発達した科学
礼はいたって冷静に疑問を投げかけた。
「なぜスキルの詳細も分からないのに、勇者に適していないと決めつけることができるのでしょう?」
その言葉に、ブロンは笑いながら答えた。
「そうですよね。何も知らないのですから。あなた達二人を包んだ光。これが白であるということが何よりの証拠なのです。まあ、最期に教えて差し上げましょう。光の色によってスキルのランクが分かるのです。最上位を紫として青、緑、黄色と続き、白が最低ランクなのです」
見下すように上機嫌のブロンは、さらに続けた。
「勇者として活躍いただくには最低でも橙、一つ下の赤でも、王国兵士として働いていただくつもりですが、白はとてもとても」
そこまで言って、ブロンから笑みが消える。
「――神聖なるゴルド・プテリュクス王の謁見の間である。さっさとそこの賊どもを連れていけ!」
ここで無理に抵抗してはこの場で処刑もあり得る。そのような考えのもと、二人は大人しくしていた。
「それと、いつもの奴隷商を呼べ。こいつらを買い取って貰う。スキルはアレだが、若い男だ。それなりの値にはなるだろう」
ブロンの何気ない一言を、礼は聞き逃さなかった。そして、その一言がトリガーとなる。
「……発達した科学」
礼は呟くと同時に行動を開始する。呼応するように、理生も動き始める。
護身用に、と普段からの持ち歩いていたスタンガンで、一番近くの兵士を攻撃する。
「うぎゃ!」
蛙が踏み潰されたような声を出して、兵士は倒れた。普段通り金属製の鎧を身に着けていたのであれば、結果はまた違ったのかもしれないが、潜伏することを理由に装備は最低限。直接肌が露出している部分も広い。
「何だ!? 何が起こった!?」
周りの兵士がざわめいている。目の前で突然仲間が倒れたという状況に、動揺を隠しきれなかった。
礼と理生は背中合わせに立つ。そして、一呼吸置いてから、扉に向かって走り出した。
二人にとって『自由』こそが最優先されるべき事項であり、それを阻むものは全て排除する。今までもそうしてきたし、これからもきっと変わらない。
扉の前には一際体格の大きい隊長が待ち構えていた。先程の二人の動きから、かなり接近しなければ攻撃出来ないと考察していた。剣のリーチがある分、自分が有利な状況であることを確信していた。
そして、勝負は慢心したものが必ず負ける。
理生は催涙スプレーを相手に向かって噴出した。
「ぐぉ……んん……」
顔にかかった隊長は、目を押さえ苦痛に身悶えしている。
その隙に、二人は謁見の間から出た。
◆ ◆ ◆
優秀な頭脳を持って生まれた二人は、その能力が知れ渡ると常に危険にさらされて過ごしてきた。本来、庇護者となるべき両親は、優秀過ぎる我が子を気味悪がって捨てた。児童施設でともに育った二人は、その頭脳を利用とする大人達から、養子縁組の話が持ってこられる度に拒否してきた。
礼はともかく、理生はそういった大人の汚い部分を忌み嫌っていた。
特にひどかったのが、脳科学研究に携わる学者だった。元から研究に没頭し、配偶者も研究者であったため、家事は家政婦に任せていたのだが、脳研究の一環として引き取りたいとのことだった。優秀な研究者であったため、裕福だったが、愛情は感じられないだろうと断った。
その頃から大人を信じなくなった。国家プロジェクトだといい連れ去られそうになったこともあった。護身用の装備は買い与えられたが、望まずとも問題を運んでくる二人は、普通の人には手に負えなかったのだ。施設にいつまでもいられないと考えた二人は、高校受験の際に、全寮制の有名進学校に狙いを定めたのだ。
「こんなところで役立つなんてな……」
理生はスタンガンと催涙スプレーを見つめながら呟いた。
「もともと、こんなところで使う道具でしょ」
礼は無感動に、淡々と事実を述べた。
二人は現在、城の廊下を全力疾走している。急いで城、出来れば国から出なければならない。
『城内のものに告ぐ。陛下の命を狙う不届き者の魔族が忍び込んでいる。見つけ次第捕らえよ』
魔術だろうか。城中に、ブロンの声が響き渡る。
「これが本当の城内アナウンス」
「言ってる場合か。急ぐぞ」
魔族とされたことは、二人にとって都合が良かった。