第2話『奴隷少年:ノーラ』
・・・
「人工楽園」とは、自称賢者の研究場であ
り、村外れにある空き家を勝手に使用し
ている、とのこと
賢者の申し出に僕は、
「…え。嫌です」といった
『なんで?』
「だって、錬金術は、倫理的にダメです。
得体の知れない生物キメラが生まれる可
能性もあるし、その場合は手懐ける事が
出来ず、他に害をなす場合は、殺処分し
なければなりませんよね?…何より、僕
は自然体…偶然が好きなんです」
賢者は首を否定するようにわずかに振っ
てから
『"錬金"はあくまでも、言い伝えを元にし
たおまじないによる本体や魂の呼び寄せ
のことを言っていて、所謂錬金"術"なん
て、大それたことはしていないけど…。
まあ、色々と尾ひれがついて、そうやっ
て妄想的発想をしてしまうのは仕方がな
いのかもね…』と述べてから、ふぅーと
ひと息いれ首をならし
『そうかい…。君のネムコ愛には失望した
よ…。わかりあえたと思ったのに、その
程度の情熱だったとは…いやはや残念だ』
「…ごめんなさい。僕はペットショップで
は買いたく無い派…いや、創ったり売買
したくない人間なんです。自然に生きて
いる野良猫、いやノラ・ネムコがいたら、
飼ってみたい…それだけです」
『なるほど…そうか。でも、好きの形は人
それぞれ、それも自然なんだろうね…。
私とは考えが違うけど、それも尊重しな
いとダメなんだろうね』
「…自称賢者さん…」
『…私の名前は、"セタ"…セタ・ブルウ
ノスだ…。自称でなく、紛れもなくホン
モノの…賢者だ』
「うん…。セタ様…と他の人が呼んでいた
のは知っていたよ。僕の今の名前は、
え~と…。ちょっと確認して来ます」
『おい…。君は、孤児だから名前が無い
はずだよ』
「えっ…」
『ここでは、孤児であれば大概奴隷とし
て拾われてしまう。だから孤児は奴隷、
奴隷は基本、永久に"名無し"なんだよ』
「そうなんですね…。じゃあ、勝手に名乗
ってもいいんですか?」
『…う~ん。どうかな…?わからないけど
、あまりよくはないだろうね…身分的に
…いずれ捨てられたり、売られることも
あるだろうし、情が入っては色々と面倒
いし、やりにくいだろう』
「まあそうですね…。そうなんですね」
そんな不遇な状況であるはずの僕自身を、
僕は別にどうでもよいと感じていた
残飯喰らい、泥水啜ってでも、ただ純粋
に猫を飼って生きて…死にたい。それが
願いだったから、先のことなどどうでも
よかった…
ただ、この時は不思議と、無鉄砲な考え
方の自分に酔いしれていたのかも知れな
い…。現実はいずれあとで牙を向く…。
現実を無視することは出来ない…
『だが、私が勝手に名付けるのは、良いと
思う…。何故なら、私が勝手に名付ける
のは私の自由だから』
「そのまんまですね…。じゃあ、お願いし
ます」僕は微笑みながら返した。この一
般的には偏屈な賢者"セタ"の無駄に気持ち
よい…男でも中々表現出来ない何とも言え
ない言動が好きになった
『そうだな…。では、自然ネムコ派閥所属、
ネムコ守護者…普通奴隷少年・ノーラと
名付けよう』
「ええっ…。やっぱり僕って"少年"なんで
すね?」
『そうだよ…何いってるんだ。"みたまんま
"じゃないか』
「しかも、なんか自然ネムコ派閥なんちゃ
ら少年って…すっごい長い早口言葉みた
いで、呼ぶ側は大変ですね…」
『まあ、そこは省いてもいいよ。ノーラ』
と澱みなく爽やかにセタはいった。まあ
、冗談半分といったところだろう
「はい…自称賢者"セタ"。今後とも
ヨロシクね」
『ああ、君は考えは違えど、ネムコ好きの
良い人間だ。他のアホにはわからずとも、
私にはわかる…私は、誰よりも頭がいい
からな』
お互いにニヤニヤとする
表情は柔和なまま、セタ
『あれ…?そーいえば、今さっき"自称"っ
てつけたよね?』
「つけました!」間髪入れずに僕はいった
セタは『そっか…』といってから僕をじ
っとみて『まあ、素直ならそれでいいよ』
といって…
独り納得する形で
『うん。そうだ!…そのままの君、それで
いい』と頷いたので、僕も一緒になって
頷いた