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婚約者とは犬猿の仲!?  作者: 合澤知里


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27.結婚式と愛の言葉

 それからは、怒涛の日々の連続だった。

 何故か結婚を急ぎたがるライアンが両家を説き伏せた結果、結婚式は半年後に決まってしまい、ドレスやら招待状の手配やら諸々の準備に追われて、目まぐるしい毎日を過ごした。

 そして、今。


「クリス!! とっても綺麗だよ!!」


 純白のウエディングドレスを着た私は、お兄様に褒められて、頬を染めながら微笑みを返す。すると、何故かお兄様が身悶え始めた。


「ああああああクリス可愛い綺麗尊いやっぱり天使いや最早女神!! 僕の愛しいクリスがお嫁に行ってしまうだなんて、明日から僕はどうやって生きていけば良いんだ……!! いっそ結婚は取り止めてお嫁になんか行かずに、一生一緒に暮らそうよクリス!!」

「お兄様、落ち着いてくださいませ」


 涙を流しながら両手を広げて抱き付こうとしてくるお兄様から身を躱したい所だが、豪華なドレスが重くて、いつものように身軽に動けない。諦めてお兄様に抱き締められた私は、天を仰いで溜息をついた。


「本当に、ついこの間我が家に来てくれたばかりのような気がするのにな……。もうお嫁に行ってしまうだなんて、寂しいにも程がある……」

 伯父様が目を潤ませながら、お兄様ごと私を抱き締めてくれた。


「本当ですわね。寂しくなるわ。クリス、時々は顔を見せに帰って来てちょうだい」

 私の手を両手で握り締め、涙ぐみながらも気丈に微笑む伯母様に、胸が締め付けられる。


「はい。今日まで、私を娘として育ててくださって、本当にありがとうございました。伯父様も、伯母様も、お兄様も、大好きです。愛していますわ」

「クリス!! 僕も愛しているよ!!」

「苦しいですわお兄様」


 お兄様の腕の力が強くなり、私は急いで抗議した。ただでさえコルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられて苦しいのだから、これ以上は勘弁願いたい。


「私達もクリスを愛している。その事を忘れないでくれ」

「そうよ。貴女は私達の娘なのだから」

「はい……!! ありがとうございます!!」


 綺麗に化粧を施してもらったのに、気が緩むとすぐにでも泣いてしまいそうになるのを我慢しながら、私達は結婚式場に向かった。


 私としては小ぢんまりとした式でも良かったのだが、侯爵令息と伯爵令嬢の式ともなれば、そんな事は言っていられない。両家の総意で、大勢の方々を招待し、盛大な結婚式を挙げる事になってしまった。お蔭で私は結婚式の間中、ずっと緊張しっ放しだった。伯父様にエスコートされながらバージンロードを歩くだけでも、ガチガチになってしまい、足が震えて一苦労した程だ。


「クリス……。世界で一番、君が綺麗だ」


 ライアンが新郎姿だと言うだけでも、背が高くてがっしりした体格が映えてとても格好良いのに、手を取られた途端に、蕩けるような甘い声を耳元に注がれて、私は耳まで真っ赤になってしまった。頭がぼうっとしてしまって、その後の事は、リハーサル通りこなすだけで精一杯で、実はあまり良く覚えていない。唯一覚えている事と言えば、誓いのキスの時に、恥ずかしいわライアンを直視できないわで、必死になって目を瞑っていた事くらいだろうか。


 式が終わり、ブラッド侯爵家に向かう馬車に乗り込んで、漸く私は緊張の糸を解いた。どっと疲れが押し寄せてくる。


「……ねえ、別にこんなに式を急がなくても、良かったんじゃないの?」

 ライアンを軽く睨みながら言うと、ライアンは拗ねたように視線を逸らした。


「……お前が何時心変わりして、婚約を破棄してくるか不安だったから、少々急いででも早く結婚したかったんだよ。俺はお前に嫌われていたからな。……自信が無かったんだ」

 バツが悪そうなライアンの返事に、私は呆れて溜息をついた。


「……心配しなくても、私は逃げも隠れもしないわよ」

 何だかんだ言っても、私は何時の間にかライアンを、好きになってしまったのだから。


 ……ん? あれ?

 そう言えば、その事をライアンにまだ告げていなかったような……。機会はいくらでもあったような気はするけれども、意地を張って、ちゃんと言葉にした事は無かったんだっけ? それじゃ、ライアンが不安になるのも無理はない、かも。

 流石にライアンに悪い気がして、私はちょっと反省した。


 ……今からでも遅くないよね? 寧ろ、言うなら今、かな? 今日は結婚式を挙げたのだから。逆に、今言えなかったら、この先もずっと言えないままでいるような気がする。


「あ……あのね、ライアン」


 意を決して、私はライアンの服の裾を摘まんだ。いざとなると恥ずかしくて、ライアンの顔が見られない。


「私は、あんたの事……、ちゃんと、す、好きだから」


 声が震えて、どもってしまったけれども、蚊の鳴くような声で何とか想いを打ち明けた。それなのに、ライアンからは何の反応も返ってこない。不安になってそろそろとライアンを見上げると、ライアンは目を見開いたまま硬直していた。


「え……、も、もう一回言ってくれ!」

 必死の形相のライアンに両肩を掴まれて頼まれ、私は目を剥いた。


「え!? い、一回で良いでしょう!?」

「もう一回、いや、何度でも聞きたい!! 頼む、クリス!!」

「ええ!? き、今日はもう駄目! また今度……!」


 こんなに言うのに勇気が要って、心臓に悪い台詞、そう何度も言える訳ないでしょうが!!

 だけど、ライアンは尚も食い下がってくる。


「今度って何時だよ!? なあ頼むよ、クリス……!! もう一回だけ! もう一回だけで良いから!!」

 切実な目でライアンに乞われ、顔を真っ赤にしたまま、私は視線を彷徨わせた。


「頼む、クリス」

「……」

「俺はクリスが好きだ」

「!?」

「大好きだ」

「ちょ……!?」

「愛している」

「!!」

「この先一生、何があっても、ずっとお前を愛し続ける」


 ライアンが次々に浴びせかける愛の言葉に、目が回ってくる。

 何の羞恥プレイだこの野郎。まさか私が言うまで続けるつもり? ちょっとは手加減してよ! もう心臓が持たないでしょうが!!


「わ、分かったわよ! 言うから! 言えば良いんでしょう!?」

 遂に私は根負けした。こうなればもう自棄だ!


「わ、私もライアンが好きよ!!」

「クリス!!」


 勢い良く一気に口にすると、最高の笑顔を見せたライアンに、思いっ切り抱き締められ、止める間も無く一瞬で唇を奪われてしまった。

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