる限界を頑張ってテイムしても、それ以上の数で来られたら苦戦するだろう。
そう考えると、テイムも良い手段とは言えないだろう。やるにしても、今はマリー、リン、セレア、ルト、アリスの5体で、これ以上追加したら誰か一旦ハウス送りだからね‥‥‥育成ゲームや某電気ネズミなどで預けるようなことは知っているが、それでもこのアルケディア・オンラインだと皆生きているように感じ取れるから一緒に過ごしたい気持ちがあって預けにくいのである。ロロ?彼女は使用人だから制限にかからないらしいけれど、彼女は彼女で何なのか謎もある気がする。使用人ネットワークとか何だろう。
とにもかくにも、どの手段も微妙である。そう考えると対空戦闘が…‥‥いや、そもそもの話、武器とか対空用のモンスターを狙うのではなく、全員が空を飛べればいいのではないだろうか?
そう、ゲームだからこそできる事を考えるのであれば、戦闘できる領域を作るような、全員空で戦っても問題ないような足場があれば解決するのではないだろうか?
「手段としては、色々とできそうかな…?」
大空を足場にするような乗り物で、全員戦闘できるようにする。あるいは、皆飛べるような道具を作るか、はたまたは相手を地に引きずり落すようなものなど、考えようによっては案がいくつか出るだろう。
「という理由で、実験に協力してもらいたいけれども、大丈夫かな?」
「問題なしデース!!実験材料の生贄に、弟を貸すのデース!!」
「ちょっとまてぇい!!勝手に生贄に奉げられるとは聞いてないんだが!?」
思いついたら行動に移すべきかと思い、翌日ログインした後連絡を取り、僕らは今恐竜たちが溢れる某ジュラな島よりも更に繁栄しまくっている島に訪れていた。
そして案に関して、この島を実質的に支配してしまったティラリアさんに話してみれば快く協力を受諾してもらえたようだが、中三病さんからすればとんでもない巻き添えのようである。まぁ、安心してほしい。犠牲にする気もないし、しっかり準備もしている。
「いや、中三病さんは別に良いよ。この実験のために、屋台でNPCが売っていた『試し打ち人形』を持ってきたからね。ティラリアさんのところに翼竜がいたから、その子に手伝ってもらいたいだけだよ」
「あーなるほどデース。確かにうちのファルコーンは飛べる子なので、対空戦闘の相手には都合が良いのデース」
「…‥‥戦闘機の意味合いでの名前ですよね?なんかこう、パンチをかましそうな気がしたんですが」
「流石に無理デース。やるとしても口から怪光線を出す程度デース」
‥‥‥それって、翼竜じゃなくて怪鳥扱いになるような。いや、そんな細かい事は僕らにも色々とブーメランとなって帰ってくるので、ツッコミを入れなくていいか。
とにもかくにも、協力をしてもらえるようでさっそくその子を呼んでもらった。
「来るのデース!ミーのテイムモンスター『プテラノドーザエモン』のファルコーン!!」
【ゲヤァァァァァ!!】
ティラリアさんが叫ぶと同時に、雄たけびをあげながらやってきたのは巨大な翼竜。
プテラノドンというよりもケツァルコアトルスに似た容姿のモンスターだが、その体長は非常に大きく、ちょっとした戦闘機並みのサイズ。恐竜と言えばティラノサウルスなどのイメージも強いが、こういう空を飛ぶ類もロマンがあるだろう。
―――――
『プテラノドーザエモン』
プテラノドン詐欺と呼ばれるような、巨大な翼竜のモンスター。
大きな翼を羽ばたかせ、大空を飛ぶさまは空の恐竜王者とも呼ばれるようなレベルだが、実はまだまだ進化が存在しており、より巨大化するかあるいは高機動になっていくか、将来性が非常に楽しみなモンスターでもある。
なお、名前の後半の感じからして水中では無力となりそうだが、その前に雨天の時点で全身に水分がしみわたって墜落するというレベルだったりする。
