高嶺の花の嘘
皆さんの初恋っていつですか?
早い人だと、幼稚園、小学生とかですかね。
主人公の彼は高校生になるまで、異性をエロい目でしか見れていないただのばかですが、人生で初めて一目惚れを経験したところから、彼の全ては始まります。
皆さんにも淡い青春があると思いますが、ぜひこれを読んで思い出して見てください。それでは、どうぞ。
「稲葉さん恋とかしたことあります?」
そう言われてふと、俺は思い出してしまった。11年前の苦い失恋、やっとの思いで忘れた初恋。
28歳になった俺は、海外赴任でニューヨーク生活をしている。しかし、そんなアメリカンライフにも終止符が訪れ、1週間後に急遽帰国が決まった。
(てか4年もアメリカ居たことになるのか。実感湧かねぇなぁ…。)
「稲葉さぁーん?ちょっと!聞いてます?」
「え、あ、わるいわるい。えーっと、失恋の話だっけ?」
「そんなこと言ってないですよ。もしかして、聞いちゃいけませんでした…?」
彼女は部下の芹沢春奈。同じ部署で、彼女とは一緒にランチを食べてる仲だ。いつも通りのたわいもない話に、初めて彼女からの恋愛トークが差し掛かった。
「稲葉さん、別に顔悪くないのにずっと恋人居ませんよね。もしLGBTで悩んでるなら、実は知り合いに…」
「違うわ!そんなんじゃねぇよ。お前も、ちゃっちゃっと食ってオフィス戻れよな、ご馳走さん!」
「どうしちゃったんですか!ちょっと稲葉さぁん!」
彼女を置いて1人オフィスに向かう俺。普段なら絶対こんなことしない。芹沢が言う通り、さっきから俺はどかしちゃっている。
何故だろう、日本に帰れるから…いや違う。ただ単純に、あの時を思い出してしまったんだ。
「あいつ今…」
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「あいつ今…どこ見てんの?おーい玲央!!w」
「おぉ皆んな、いや!何でもない。」
俺は稲葉玲央。高校受験当日の今日、俺は人生で初めて漏れそうな思いをしている。
いや、別にこれはう○ことかではない。
「玲央お前、好きです❤︎って声ダダ漏れだべ?w今見てるのってどうせあの子だろ?…やめとけ。見るからに住む世界が違う。」
「ち、違うわ!勝手に話進めんなって。」
既に時遅し…。恋心ってやつはお漏らししやすいみたいで、口を開かずとも皆んなの耳に入った。
30メートルほど先に、一際輝く一輪の高嶺の花。
彼女の周りには、そこらに咲いている花や雑草が纏っている。遠くから見ている筈なのに、心臓の鼓動が鳴り止まない。これが恋心ってやつなのか…?
「無理無理無理無理!!w彼女もできた事もないお前が、あんな美少女と??おこがましいわアホw」
「おい言い過ぎだぞ。俺は別に、無謀なことするほどアホじゃねぇよ…。」
とは言いつつも、一度好きになった人というのは当分頭からは離れてはくれない。
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入学式。
こういうのってマンガでは同じクラスになる展開。しかし、現実は3つもクラスが離れていた。身の程を知らない俺は、せめて仲良くなりたかったと思っていたのだが、それ以前に俺はあの高嶺の花の名すら知らない。その友達に聞く勇気すらない。よーく考え抜いた末、俺はきっぱり諦める事にした。
「学級委員長は玲央がいいと思いもぉーす。」
「おぃ何でだぁw」
中学からの連れ3人が同じクラスになった事で、俺の高校デビューは失敗に終わった。初日から知らない奴からもイジられ、もう最悪だ。中学時代の一発ギャグも封印しきれず、高校でもなぜかやる羽目に。しかしそれが結構うけたみたいで、クラスの皆んなとはすぐ打ち解けることができた。
そして俺は、ノリで学級委員長に就任させられた。
