第7話『少女の憂鬱、少年の失踪』
独りの夜を過ごすに連れ、自分のことが
別の誰かになる…
そんなふわふわとしているクセに、目覚
めると現実を知って完成をする…残酷な
夢をみる
自分は他にいて、その自分は裕福とは言
えないが、家族と一緒に団らんをして、
笑い合っている。そんな日が続く
今が現実でなく、
誰かの夢であって欲しい
少女は今日も火を焚いて、お湯を沸かし
、準備を整え、セタの清拭に入る
少女は奴隷として生まれた。露と落ちた
ときから、自分が誰かの所有物として
永遠に生き続けることが決められていた
セタの部屋に入ると、セタは苛立ってい
るようにみえた
少女はいつもどおりに、セタの長い髪に
触れて髪をとかす。金髪の髪は、サラサラ
としてて、キメ細かくて輝いて見える
セタは大きく息を吐くと「オマエは、何
か知っているか?」と聞いてきた
『ナンのことですか?』と少女が伝えると
セタは「ふぅん、そうか…。興味が無い
のか?それとも…」と述べてから、
「…一昨日までいた少年のことだ。何か
知らないか?」
『ごめんなさい、知りません』
「そうか…。わかった。続けてくれ」
『はい』
◆
セタの肌を傷つけないように丁寧に布で
拭う。白く美しい肌に触れることが出来
るのが不思議だな…と少女は感じる
自分には無いものを持っている存在に触
れていることが、自分の唯一の自慢だ
少女は願いが叶うならば、セタに抱きし
めて頭を撫でてもらいたかった
セタは姉のようであり、母のようであり
憧れであり、これは自分の妄想の世界、
単なる想像ではあるが、そう感じていた
『御御足をお湯に…』
「ああ…」
セタには一般的な女性らしさが内面的に
はほぼ皆無で少し粗野でぶっきらぼうな
面があるが、今まで生きてきた中で一番
優しく接してくれる存在だ
物として扱われるのは慣れている。セタ
以外の対象及び人間が、話しかけてくれ
ることは殆ど無い。意味もなく理不尽に
叱られたり怒鳴られることはあるが…
それは物だから仕方ない。心の奥底では
常に何も感じないようにしないと駄目な
のだ
少女はセタの足を拭いて、今日のひと仕
事を終えた。まだまだ仕事はあるが…
この瞬間は別に嫌いじゃない
「…もし、少年について何かわかったこと
があれば、何でもいいから教えてくれ…
報酬は出すぞ」
『はい』と少女は伝えてから、
『ただ…』と口ごもる
「何だ?…何か問題でも?」
『はい。アタシは奴隷だから、調べたりと
かその…自由になる時間が無いのです』
「そうか…。ではその時間を買わないと行
けないわけだな」
『…』少女はお金や制度について何も知ら
ない。だから何も言えなかった
「わかった。その時間は私が、セタが買う
ことにしよう。私がここまでするならば
、少年探しに邁進して欲しい!いや、全
力でしてくれ!」
『…はい』自分に拒否権は無い。だが少し
の動揺があった。自分に何が出来るのか
?を考え、成果を上げられなかった場合
を想定すると何だか怖くなった
「ふふ…」とセタは少女の頭をポンポンと
優しく触れる
「なーに。大丈夫だよ!はっきりいって別
に大して期待はしてない…名はノーラ、
私が勝手に名付けた。ネムコ好きの少年
だ…顔は覚えているか?」
『はい。しっかりと覚えています』
「そうか!それなら…良い!」
セタの表情が段々と明るくなっていく様
子をみて、少女はホッとした。そして何
よりもセタに頭を触ってもらったことが
信じられず、その現実感の無い現実に高
揚感が増していた
『がんばります』
「うん。頑張れ!…何か困ったことがあれ
ば、私に言いなさい。何でも言って来な
さい」
『はい!』少女ははっきりと返事を返した