とは言え、良く晴れた日の快晴時にはその大きな体と機動力を生かした攻撃が可能であり、体当たり攻撃以外にも口から怪光線を放って遠距離攻撃も可能になっている。
―――――
ちなみに、さっきから触れないようにはしているが、中三病さんは本日生首状態だったりする。どうもこの集合場所に来る前にちょっと魔界に挑戦していたそうだが、そこで奇妙な状態異常攻撃にやられたようで、頭だけになったらしい。時間経過で回復するそうだが、これはこれで無力化されて恐ろしい攻撃になると、魔界の恐ろしさを改めて実感させられるだろう。
「それで、どうするのデース?いくつかの対空手段を用意したようですが、果たして成功できるのデースか?」
「これから実験してみるから、何とも言えないかな。でも、それなりに用意してみたよ」
作戦その1『風船足場』。大量の風船を強度を強めた木の板に括り付け、その上に全員乗って、バランスを調整しながら大空で戦う戦法。風船自体はいつのまにか売られ始めており、あちこちで子供プレイヤーが現実と同じ感覚で購入しているが、このアルケディア・オンラインの世界ではヘリウムガスよりも軽いガスが使用されているようで、多く持てば飛ぶことが出来るのだ。それを、木の板にくっ付けだけの簡単な空飛ぶ乗り物になったのだが…‥‥
「‥‥‥足場が結構、ぐらぐらして滑り落ちそうになるな。風船だから割られる可能性も考えると不味いし、ファルコーンが攻撃を仕掛けるたびに人形が落下するね」
「そして何で俺がここにくくりつけられているんだぁぁぁぁぁ!!」
【あ、いつの間に中三病さんがいるのでしょうカ?しかも、あの大きな木の板の裏側にしがみついた状態デス】
「どうやって平面だけにしがみついているの?」
作戦その2『爆裂ジェットエンジン船』。小舟に小型の爆裂薬を大量に仕込んだタンクが搭載されており、切れるまでどんどん下方向に向けて爆発することで、作用反作用によって飛行し続ける。
なお、これが案外飛びやすくて、燃料兼原動力となる薬をどれだけ節約して飛行できるか、今後の研究にも役立ちそうだ。
ドンドンドォォォォォン!!
「でも、調整を間違えると星になるのか」
【星になりましたネ。乗っている全員の体重を考えると、炸裂量も調整が必要そうデス】
「あれ?弟どこ行ったのデース?」
いろいろと試すも、どれもこれもある程度の飛行性能を見せたとはいえ、満足いく結果ではない。もうちょっとこう、工夫できそうな気がしなくもないのだが、技術力の問題で難しい。
「ふむ‥‥‥こうなってくるといっそ、大型のテイムモンスターでも狙うべきなのかな?」
RPGなどでありそうな、空飛ぶクジラやマンタみたいなモンスターでもいれば、その背中に乗って戦う事が出来るかもしれない。
しかし、そう都合良さそうなモンスターの情報は手元に無いし、ここは探してみるしかないか。どちらも海の生物ならば、船であちこち彷徨って探索しよう。
犠牲が少々出つつも、無駄ではなかった大空への挑戦。
新しい方向性を見出し、僕らは魔界の空に対するリベンジの心を燃やしながらその場で分かれ、海へと出るのであった…‥‥
「そう言えば、中三病さんはどこに?」
「まだログアウトしてないはずデース!」
ピンポンパ~~~ンポン♪
―――――
>全プレイヤーへ通達いたします。
>先ほど、限界高度を通過したプレイヤーが確認されました。
>地上へ強制転送されますが、ロックが一部解除され、NPCの露店でプチジェット花火エンジンが販売されます。
―――――
「「あ」」
【…‥‥偉業を達成したようデスネ】
プレイヤーが何かを成し遂げる事で、開放されることもあるらしい
そんな事実を認識しつつ、大空を見上げる。
あの空へ、再びリベンジするヒントはこの海にあるのだろうか‥‥‥
次回に続く!!
‥‥‥偶然の産物って、凄いなぁ。