「委員長さぁん。高校でも吹部?」
「ここ柔道部が緩いみたいだから、そこ考えてる。」
「似合わな!てかせこw」
幼なじみのエリ(赤堀恵理)は多分また吹部だ。
俺は連れの3人も誘って、廃部寸前の柔道部に入門。1時間遅れで来る顧問の目を盗み、俺たちは柔道場で遊ぶ青春を見つけた。運動用マットでバック転の練習。綱に登ってターザンごっこ。
「窓からの眺めぇ!最高じゃ!!あ、テニスコートも見る…。」
あの光輝く人物…多分高嶺の花子さんだ…。いや絶対そう。てかあそこ女テニじゃないの?、隣の男はなんだ。
それに比べ、こんな臭い男たちと戯れる俺ってもっとなんなんだ…。その光景を目にした事で、一瞬俺は入部3日目で退部しかけた。
覗くつもりはないが、花子さんのクラスを通り側に覗く俺。その後、廊下で一発ギャグを披露する俺。
凝視するつもりはないが、花子さんがイケメンと帰る所を凝視する俺。その後、駐車場でGet wildを熱唱させられる俺。
(何やってんだよ俺…。)
あいつらが言った通り、そもそも住む世界が違う。
何度も諦めたものの、俺はようやく身の程を知った。
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あれから1年後の春、俺たちは進級をした。
クラスの名簿を見ても知らない奴らばっか。調子に乗っていた俺は去年ノリで生徒会役員にもなってしまった。今年こそは大人しくよう。
すると1人机で寝込む俺に、
「キミ稲葉くんだよね?1組の学級委員長の…。」
「あはい、そうっす。よろし…」
花子さんや!?俺の名前まで知ってるん?!
「よろしくね、私は上野梨帆。りほでいいから。」
「俺はれお、稲葉玲央…です。」
花子さ、あいや、梨帆とは苗字が近く、席順的に俺の後ろに彼女がきた。
班活動、休み時間、放課後と、席が近いことで彼女と一緒にいる時間ができた。
しかし、彼女のそばにはいつも一軍女子らが壁を作るかのようにたむろしている。中でも山本さんとやら女は梨帆の親友らしく、異常に睨んでくる。
それでも俺は気にせず彼女と話し、いつしかお互いの仲は深まっていった。
それから無愛想だった山本さんとも打ち解け、次第に彼女とも仲良くなれた。
「梨帆ああ見えて裏表はっきりしてる子から。」
「山本さんそれまじ?そっか、わかった。」
落ち込んだフリはしてみたが、正直そんな事どうでも良かった。そもそも裏表がない女なんて存在しないだろ。
ただ、ずっと好きだった人がそばいる、この事実だけで俺は満足だった。
夏になり、俺は梨帆に1つお願いをした。
「俺、生徒会長に立候補しようと思う。梨帆ってスピーチとか得意じゃん?俺の推薦人やってほしいんだけど…どう?」
「全然いいよ!私レオくんのこと応援する!」
彼女のスピーチのおかげもあり、俺は秋からの生徒会長就任が決まった。
彼女の隣にいるのに相応しい男になりたい、そんな思いで立候補した生徒会長。実は原稿作りを口実に、家に初めて女子をあげるという偉業を成し遂げてしまった。
秋になり、とある事が起きてしまう。
ある日、東京へ遊びに行った梨帆はそのルックスから無名の芸能事務所にスカウトされたみたいだ。
「私、芸能活動にチャレンジしてみたいの。」
そう試みる彼女を俺は応援した。
しかし挑戦するもの、とあるお仕事がきっかけで、いつしか彼女は周りから冷たい目を向けられてしまう。
俺も正直なところショックを受けた。無理してあんな仕事受けなくてもいいのにと。
あれだけ強固な女子友達の友情も、一瞬で粉砕した。
「邪魔、どいて。」
1人でいる彼女を見て、俺の胸は苦しくなった。いわゆる学園のマドンナであった梨帆が、一瞬にして転落したのだ。
親友の山本さんですら、梨帆に全く触れやしない。
それをきっかけに、梨帆は事務所をすぐ辞めたみたいだ。
こんな状況でも、いやこんな状況だからこそ俺は梨帆の事は見捨てられなかった。
いつも通りに、いや今まで以上に親密に接していたかもしれない。梨帆と話す俺への陰口や嫌がらせも、どうでも良かった。
「俺の事は大丈夫w気にしないで。」
ただ、ずっと好きだった人がそばにいる、この事実だけで俺は本当に充分だった。
冬になり、クリスマス直前の週末、俺は梨帆をイルミネーションに誘った。
「お!行きたい行きたい!」
はしゃぐ彼女を連れて、近場のスポットに足を運んだ。
「うわ〜きれい!」
どんな状況下にいようが、あんたはいつ見ても眩しい。
そしてこの日、俺は無謀だと思い込んでいた勝負に挑んだ。
「梨帆、好きです。付き合って下さい…。」
緊張で震えてる俺に、梨帆が優しく答える。
「私と?調子乗りすぎだよレオくん。急に何?」
その言葉を頭の中で何度も再生したが、別に優しい一言なんかじゃない。
「梨帆…嘘でしょ?」
「あの…私友達とかもう消えちったし、これ以上レオくんに優しくしても私にメリットないんだよね…。」
一瞬山本さんのあの言葉が耳をよぎった。
「梨帆、あぁ見えて裏表はっきりしてる子から。」
山本さん、今俺鳥肌がぱないっす。
「仮に付き合ったとして、レオくんの真剣な気持ちに嘘つき続けるなんて、私出来ない。逆に結構気づかないもんなんだね。」
彼女はとんでもないクズ女だった。
周りからの評価が全ての女。評価する人が今ではいない彼女にとって、俺はもう用無し。
去り際に「あ、てか言い過ぎたねwごめん!」と言い残し、姿を消した。
冬休み明けの1月、居場所を完全に失った彼女は都会の通信制の高校に転校をしたみたいで、既にその姿は無かった。
彼女の悪口で盛り上がる中、呆れた俺もそこに混ざり、俺の青春は笑い話として処理された。
それっきりそのクズ女との関係も途絶えた。
初恋でもあるこの失恋は、俺の心に深いトラウマを刻んだ。
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「あいつ今…何してんだがなぁ。」
帰国して1週間。今日からカフェに通うことにした。
「いらっしゃいませ。ご注文何にいたしますか。…え、稲葉くん?」
「ん…ヤマモト?山本かぁ!」
偶然俺は高校の同級生と再開し、その夜飲みに行くことにした。そういえば成人式以来、皆んなとは会えていない。
弾む思い出話に、やはりどうしてもあの出来事は欠かせなかった。
「懐かしいなぁ。今…梨帆何してるだろうな。」
「稲葉くん知らないの?いくら日本に居ないからってそれはないでしょ。」
「え?」
聞くところによると彼女は今、モデルや女優として活躍しているみたいだ。
Googleで名前を検索すると、沢山の画像が出てきてた。あんなに忘れたかったのに、非常に誇らしく思う。
何を思い出したのか、山本さんは、
「そうだ稲葉くんにも見せたいものがあるの!」
後日、山本さんは1冊の女性誌を持ってきてた。
去年発行のもので、そこには上野梨帆の”初恋の人”について語る取材記事が載っていた。
「上野:私の初恋は…高校生の時ですかね。高1の文化祭の屋台だったかな?一発ギャグやモノマネをして客引きをする男子をたまたま目にしたのがきっかけです。彼はクラスの学級委員長をしているみたいで、面白くて、人気者で、私はそんな彼に心惹かれました。高2の時、彼とはクラスが同じになったんです。私は勇気を出して声をかけ、そこから徐々に彼とは仲良くなれました。もともと人気者だった彼は優しいし、面白いし、でも彼には幼なじみの子がクラスにいたみたいだったから。私は他の男子とも縁を切ったり、芸能活動に挑戦してみたりして彼の気を引こうとしたんですが、でも結局ダメでした。
Q :何があったの?
上野:いじめに遭ったんです、私、とあることで。それでも彼はそんな私にずっと寄り添ってくれました。
Q :いい展開じゃん!何がダメだの?
上野:あんに人気者だった彼も、私なんかに構うから被害に遭っちゃって、耐えられなかったんです。でもこんな時に彼から急に告白されました。ものすごく嬉しかったけど、苦渋の選択で、そこはお断りしました。彼の為にももともと縁を切るつもりだったから、いいタイミングだったのかもね。
Q :えーもったいない。
上野:今思えばね。若い時ってどうしても衝動的に動いちゃうから。断るにも心ないことを言わなきゃ、彼引かない人だったから…その時思ってもないひどいこと言っちゃった気がする。当然だけど、あれから私すっかり嫌われちゃったみたい。
Q :その彼がこの記事を見てるといいですね。
上野:これ女性誌だから(笑)
でも機会があれば、会って話がしたい…。
Q :そうだね、ちなみに上野さん何が原因でいじめられちゃったの?
上野:私が話せるのはここまでです!」
俺は山本さんに、
「どうしたら彼女にあえる?!」
「私莉帆の今の連絡先知らない。あと今活動休止中だから、事務所に問い合わせたって絶対会わせてくれないと思うよ。」
「いや、活動休止中って…あいつ何かあったの?」
「この女性誌が原因で、週刊誌が梨帆のいじめの原因について調べたみたいなの。ちょうど最近、デビュー時に出したヌードギリギリのビデオが世間に出回っちゃって…。」
当時、梨帆は嬉しそうに話してくれた。
「レオ私デビューするかもしれない!来週撮影するみたいで、でもまだ何やるかわかってないのw私、有名人になるかもね!」
あの時あいつはまだ、何も知らなかった。
表のあいつは、学校中の憧れの的でカリスマを演じている優等生。
一方で。裏では苦労しがちなただの繊細な女の子。
俺には素直な裏の梨帆でいてくれていたんだど思うと、少し嬉しかった。
2つの顔を使い分けで出来ていたあいつを、俺は尊敬する。
俺だって会って話がしたい。もう一度、答えが聞きたい。
その後、事務所に問い合わせて見てみるもの、相手すらしてもらえない。嫌がらせの電話が相次ぐことから、一層事務所は梨帆を守っている。
有名人と会って話だなんて、やっぱ無理なのかなあ。落ち込む俺のものとに、1通の電話が。「レオたんさんこんばんはー!お便りありがとうございます!」
「どちら様ですか?」
「レオタンさん今ラジオ聴いてないの?まぁいいやw早速お電話でお悩みお聞きいたしましょう!」
ラジオ番組からの電話だ。そういえば山本さんが「応募してみたw」みたいなこと言ってたような…。
俺は端的にこの出来事について相談した。
「おいおいそんなの切なすぎるやろ!でもこのコーナーって助言することできないから、何もしてやらないんだよ。…頑張れよ!兄さん!ガチャッ!…。」
何がお悩み相談だ。解決どころか、ただ恥かしエピソードを晒しだけに終わってしまった。
しかし、そのラジオを耳にした梨帆の事務所から、連絡がきたのだ。
「先日は大変失礼いたしました。うちの上野と話をする機会を設けましたので、稲葉さんの都合を考慮して、こちらで調節させていただきます。」
今、彼女には恋人がいるみたいで、その人とはうまくいってるらしい。やっと付き合えると思い違いしていた自分が馬鹿みたいだ。
「調子乗りすぎだってw」
活動休止中とはいえ、彼女も立派な芸能人。冷静に考えて、俺は身の程を知った。
元気そうにしている梨帆が見れたから、もうそれだけで俺は充分。
俺の失恋のトラウマも払拭し、それから俺は同窓会で久々に再開した幼なじみのエリと結婚をした。
あれから梨帆は芸能界に復帰し、彼女なりに頑張っている。
今でも梨帆をよく思わない人は多々いるが、それでも彼女は、いつ見ても眩しい。
お読みいただきありがとうございました。